二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- カゲロウデイズ*episode4* ( No.484 )
- 日時: 2012/03/02 21:12
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
「繰り返している内に、分かるようになったの。」
爽やかな朝。病室に響く、凛とした声。
「その考えに、辿り着きやすくなったってこと…?」
恐る恐る話す、ベッドの上の少女。
陽炎は頷いた。少女——月宮に似た姿をしている陽炎は、それでも、と続けた。
「それでも、今までと同じように繰り返すつもり?」
何回目の朝だろう。月宮をかばって豪炎寺が死んだ、その次に訪れる朝。何度も繰り返される8月14日と15日。お互いに繰り返されている事が分かっていて、お互いに死んでほしくなくて、どちらかが死んでも自分を犠牲にして相手を生かしたくて…。こうして何百年も繰り返してきた。月宮は自分が死ねばいいと思っている。豪炎寺を生かしたいと思っている。だから豪炎寺をかばう。———けれど豪炎寺は死んだ、自分をかばって。
「だって…修也君には未来があるのにっ…」
左胸ポケットを強く握りしめて、月宮は絞り出すように言った。溢れた涙が、白いカバーにしみを広げていく。
陽炎は寂しげな瞳で彼女を見つめた。このままでは、終わりの見えない夏の日々が続くだけだ。ベッドに背を向けた陽炎の耳に、月宮の泣き声が聞こえる。セミのコーラスにかき消されそうな、小さな小さな音。月宮は豪炎寺に死んでほしくないから自分から死に向かう、けれど豪炎寺が自分が死ねばいいという考えにたどり着く、それまでに費やす日数はだんだん短くなってきた。そうなれば、今まで通りにいくはずもない。
「…もうそろそろ、お迎えが来るよ。」
その声を聞いた月宮が涙をぬぐった直後、がらりと病室のドアが開く。
「っ!」
「おはよう、月宮。」
「…修也君。」
慌てて笑顔を取り繕いながら、月宮は感じた。
————もう、今までとは違うのだという事を。
*
「今日は夕香がクッキーを作るそうだ。」
「それは楽しみです…」
「辛くないか?」
「クッキーの事を思えば…」
「そうか。」
少し違和感のある微笑み。だが顔色が悪いという事は無く、ただこの暑さや人通りの多さに慣れていないとかそういった事なんだろうと推測する。いくら病院でリハビリをしても慣れというのが大事だからな…。無理をさせないように、この先にある公園で一休みしよう。病院の自動販売機で買ったスポーツ飲料もある。熱中症で病院に逆戻りされるのが一番怖い。
「あっ、豪炎寺!!」
「!円堂、偶然だな。」
「!?」
隣の月宮が息を呑んだのが分かった。そんなに驚くことだろうか?稲妻町内なのだから、別に同じ部活仲間とあってもそんなに驚く事は…。
「そっち女の子は?」
「月宮夕歌、妹と良く遊んでくれたんだ。これから家に来てもらってお礼をしようと思っている。」
「豪炎寺の妹って…確か入院してたんだよな?」
「…私も入院してて、夕香ちゃんとは同じ看護師さんを通じて仲良くなったんです。」
円堂が少し目を見開いて、月宮を見る。…パッと見た感じでは病人だとは判別できないからな。
「あ、俺円堂守、雷門中サッカー部キャプテンでGK!よろしくな月宮!」
「…修也君、貴方といる時の顔輝いてる。」
「「…え?」」
「円堂君がサッカーを彼に取り戻してくれたから私は修也君と仲良くなれた。だから、感謝してる…。」
降り始めたころの雨粒が落ちるように、そっと、月宮は言葉を紡ぐ。そこで俺はようやく気付くのだ、月宮が円堂に会ってからほとんど口を開かなかったのは、元気が無かったからだと。しぼむように大人しくなってしまった彼女に何があったのかは分からない…もしかして暑さにやられたのだろうか。だとしたらすぐに休ませた方がいいだろう。
そっか、と笑顔を見せる円堂。
「俺もサッカーしてる時の豪炎寺の顔は好きだぜ!あっ、俺風丸と約束してたんだった!」
じゃあな、と月宮の脇を通り過ぎる円堂。と、月宮が円堂を振り返り、走り去る円堂の背中を見つめた。どうしたんだ、と声をかけるが、彼女は何でもないと首を横に振る。他人には言えない事もいくつかあってもおかしくない。ただ月宮には秘密が無かった。だから…今できた秘密が、何だか引っかかっていた。
「…先、行きましょう」
催促している瞳。俺は返事をしようとして、口を閉じる。小さな音だ、しかし俺の頭の中では警報が鳴っている。————背後から近づいてくる危険な気配。
振り返ると、いくつもの車が列をなしているだけだ。
「…どうかしたんですか?」
一台のトラックに、目がとまる。なぜか、目が離せない…。
「修也君?」
「!ああ、すまない…」
行こう、と言いかけた俺の耳に届くエンジン音。それはどんどん俺たちに近づいてくる。危機を感じて、もう一度振り返った。
————視界に映る、大きなトラック。
思わず目を見開く。運転席には、こくりこくりと船をこぐ男。…居眠り運転か!!
「ーっ!!」
と、腕を後ろに引っ張られる感覚。死を免れるような気がするが、この力は月宮だ。
「つ、」
刹那、
トラックが俺の脇を通り過ぎ、腕を掴んでいた手が離れた。反射的にもう一度掴もうとして、ただ届かない。
嫌な音がした。
「きゃぁぁーっ!!!!!」
俺の背後、トラックが電柱に衝突している。その近くに転がる、赤い何か。嘘だ、そう思いたいのに頭の中でそれを否定する俺はいない。なぜならそれが真実だと分かっているから。トラックに轢かれて、月宮が、あんな風になったと………。
ふと気がつくと、傍にいた。彼女の頭の下に右手を入れて持ち上げ、膝の上に乗せる。
「…夕香が、クッキー焼いて待ってるから…」
泣きたい、心の底からそう思った。目を閉じて動かない彼女は、俺の言葉を聞く事が出来ないだろう。それでも、あれだけ楽しみにしていたんだ。夕香だって待ってる、月宮も望んでいただろう?涙が頬を伝い、月宮の顔に落ちた。止まらない、涙も、それを作り出す悲しみも。
「生きてくれっ…」
死んでほしくなんかない…今までの思い出が頭の中を駆け巡った。死にそうになりながらも月宮は耐えてきた。それがここで終わるだなんて思いたくない。
赤い、血溜りの中で月宮の手を握りしめる。瞬間、違和感を覚える。恐る恐る、彼女の手首に触れた。
「!月宮っ…」
脈が……ある。
———————わずかに彼女のまぶたが動き、開いた隙間から覗く黒い瞳が、俺をとらえた。
セミのコーラスとサイレン、その中に小さな声がまじる。
「……しゅ、や君…」
*
「円堂っ!遅かったな」
「ああ、ごめんな風丸。少し…気になるやつが居てさ。」
「気になるやつ?」
「…こう言うと悪く聞こえるけど……
素直じゃない、嘘吐きがさ」
*
出会ったばかりの少年は、私に言いました。自分の心と話してみろよ、と…。
** to be continued ...**