二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Bad World* second stage ( No.520 )
- 日時: 2012/04/08 10:57
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
「っあ、はぁっ…」
土を踏みしめる感触はどこか懐かしく、しかし体は忘れているのか走り辛く感じられた。息が切れる。思っていたより速くは走れない。それでも走り続ける——海を目指して。逃げ道を探して。彼がやすやすと逃がす訳ないだろうとは思いながらも、希望がある限り捨てたくは無かった。彼女——瑠璃花はそんな思いで森を駆ける。
その時、視界の端に人影が映る。潮風の匂いに、もう少しで海だと思った瞬間。彼女にとっては親しい人物だった。森の脇の道を、1人で歩っている。一旦走るのをやめ、道へ近付く。嫌な予感がしたのだ、彼に言われた言葉が何度も頭の中で繰り返されて。
「っ!」
「……」
その嫌な予感は的中した。瑠璃花は数歩後ずさるも、その人物——豪炎寺と目があってしまい離せない。その目からは生気が感じられない。そして雷門のジャージの左胸には、赤いドクロを黒で縁取ったバッヂが異様な存在感を放っていた。
「そんな…豪炎寺さんも、」
「…見つけた、瑠璃花。」
豪炎寺の声は低く、また顔が笑っていても目は笑っていなかった。その低い声に瑠璃花の背筋に寒気が走る。数日前の豪炎寺とは明らかに違う様子。やはり彼が言った事は本当なんだ、と瑠璃花は涙目になりながら心の中で言う。
『ゲームのルールを説明しよう。まず君がターゲットだ、瑠璃花。島に放たれたプレイヤー達はみんな君を狙う。生き残るためには狙ってきたプレイヤーを殺せ。ああ、大切な豆知識を教えてあげよう。プレイヤーは…』
彼の言葉の続きを、自らを呪縛から解き放つように口に出す。
「赤いドクロと黒のバッヂを付けて…」
「左胸に付けてるこのバッヂ、良いと思わないか?」
「!?」
突如、後ろから低い声。さっきまでは気配が無かった、つまり気配を消してきたか高速で移動してきたか…しかし声からして、後者だろう。肩越しに後ろを振り返った瑠璃花の瞳に映ったのは、水色の髪。疾風ディフェンダーと呼ばれる、風丸だった。彼の目にもまた生気は無く、そして左胸には例のバッヂが付いていた。冷や汗が流れる。
『プレイヤーは皆——』
再び彼の言葉が蘇る。涙が頬を伝い、地面に落ちた。
刹那、首筋に殺気をはらんだ空気が当たる。とっさにしゃがんでそれをかわし、風丸と豪炎寺から距離をとる。風丸の右手には、短剣が握られていた。先程の空気は、風丸が短剣で瑠璃花の首を狙ったものなのだろう。それを理解して、瑠璃花の胸に感情が溢れた。悔しさか、悲しさか、恐怖か…何とも言えないものが。
「っ…!!!悪いのは私、悪いのは…」
溢れた感情は言葉にするだけでは留まらず、右手で拳を作る。そしてその拳で、近くの木を殴った。普段は絶対にしない事だったが、殴ってみると多少気分が晴れた気がした。だが、こうしてもいられない。近付く気配と木の葉を踏みしめる足音に、顔を上げる。やはりあの2人が立っていた。豪炎寺の左手には斧が握られていて、瑠璃花は自嘲的な笑みに口角を上げる。
「…まだ良いですね、あの時よりは、まだ。」
「お喋りはここまでだ。」
「殺すなんて事が、出来るはず無いじゃないですか…死なせは、死なせはしませんっ…」
またこみあげてくる涙。豪炎寺と風丸が顔を見合わせる。
「独り言が多いじゃないか、瑠璃花。」
「決意を固めてるんです。」
フ、と鼻で笑ったのはどちらだろう。
———そして、彼等はそれぞれの武器で瑠璃花の命を断とうとする。豪炎寺は斧を振りおろし、風丸は短剣で勢い良く首を狙う。
身震いするほどの殺気を感じながら、瑠璃花は思い切り跳躍した。
「「!」」
突然いなくなった彼女に、2人は驚きの表情を隠せない。しかし直後、風丸は笑みを浮かべて着地した彼女を振り返る。
「俺達をかわしたから、一安心だなんて思うな?」
「!それってどういう…」
誰かが草むらから瑠璃花を見ている気配を感じた。その視線には、明らかに殺気が含まれている。何をするつもりなのか、いつ出てくるのか…全神経を集中させて、察知し様とした。…が、そちらに気を取られていて2人への注意が逸れた。風丸が短剣を投げる。それは正確に彼女の首を狙っていた。気付いてかわすために横へ跳んだ瞬間———。
銃声が、響いた。
**
‐数刻前、少女の証言-
「…ここは、」
少女は、目を覚ました。だるさから体を起こせないでいたら、眠ってしまったらしい。そこがどこなのか確認する前に眠ってしまったため、重たく感じられる体を起して、辺りを見渡す。木々が並ぶ、森の入口の様だ。段々視界がクリアになってくると頭も冴えてきて、この状況がおかしいと理解する。
しかし彼女は冷静な性格で、周囲から情報を収集しようと立ち上がった。特に騒いだりすることも無く。すると近くから声が聞こえてきた。若い…否、子供の声だ。近付いて姿を見ようと、風が吹く海の方へ歩く。子供の声に次いで、何人かの声が上がっている。数人いるらしい。
「……な事、……れ達が……ないだろ!」
「…品は、これだ。」
段々、声が聞き取りやすくなる。そして人影が見えるようになり、少女は目を見開いて足を止めた。少年の背中が見える。しかしその彼が着ていたのは、少女の見慣れたジャージだった。木の陰からこっそりと、見つからない様に事を見守る。その見慣れた雷門中のジャージを着た少年達は少女の良く知ったサッカー部の人達で、他は同い年くらいの少年達だが見知らぬ人達だった。そして1人対立しているのは橙色の髪に翡翠色の瞳の少年。小学生位だろうか、見るからにサッカー部より幼い。その少年が、何かを取り出した。その何かは操作されると、空中に映像を浮かび上がらせる。少女には見えなかったが、ジャージの少年達は目を見開いた。
「魁渡っ…お前!」
「一体いつの間に…」
「分かったか?このゲームに参加しないとどうなるのか。」
オレンジのバンダナの少年が、悔しそうに顔を歪めた。少女の知るサッカー部のキャプテンは驚いて呆然と立ち尽くす。少女は木陰から出て加わってみようかと思った。そうすれば状況も、何があるのかも、ゲームというのが何なのかも分かるだろう。だが、自然と足は止まっていた。魁渡と呼ばれた少年が、ふところから白く曇った小さな瓶を出したからだ。
「決め切れねえなら、俺が決めるぜ?全員参加、ってな。」
「「!!」」
瓶の口を塞いでいたコルクを、外して。
こうして、殺し合いという名のゲームが始まった。
* 続く *