二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Bad World* third stage ( No.525 )
- 日時: 2012/04/11 00:19
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
ジーッ、とチャックが閉められた音。
「…ありがとうございました。」
そう言う瑠璃花の右頬は応急処置がなされていた。何者かが撃った銃弾は、彼女の頬をかすっただけだったのだ。瑠璃花は問題なくその場を逃げ切り、しばらく誰とも会わないようにしようと考えていた。しかしあっさりと、1人の少女に見つかってしまう。少女とは初対面で、ただ瑠璃花は先程の風丸達同様命を狙ってくるのではないかと思った。だが少女は武器を所持しておらず、そればかりかリュックサックにバンドエイドらしき物があるからと右頬を手当てしてくれたのだ。
さらに、彼女は情報を持っていた。プレイヤーが生み出された瞬間に立ち会わせていたのだという。彼女は話してくれ、そして真剣な表情で語られるその話に嘘があるとは、到底思えなかった。
「…それで、瓶の中は何だったんですか?」
暗い表情で、瑠璃花は目の前の少女に問う。薄い桜色の髪が風に揺れ、瑠璃色の瞳は同じ色の瑠璃花の目を捉えた。その左胸に光るのは赤と黒のドクロではなく、青と黒のドクロのバッヂ。一番聞きたかった事である雷門イレブンや魁渡の存在について話してくれた彼女がプレイヤーで命を狙ってくるとは思えず、そのバッヂが何なのか気になるところだった。
しかしなぜ彼らがここに居るのか、それは彼が教えてくれなかった事だ。大した事だと思っていなかっただけかもしれない。ただ話の中で魁渡の名前が出てきた事には驚いた。しかも、聞く限りでは敵だとしか思えない。瑠璃花に残された唯一の家族、大事な弟。彼が敵だとは信じ難かった、それに何より。
「魁渡という人が瓶を開けた瞬間、辺りに霧がたちこめて…やがて霧が収まった時、その場に居た全員が正気を失ってた。」
「…そんな、魁渡が。」
魁渡が、霧を改良しただなんて。
言葉を言い終えた直後、瑠璃花の目から涙がこぼれおちた。大粒の涙がほほを伝い、土に吸い込まれていく。瑠璃花の両親は、仕事で吉良財閥から特殊な霧の開発を依頼された。それは人の神経等をおかしくする作用があり、実験として彼女たちの住んでいた島が利用された際、島民の多くが我を見失い自ら命を捨てたりと惨事が起こった。人々は何でも楽しいと感じ、何をされてもどんな傷を負っても痛いとは思わなかった。ただ霧の作用が微妙だと、手当たりしだいに武器を持ち目の前の人間を殺したり。そうなったのは、瑠璃花と魁渡の友達の両親だった。
しかし風丸や豪炎寺は我を失わず、はっきりとした言動で瑠璃花の命を狙ってきた。つまり昔の霧では無い。そこを考えると、霧を両親とともに作った魁渡が敵・主催者側に回り、我を忘れる事無く意のままに操れるよう改良したとしか思えない。そして魁渡は、本当に狂っていると推測される。流星の人間は霧には耐性があり、その作用で狂うことなどあり得ないからだ。
目の前の少女は、パーカーのポケットからハンカチを取り出して瑠璃花に差し出した。ごめんなさい、と涙声で謝ってからハンカチを受け取る。そして涙をぬぐった、これから出てくる涙もぬぐえたら良いのにと思いながら。
「知ってる人…だった?」
「私の、弟…」
「……続き話すけど、理解できそうな状態?」
瑠璃花は頷いた。目の前の少女は、焦っている。一刻も早く状況を変えたいのだろう。
*
少年達は武器を与えられ、バッヂを与えられ、そして森へ散って行った。少女は信じられないような気持でそれを見送る。霧から出てきた少年達の顔立ちが、全く違っていたのだ。少女は無事だったが、魁渡には見つかっていた。なあ、と遠くから呼びかけられ出ない訳にはいかない。
「お前、無事だったんだ?」
「…彼等に、一体何をしたの。」
「ゲームをプレイする様にしただけ。ま、生き残れるかはあいつ等次第。お前はどうする?」
少女はルールと全体の内容、会場について、更に話を引き伸ばし引き伸ばし知りえる情報の全てを引き出した。しかし魁渡は楽しそうに、少女の望む情報をあっさりと話す。こうして話す事でターゲットが動く、と踏んでいるのだと少女は感じた。
「離反するのもアリ。俺は離反者を捕まえる権限なんて持ってないからな。後から主催者側から捕えに行くと思うけど、逃げれば良い訳だし。ちなみにタイムリミットは夜7時。それまでに生き延びた奴は解放するって事になってる。」
「そのまま。」
「そ、そのまま。」
正気を失った状態で。
少女は与えられたリュックサックの肩ひもを握り締めて、下唇を噛んだ。そして、バッヂを受け取り本来とは反対の向きで左胸に付ける。表になるのは、青と黒。それが離反者、つまりターゲットを狙わないという意思の表明だ。魁渡が口角をつり上げて笑みを浮かべる。
「タイムリミットまでに、主催者をつぶしに行くから。」
「ハハッ、やれるものならやってみな!」
するべき事は分かっている。まずはターゲットに会わなければならない。なぜなら、会場は———。
*
「ファースト雷門の時代の、フェニックス島だから。」
「!じゃあっ、それなら…!!」
瑠璃花の目に明かりが灯る。瑠璃花が育った島、つまり家があるのだ。そこに行けば残っているはずだ。霧の解毒剤が。
「…助けられる方法は、ある?」
「勿論です!!まずは皆さんの正気を取り戻して、それから主催者の居る本部へ行けば…!」
「私も同意見。」
パァァ、と瑠璃花の表情が花開く。ついさっきまで孤独だった彼女に、仲間が出来た。
「流星瑠璃花といいますっ、貴女は?」
「私は月乃杏樹。」
「月乃さん、よろしくお願いします!」
差し出された右手を、月乃は軽く握り返す。そして2人は、流星家へと向かった。
**
「誰だ。」
「お前、セカンド雷門の奴か。確か全員が同盟を結んでるんだっけ、俺達と同じで。」
恐ろしいオーラを感じ、少年は後ずさる。彼は今同盟を結び共に戦う仲間達とは、離れた場所に居た。しかも、生憎武器を持ち合わせていない。運が悪かった、まさか〝敵〟と会う事になるとは。相手も同じくプレイヤー、そんな彼らが戦う理由は1つ。賞金と賞品を確実に手に入れるためである。
「俺は戦うつもりはない、悪いけど正々堂々どっちが早くターゲットを殺すかで——」
「敵は少なくしておく方が良いって、参謀が言ってたからさ。」
少年が危機を感じ取った、刹那。
「この距離なら、また外す事は無いから。」
本日2度目の銃声が、森に響いた。
『狩屋マサキ→敗者』
*続く*