二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 小説NO.1-第4話‐ ( No.55 )
- 日時: 2012/08/15 14:30
- 名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)
人を、殺した。
風丸はその言葉に凍りつく。そんな彼が言葉を発するのを待つかのように、保健室の先生——冴香は顔を覗き込む。徐々に頭の中が落ち着いてくると風丸は彼女の言葉を否定した。こんなにあっさり殺人を明かす訳が無いし、そもそもこんな所で勤め続けられる訳が無い。
勘違いか思い込みだ。
「私がこの学校に来た最初の年…雷門中のリーダー的存在な男子生徒がいたの。当然クラスでも人気者で、隅っこに居る様な子にとっては憧れでもあったし別世界の人間でもあった。」
突然語りだす彼女に驚いて風丸は顔を上げた。
「隅っこに居る様な女の子の1人が、その子と話したいけど緊張して話せないって良く相談に来てたの。アドバイスしてそれを実行していたら彼の視界に入れた、クラスの運営のために、って時だけだったけど話しかけてももらえた。でも返事をしようとしても、自分から話しかけようとしても言葉が出て来ないし時々自分を無視されてるようにも感じて話し掛けられなかった。」
…片思いの女の子。
「2学期最後の日…私はもう精神的な問題だって思って神社に行ってお祈りでもして来なさい、って言った。大丈夫、って思ってればきっと話しかけられるよ、って。……それが、いけなかった…あんな風に言わなければ…」
「・・・え?」
「3学期の初めの日、その女の子が神社で事故死したの…前日の大雨でぬかるんでた土の上に彼女が乗る事で土が崩れ…て、それで落ちて…」
1人で行ったの、と涙声になりながら冴香は言う。朝早くに1人で神社に、と。風丸の中に少女が崖から落ちる様子が映像で作りだされた。大好きな人と話したくて、なのに死んでしまった少女。
「……」
自然と無言の空間が生まれた。あまりにも衝撃的な話に風丸は何も言えなかった。しかし沈黙は1分後、冴香によって破られる。
「雷影神社…」
「え、」
「その子が行った神社…雷影神社、って言うの。」
知ってる、と風丸が呟く。自分が毎年初詣に風花の家と行っている神社だ。幼い頃は円堂と風花と3人で行っていた。
(…あれ、確かあの神社…)
神社の風景が蘇った。何かが引っ掛かる。
「ずっと、想って来た子と話したかったはずなのに、私の…私の、せいで……今でも、あの子の声が蘇るの。」
『センセ、今日…君が話し掛けてくれたのっ!』
『…君が私の名前覚えてくれたよ!』
涙が溢れて来て、とうとう冴香は泣き崩れた。学校に行きたくなるのも当然な事情だった。女の子が毎日の様に相談に来ていた保健室に入りたくなくなるのも、当然で。
「…雷影神社。」
『何かに取り付かれた様にしてたらしいんだ。だから幽霊が取り付いてたんじゃないかって…』
「…まさ、か…」
『ずっと、想って来た子と話したかったはずなのに、』
怖くなる考えだった、ただその考えを否定できない。
冴香が不思議そうに風丸の顔を見つめる。唇をかみしめて、彼は保健室を出て行った。先生が風丸を呼ぶ声が聞こえて、それでも止まらなかった。ただ、昇降口の所で聞き慣れた声が風丸を呼びとめる。
「風丸! 1時間目、もう始まるぞ?!」
「円堂…」
理科の教科書とノートを抱えて居る円堂だった。きちんと風丸の分も持っている。1時間目は1階の理科室で実験だった。
「かぜま…」
「ごめん、俺ちょっと帰る。」
「え?!」
「直ぐ戻って来るから!」
———それはとっさに口から出たコトバ。
「かっ、風丸!!」
止めないと、円堂はとっさに思った。そうしないと…風丸が手の届かない遠くに行ってしまいそうで。何でかは、円堂にも分からなかった。理由の無い直感で何やら事情がありそうな風丸を止める事も出来ず、ただ昇降口から遠ざかる親友の後ろ姿を見る事しかできなかった。もう一度、親友の名前を呼ぶ。かすれた声で、小さくて、もう見えない場所へ行った彼には届かない。
ほら、もう届かなくなってしまった。
「……直ぐ、戻ってこいよ…?」
円堂は、風丸の理科ノートを強く握りしめた。
*to be continued...*