二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 人間嫌いな子供の話Ⅱ ( No.554 )
- 日時: 2012/05/16 20:30
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
時期:エイリア学園成立の少し前
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「愛って何だと思う?」
ふと顔を見上げると、そう僕に問いかけた赤い髪の彼は退屈そうにシャープペンシルを回していた。器用に、くるくると。もう課題は解き終えたみたい。僕は数分前に解き終えた課題を渡す。交換して丸つけするよう、研崎に言われてたから。それにしても、変わった質問。
「貴方が何を言いたいのか、分からない。」
「そうかい?」
会話をしながら、彼は一向に僕を見ようとしない。僕ばかり彼を理解しようとするなんて、不公平だし意味が無い。だから課題のワークの丸つけを早く終わらせようとすると、きれいな字だね、という声がした。誰かは分かっている。彼を見れば、緑色の瞳は僕を映していた。
「…さっきの質問に答える。愛は本能により起こる物、僕は本能という単語がこの世で一番嫌い。」
「理解できない、って君は言ってたね。」
はい、と返されたワーク。1ページごとに大きな丸が1つだけ。
「君は問題を間違えたりしないからね。」
「…意味が無い。」
「だけど、意味が無いような事に意味があったりするんだよ。まあ、今回は無いけど。」
髪を撫でられて、僕は視線を彼に移した。笑顔を浮かべてるけど、いつもの嬉しいという表情とは違う。
「…ヒロ、」
「父さんがこれからする事も、君は意味が無いと言うかもしれない。」
その緑色の瞳は、何も映さずに。
「…僕は、貴方達とは違う。」
「そうだね、君は父さんに大して何とも思わないって言ってたから。」
「だけど…何かしないといけないって、薄々分かった。」
複雑な表情は、読み取るのに苦労する。
きっと彼は、僕と違って間違いを犯す人。だけどこの不便な立場で生まれてしまった僕も、間違いを犯さずにはいられない。
「断れば、兄さんを使うつもりだった。」
「相変わらず物分かりが良いね、霧華。」
僕は〝兄の隣にいなければならない〟。
「ジェネシス計画に、協力してもらう。」
ヒロトはそう言って僕の腕を引いた。立ち上がって恐らく向かうのは、父さんの所。そしてドアノブをいじる間に、彼は僕にギリギリ聞こえる声で言った。ごめんね、と。
部屋を振り返る。隠された監視カメラは3つ。
「…愛、か…。」
彼に引かれて廊下に出た。廊下にもいくつか監視カメラがあるみたいだ。
彼は父さんのお気に入り、僕は父さんのお気に入りのお気に入り。
『愛なんて、理解したいと思わない。まずいつか終わるこの地球で、何で人間は生きてるのか理解不能だから。』
僕は自分からはきっと間違えない、だけど僕を作った科学者は理解させるという事に関して欠けさせすぎてる〝はずだった〟。特に本能なんて、僕からすれば全く意味不明なものなのに、どうして…
「分かったかもしれない。」
「何がだい?」
何か、あたたかい。
「…これが、愛?」
握られた手を、目線まで上げる。
僕の手を引いて走るヒロトが前を向いたまま微笑んだ様子が、横顔から見とれた。
だけど少しだけ下を向いて、また暗い声で。
「…霧花、本当にごめんね。」
謝らなくて、良いんだ。そう心の中で呟いて、僕はヒロトと兄さんだけから感じる事を口に出していた。
「ヒロト、暖かい。」
「…」
また、手が強く握られて。
瞬間感じる、ふんわりとしていて掴みどころのない物。居心地が良いから…ずっとこうしていたい。本能なのかもしれない、おかしい、管理プログラムが故障でもしたのか。僕はそんな物を持ち合わせていないはず。
「…僕、基本人間は嫌いだけど、ヒロトは嫌いじゃない。もちろん兄さんも。」
「涼野と同じか…でも、嬉しいな。」
「だから、もう僕をこれ以上壊さないで。」
僕を直せる人とは、当分会えないんだから。
そう告げると走る速度が緩み、ヒロトと目があった。少し驚いているようだ。それから笑顔でからかうように言う。
「…じゃあ、難しい事はもう言わないようにするよ。単刀直入にね。」
「うん、ありがとう。」
「!」
ほほが緩んで、僕は気付く。
これは、僕が壊れたんじゃない。僕が疑われないよう組み込まれた、本物の霧華が感じた物なんだって。
**
霧花が、ありがとうと言った。笑った。兄よりも冷たくて感情のない子だったのに。
「…霧華、瞳子姉さんの所に行きなさい。」
「どうして。」
「やっぱり、君を巻き込みたくないから。」
「でも——…」
非常口から外に出るよう促せば、彼女は抗う。銀髪が揺れて、碧い瞳が訴えていた。
「…分かってくれないか、霧華。」
「分からない、分からないっ…僕はヒロトの事分かりたいのに!なのに理解できない!!他の人間と同じで…僕…」
止めどなく溢れる涙も、初めて見た。
そっと非常口のドアを開けて、笑って見せる。驚くその表情は、他の女子と同じ。ほら、彼女はようやく殻を破れそうなんだ。
「ヒロ、ト…」
手を離して抱きしめると、霧華は暖かいとだけ言う。他に何も言えなくなったように、何度も。
「君はここに居るべきじゃない、それだけ理解してほしい。」
「……理解したから。」
離れていく、いつもより温かい彼女は切なかった。
ドアを閉める。
彼女の足音が遠ざかっていくのを、ドア越しに聞いていた。
「……霧華。」
少しの間、サヨウナラ。愛する人。
【そして僕が、数ヵ月後理解できない彼に再会するのは、また別の話。ほら、理解できないなんて所詮僕は人造人間。】
* fin *
霧華←ヒロト
本物の霧華は数年前に死亡していて、この霧華は瑠璃花の両親により造られた存在。本物の霧華の細胞もわずかに混ざっており、それにより欠けた人間の本能部分も補われている。また涼野風介の妹。
意味不明でごめんなさい!!読んで下さった方ありがとうございます、そしてリクエスト更新しなくてすいません!!