二次創作小説(映像)※倉庫ログ

カゲロウデイズ*episode5,最終話* ( No.576 )
日時: 2012/05/27 00:52
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)

『…月宮。』

霧の立ちこめるどこかで、私は呼ばれて振り返った。

『修也君?』
『ああ。』

 どうして、胸が締め付けられる…?霧の中に、いつものシルエットがある。修也君、そう呼んだはずなのに声は響かない。手を伸ばしてみる、なのにその手は虚空をかすめるだけの。だんだんシルエットが小さくなっていく、どこかに行ってしまう、修也君が、…ずっと、こうして向かい合って、また話したかったのに。

『…お別れだ。』

突然、そう。

『これで良かったんだ。』

何が…?
修也君を覆っていた霧が、一瞬晴れた。見えた服には——見慣れたシミ。死人の証とも言える大きな赤黒いシミが、修也君の服には出来ていた。記憶を探る、何で…何で修也君に?

『…ッ修也君!!!』

精一杯叫んだ、なのに彼は背を向けて霧の向こうへ消えていく。届かない、手も声も…何で、

『修也君!!!』



『前日とは打って変わって雨模様になり、雨は明日朝まで降り続くでしょう。それでは、次のコーナーです。』



視界に映る、自分1人の部屋。

聞こえるのは、時計の針が時を刻む音。


12時を回っていた。
数分前に看護婦さんが来ただけで、外ではしとしとと雨が降っている夏の昼。もう、修也君も陽炎も来ない。

「ループは終わった…」

また、涙が頬を伝う。それを望んでいたはずなのに———違う、私は望んでなかった、こんな結末は。私1人が生き残る明日なんて、望んでなかったのに…っ!!

『あのね、豪炎寺君は、昨日病院から帰る途中にトラックにはねられて…』

どうしても来ない理由を知りたいと看護婦さんに詰め寄って、知った〝真実〟。私が手術を受けている間ずっと手術室の前に座って祈っていてくれた彼だったけど、夜遅くなってしまうからと諭されて夕方帰宅——その途中で。

『目撃した人によると、ずっと俯いていたらしくて…赤信号だったのに。』

「…っ、修也君…っ!!」

ごめんなさい、ごめんなさい、私のせい、私が望んでしまったから…生きたいと望んでしまったから。
看護婦さんが持ってきてくれた昼食を食べる気にもならなくて、また私は泣きだしていた。

『  』

名前を呼ばれた気がして、顔を上げる。涙でかすむ視界に、まるで雨粒が木漏れ日を反射したような粒が、何かを形作っていた。修也君、とこぼれおちる彼の名前。夢で見た様な彼が、ゆっくりと微笑んで。

『夕歌、お前が生きていてくれればそれでいい。』
「違う、修也君、私はもうっ…」

もうすぐ、終わる命なのに。
修也君は日本代表、何で日本代表として皆に感動を与えられる彼が、死ななくてはいけないの…ずっとそう思って。

『…分かってほしい、これで良いんだ。』
「良くないっ…全然、全然良くないっ…!!」

もう、引き返す事など出来ない。だから彼を困らせるのはおかしいかもしれない、それでも、想いが溢れて止まらなかった。

『…試合を見たいと言っていただろう。』
「!…修也君の、試合…見たかった。」
『ああ、俺も見てほしかった…世界の頂点に立つのが夢だったからな。』
「…夢…」

昨日会った円堂君も、否日本代表全員の夢…修也君の、大事な仲間との夢。

『俺を、世界一の舞台に立たせてくれないか。』
「!」

彼を形作っていた光の粒が、足元から崩れていく。とっさに手を伸ばしても術後で歩きにくいためにつまづいて。それでも、修也君は微笑んでいる。一歩一歩近づいて、彼の消えそうな手が何かを差し出していた。

「…約束する。」
『…頼む。』

消えた修也君。しとしとという雨音しか聞こえなくなった病室。

「……」

本当に1人になった。考えてみる。
ぼおっとしたまま視線を部屋の中に向けて、目に入ったニット帽を包帯を隠すようにして被った。病院の出口にあった置き傘をさした所で看護婦さんに呼び止められた気がしたけど、振り返る気にもならない。気付けば、走っていた。
自制の利かない私が足を止めたのは雷門中。初めて来た、道も知らなかった場所。校舎の中に入ると、修也君と同じジャージを着た人が何人もいた。中には私に気付いた人もいて、訝しげな視線を向けられる。

「あ、の…円堂君、は。」
「!…月宮、だっけ。」

室内で練習した後だからか、たちこめる湿気と円堂君の額の汗。

(修也君、本当にごめんなさい…)

謝り続けても仕方がない、もう取り返しのつかない過去。かつてとは違う、やり直す事は出来ないこの現実。
そんな中、私のせいで消えた彼の命。
だからせめて、彼の夢を叶えて償いたい…!

「私を……」

——目の前の彼は、私がこの選択をすることをどう思うのだろう。

決意のさなかに生まれた弱音に、私はその言葉の続きを呑みこんでしまう。右手にある、修也君からさっき渡されたミサンガを強く握りしめた。そうすれば、彼がそっと背中を押してくれた気がして。
涙が、またひとしずく。




「イナズマジャパンの、マネージャーにして下さい!」


































『…次のターゲット、発見。』


『…一緒に行きましょう、世界一の舞台に。』




夏空の下、2つの新たな物語が生まれる———。





** fin... **

結局、陽炎は『2人の内どちらかが死ななければならない世界』に連れ込むのだという私の解釈です。
この話は上の解釈に沿って作った物語でしかありません。以下は解説です。

このループ自体は陽炎の遊びであり、ただ楽しんでいるだけ…どちらが先に生き残りたいと望むか、つまり自分より相手に生きてほしいという考えを先に捨てるか。この話では月宮が自分の人生を諦めていたが、最後に人生に対する希望を持ち生きたいと望んだ事で死を免れ、結果豪炎寺がトラックに轢かれループが終わりました。
所々で陽炎が月宮の味方をするシーンがあります。それは陽炎の迷いであり、同時に2人に飽きてきたという事になります。…何百年も続けていれば飽きるのではというこれまた私見です。

そして月宮は彼の生前の夢であった世界一の舞台へ、形見であるミサンガを持って行きたいと思います。
そして陽炎はまた新たなゲームを始めます。恐らく、終わりは無いのでしょう。

以上が、私の突発的に始めた割になかなか終わらなかったカゲロウデイズです。過度な自己解釈(創作)となりましたが、読んで下さった方ありがとうございました。原曲を聞いてリフレッシュしましょう((