二次創作小説(映像)※倉庫ログ

花開かない私と、眩しすぎる君 ( No.599 )
日時: 2012/06/16 20:47
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)

【 あなたのことが、す 】


右手に持っていた、ピンクのペンが机の上に転がる。

どうしてだろう、この方法しかないのに。どうしても、最後まで書く勇気が無い。この事自体に意味が無いって、そう思っている私がいるからかもしれないけど。

これしか無いのに…この言葉を伝えられるのは、手紙しかないのに。

気付けば、花柄の紙をくしゃくしゃにしている私。

力なくゴミ箱の上に落とせば、紙の山の頂上に当たって、床に落ちていく。

(…今日もまた、何も出来ない…)

勉強机に突っ伏して、目を閉じる。生温かい水が、ほほを伝っていった。



*** the flower was beautiful. ***

——1年前


散り始めた桜が、新たな舞台に心躍らせる少年少女を出迎えていた。
 水色の髪を三つ編みにした少女は、桜にも同級生となる他の生徒にも目もくれず、1人黙々と体育館へ行き、表情を全く変えずに入学式を過ごしていた。部活動紹介の紙をぱらぱらとめくり、しかし最後のページで少女は初めて表情を変えた——怪訝に思う表情に。
 そして今日はじめてステージを見た。そこでは部活動紹介が始まったばかり。バスケ部や卓球部、定番の部活動が紹介されていく中、少女の気がかりは定番中の定番の部活が紹介されない事だ。そして最後の部活動が紹介を終えたとき、彼女は始めて他の生徒を注意深く見る。

「……」

視線の先、オレンジのバンダナが目立つ少年は、落ち着きなく座っていた。



 入学式から数日、クラスの中の笑い声は初日と比べ随分と増えたと思う。特に部活動が決まり始めたのもあって、最近は皆急いで部活へ行くようになった。…特に目立つのは、守君。部員1人、マネージャー1人のサッカー部に部員を増やそうと、マネージャーの木野さんと部室でポスター作りを頑張っているらしい。
 5時間目終了の合図。授業も本格的に始まって、守君は早速授業の理解に苦しんでいる。ちらりと後ろの席を見てみると、彼は背伸びして困ったような表情でノートを見ていた。本当に、表情が沢山あってみていて飽きない。

「円堂君、5時間目どうだった?」
「全然分かんない…それよりさ、今日ポスターどこに貼る?」
「え、う〜ん…あと貼ってないのは…」

木野さんが守君に話しかけた。…部員勧誘のポスターなら、私も何回か見た事がある。サッカー部、守君がいるから興味はある…けど、サッカーは出来ないしマネージャーが2人居ても部員1人なんて、何かかっこ悪い。
話し合ってる2人だけど、次は体育。外でドッジボール…行かなくて良いのかな。

「って次ドッジボールだった!」
「あ!」
「!」

…あれっ、ほぼ同じタイミング…。

「?花芝ハナシバは行かないのか?」
「!」

守君と目が合った。慌てて首を縦に振って、席に座る。私は行かない、ドクターストップがかかってるから。学級日誌に5時間目の事を記入して、掃除用具入れからちり取りを出す。皆がいない間に掃除くらいしておきたいと思う。
 校庭から元気な声が聞こえた。私のクラスの授業が始まったらしい。まだ始まったばかり、と思いつつゴミを捨てる。後は…黒板を拭いておこう。雑巾をぬらして丁寧に、むらが無いように時間をかけて拭く。
数分すれば、黒板は見違えるほど綺麗になっていた。うん、上出来。
 ふと外から聞こえた歓声に、窓際に向かった。外を見ると、丁度守君がボールをキャッチした所で。すごい…いとも簡単にボールをキャッチして、投げる。相手に見事ヒット、守君は無敵なんだ、という推測。
 ずっと見てるのも良いけど、クラスの仕事も何か…教室を見渡してみるけど、何もする事は見当たらない。そう言えば、図書室で借りたサッカーの本の返却日が近かった。読書しながら、外を時々見よう。

——きらきらしてた守君。やっぱり…私、サッカー部に入りたい。



〜数週間後

「…サッカー部、か。」

 俺——半田真一はポスターを見て呟く。掲示板に貼られたサッカー部のポスター。正直円堂って奴1人しか部員の居ない部活には入り辛い、というのもあって…ここ数週間、ずっと迷ってる。今日もポスターを見て、行くかどうか迷…ん?

「…お前ら、サッカー部はいんの?」
「!」

そう声をかけて来たのは…染岡、だっけか。コイツも確か、時々このポスター見てたっけ。ん?お前“ら”?

「お前はマネージャー希望?」

染岡の視線を追って後ろを振り返ると、水色の紙を三つ編みにした女子が1人立っていた。染岡の言葉に、その子は頷く。

「君…確か、円堂と同じクラスの花芝…」
「よし!じゃあ放課後3人で行くかぁっ!」
「わっ!」

染岡が、がっしりと俺と花芝の肩を掴んだ。俺はビックリしたけど、花芝は笑顔を浮かべている。
…可愛いかった。



〜放課後

昇降口に行くと、半田と染岡が花芝を待っていた。少しもたつきながら靴を履いて、彼女は2人に並ぶ。教科書類がたくさん入ったバックを持つ花芝を気遣ってか、半田と染岡は学校について話しながらゆっくりと歩いていた。

「花芝、円堂と同じクラスだよな。」

染岡が、ふと思い出したように彼女に尋ねる。こくり、と首を縦に振った。

「どんな奴なんだ?」

花芝は考える素振りを見せてから、苦笑して首をかしげる。分からない、というジェスチャーだ。2人は円堂が言い表し難い奴なのか、と解釈する。花芝はまっすぐ前を…恐らく、部室を見ていた。その表情が少し陰ったのは、数メートル先にストレッチする陸上部員数名が円堂と秋に話しかけているのを見つけたとき。
 陸上部員の大きな声が、3人に届く。

「お前ら付き合ってるよなー!」
「2人っきりで部活しててさ!」

「!」

冷やかしの笛を吹く1年生2人。
花芝の足が止まる。頭の中を巡る、今まで見て来た円堂の顔と…

「…また言われてるな。」
「噂立つのは仕方ねーだろ。あいつらよく2人でいるんだから。」


“いつも隣にいる木野さん”



「!?花芝っ!!!」

ふと気付くと姿が見えなくなっていた彼女の名前を、半田がとっさに呼ぶ。すると逆方向に走っていく花芝の後ろ姿を見つけた。

「追いかけてくる!」
「あ、ああ…」


「?どうしたの、円堂君?」
「え、いや…」

部室の前で3人を見ていた円堂は、秋に声をかけられると「何でもないっ」と笑顔を見せる。

「部員、来ると良いな!」

*
続く!

花開かない私と、眩しすぎる君+後編+ ( No.600 )
日時: 2012/06/16 20:56
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)

前編>>599


(そうだ…守君には木野さんがいて、私なんかが行っても…)

ケアレスミス。
気付かなかった事が、こんなにもダメージを与えるとは思っていなかった。眩しすぎる彼が、辺りの事を眩ませてしまうから…

「花芝っ!!」
「!」

——だから、気付かなかった、思い浮かばなかった。円堂のすぐそばに、秋がいた事に。

「どうしたんだよっ!」
(…半田?)

にじんだ半田が映る。

「ほら、戻ろうぜ!」

涙を拭いて、首を横に振った。行かない、と鞄を抱きしめて校門の方を向いた。

「おいっ…何か話せよっ!」
「っ!」

ぐ、と肩を掴まれる。振り返った花芝はまた泣き出しそうな顔で、唇を強く噛んで俯いた。半田がしまった、と口ごもる。強すぎたか、と反省し始めたとき、花芝に制服のすそを引っ張られて顔を上げる。
ジェスチャーだった。顔の横で右手をグーパーグーパーして、右手と左手を顔の前でクロスさせて———。

「…え?」

『声が出せません。』

花芝は微笑んで、手を振った。
その衝撃にしばらく動けなかった半田は、頭の中で今まで花芝と一緒にいた時間を思い出す。…確かに、彼女の声を聞いた事は無い。頷くか首を横に振るか、ジェスチャーか。今までずっと、そうして。

「……そんな…」

だとしたら、半田は何が出来るのかと考える。しばらく立ち尽くしていたが、やがてサッカー部室に向けて走り出した。



〜1年後

 サッカー部を諦めてから、特に半田たちとも話さず、それまでと変わりない日々を過ごしていた。特に話さなくても、きっと半田は気遣ってくれてるんだとは思う。
あんな事があっても、だけど私はやっぱり、守君を眺めるのが好きだ。きらきらして眩しくて、だけど最近はサッカー部が上手くいってないのか四苦八苦する姿も見られる。

(…大丈夫なのか…?)

家に帰って、郵便受けを開ける。手紙が個人的に来る事はあまりない…ダイレクトメールばかりで少し寂しいとも思う。

「!」

…手書きのあて名。慌てて裏を返すと、離れて暮らす父からの手紙だった。…嫌な予感しか、しない。
父親と仲が悪い訳ではない。逆に父は私の事をよく思ってくれているし、私も良い思い出しか持っていない。それは声が出なくなったからとかではなく、昔からずっとそう。よく遊んだ、ただ仕事の都合で離れているだけ。
 リビングで手紙を開けると、懐かしい、少し読み辛い字がぎっしりと書かれていた。読み進めていくと、ストレートに書かれた要件に手が震えた。最後に書かれた『明日迎えに行くから』の言葉。ひらりと手から滑り落ちた紙が、ゴミひとつない床に、音もなく着地した。

その手紙に触れたくないほど、嫌だった。単身赴任の父親が私を思ってくれているのは分かる、それでも。

『ようやく良い場所を見つけたんだ。』

「っ!!」

私の稲妻町での生活が、終わりを告げようとしていた…。



 夜が明けていた。小鳥たちの囀りが聞こえる、穏やかな朝。守君に渡したくて書いていた手紙には、涙の跡がくっきりと出来ていた。時計に目をやると、もう学校に行かなければ間に合わない時間。でも、手紙が…

「!?」

もう、新しい紙が無い…

「……」

仕方ない、仕方…無い。
立ち上がってスクールバックを掴む。朝ごはんも食べずに、私は学校に向かった。
寝違えたらしい首や肩が痛い。ボーっとした私の耳には、何も聞こえない。唯ぼんやりと考える私を私が見ている。その私が、バカと呟く。私は弱虫で、臆病で。……だから、手紙すら書けない。

「…花芝っ!」
「!!」

ハッと我に返って顔を上げると、そこは昇降口だった。

「どうしたんだ?ボーっとしてたぞ?」

まもる、君…?

「っ!」
「わっ!大丈夫かっ!?」

昇降口の段差につまづき、咄嗟に守君につかまる。湿気の多い空気が鼻をくすぐった、守君は朝練を終えた所らしい。謝りたいと思っても、声にならなかった。それが悲しくて、俯く。

「そう言えば花芝…サッカー部には来ないのか?」
「!」

守君を見上げる。どうして、サッカー部に…?

「去年、体調悪くなって途中で帰ったって、半田が言ってたぞ?」
「…」
「やっぱりサッカー、好きなんだろ?図書室にあるサッカーの本に、花芝の名前があったからさ。」
「!…」

サッカー部…守君の部活、そこは憧れで、だけど…


『お前ら付き合ってるよなー!』

1年前、届かなかった場所。

「…」

今なら…いえ、今しかない。
頷くと、守君の嬉しそうな声が降って来た。

「放課後、部室で待ってるからな!」

きらきらした守君の目。1日だけ…1日だけでも、サッカー部にいていいんだと。
少しふわふわした気持ちが生まれる。自然と、首は縦に。

「そっか!じゃあなっ!!」

守君が見えなくなると、何があったのか私は少しずつ理解した。臆病な私では手紙すら書けない様なサッカー少年から、サッカー部に来いと言われた……嬉しかった。私が、行って良いんだ…。

「…」

制服のリボンを包み込むようにして、呼吸をそっと落ち着ける。


——やっぱり私はバカ…こんな私が、報われる訳無いのに…


「!」

階段を上る途中で、足元がふらついた。そして思い出す、机の上に置いておいた瓶。今までしてきた自分の行動全てが、間違っていたのだという確信。

だんだんと霞んでいく視界に、悔しかったけど目を閉じて従う。意識を手放せば、遠くで女子の悲鳴が聞こえた。



「…全く。」
「!」

稲妻病院のベッドの上で、彼女は父親と対面した。点滴に繋がる腕を見つめてから、ゆっくり父親の顔を見上げる。

「薬を昨晩と今朝で飲まなかったようだな。健康管理も怠って…何があったんだ?」

彼女は目を伏せた。父親は諭すように、優しく言い聞かせる。

「都会の空気はお前の体に良くない。恐らく、今回の体調不良にも…。」
『雷門中に行きたい。』

手話でそう伝える彼女に、父親は顔をしかめる。

「…ダメだ、田舎に行こう。」

彼女は目を大きく見開いた。いや、と口が動く。円堂の笑顔が頭をよぎる。折角、彼のすぐ近くに行けるというのに。

「処置が終わったら、すぐに出発だ。やはり目を離すべきでは無かった…。」

部屋から父親が出ていった。
彼女の目から涙があふれて、シーツに落ちていく。

「ーっ!!!」

臆病な自分が、勇気のない自分が、弱い自分が、全てが悔しいを通り越して悲しかった。

(守君っ…!!)

「…ッ、すき…っ」


嗚咽の中に漏れたかすれた声は、言った本人にすら分からないほど小さくて。
止めどなく溢れる涙をぬぐい、残り少ない点滴のパックを見つめる。

(伝えたい、)

花開く事の出来ない“自分”を咲かせるのに足りない光を、待つばかりではダメだと知った。

自分から掴みに行かないといけないんだと、今動かなかったら後悔するばかりになってしまうのだと。



( ずっと好きだったの、太陽の様な君が。 )

窓からさす日差しが、生まれた勇気を優しく照らしていた。



+ fin +
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