二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Bad World* seventh stage ( No.616 )
- 日時: 2012/07/12 22:32
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
「…ここは?」
神童が、誰かに答えを求めて尋ねる。瑠璃花が振り返り、穏やかな表情で答えた——。
「ここは、私が鬼ごっこを始めた場所です。」
「…つまり、霧野蘭丸がいる場所?」
月乃の言葉に、瑠璃花が頷く。天馬の表情が、真剣なものになった。
一行が足を止めた場所は、荘厳な建物の門前だ。空に向かってそびえる塔を前に、緊張からか天馬がごくりと唾を呑んだ。その様子に気付いた倉間が、肩をすくめてからかう。
「何だ天馬、アジトを前にビビってんのか?」
「ちっ、違いますよ!そういう倉間先輩も、と、鳥肌立ってるじゃないですか!」
冷や汗を浮かべながら言いあう2人に、神童は苦笑した。
ここまで来て緊張しないという者はなかなかいない、彼はそう思う。とうとうアジトまで来たという事だ。この残酷なゲームを始めた、彼の親友である霧野蘭丸がいる場所に。
(…嘘、だよな。)
霧野が、殺し合いを……そう考えただけで、天馬達とはまた違う意味で鳥肌が立つ。自然と目は地面を映していて、ジャージの胸辺りを握り締める手が震えた。その神童の変化に気付いた剣城が、声をかけようと口を開いた……刹那。
「嘘じゃない。」
凛とした声が、辺り一帯に降り注いだ。
びくり、と離反者達は反応して顔を上げる——真っ先に顔を上げた月乃の視線を追って。
彼がいた。
いつも通りの見慣れたジャージの、ピンク色のツインテールの……霧野蘭丸。
どこか冷たい笑みと、全てを見透かすような緑色の瞳を彼等に向けて。
「…嘘じゃないって、どういう事ですか。」
剣城は勢いのまま疑問を投げかける。誰も、信じてなどいない。
神童はその答えを悟ったうえで、彼自身に向けられた視線をきっとにらみ返す。
「霧野、目を覚ませ!」
「……アハハッ、神童、俺は正気だぜ?」
「!霧野…先輩?」
信じられない、と月乃は俯く。その笑い声は、いつもと…正気の頃と変わらないように聞こえた。
操られているのではないかと、狂わされているのではないかと、否そうじゃ無い筈がないと、思い続けていた離反者達の考えは外れた…月乃は、理解しても納得が出来なかった。
「まあ、その証にチャンスをやるよ。」
「チャンスだと…?」
「……ッ!!」
「…忘れたのか?“ルール”の事。」
神童の脳裏によみがえった、ルール——。
「敗者・離反者には、霧野蘭丸の名の下に制裁を下す…」
「!!」
「さすが瑠璃花…記憶力は良いんだな。」
ぐ、と瑠璃花は下唇をかむ。つまり、ここにいる鬼道達離反者は制裁が下される…正規のルールならば。
「今は見逃してやる。」
「「!?」」
「このまま全員捕まえたら、おもしろさのカケラもないだろ?」
(…おもしろさ?)
何だとっ、と声を荒げる倉間の隣で、瑠璃花はその言葉に引っかかりを感じて考え込んでいた。するとその間に霧野は逃走したらしい、数秒後顔を上げると門の上から姿を消していた。そして、離反者達を受け入れるように門は開かれる。
「……今は見逃してやる、って…」
「クソッ…どうしちまったんだよ、霧野は!」
それぞれが不安がっている事を覚った神童は、何と言葉をかけたらいいのか分からず俯いた。
その時、何者かの気配を感じ取って鬼道が辺りを見渡す。何だか、懐かしい気配——と。
「…やあ、鬼道君。」
「!ヒロトっ…!?」
「「「「!!」」」」
赤い髪が、緑ばかりの空間で異様に目立って見えた。
そう言えばヒロトも見たな、と頭の片隅で鬼道は思い出す。
「今からここに乗り込むんだね。」
「ああ。」
「なら俺も協力する。」
え、と目を丸くした瑠璃花に、ヒロトはそっと微笑みながら。
「今まで君には助けてもらった事がいっぱいあるんだ、殺せるはずがない…それに、このメンバーなら絶対出来る気がする。」
「ヒロトさん…ありがとうございますっ!!」
「あのイナズマジャパンの基山ヒロトさんだよっ、剣城!」
「…分かったから乗るな、重い。」
現れたもう1人のメンバーに、全員の表情が明るくなった。
*
「!隠れてっ!」
あまり大きくない声だった。
しかし緊張マックスの離反者達にとっては十分な声で、すぐに壁にぴったりと背中を付けヒロトの指示を待つ。
パタパタと警備員の足音がした。
(見逃すっつっても、警備体制は十分じゃねーか…)
舌打ちしたい気持ちになりながら、倉間が心の中で呟く。
離反者達は城内に侵入し、ヒロトの指示で主催者がいると思われる部屋に向かっている途中だ。しかし警備員に何度も見つかりそうになっているため気は抜けず、精神的には相当つらい状態。
「侵入者は一体どこに…」
「霧野様はなぜレーダーの使用許可をくれないのか…全く。」
「…レーダー?」
神童が囁く程度の音量で疑問を口にすると、ヒロトが視線を警備員達に向けたまま答える。
「実は、バッヂに内蔵されているんだ。」
「!!」
「そうしないと、敗者の処理が出来…。」
ヒロトの言葉が、途切れる。
と、同時に警備員の足音が近づいてくるのが分かった。ヒロトが最後尾にいる剣城にアイサインを送り、それを受け取った剣城はそっと近くにあった部屋のドアを開ける。音をたてないように、けれど速やかに…細心の注意を払い、全員が部屋に忍び込んだ。
「どうした?」
「気配があったんだが…いや、気のせいか。」
*
「……誰かの部屋だった様だな。」
鬼道が、部屋をぐるりと見渡してから言った。
入るとまず目に入るのは一般的な勉強机よりも広めの机、閉じられたノートパソコン。その近くの窓には窓にはめられた鉄格子。そして壁を埋め尽くす分厚い本の数々。ただその本や床の隅には、ほこりが目立っていた。
「…監視カメラは壊れてる。」
「じゃあ何か手掛かりになる物があるか、調べてみましょう!」
訳がありそうなその部屋からは、情報がありそうな香りが漂っていた。
(…う〜ん、厚い本ばっかり…)
でも手掛かりになる物を見つけたいな、と天馬はまず薄い本から手に取ろうと思った。本棚に目を走らせ、ふとただのノートを見つける。学生が授業で使う様な、まだ新しいノートだ。表紙には“日記”とのみ書かれている。
自然と、ページをめくっていた。
『 新しい依頼が来た。メモをデータに保存すると消えたり外部に漏れる恐れがある為、ノートに書いて行こうと思う。ちなみに依頼はふざけた物だ。でもこれも生きるため…』
「……何だ、これ…」
紫色のノートに書かれた真実に、少年は手を伸ばす。
* to be continued... *