二次創作小説(映像)※倉庫ログ

プロローグ ( No.623 )
日時: 2012/07/22 23:17
名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)

——かくれんぼの後


「ラティア!」

 久し振りに別荘へ足を踏み入れた少女は、自分を呼ぶ声に立ち止まって振り返る。廊下を走って来たのは、見知った少女だった。

「瑠璃花、元気そうね。」
「うん!さっきまで皆でかくれんぼしてて、楽しかったから…」
「ティアラからメールが来たわ、風丸たちがメイド服を着せられた写真と一緒に。」

ラティアは溜息交じりにそう言い、瑠璃花の反応を伺うと、似合ってたよねっ、と彼女は無邪気に笑っていた。
その反応に苦笑いすると、瑠璃花が首をかしげる。ふとラティアが瑠璃花の右手にDVDを見つけた。瑠璃花はラティアの視線に気づき、魁渡が日本の歴史に興味持ったみたいで、とDVDを差し出した。

「江戸時代の映画みたい。この別荘の図書室に有ったから、魁渡に見せたら喜ぶかなぁ、て思って…」
「日本の歴史に興味、って…何があったのかしら、魁渡に。」
「…武士がカッコイイって言ってた。」

ラティアはDVDの裏の説明に目を走らせた。

「一緒に見る?ラティア。」
「魁渡がいたら何か言われるに違いないもの、遠慮するわ。」

DVDは瑠璃花の手に戻った。
ティアラ達はどこにいるか教えてくれる?、と尋ねられて、大部屋と答えるとラティアは礼を言ってからその場を去っていった。

「…後でラティアの部屋に持っていこうかな。」

そう呟いてから、ハッと我に返る。

「…魁渡も大部屋だった!」

このDVDは大部屋にいる皆と見ようと思っていたものだ。
2人の喧嘩は仲裁を遮る勢いがある。つまり病気と同じく予防が大事。このまま接触すると危ないかもしれない…と考え、瑠璃花は駆けだした。あまり考え込んでいなかったはずだが、会議室の前にラティアの姿は無い。

「…もしかして大丈夫だった…?」

「そんなの俺の勝手だろーがっ!!!」
(あ、ダメだったみたい。)

ドアの前で苦笑してから、ノブをひねって部屋へ足を踏み入れた。


***
江戸時代

 夕方時…風が吹いた。子供ながら旅をする男子が、店の外で江戸の町並みを眺めている時。
突然の気配に振り返ると、風に揺れる橙色の髪が目に入る。

「はいっ、お団子です。」
「…ありがとう。」

いえいえ、と裏の無い無邪気な笑顔をつくる少女はお盆を胸に、店内に戻る。何か強い者の気配を感じた…彼は杞憂だったと、団子を口に運んだ。口に合う物だったらしく、口元が緩む。
ふと、店のドアが開いて出て来たのは先程の少女だった。

「それでは、失礼します。」
「気をつけて帰ってね!」

はいっ、と答える表情は明るい。男子と少女の目が合うと、ぺこりと頭を下げて少女は走って坂を下って行った。

「危なっかしいなぁ…」
「あの子はああいう子なの、今更きっと転んでるから。」

気をつけて、といった女性の声だった。しかし旅人の目に映ったのは、自分とあまり年の変わらない黒髪の少女。
彼の隣で、心配そうに、しかし若干呆れた表情で立っている。

「でも、今日は大切な人が帰ってくるとか。」
「だからあんなに元気なんですか。」
「そ、今日は特別元気だった。で、君はどこに行くの?」
「基本足の向く方向に…」

ふうん、と彼を見下ろして、少女は珍しい子、と心の中で呟く。

「それが今回は江戸です。」
「このタイミングなのには理由があるのかな?」
「ええ…多分。」

青い瞳は、真っすぐに江戸の町を見つめていた。