二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- 小説NO,3 第4話 ( No.661 )
- 日時: 2012/09/01 20:18
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: r4kEfg7B)
兄さんの部屋の前を通りかかって、ふと足を止める。何やらガサゴソという音が聞こえた。気になってドアをそっと開けると、兄さんはアルバムを見ていた。あの色は……中学の?
「……遥河さん。」
「?」
ハルカガワ? 誰だろう。
横から見た兄さんの顔は、悲しげに歪められていた。
(……あ、早く行かなきゃ!)
時計の短針は5と6の間を、長針は8を指している。
秋に呼ばれてるんだった。遅れないように早くいかないと。
*
「……来てくれるかな。」
ドキドキ——というより、バクバクする心臓の鼓動が少しでも収まるようにと、襟を強く握りしめた。
灰色の雲が空を覆っていく。冷たい北風が吹いて、秋の黒髪が揺れた。火照った頬も風に冷やされて、目を閉じて深呼吸をしてから、彼女は校門を見つめる。もう少しで、待ち合わせの時間だ。すると頭の中に円堂の笑顔が浮かんで、収まりかけた鼓動がまた早くなる。
「……。」
「秋? 大丈夫か?」
「……えっ、えええ円堂君!!?」
「!?」
落ち着けようとアスファルトの地面を見つめていた秋が、自分の名前を呼ぶ声に我にかえれば目の前にあった、円堂の顔。
「あっ、ごめんね考え事してて!」
「いや、良いんだけどさ。で、今度学年でやる肝試しの舞台を確認しに行くんだっけ?」
「うん。」
じゃあ行こうぜ、と自分に背を向けて歩き始める円堂の後ろ姿を見て秋の表情が陰った事に、勿論円堂は気付かなかった。
*
『やっぱりこのクラスにはこの歌があってるって!』
『合ってる合ってないより、金賞を取れるかどうかでしょ!?』
あの日、俺のクラスは合唱コンクールで何を歌うかでもめていた。ほとんどのクラスメイトが何かしらの意見を出していく……が、まとまりそうにない。学級委員だった俺にはまとめる義務があったが、どうすれば良いか分からなかった。
『……う〜ん、』
『……』
『?』
とりあえず黒板に書いた意見を見直す。と、視線を感じて背後を振り返った。クラスメイトは討論中なのに?
目が合ったのは、一言も話した事のないクラスメイト。いつも静かで、昼休みは教室に居ない。勿論、意見は出してなかった。
『遥河さん、何か意見ある?』
席の近くまで行って尋ねると、心なしか後ずさられたような気がする。嫌だったのかな。
『あ、丹……君。』
『うん、』
『ーっ! とっ、とと特に意見は無い……から、』
ついに窓の外を向かれてしまった。
俺、そんなに嫌われてるとは思わなかった。イライラしてるのか顔は赤いし。
付き合うのが難しそうだ——それが、遥河萌南の第一印象だった。
「あ、もう外暗いな……」
中学のアルバムを閉じて、本棚に戻した。
そして気付いた事。家が静かすぎる。テレビの音も聞こえないし、窓の外を見てもサッカーボールを蹴る少年はいない。両親は外出中と知っていたが、守もか。でも、時計を見れば7時を過ぎている。こんなに遅くなるなんて、俺は聞いてないぞ?
「メールも無し、じゃあ……」
書き置きはあるか。階段を下りてリビングに行くと、卓袱台の上に書き置きがあった。外食に行ってくるね、という母親の書き置きと同じ紙に、学校に行ってくるとすごく読み辛い字で書いてあった。まあ、じいちゃんのよりは読みやすいけどさ。
「雷門中か……よし、迎えに行こう。」
よし、母校に久し振りに入れるぞ!
*
「特に問題はなさそうだな。」
「そうね……」
「後はどう怖がらせるかだな!」
私と円堂君は、怖がらせる役。一緒にやるのが、決まった時から楽しみだった。…………楽しみ、だった。
だけど、きっと出来ないね。あの子が私にとり付いちゃったんだから。円堂君はきっと、この感情を分からない。
「一緒に頑張ろうな!」
振り返った円堂君は、眩しい笑顔で私にそう言った。
「…………ッ、」
「秋?」
ねえ、期待させないで。
「大丈夫か? 今日、調子悪かっただろ?」
「!」
何で、貴方はそんなに私を見てくれるの?
円堂君の言葉から嬉しさが生まれたり悲しさが生まれたり、怒りが生まれたり。頭の中がぐちゃぐちゃになってく。
涙がこぼれた。円堂君に変に思われたくなくて、両手で覆って顔を隠す。
「泣いてるのか?」
「! ううん、ごめんね何でも無いよ。」
大丈夫、もう暗いからきっと分からない……。
首を横に振って顔を上げると、心配そうな円堂君がいた。隠し通すと決めたはずの心が揺れて、円堂君、と口が動いた。
「私ね、」
円堂君のジャージを握った。口が勝手に動いてる気がしたけど、抑えられない。
これが本心なのかもしれない。今、言いたいって。例えここで円堂君に振られて、あの子に殺されるとしても。
「円堂君のことが、ずっと好きだったの。」
私の声が闇に溶けていく。
動揺するように、円堂君の目が大きく見開かれた。
「……。」
「……ううん、何でもないよ、忘れて。」
「秋。」
無言は、きっと分からなかったから。考えるより先に苦笑していて、何でもないって……。
——分からなかったんじゃないの? 円堂君。
「え、円堂君……?」
混乱していた頭が、状況を認め始めた。
私、円堂君に抱き締められてる……?
『木野さん、私初めてだよ。』
(!)
『初めて、賭けで負けたよ。』
頭の中で、あの子の声が響く。あっさりしてた。どうして——?
「俺、秋のことが大好きだ。」
その疑問は、円堂君の言葉で頭の隅へ追いやられた。
*
「俺、秋のことが大好きだ。」
……マジで?
「ま、まあ良い所に居合わせたって事で……」
弟の告白現場を盗み聞きした罪悪感はあった。だけど偶然なんだ、偶然。
とりあえずっ、両思いで良かったな!!
「……はぁ、」
いいや、2人が俺のいる方に来るのを待とう。校門から出るには俺の居る場所を必ず通るからな。
(告白、か。)
勇気がいるものだと聞いた事がある。……正直、俺は告白なんてした事がない。恋愛感情はよく分からない。
(いいや、考えるのめんどくさい。)
パンクしそうだ。
だから考えるのをやめて、息を吸い込んだ。
「まーもるー!!!」
捜しに来たっていう設定で。ま、バレないだろ。
*
『木野さん、負けた私は出るね。』
(何で? 貴女、丹さんの事好きだったんでしょう?)
『!』
(まだ、私の体借りてていいから。……もう、終わらせよう?)
何で……?
前の女の子も、この子も、どうしてそんなに私に優しくするの?
(貴女も、心では終わらせたいって思ってるんじゃない? 楽に、なりたいって。)
どうして……私の心を見透かせるの。
『…… 。』
私は、木野さんの手を取った。
* to be continued... *