二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- また、この木の下で。Final ( No.688 )
- 日時: 2013/02/23 22:41
- 名前: 伊莉寿 ◆EnBpuxxKPU (ID: 7jEq.0Qb)
「父親が有名なサッカー選手で、弟が居て、ラズベリーが好きで、ホタルガラスのペンダントを持っている私は、鬼道さんの言う“瑠璃花”ですか?」
瑠璃花は覚悟を決めた、それでも戸惑いの揺れる青い目で鬼道を見つめている。
だから、鬼道も覚悟を決めた。長く息を吐いて、眼鏡越しに瑠璃花を見つめ返す。
「……YESであり、NOでもある。」
「!」
顔をしかめる瑠璃花に、鬼道はパラレルワールドを知っているか、と切り出す。
「正しい歴史では、お前はサッカーをする。最強姉弟と称されるほどの腕前だ。だが——」
「私はサッカーをしていない……つまり、鬼道さんの記憶の歴史を正しいとしたら、私は存在してはいけない“私”ってことですか。」
「……信じるか?」
「辻褄が合いますし。その歴史の私は、鬼道さんと仲が良かった、ですか?」
「ああ。ともに世界一を掴み取った、仲間だった。」
世界一を掴み取った、仲間。
心の中でかみしめるように瑠璃花は繰り返し、ふわりと笑った。
そして背後のラズベリーを振り返り、葉を落とした木を見つめて鬼道に尋ねる。
「存在してはいけない私と鬼道さんは、お別れですよね?」
あと少しだから切り出せた。
頭の回転が良いことを知っていた鬼道は、その答えが出ることも予想の範囲内だった。
鬼道は腕時計を見やり、顔をあげた。
「あと少しで。」
「……そうですか。」
ゆるりと息を吐いて、瑠璃花は目を閉じる。
胸に手を当てると、心臓の音がいつもより大きく聞こえる気がした。
どこか胸の奥も寂しい。
「……残念、です。」
何がこの気持ちを生む?
ふっと脳裏に浮かんだのはモノクロのボールで、思い出すほど悲しさは膨れ上がった。
「やっと、やっとっ……」
肩を震わせる瑠璃花を見て、鬼道は彼女の葛藤を悟る。
「大好きなっ、サッカーの話、出来たのにっ……!!」
大好きだった、でも母も弟もきっと話したくなかった。
父親がサッカーが原因でこの世を去った、あの日から。
歴史改変された世界で、瑠璃花はサッカーを始めるチャンスを永遠に失っていた。
「あんなに楽しかったの、初めてで、だから、だからっ……!!」
でも存在してはいけない、いつか消える存在でしょう?
こんなのわがままにもならない。大いなる流れに逆らうのは、不可能なのに。
瑠璃花は溢れる感情のまま泣きじゃくり、どうしようもならない望みを嘆く。
その後ろ姿を見て、鬼道は瑠璃花を引き寄せた。驚く瑠璃花を振り向かせ、抱きしめる。
「……ふ、えっ……」
とっさに脳内を駆け巡った謝罪の言葉を口にしようとしても、言葉にならなかった。
全体重を預けて泣いても、鬼道はしっかり瑠璃花を支えてくれた。
瑠璃花は段々と心が落ち着いていくのを感じて、顔をうずめたまま鬼道に尋ねる。
これで聞きたい事は最後です、と。
「私は……22歳の、鬼道さんの歴史の私は、何をしてますか?」
「……行方不明だ。」
「……そう、です、か。」
行方不明、という単語で、立ち直りそうだった心に新たな亀裂が走る。
「……ただ、俺は必ず瑠璃花を見つける。」
「!」
必ず——。
抱きしめる腕に力がこもった。
瑠璃花はしばらくの混乱の後、言葉を理解して笑う。
「……それなら、もう何も怖いものは無いです。」
次の瞬間、鬼道の視界が光に覆われる。
足元から、瑠璃花が光の粒になって消えていく。
それを理解して、瑠璃花がふぅ、と溜息をついた。
「ありがとうございました……さようなら、です。」
その微笑みは、10年前のあの日に見た、離れていくのを見るしかできない、あの笑顔と同じだった。
**
気がついたのは、同じ鬼道邸の庭。
ポケットに入れていた端末を取り出してイナリンクを見てみると、試合に勝ったという内容の書き込みがあった。
そう、世界は元通り。
アドレスに、流星研究所の電話番号は無い。
「いない世界に戻った、か……。」
ラズベリーの木の幹をなでた。10年前は、この果実を見て後悔をしていたが。
「……また、果実が実る頃に。」
ラズベリーの花言葉は、愛情。
それを、感じたいと願う。
* The end *
さて、糖分ゼロの短編……中編(??)が終わりました!
イメージソングは『ハルウタ/いきものがかり』です。
時間のある方は感想を下さると嬉しいです><
それでは!