二次創作小説(映像)※倉庫ログ

小説NO.1-第1話‐ ( No.7 )
日時: 2012/08/15 14:10
名前: 伊莉寿 (ID: r4kEfg7B)

 彼女にとっての何気ない日常は、少しずつ色付き始めていた———。

「おはよう!」
「!おはよう風花ちゃん。今日も練習見に来たの?」


 薔薇色に近いものへ。

「正確には風丸さんを、ですけど☆」
「「春奈ちゃん!!!」」

 何気ない日常の1ページ。
 制服に身を包んだ少女は、サッカー部でも無いのに朝練の様子を見に来ていた。マネージャーの秋と挨拶を交わし、同じくマネージャーの音無にからかわれ、それでも自身の入部する陸上部の朝練が無い日はほぼ毎日。そんな彼女の名は、姫雷風花。円堂と風丸の幼い頃の友達で、中華料理店の娘。
 恋愛経験、ゼロ。

「円堂、まだ来てないの?」
「そうなの^^;」

と、会話を交わしているとようやくダッシュで走って来る姿が見えた。響木監督に遅れてすいません、と報告している姿が見えるが困っている様子。どうやら遅れた理由を聞かれているらしい。

「何で遅れたんだ?」
「え〜と〜、うーん……」

準備運動をしている豪炎寺達の視線も集まって来た。円堂は必死に考えている様で、そして決心がついた様に話した。

「父さんが新聞を読んでて、それに気になる記事があるって俺に自分の考えを聞かせ様として、何とか逃げて来たんです。話、絶対長くなるって思って…そしたら父さんもなかなか譲らなくて。」
「気になる記事?」

突っ込まないでほしかったな、と言う顔で円堂がまた考え込む。恐らく記事がどんな物だったか思い出しているのだろう。
ヒントとなる言葉を並べてみる。朝食の席で父親が読んでいた新聞、ようやく犯人が捕まった事件、中学生…。



「! サンザシ事件!!!」

 円堂が口に出した事件名に、部員全員がハッとした。有名な事件である。

「連続殺傷事件だな…」
「犯人として昨日女子中学生が捕まったって…」

口々にそう言う部員達に、響木監督はさっさと練習を始めろ、と注意した。円堂も理由を言った為解放される。

「サンザシ事件ですか〜」
「春奈ちゃん、そう言えばサンザシって何??」

風花が尋ねると、春奈は今更ですか、と半ば呆れながら教えてくれた。

 サンザシとは、事件現場に必ず落ちている赤く小さい実から付けられ、その実の正式名称はヒマラヤトキワサンザシ。似たような事件の際に続けて落ちていたことで、連続殺傷事件だと警察は認識した。

「何でも赤い実は血の海に落ちているとか…」
「あっ、朝からそんな事言わないでよッ!!!!」
「でも風花さんが聞いたんじゃないですか〜☆」

こういう系苦手な風花と、別に苦手でも無い音無との温度差。

「……サンザシ。」


音無が秋と話しだすと、風花はそう呟いていた。
まるで、何かを思い出すように。




「風丸! 弁当一緒に食おうぜ!!」
「ああ…、風花も行くか?」

 お昼休憩が始まった頃、風丸に誘われて一瞬きょとんとした風花だったが…もちろん笑顔で「行く!!」と答える。
 校庭か教室か屋上か…円堂、風丸、風花がじゃんけんをして風花が勝ち、屋上に決まった。風が冷たく気持ちが良い屋上へ行くと、風花から自然と笑みが零れた。彼女は頬を撫でる風が好きで、幼馴染の風丸が陸上部を辞めても、追おうとは思わなかった。
 お弁当も作る彼女の家「風雷堂/フウライドウ」の娘、さすがにお弁当は自分で作る。中華関係なしな弁当だが、彼女は中華に見飽きてしまわない様に、あえて中華を避けているらしい。
 幼馴染み…と呼べるのだろうか、3人で昼ご飯を食べると幼い頃に戻った様で懐かしく楽しかった。風花がデザートの梨を2人に分けると、彼等は幼い子供の様に目を輝かせていた。
弁当を食べ終えた円堂と風丸が、屋上の策に寄り掛かって町を眺めながら話をしていた。最初はサッカー部の話だったが、途中でそれてそれまくって…サンザシ事件に。風花にも内容が少し聞こえて、昼ごはんの時間なのに、と不満が呟きとなって漏れる。

 前に秋に言われた。
 練習中、ずっと風丸君のこと見てるね、と。そう言われて思い出してみれば、サッカー部の練習のシーンにはほとんど風丸が映っていた。すると秋は、それが好きって事だよ、とくすくす笑いながら言ったのだ。そう言われてから急に恥ずかしくなって縮こまったりする事があっても、風丸と一緒に居る時間が華やかに思えるようになった。楽しいと思う。
 言われた時のことを思い出して顔が熱くなるのを感じた。と、何かが舞っているのが視界に映る。

「…ん?」

自分の少し上を舞う、蝶。一瞬、アオスジアゲハかと思ったが違う。青くない。

「黒と赤の蝶…?珍しい…」

 手を伸ばそうとして固まった。突然蝶が増えて円を描く様に舞ったかと思うと、視界が歪みだす。頭痛が止まなくなり頭を抑え、闇に染まって行く視界に光を見出そうとした。
 光が一筋さした、のに届かない。
 遠くで風丸が自分を呼んでいる声が聞こえる。背中が打ちつけられた時には体に力が入らなかった。アスファルトの感触に、倒れたんだとぼんやりした頭で理解する。でも理解したからと言って何か出来る訳でも無かった。


 遠ざかる意識、狭くなっていく視界…風丸の顔。その奥で、黒と赤の蝶は舞い、静かに消えて行った。