二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 短編小説 *BSR Fate* ( No.332 )
- 日時: 2014/08/19 16:24
- 名前: ナル姫 (ID: v.swDAoc)
どうしてもセルティとディルの絡みを見たくて考えた結果。
なりきりの時計塔時空。セルティが首を盗まれる前。
直感した。
水浸しの床、左足首と壁を繋ぐ足錠、傷だらけの体は全身が痛い。
両親はいない。今のうちになんとかしてこの錠を外して逃げなければ自分は死ぬのだと、学校に行っていない少年でも分かった。
「にげ、なきゃ……にげなきゃ……」
細い腕に体重をかけ、俯せの体を起こそうとするも、ガタガタと震える両腕は中々体を持ち上げられない。少し起こしても、すぐに力が抜けてまたべしゃりと水浸しの床に落下した。それでも、譫言のように彼はつぶやき続けた。
「にげな、きゃ……ころ、される……」
彼は通常ではありえないと思えるほどに魔術が苦手だった。
生まれてから十二年、物心がついたときには既に彼の足と壁はは足錠で繋がれていた。両親は彼に、素晴らしい魔術師になって実家に復讐するのだと彼に教え込んだ。
−−だが、彼は魔術というものが丸でできなかった。ブライト家に伝わる水魔術も、強化も医療も。
学校には行っていない。学校というのがどんなものなのかも知らない。明かりは専ら蝋燭で、勿論電球なんてものはない。電球すらないのだからテレビや冷蔵庫なんてものだって存在しないし、存在すら知らない。
彼が知っている物事は、魔術に関係する言葉と、両親の家族関係、両親が自分を愛していないこと、自分はただの復讐の手段であること、そして鞭やナイフなど、自分を躾するのに使う道具だけだった。勿論、両親は自分に数学や英語、国史なども教えたが、お世辞にも教えるのがうまいとは言えなかった。特に国史など何を言っているのか丸で理解できない。
五日程度の断食は当然のように、二週間に一度は存在した。一日に四百や五百回鞭で打たれるのくらい慣れた。今日だって飯を抜かれてもう四日目くらいにはなるし、朝早くから起こされてもう四百近くは鞭が飛んで来ている。
両親は先ほど、どこかへ出かけた。そのうちに水くらいまともに扱えるようになれと言い残して。
「しぬ……にげなきゃ、にげなきゃ……」
けれど体は、動かない。
「……さむいよ……とう、さま……かあさま……」
「『……どうした、シューター?』」
首無し騎士の乗る馬車が止まったのは森の中の山小屋のような場所だった。窓はない。人の気配すらもなかった。
「『ここに誰かいるのか?』」
シューターと呼ばれた馬は頷く。騎士は降り、戸を叩いた。だが誰も出ない。もう深夜だ。寝ているのかも知れない。だが騎士も何となくこの家が気になった。こんな電気も通らないような家に誰が?
「『……』」
好奇心に負け、騎士は戸を開けた。鍵はかかっておらず、簡単に開いた。そして彼女は信じられない光景を目にする。
「『子供……!?』」
浸水した床の上に傷だらけの子供が体を丸めて倒れている。カタカタと震えながら、何か譫言を呟いていた。
「『しっかりしろ少年! 酷い熱だ……何か温めるものは……』」
家の中を見渡すが、そこには溶けてドロドロになった火の消えた蝋燭や鞭があるだけで、少年の体を温めるものはない。仕方なく、自分のつけいているマントを彼女は外し、子供の体に巻いた。体を摩って温めていると、意識が戻ったのかうっすらと彼は目を開いた。
「……だ、れ……?」
朦朧としているためか、首のないその姿に大声をあげることもなく、彼は尋ねた。
「『名乗るほどの者でもない。ゆっくり眠るといい、少年。このマントはあげよう』」
耳に聞こえる、けれど心にも直接聞こえるような不思議な声。
何故か安心した少年−−ディルムッドは、そのまま深い眠りに落ちた。首無しの騎士−−セルティ・ストゥルルソンは少し微笑み、馬車からマットを持ってきてその上にディルムッドを寝かせた。
整い過ぎだろうとも思える顔に細く小さい体。濡れた髪を撫で、彼女はその場を去った。
昼寝をしていたセルティがその綺麗な首を岸谷森厳に盗まれるのはその一週間後。彼女は首を追いかけ日本へ渡った。
ディルムッドの父が母を殺そうとしたのは一ヶ月ほど後のこと。彼と生まれたばかりの妹はオェングスという男性の元へ引き取られた。