二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン×REBORN! 十年後の世界で ( No.76 )
日時: 2012/01/14 22:05
名前: しろお (ID: 82QqnAtN)

act.12 十年の歳月









「どうだ沢田? 今の雷門も、なかなか強いだろ?」
 派手に登場してやろうと意気込んで勝負したはいいが、負けた。油断や隙が敗因ではない、ただ純粋に、彼らは強い。 
「でも、照美先輩、女子とは思えない動きでしたね!」
 松風天馬。こいつは、見た目からは想像できないほどの実力を秘めている。
「天馬の言う通りだ。さっきは、女のくせになんて言って悪かった」
 この神童拓人も、神のタクトの名に相応しい才能がある。認めざるを得ない。
「なら良かった」
 余裕を見せようと笑ってみせるが、余裕などなかった。
「でも、やっぱりサッカーは楽しいね」
「おっ、じゃあ沢田も、一緒に雷門でサッカーやろうぜ!」
「だけどそれとこれとは話が別です。楽しかったです、失礼します」
「え……お、おい!」








 家への帰り道、ひさしぶりにサッカーをし足が疲れていたのでとぼとぼと道を歩いていると、後ろから速水が追いかけてきた。
「どうしたの?」
「どうしたじゃないですよ! 沢田さん、めちゃくちゃサッカー上手じゃないですか! 女子とは思えないですよ!」
「そう? 昔、ちょっとやってたからさ」
「ちょっとやってたってレベルじゃないですよ……。もし剣城君や天馬君が化身使いじゃなかったら、僕ら全然歯が立たなかったですよ!」
「化身……」
 プレー中に、松風の背後からスタンドが現れた。そのスタンドを出している状態は無敵に近く、ボールを奪うことはおろか、スタンドが出た時から俊敏さやレスポンスキック力ボールコントロール、とにかく全ての能力が急激に向上し、それを出されると僕は一気に歯が立たなくなってしまった。
「化身っていうのは使い手の気が具現化されたもので、限られたプレーヤーしか扱えないんです。特に強い気は人にも見えるんですよ!」
 そういう速水自身は化身を使えないようであったが。
 しかしあの化身というもの。見たのは初めてではない。
 フットボールフロンティア決勝戦で円堂が見せた、あのキャッチ技。魔神ザなんとか……。あの時も、化身のようなものが見えた気がする。
「サッカー部、入るんですか?」
「いや、私はいいよ」
「なんでですか!? あれだけ才能があるのに!」
「だって……僕はこの時代の人間じゃ……」
「え?」
「あ、いや。なんでもないよ! はは……」
 視線を速水から外して前を見ると、電柱の側で六、七人の子供が何かしているのが目に入った。
 何をしているのか不思議に思って子供の頭越しに輪の中心を見てみると、どこかの野良犬なのだろう、毛がところどころ薄い、汚い尨犬が、電柱に結ばれた縄で首輪をされ、子供達に打ったりたたかれたり、殴られたり蹴られたりされて、サンドバッグ同然のボロ雑巾のように散々な目に遭っていた。
 吠える力もあらがう力も残ってないなかで、犬は悲しい目で最後に僕に助けを求めてきた。
 僕は、怒りを抑えて、できるかぎりの笑顔を作って少年の肩にポンと手を乗っけた。
「犬も叩かれたら痛いよ。やめておやり」
「なんだよお前偉そうに。野良犬なんか別に、飼い主いねえんだからどうしたって勝手だろ!」
「余計なお世話だばーか」
 心ない少年達は、淡々と暴力行為を続ける。
「あの子達……やめませんね。犬が可哀想です」
「こういうこと、よくあるの?」
「最近、犬や猫を捨てる人が多いんです。景気がよくなってきたせいで、不景気の時にはあった物を大切にする気持ちが無くなってきました。とくに好景気しかしらない最近の子供は、こういう有り様なんですよ」
 速水は眼鏡に手をかけながら思い悩んでいる。
 そういえば、剣城も捨て猫と遭遇してたな。十年経っても日本はあまり変わっていないとばかり思っていたけど、陰にはこういう変化があったんだな。子供がこういうことをするようになってしまったなんて。好景気がもたらすのは好景気だけ、小さなデメリットも生じるってことか。
「あのままだと、死んじゃいますよ、あのワンちゃん」
「もう遅い。もう、……死んでる」
 犬は死んでいた。ぐったりした犬には興味が無いのか、少年達は犬が死んだと分かったらさっさとどこかへ行ってしまった。
 淋しかった。電柱に首を繋がれたまま、ぽつりと死んだ犬が白目を剥いて、舌をだらしなくだらんと出しているのはどうにも淋しかった。
「せめて、どこかに埋めてあげなきゃ」 
「やめときましょうよ! あんまり関わらない方がいいですって。死んだらもういいじゃないですか!」
 母も……。僕の母も、この犬の様に死んだのだろうか。独りで淋しく、あの少年達の様に心無い連中の手によって。ミルフィオーレの手によって。
 どこからかパトカーのサイレン音が聞こえた。そしてその音は近づいてくる。きっと、これを見ていた人が通報したのだろう。注意したり犬を助けたりはしないが、通報はしたのだろう。
「ごめん、速水くん。私、独りで帰るから」
「あ、はい……じゃあまた……」