二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 【GUMI】ようこそっっ!スイートフロートアパート【裏マン】 ( No.27 )
日時: 2013/01/13 19:17
名前: ののお ◆rYxPn87gVA (ID: 9EI0TyZR)

12階 やるべきことを纏めて表にしたい その2

 まぶたが開いた。
 視界は、濁っていた。細かいところまでよく見えない。
 彼女はだいたいそれがなんのせいであるかわかっていたが、それを認めるにはいたらなかった。プライドが邪魔だった。
 目をこすった。けれども、視界は濁っている。
「もう、だめだ。」
 つぶやいた。
 そのとき。
「とあああああっ」
「ぎょええええええええええええええ」
 何かを感じ、雄叫びだか悲鳴だかよくわからない声を発する茱萸。そしてそのまま高く高く長い脚でキック。
「らっ」
 何かが割れる音がした。
 その音で茱萸は、今の状況をしっかりと理解した。 そう、目の前には——
「中本……君じゃない、どうしたの。」
「ボス……、この眼鏡……ハア……、高かったんですよ……。」
 割れた眼鏡を手にした、白い歯が光る好青年——中本。このアパートの住人だ。茱萸を——ボスと呼ぶ。
「この眼鏡どうしてくれるんですか!」
 怒鳴る。
 平然とした顔をする茱萸。
「ああっもう!」
「だって、わかんなかったんだもん。おとめのへやにとつぜんはいってくる、すけべなへんたいやろうがいたんだもん。」口をとがらせて、ふてくされる茱萸。
 中本は、ため息をついた。
「仕方がないと言えますね。」
 そして、茱萸の顔に手を当てた。
「自分でも、わかっているんでしょう。自分がどうしているか。どんな状況であるか。」
「……え。」
 今、そっと、傷口を触られた。
「あなたは、理解できるほどの人間であるはずだ。」
「……やめてよ。痛いじゃん。」
 森川さんの顔が浮かぶ。米男の顔が浮かぶ。
「いいですか。現実から、逃げちゃいけませんよ。逃げようとしてるみたいですけど。」
——あ……。
 逃げようとしていたのか。自分は、自分の世界に逃げていた?
「……ふっ。」
 自分の頬が、冷たいのか。
 中本の手が、暖かいのか。
 やけに温度差を感じ、震える。
「現実……。」
 茱萸の頬を一筋の水が滑る。そして、それを境に、目にせき止められていたそのしずくは、どんどんどんどんこぼれてきた。
 止まらなかった。今更、止めようとも思わなかった。全部出切ってしまって、枯れてしまえばいいと思った。恥かしいとか、そういうことも、一切思わなかった。
 涙。昔から、昔から、たくさん流してきた。
 そして、たくさんためてきた。
 それを今。
「中本ッ……私、駄目だ。」
 うなだれて、床に倒れこむ。
「……。」
「森川を、救えなかったんだ……、無責任だ。こんなの。アパートの住人を幸せにするのが、役目なのに……、米男から、逃げて……しまったんだ!」
 目を閉じて、むせび泣く。悔しい。顔面がゆがむ。住人が救えなかったのが、何より悔しい。手当たり次第に、その周りのものを投げて、踏んで、壊してしまいそうなほど。爆発してしまいそうなほど。
 悔しい。何が悔しい?
 自分の無力さ。
 ふがいなさ。
「じゃあ、幸せにしてやりませんか。」
 ふと、中本が提案した。
「……?」
「それが今、あなたがやるべきことです。」
「……。」

「一刻も早く、あの部屋に向かってください。」

 森川さん。
 今、行くよ。