二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: original ダンガンロンパ アンケート結果発表 ( No.66 )
日時: 2012/05/26 00:28
名前: 魔女の騎士 ◆klvlLaCD9M (ID: .7T494ht)

「早く……帰りたい、です。静かでゆったりとした…あの町に………」
「そうか……。すぐにここから出られるよう、おれも尽力しよう」
「……はい。あの……」


 東雲がおずおずと顔を上げる。
何か言うことでもあるのか。彼女が息を大きく吸い込んだそのときだった。


「ふふ、速水は手回しが早いのね」


 不意にだれかの声が右手側からかかり、東雲がビクリと肩を震わせて声の方に向く。
おれも、おそらくは呆れた顔でそちらを向いた。
 姿を見ていなくても、しゃべり方で十分だれか分かる。
”超高校級の俳優”、アヤメだ。


「……どういう意味だ?」


 予想通り、視線の先にいたアヤメにおれはため息を一つ吐く。
あからさまに、アヤメの顔はどこか企んでいるような笑みだ。
 手回しが早いという言い回しといい、東雲とおれを交互に見比べていたり、あまりいい気はしない。


「あら、だって米倉がいるのに、今度は東雲に手を出すんだもの。あなたって、結構罪な男なのね」
「……誤解だ。警察として、みなを守ることは当然だろう。東雲も、ましてや米倉にも手を出したつもりはない」
「ふふ……そうでしょうね。でも、東雲は違うみたいよ?」
「ん?」


 くすくすと口元に笑みを浮かべる彼女と同じように、おれも東雲の方を見下ろす。
元が白い肌のせいか、東雲は誰がみても分かるくらい顔を真っ赤にさせて、何かを呟いていた。
声がこもっていてうまく聞き取れないが、口の動きからして……違います、と言っている気がする。


「うふふ……東雲はかわいいわよね」
「……やめてやれ」


 彼女が気の毒だ。
 アヤメにそう告げるものの、あら、ダメ?と言うだけで、彼女に反省の色はまったくない。
それどころか、ちょっとした挨拶よ、とにこやかに返されてしまった。


「わたしの周りは年上ばかりだから、こういうかわいい子がいると、からかいたくなるの。特に、純粋そうな子は余計ね」
「はぁ……」


 この状況下で、そうできるのはさておき、だれかをからかうというのが、おれには理解できない考えだ。
相手を困惑させるのは、どうにも気が引ける。


「うふふ……でも、速水みたいなクールなタイプも好きよ。反応も新鮮だし、この中で一番頼りになるもの。もてるでしょう?」
「そう言ってもらって嬉しいが、生憎、そんなことはない。」
「あら、どうして?」
「おれは仕事で一ヶ所に留まることがなかったし、職場は男性が多かったからな。そもそも、女性に会う機会がなかった」
「へぇ、意外ね」
「そういうアヤメはどうなんだ?
 共演していた男性俳優との仲が報道されていたが……」
「あら、知っていたのね」
「大々的なニュースだったからな」


 聞いたのはここに入学する前だったが、テレビでも、新聞でも、雑誌にも取り上げられた有名な話だから、覚えている。

 内容は彼女が、ハリウッド映画に名を連ねた男性俳優と二人っきりで仲良く食事をしていた、という話だ。
二人を見かけた者によれば、仲むつまじく、良い雰囲気だったらしい。


「そうね……。確かに彼はとても素敵な人だけど、付き合おうなんて思ってないわ」
「と、いうと?」
「彼が誘ってくれたのよ。パスタのおいしいお店があるって。それで、食べに行っただけ」
「……二人っきりで、か?」
「あら、ダメかしら?」
「いや。そういうものは、特別な相手だけだと思っていた」
「ふふ……速水は思っていたよりもお堅いのね。こういうの、別に普通よ。今回は彼が有名だっただけ。それに、彼にはもう将来を決めた相手もいるの。問題ないわ」


 婚約者がいるなら、むしろ普通は遠慮するものじゃないのか……。
おれはそう思ったが口に出さず、東雲に目を遣る。
 彼女はどう思っているのか分からないが、少なからず、同意はしてないらしい。
アヤメの話にきょとんと目を見開き、その場で固まっている。


「ふふ、遠慮したほうがいいって思ったでしょ? でも、さっきも言った通り、わたしは遠慮なんかしないわ。だって遠慮したらせっかくの好意が無駄になるでしょう?」
「それは、そうだが……」
「それに、そうやって悩んでたら一瞬のチャンスを逃すことになるわ。それで後悔したくないのよ」


 最後の言葉をやや強調し、アヤメは腕を組む。


「ところで、あなたたちに聞きたいのだけど、わたしたちって今日、初めて会ったのよね?」
「ん? ああ、そのはずだが……」


 神妙な面立ちに変わった彼女に一瞬気圧されたものの、おれは思ったままのことを口にする。
 予定では今日が希望ヶ峰学園の入学式。
それ以前にオリエンテーションや説明会は一切なかったはずだ。
もしかしたら、だれかは下見がてら来ていたかもしれないが、おれは今日が初めてだ。

 どこかで会ったことはまずないだろう。


「そう。東雲はどう?」
「……わたしも……初めて…です。知ってるのは………京くん……だけで……」
「どうしたんだ、急に?」
「なんとなくよ。強いて言うなら、女の勘かしら?」
「女の勘、か……」


 確か同僚がよく当たると言っていたあれか。
さすがに、今回ばかりはそれもはずれだと思うが……。