二次創作小説(映像)※倉庫ログ

【ボカロ神曲で小説作ってみた】パンダヒーロー ( No.5 )
日時: 2012/03/11 12:53
名前: 菜の花 (ID: TaF97fNV)
参照: 海崎ってチャラ男っぽく書いてるけどホントのところもチャラ男なんだよ!

***「パンダヒーロー」第3話***



大熊はそれ以上何も言っていない。

だがしかし、黙って後ろで仁王立ちされているほうがもっと怖い事を大熊は知っていてやっているのだろうか。その位怖い。ま

してや、あの冷徹そうな目で見られると余計怖い事は後ろを向いていてもわかる。

「あ、あの・・・」

「何だ」声に抑揚は無い。

「こ、このバットって・・・触っちゃいけない物なんですか」

恐る恐る聞くと拓実と大熊の間に数秒ほど沈黙が流れた。(拓実にはその数秒が何十分にも思えたが)

———あ、ヤバイ事聞いちゃったなコレ
本能的にそう思った。しかし、そんな心配は必要ないと気付く。

「そのバットは、お前昨日の夜見ただろう」この答えはかなり予想外だ。

(・・・え?)今のはどういう事なんだろう。まるで、大熊が昨日のパンダヒーローと名乗った人物みたいではないか。

「あのー、今何て?」

「いやだからそのバットは昨日の夜お前が見ただろう、と言いたいんだ」益々混乱する。

「え?って事は・・・」これ、大熊がパンダヒーローととっていいんだろうか。

そう考えれば辻褄が合う。昨夜聞いたあの声に大熊の声はそっくりだ。

「昨日の私が助けた借り、ちゃんと返すんならさっさと手を動かせ」

急かすようにこっちを見る大熊。

思わず大熊の顔をじっくりと見つめてしまう。脇の下あたりまで長く伸ば

したストレートの髪。女性にしては高めの身長。整った顔であるが、切れ長の目が冷たい雰囲気を醸し出している。

大熊が昨日のパンダヒーローであるという事————これで、確信がついた。

「もしかして、大熊さんが・・・・パンダヒーロー、だったんですか」

もし間違えていたらどう言い訳するかな、と考えている間もなく返事はすぐに返ってきた。

「そうだ」予想通り。

・・・とは言ったものの、ここからどう会話?を進めていけばいいのだろうか。

「ところで」そう考えてていると大熊が口火を切った。

「借りは返す・・・・お前はそう言ったよな」

「・・・は」言っている事の意味がイマイチ理解できない。この質問、前にもされた気が・・・。

「ここの片付けが済んだら原、お前は今夜予定はあるのか」

この台詞だけ聞くと安い月9ドラマの口説き文句に聞こえるが、相手は大熊である。多分、いや絶対に口説き文句ではない。

わかりきった事をうっすら考えながら予定はありません、と返事をした。

「そうか。なら・・・」大熊は拓実にズイっと顔を近づける。前にも言って今更な感じもするが、大熊は並の人間より顔立ちが

かなり整っているほうだ。こんな美人に顔を近づけられて、少々でもドギマギしない健全な男子高校生がいるだろうか。まぁ、

大熊はその、けして良いとは言えない目つきのせいで、かなり損をしている事だろう。(そう思いながらも拓実も健全な男子

高校生の一人だったが。)

「パンダヒーローになってみる気は無いか」

(・・・はぁ?)行き成りなのでちゃんと意味が呑み込めない。

だがしかし、大熊の目は「反対意見?そんな物お前は言うわけ無いよな?」と、半ば脅迫的な眼差しだったのでノーといわない

わけにはいかない事だけはわかった。

きょとんとしている拓実をよそに大熊は淡々とこう続けた。

「パンダヒーロー、簡潔に言えば何でも屋だ。依頼主の要求に答えて物事を解決する———ただし、」大熊は拓実が持ったまま

の金属バットを取り上げ、ポスポス、と手で感触を確かめるようにしながらいった。

「夕べお前も見た通り、変装———つまりパンダヒーローあの格好———をして仕事をする。営業は夜になってから・・・依頼

主にはそれに見合う報酬を支払ってもらう」

昨日聞いた噂は嘘ではなかった。しかし、実際に目にかかるなんて、正直を言わずともご免だったったが、心の奥底ではひそか

に少しわくわくしている自分がいるのは不思議だ。

「やります」こんなこと言うつもりは無かったが、口が勝手に言ってしまったのである。

内心、何でこんな事を言ったのか自分で自分自身が不思議だったが、そのままボケッと拓実は大熊の話を聞いていた。

「———で、あるからして、仕事内容はこんな感じだ。今日からだぞ」

大熊が話し終えたところで、ハッと意識が東京から長崎位の距離まで飛んでいたのが、一気に戻ってきた。

「あ、はい・・・」ちょっと聞いてなかった事に地味に後悔するが、まぁそれは良しとしよう。

「じゃあ引き続き掃除を頼む」2人は部屋から出て、大熊は二階?へ、拓実は再び掃除に取り掛かろうとしていた。

その時、平穏だった店内(3分の1は片付き始めた)に騒音と破壊音が五月蝿い程に響いた。

“ガッシャァァン!!!”見ると、店のショーウインドウの一部とその周辺やら駐車場のブロックやらその他色々な物が壊され

ている。
原因は————店内に突っ込んで来た白い外車だった。

「えっ?え、ちょっと・・・ええええ?!」こんなシーン、アクションシーン以外で見た事の無い(と言っても一般人はまず見

る事の無いであろう)状況に大げさ過ぎる位驚いてしまう。

しかし、そんな状況にもかかわらず大熊は微動だにしない。むしろ、『またか・・・』みたいな表情をする有様。近くに座って

いた李沙だって、いつもの事のように平然としている。

余りにおかしな、いや、異常な光景に拓実は金魚のように口をパクパクと開けた間抜け面になるしか他に無かった。

しばらくすると、車から一人の人物が出てきた。

「あー、悪い悪い。試運転のついでに寄ろうと思って来たらこーなっちゃって」出てきたのは若い、軽そうな感じの男だった。

その男は茶髪に白スーツ、派手なネクタイ、と一見すればホストにも見える。だが、着ている物はブランドに疎い拓実でさえ高

級そうなのが一目でわかった。

「またお前か・・・・・」大熊は飽き飽きした様に溜息をつく。

「し、知り合いですか?」状況がまったく理解できないので大熊に事情を聞こうと思ったらスッとその男は名詞を拓実に差し出

した。

「かいざき、つとむ・・・?」縦書きの文字の横には長々とした住所やら会社名がズラッと書かれていた。

(・・・この会社名、どっかで見た事あるような・・・)

「お騒がせしたね。君、ここのアルバイトかな?」ニコニコと嘘臭い笑いを拓実に振り撒きながら大熊に何か領収書を渡してい

る。
「まったくお前と来たらいつもいつも・・・・・」この様子から見てどうやらこのかいざきとかいう男はしょっちゅう店を車か

何かで壊しているらしい。よく見れば店の2箇所ほどに直りかけではあるが壊れたような跡がある。

「おっと、言い遅れたが俺は海崎 勉(かいざき つとむ)。海崎衣料の跡継ぎだよ」最後にどうでもいい情報が付いてきた

が、拓実はかなり驚いた。

————海崎衣料————その会社は日本のスーツシェア約90パーセントを牛耳る大企業だ。日本では知らない人間はいな

い。

いまいち実感(目の前にいる人間が、という事に)できないが本当らしい。(大熊が受け取った領収書の額を見たら納得でき

る)

「所でカナちゃん、いつになったら俺と食事の約束が出来るのか「黙れボンボンが。そしてしつこいぞ」海崎、瞬殺。

「海崎おじちゃん、こんにちわ」

「うん・・・・李沙ちゃん、俺まだ23・・・・20年位経ったら食事に誘うかもね」

そんな一連のどうでもよさげな会話が続いた後、海崎は真面目顔になり、一つの封筒を大熊に渡した。

「依頼だ。報酬ははずむ」

「了解した」交渉成立。







         拓実はまだ知らなかった。





         「パンダヒーローになる」という事が





         後々とんでもない騒ぎに巻き込まれる、





         という事を。



***



題3話終了です。