二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 ( No.17 )
日時: 2012/05/13 00:38
名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: zfcOpvSu)

<episode 4 優しい悪魔>





『どうしてなの?
 俺、あなたみたいになりたくて、あなたを超える存在になりたくて、ずっと訓練を積んできたんだ。
 あなたに付いていけば、絶対に間違いはないって、ずっと思ってた。
 ねぇ、どうして裏切るのか教えてよ! 俺はずっと、……あなたを、ずっと、信じていたのに!』


 同じ声、同じ言葉、同じ悲しみ、同じ終わり方。
 伴う苦痛は、強くなる一方。


「デモリーナ!」

 自分の名前を呼ぶ友の声を聞くと、悲痛な叫びと頭痛が、綺麗に消えた。

「リュオン……」
「また例の頭痛?」

 リュオンの言葉に頷き返すと、デモリーナはゆっくり立ち上がった。いつにも増して痛みが激しかったため、前後の記憶がはっきりしない。リュオンにそのこと話すと、「椅子からずり落ちた」という返答があった。

「びっくりしたわよ。振り返ってみたら、座っているはずのデモリーナがいないんだもの」
「ごめんなさい、迷惑かけちゃって」
「謝らないで。せっかくの休みなんだから、笑って過ごしましょう?」
「うん……」
「ほら、元気出して」

 浮かない表情のデモリーナを励ましながら椅子に座らせ、リュオンは彼女の向かい側にある椅子に腰掛けた。
 今まで描きそびれていたが、ここは悪魔界の王城内にある、デモリーナの自室。数ヶ月もの間、諜報部も含めて働き詰めの日々が続き、やっと一段落した今日の仕事終わりの際、デモキンから直々に休暇をもらったのだ。
 翌日から始まる休暇をどう過ごすかの相談も兼ねて、『プチ宴会』と洒落込んだのだろう。リュオンは黒地に白のラインが入ったジャージ、デモリーナは装飾を排除した漆黒のドレスと、揃ってラフな格好。二人の間にあるテーブルには、リュオンが持ち込んだ飲み物とおつまみが、小さな山を作っていた。
 ちなみに、宴会用の食料とリュオンのジャージは人間界で調達したものである。

「で、何の話をしていたんだっけ?」

 気を取り直して、宴会は再スタート。リュオンは口と同時にスルメイカの袋を開いた。

「休日をどう過ごすかの相談よ」
「あぁ、そっか」

 言い終わるや否や、リュオンは袋から取り出したスルメイカに噛み付いた。噛み締めるほど、口の中にじわじわと味が広がっていく。アルコール類と組み合わせると最高に美味いのだが、この場にはあいにくお茶しか存在しない。

「お酒も用意しておけばよかったな」
「超が100個付きそうなくらいの下戸なんでしょ。リュオンったら、ノンアルコールビールの一口で倒れたじゃない」
「辛いものが苦手なくせにカ○ムーチョを食べ続けるデモリーナに言われたくないわよ!」
「なによぉ!」

 その後しばらくは他愛ない言い合いが続いた。それが終わると、改めて休日の相談が始まる。

「……そういえば、ケルヴィルは?」
「仕事が終わってから、真っ先に荷物を持って人間界に行ったわ。達也さんと一緒に、海に行くんだって」
「サーフィンの約束でもしてたのかしら」

 人間界の友人である達也と、ケルヴィルこと雅紀が海を満喫する姿を想像すると、デモリーナは自然と笑顔になった。
 それでも、本心から笑顔になることは出来ない。ふと表情が陰るのを、リュオンは見逃さなかった。

「……デモリーナ」
「なに?」
「頭痛と一緒に聞こえる、例の声、まだ気にしてるんでしょ。あんた優しいから」

 誰かの苦しみを自分のことのように思って寄り添い、決して我が身を振り返ろうとしない。このようなデモリーナの性格を一言で表すなら、“献身的”であろう。献身的に働き、献身的に主君たるデモキンを愛している。

『表向きは冷酷非常で通っている悪魔族とするには、もったいない』

 彼女が悪魔に転身した直後からの付き合いであるリュオンは、事あるごとにそう思っていた。
 今回もまた、然り。

「確かに気になってるけど、私は優しくなんかないよ」
「いいや、優しい。100年以上の付き合いんだから、私には分かる」
「別にそんな……」
「優しくない女が、自分を殺した男を許すと思う? デモキン様のこと、許したんでしょ」
「…………」

 デモリーナは思わず、自分の右脇腹に手をやった。そこには、衣服の上からでも触れば分かる、小さくも深い傷跡がある。これのお陰で、彼女は一度、命を落としていた。
 傷を付け命を奪ったのは、デモリーナが心から愛している人物。
 長い時を経て蘇り、現在に至っているが、自分を殺した相手を恨む気持ちは無い。どういう訳だか、怒りも憎しみも湧いてこなかった。
 それがリュオンの言う、“優しさ”なのだろうか。

「……えいっ」

 ぽんっ、と小気味のよい破裂音。

「ひゃっ!」

 考え事をしていたせいか、音に驚いて柄にもなく素っ頓狂な声を上げてしまった。目の前にあるのは、合わせられたリュオンの手。

「ぼーっとしちゃって、どうしたの?」
「何でもないけど、びっくりさせないでよ!」
「 手を叩いただけなのに、柄にもなく驚いちゃったわけ? 一体何を考えていたんだか」

 暗い表情のデモリーナを救おうとした、リュオンなりの気遣いだろうか。

「……リュオンも、優しいよ」
「何をいきなり」
「今もそうだし。ほら、大分前になるけど、一緒に怪物界に行ったでしょ。城のバルコニーで、民衆の前で一演説打ったときなんか、優しいしカッコいいなって感動しちゃったもん」
「それ以上言わないで! 私の黒歴史だから!」

 本人にとっては余程恥ずかしい思い出らしく、リュオンの顔が真っ赤になった。

「謙遜することないじゃない。デモキン様だって絶賛してたわよ」
「だからやめてってば!」

 重い空気が、やっと軽くなった。笑い声と笑顔が溢れる、女二人だけの飲み会。
 
『休みのうちに人間界に行って、由貴さんに色々な話を聞いてもらおう』

 賑やかさを増す宴会の中で、デモリーナは密かに決心していた。





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<あとがき>
この話のどこに『怪物くん』の要素があるんだ、と自分にツッコミ。
悪魔界での話なのに、またしてもデモキンが出てこない悲劇が発生。
でもやっぱり気にしない←