二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 ( No.25 )
日時: 2012/05/13 00:39
名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: zfcOpvSu)

<episode 5 束の間の休息>





「……デモキン様」
「何だ」
「いくらなんでも、近すぎでございます。この、距離は」

 言われた所で我に返り、距離を確かめる。互いの温もりが確かに感じ合えるほど、二人の体はぴたりと密着していた。
 それが分かると、デモキンは反射的に離れた。触れ合っていた所を中心に、じわじわと全身が熱くなっていく。
 そんな彼が無意識に寄り添っていた相手——デモリーナは、頬を朱色に染めながら、離れていった彼を見つめている。
 ふとデモキンが振り返り、二人の視線がぶつかった。瞳の奥に眠る何かを探り合っているのか、見つめ合ったままずっと動かない。

「……止まっていても仕方あるまい」
「えっ……」

 結局、視線の糸はデモキンの手によって断ち切られた。
 デモリーナは切れた糸を前に、一種の寂しさに駆られていた。ずっと想い合っていた相手に見捨てられたような、遥か昔に味わったモノと似ている孤独感。

「どうした?」
「いえ、何も」
「なら早く来い」
「ちょっと、お待ちください。デモキン様!」

 淡々と言葉を紡ぎ、背を向けて歩き出すデモキンを、デモリーナは懸命に追いかけた。
 ここは悪魔界の王城、貴重な資料が多数保管されている巨大な書庫の中。休暇中のデモリーナが表の図書館で読書を楽しんでいたところ、裏の書庫に向かうデモキンと偶然出会い、「どうせ暇だから」と、彼の探し物を手伝うことになったのだ。

「それで、何を探すのですか?」
「歴史書だ。“封魔”の存在と、被害がいつから続いているのか、自分の目で確かめておきたくてな」

 “封魔(ふうま)”とは、文字通り“封印された魔”のこと。古来より悪魔界に存在し、魔力が強すぎるため、厳重に封印されている。しかし、あまりの大きさ故に“はみ出した”ものもあり、次々と被害を生み出しているのが現状。
 先日まで凄まじい暴れぶりを見せていた封魔の対策に追われ、数ヶ月もの間、関係する部署の上から下までが休日返上で働き続けた。やっと一段落したため、順次休暇を与えているところだ。
 デモキンも束の間の休息を取っており、滅多に着ない私服に身を包んでいた。いつも下ろしている長髪も、ポニーテールにしている。

「最古のものから辿っていって……次はこの年代」
「封魔は存在していても、害を及ぼしたという記録は、今の所見つかりませんね」
「何かしらの方法があったのかもしれん。ほら、お前の分」

 六法全書顔負けの大きさと厚さ、重量を誇る歴史書を纏めて3冊、デモリーナの腕に乗せた。乗せられた方は普段から鍛えているため、びくともしない。
 それぞれ本を抱えて表側の図書館に戻り、テーブルに付くと、二人そろって黙々と歴史書を読み始めた。館内には担当職員のほか、デモキンとデモリーナしかおらず、ページをめくる音が異様に大きく聞こえるほど静まり返っていた。

「この年も、封魔の被害記録はないか」

 早々に1冊の歴史書を読破してしまったデモキンは、向かい側で文字をたどる美しき従者の姿をじっと見つめた。
 長身で色白、細身だが、大の男を一本背負いで叩きのめす力を秘めている(デモキン本人が経験したことだから、確かだ)。もちろん頭脳明晰、身体能力抜群、性格も冷静沈着。悪魔界の幹部として全く申し分のない素晴らしい人物だ。
 いいや、とデモキンは首を振った。彼女の魅力はそれだけではない。
 顔はもちろん“美女”の域に入る。ある人物が『夜色』と評した瞳は悲しくも優しい光を宿し、見つめられるだけで全身の緊張がほぐれた。寄り添わずにはいられない、どこか懐かしい雰囲気もある。ほんのり甘い香りが漂う心地よい暖かさに、ずっと包まれていたいと思えるような……

「(何を考えているんだ俺は!)」

 考えを打ち消すように頬を叩く。静寂を破って乾いた音が響き渡り、ずっと本を見ていたデモリーナが顔を上げた。

「デモキン様、どうかなさいましたか?」
「何でもない」

 デモキンの心中など知るはずもなく、彼女の眼差しは純粋に彼を心配している。

「……何もないと言っているだろうが」
「でも、顔が赤い……」
「何っ!」

 デモリーナは慌てて自分の口を押さえたが、遅かった。

「余計に赤くなるので、お気になさらず……」

 根が照れ屋のデモキンは、彼女の言葉をよそに独りで赤面している。
 デモリーナが慌てふためき、デモキンが気を鎮めようと奮闘する中、彼の脳裏に人間界での友人である松岡 昌宏の姿が浮かんだ。
 デモキンと昌宏は顔がよく似ている上、互いの心情変化が伝わり合う奇妙な絆を共有している。つまり、現在デモキンが顔を赤らめていることや、その原因が全て昌宏側に伝わっていることになる。
 今の時間帯なら、レストランの厨房に立っているはず。大変な思いをしながら、料理を作り続けていることだろう。

「(許せ、昌宏。こればかりは、どうにもならん)」

 心の底から謝罪を繰り返すうちに、だんだんと落ち着きを取り戻していった。未だに頬がほんのりと赤くなっているが、大分ましだ。

「デモキン様、もうよろしいのですか?」
「……話は変わるが、その服、似合ってるな」

 前ふりを入れたとはいえ、ずいぶん強引な路線変更。そうでもしないと決まりが悪いのだろう。
 戸惑いながらも、デモリーナは答えた。

「人間界に行ったとき、リュオンが選んでくれて。私も、気に入っております」
「リュオンか。あいつ、確かな目があるようだな」

 白い花を散らした黒いワンピースに、純白のカーディガン。落ち着いた魅力を持つデモリーナに、ぴったりの組み合わせだ。

「それと比べて、俺は……」

 自分が着ている服を見て、デモキンは思わず溜め息をついた。
 長袖のカッターシャツにロングコート、履いているズボンとブーツを含め、黒一色。せめてものアクセントとして、シャツの胸元は大胆に開いてある。
 相変わらずの黒ずくめファッションに、自分で飽きれてしまった。

「デモキン様らしくて、私は素敵だと思います」
「そうか?」
「何色にも染まらない、確かな自分を持つ強さの現れ。それに、黒がお好きなんでしょう?」
「確かに好きだが、他の色も取り入れようと思っていてな」
「松岡さんなら、的確な助言をくれるかと」
「……一度会って聞いてみるか」

 口調を変えれば、仲睦まじい恋人同士の会話にしか聞こえない。デモリーナも、デモキンも、微笑んでいた。

「……そろそろ、再会するぞ」
「はい」

 再び沈黙が訪れたが、心無しか、二人とも嬉しそう。
 オレンジ色の光に包まれた、束の間の休息の一コマが、ここにある。





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<あとがき>
ただ、デモキンとデモリーナをイチャイチャさせたかっただけ←