二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 ( No.3 )
- 日時: 2012/04/27 22:01
- 名前: 炎崎 獅織 (ID: zfcOpvSu)
<episode 1 これが日常 —悪魔界の場合—>
魔王石を巡る戦いから、早幾年月。
“怪物くん”こと怪物王子との一騎打ちに敗れた悪魔王子・デモキン。現在は「種族の共存」を目標に、外交・内政を整えるため、部下と共に忙しく働く日々を送っている。今日も、最も信頼する部下を引き連れて怪物界に出張中である。
僅かとはいえ政治方針も変わりつつあり、他の業務と相まって、政界の殆どの部署では多忙を極めていた。
……それでも、暇を持て余す悪魔は存在するようで。
「暇だわぁ……」
「本日12回目」
ある日の、悪魔界にて。
戦争時や内乱時など、忙しいときは忙しく、暇なときはとことん暇な部所、諜報部。最高責任者であるリュオンと諜報部に所属する悪魔達は、それぞれ好きな事をして過ごしていた。
「暇ったら暇!」
「……14回」
「あんたも暇人ね。ずっと数えてるの?」
「しょうがないだろ。ちなみに、今の暇人発言で15回」
先ほどから“暇発言”の回数を律儀に数えているのは、ケルヴィル。リュオンの幼馴染兼部下で、暇を持て余す悪魔の一人だ。
「まあ、他の部署から応援要請がくる事も無いしね」
リュオンの言う通り、悪魔族は大きな仕事を任されても、余程の事がない限り、他者に助けを求めない。最初から身の丈に合わない物事は任されないし、皆独力でやりきってしまう実力の持ち主ばかりだからだ。
「でも、他の部署は大忙しですよ。それに一番大変なのは、世界を背負って建つ、あの方。僕等は暇なだけ幸せです」
茶菓子を頬張っていた部下の一人に諭され、ケルヴィルは溜め息とともに大きく頷いた。
「そうだよな。何もない俺たちに比べ、デモキン様は悪魔界を丸ごと背負っていらっしゃる」
「そう思うと、暇だからといってゴロゴロしていたら申し訳ない気分になりますよね」
ケルヴィルと部下の会話を聞いていたリュオンは、おもむろに立ち上がると、よく通る声で話し始めた。
「はいはい、注目!」
「お、何だ何だ」
「部長が言うんですから、何か大きな事かもしれませんよ」
最高責任者たるリュオンに、自然と全員の視線が集まる。
「現在、私たち諜報部は、途轍も無く暇。それに比べ、デモキン様は言うまでもなく、他の部署は猛烈な忙しさに見舞われている」
口を挟むものはおらず、黙って話を聞くのみ。
「これでは周囲に示しがつかない。そう思ったので、今から全員に仕事を与えます!」
周囲からどよめきが起こる。どんな仕事であるか、勝手に想像しているものも、ちらほら。
「今回の仕事は……これ!」
声高に叫ぶリュオンの手には、小さな紙箱が乗っていた。
「何ですか、それ」
「この中には、様々な仕事が書かれた紙が入っているの。要するに、くじ引きね」
ケルヴィルと話していた諜報員の目の前に、箱を差し出した。彼が恐る恐るいった感じで紙を選び、開いてみると……
『書類の整理』
「……書類の整理?」
「そう。この暇を利用して、部屋の大掃除でもやろうと思ったの」
本職である諜報活動などの重要任務を期待していた一部から、不満の声が上がる。
「文句言わない! 部長命令なんだからね!」
上司に逆らう訳にも行かず、諜報員達はくじを引いていく。『書類の整理』以外にも、『消耗品の調達』や『ゴミ捨て係』などもあった。
巡りに巡って、最後にケルヴィルの番となった。
「この期に及んで掃除かよ……」
「ごちゃごちゃ言わないで、さっさと引く!」
ケルヴィルは渋々、最後に残った一枚の紙を引いた。
「さて、何が来るやら……」
彼が手にした紙には『人間界まで茶菓子を買いにいく』とあった。
「わざわざ人間界まで買い出し?!」
「一番楽な仕事じゃない。接待費で落とすから、ほら、早く行って!」
「茶菓子を経費で……仕方ないな。行ってきます」
眩しい光と共に、ケルヴィルの姿は跡形も無く消えた。
にわかに騒がしく、そして忙しくなった諜報部の部屋を見渡しながら、リュオンはある人物の事を思った。
「(デモキン様もそうだけど、ずっと付き従ってるデモリーナの方が心配なのよね……)」
悪魔らしさなど微塵も感じられない、笑顔と優しさの持ち主である彼女を心配しつつも、リュオンも自らの仕事をこなすべく、騒がしさと忙しさの中に身を投じた。
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<あとがき>
デモキン&デモリーナの出番が、まさかの名前だけという悲劇。
次回は人間界編です。乞うご期待。