二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 ( No.32 )
- 日時: 2012/05/25 20:52
- 名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: zfcOpvSu)
<episode 7 封魔、人間界に現る(前編)>
突き抜けるような青さを誇る空と海。太陽の眩い光を反射する白い砂浜と入道雲。
真夏の代名詞たるそれらを視界に入れながら、達也は宙を泳いでいた。
「(俺、海へ泳ぎにきたんだけどなぁ。空中じゃなくて)」
のんきに考えていられるのも束の間、次の瞬間には重力の法則に従って砂浜に墜落した。とっさに受け身を取ったものの、ダメージは大きい。
「達也さん!」
連れである雅紀が駆け寄ってきて、倒れている達也の腕を掴み、人間離れした速さで走り出した。それ以前に、雅紀は元から人間ではないのだが。
「逃げてどうすんだよ!」
「逃げてるんじゃなくて、体制を整える為に場所を変えるんです!」
「雅紀、それ逃げてるから」
そうこうしている内にも、全力疾走する二人のすぐ後ろで爆発が数回起こり、その度に砂が柱のごとく舞い上がる。
走っているのは達也と雅紀だけではない。海水浴に訪れていた人々が、身に降り掛かる脅威から逃れようと右往左往している。
ひと際大きな爆発が起こり、雅紀たちを含めた多くの人達が、爆風に煽られて転倒した。
「なぁ、雅紀。あの真っ黒いの、明らかにお前んとこの生き物だよな」
「正確に言うと、生き物じゃないんですけどね。封魔は」
「フウマっていうのか、あれ」
「封印された魔で、封魔です」
「たいそうな名前だこと」
立ち上がり、二人は後ろを振り向いた。
達也が言う“真っ黒いの”は、自らの力を誇示するかのように、逃げ惑う人々に向かって衝撃波を放っている。足らしきものが4本ある事はかろうじて分かるが、目鼻等の有無や位置は不明。たとえ危害を加えてくる事はなくても、黙ってその場に存在するだけで、恐怖をあおるのには十分だ。
「なんで、人間界に封魔が……?」
「やっぱり、ありえないことなのか」
「当たり前ですよ! 別の世界に出現しないよう、何重にも対策を巡らせてあるんだから!」
「じゃあ、その隙間を縫って人間界にやってきたと」
雅紀は首を振った。封魔がほかの世界に現れないよう、幾重にも包囲網を設置してある。悪魔界から別の世界へ移動する時も、その都度出入り口は堅く封じていた。最高の魔力の使い手でもあるデモキン自らが施した封魔対策に、穴があったというのだろうか……
「そんなこと、あっていいはずが……」
「危ない!」
ぼんやりと立ったままの雅紀の腕を掴み、今度は達也が走る。それも空しく、封魔が放つ衝撃波に巻き込まれ、二人は無人となった海の家に突っ込んだ。
「いてててて……達也さん、大丈夫?」
「何とか、生きてるよ」
起き上がった達也の目に紅蓮の炎が躍っているのを、雅紀は確かに見た。
「……もう我慢ならねぇ」
達也は拳に炎を纏わせ、今にも封魔に殴り掛かろうとしている。騒ぎと被害を広げない為にも、雅紀は懸命に彼を引き止めた。
「だめですよ、早く火を消して!」
「これ以上海を荒らされてたまるか!」
「かかっていったところで、倒されるのがオチです。僕が連絡を入れている時だって、吹っ飛ばされていたじゃないですか!」
「いや、あれは……」
『封魔の前で動けなくなっていた子供を助けた為であり、攻撃したらどうなるか分からない』
そう続けようとしたが、達也はすんでの所で言葉を飲み込み、拳の炎を消した。
「どうしたって、あいつには敵わないのか」
「どんな状況であれ、ただの殴り合いではないんです」
それに、と雅紀が呟いた。
「ここは人間界。封魔はおろか、ほかに二つの世界が存在することも、達也さんたちのような能力者がいることも、認識されていないんですよ。今、達也さんが炎を使って大立ち回りでもしたら……」
「……大混乱になること間違い無し、だな」
騒動を拡大するようなことはしたくない。しかし、この場で暴れている封魔を放置しておくわけにもいかない。
「雅紀、どうする?」
「ちょっと待ってください」
がれきの影から封魔の様子をうかがい、目を閉じて何やら考え事をしている雅紀。
「……こうするしかないよな」
「……?」
「達也さん、手を貸してください。あの封魔を、悪魔界に強制送還します」
——————————————————————————————
<あとがき>
アクションとは名ばかりの、今回のお話。
わりとコンパクトに収まったことに自分でもびっくり。
後半へ続く。(ちびまる子ちゃんのナレーション風)