二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 ( No.35 )
- 日時: 2012/06/24 00:34
- 名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: GpMpDyKr)
<episode 8 封魔、人間界に現る(後編)>
浜辺に打ち付ける波の音、時折吹く風の音、立ち尽くす達也と雅紀の声。聞こえるものといえば、このくらいで、逃げ惑う人々の喧噪は聞こえない。
それもそのはず。この場に存在する生物と言えば、雅紀、達也、(厳密に言うと違うが)封魔の三者のみなのだから。
「すげぇな、この結界。一般の人が見たら、どうなってんの?」
「僕ら二人と封魔が、その場から忽然と姿を消したように見えるはずです」
「それ、余計に大騒ぎになるんじゃ……」
「そればかりは不可避なんですよ。報告書を書いたり、後処理に走ったりするの、面倒なんだけどなぁ」
あれこれとぼやいている雅紀だが、それを覚悟した上で結界を発動させたのだから仕方ない。再度悪魔界に連絡を入れたときに上司たち——デモキンとリュオンだ——からきっちりと許可を得たし、達也に『封魔強制送還作戦(命名:山口 達也)』への協力を依頼した所、あっさりと頷いてくれた。
ここまで来たら、もうやるしかない。雅紀は腹をくくり、今まで達也と潜んでいた瓦礫の山の影からはい出した。
「達也さん、最初の段取り通りに頼みますよ」
「はいよ」
達也は手を伸ばして軽い準備をしたあと、前を見据えて低く構えた。視線の先には、攻撃の手を休めて沈黙を保つ封魔がいる。
「3、2、1、スタート!」
雅紀は合図と同時に指を鳴らし、それを号砲に見立てた達也は灼熱の砂を蹴り上げて駆け出し、封魔の方も突如攻勢に転じた。
段取りと言えど、そう大したものではない。雅紀が空間転移の呪文を唱えている間、彼に危害が及ばないよう、達也が封魔の気をそらせておく。早い話、達也の役目は“おとり”であった。
「ま、おとりでも何でもいいんだけどさ!」
達也は衝撃波を火の玉で相殺し、封魔の注意を引きつけるように炎を繰り出した。
一般人を完全排除した別空間を作り上げる特別な結界が張られていて、人目を気にすることなく、のびのびと能力を発揮できる。そんな安心感と開放感も手伝って、達也の炎は大きく膨れ上がった。
「おっと、危ない」
『封魔をさらに凶暴化させない為にも、強烈な刺激を与えないでください』
僅か1分の打ち合わせの中で雅紀に釘を刺されたことを思い出し、一度炎を引っ込めた時、足首に何かが絡み付くような違和感があった。確認しようと下を向いた、次の瞬間。
「わっ……!」
足首を掴まれたまま振り回され、建物に、見張り台に、地面に激突する。やっと拘束が解けたかと思うと、宙を舞って砂浜に墜落。立ち上がる暇もなく、今度は砂を突き破って現れた複数の黒い触手に体を縛り付けられ、身動きが取れなくなってしまった。
「何だっていうんだよ……」
何とか頭だけを持ち上げた時、更にもう一本の触手が猛スピードで伸びてきた。その先端は鋭く尖り、達也の心臓を一直線に狙っている。
山口 達也、絶体絶命のピンチ。
「もはやこれまでか」と諦めかけた、その直後。
“ザンッ”
目の前に人影が現れたかと思うと、刃物が標的を切り裂く音と、少し遅れて断末魔の叫びが聞こえた。今まで体に絡み付いていた触手が全て離れ、体も軽くなった。
「いやぁ、死ぬかと思った」
「達也さん、炎の壁を!」
影が振り返り、達也に向かって怒鳴る。
銀色の長剣を片手に、漆黒の鎧を纏う異形の戦士——悪魔としての本性を解放した雅紀、いや、ケルヴィルであった。
「達也さん、早くして! 封魔を悪魔界に送り返さないと!」
ケルヴィルは鮮やかに剣を振るい、迫り来る触手を次々切り伏せていく。その度に凄まじい悲鳴が聞こえるからたまったものではない。
案の定というべきか、触手を操って達也とケルヴィルを襲っているのは、封魔であった。
「よっしゃ、任せとけ!」
威勢良く返事をし、達也は立ち上がった。散々体をぶつけた時の鈍い痛みが残っているが、特に問題はなさそうだ。
一方封魔は、全身から触手を伸ばし、切られても切られても懲りずに攻撃を仕掛けてくる。ケルヴィルに集中している、今がチャンス。
「……はっ!」
封魔に向かって手をかざし、気合いもろとも炎を繰り出した。封魔の正面、後方、右側、左側、上方と、箱をかぶせるように、炎の壁が現れた。触手攻撃も止み、炎の中で封魔がもがいているのが伝わってくる。
「雅紀、できたぞ」
「よし、大人しく戻ってもらおうか!」
剣を片手で握りしめ、ケルヴィルは人類にとって未知の言語を呟き始めた。達也が時間稼ぎをしているときに唱えていた呪文の、仕上げの言葉だった。
『帰れ。此処は汝の居場所にあらず』
最後のフレーズを訳したら、こんなところだろうか
ケルヴィルが剣を砂浜に突き刺すと同時に、炎の壁が消えた。
封魔も、消えていた。
「……終わったの?」
「強制送還、完了です。僕らも帰りましょう」
「せっかくの休みなのに、散々になったな」
「今回は残念でしたが、またご一緒しましょう。いつになるかは、分からないけど」
ケルヴィルが指を鳴らし、自らが作り上げた結界を解除。
「わあっ!」
「のあっ?!」
未だに続いているパニックの流れに揉まれながら、二人はなんとか駐車場までたどり着き、長い時間をかけて帰路をたどった。
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<あとがき>
アクションとは名ばかりのお話、Part2。
次回の舞台は悪魔界の予定。
……次の投稿で、この話のオマケを掲載。