二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 ( No.37 )
日時: 2012/06/24 16:55
名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: GpMpDyKr)

<episode 9 王子の独り言>





あれは何年前のことだったろうか。
 
10年、いや、100か200……とにかく数えるのが面倒なくらい昔のことだ。


あの事件を実際に見聞きして今もなお生き残っているのは、もう俺しかいない。
 
悪魔界の歴史の一部として知るものはいても、真実を知るのは、やはり俺だけだ。
 
 
俺は悪魔界史上、最大にして最初で最後のクーデター——Dr.マリスの一件は勘定に入れていない——の一部始終を目の当たりにし、自らの手で終止符を打った。
 
 
この一連の出来事を、自分の口で語り、心情を吐露することは出来ない。

悪魔界のすべてを背負う者としてのプライドと経験が、許してくれなかった。



『誰かに心を許し、頼ってはいけない。いつ何時、裏切られるか分からないから』



諜報部に所属するリュオンとケルヴィル。

昌宏をはじめとした、人間界の“友人”たち。

なぜか今でも縁が続いている怪物王子。
 
多少の差はあれど、この者達には格別の信頼を置いている。

極々稀に、私的なことで相談に乗ってもらうことだってある。

 
しかし、全てを明かすことは出来ない。
 
顔立ちが酷似し、互いの体調・心情の変化が伝わり合うという奇妙な絆を共有する昌宏にさえ、俺の本心は伝わっていない。
 
伝わらないようにしている、と言った方が近いかもな。


心から信頼している人物に裏切られた時の、あの全てから見放されたような喪失感を回避する為に、俺は心を閉鎖した。
 
「開けられるものなら開けてみろ」と、俺のプライドが門番のごとく居座っている。

仮に門番を退けても、扉を固く封印している“何か”があるから、結局は開かずじまいに終わる、という仕組みを作り上げた。
 
一つの世界を丸ごと背負う悪魔王子として、誰かを頼るなど、あってはならないことだ。
 
不便や寂しさを感じたことはない。
 
拠り所がなくてもやっていけることは、今までの経験から分かっている。

逆に存在しない方が、やりやすいとさえ思っていた。
 
 
何がどう転ぼうと、いずれ俺は独りになる。
 
独りになるのなら、ずっとそのままでいてやろう。
 

別に困ることなどないから、ちゃんと生きていけるから、誰も傷つかずに済むから。
 



 








そう固く決心した矢先、俺は、彼女に出逢ってしまった。





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<あとがき>
本当はepisode 5の冒頭に入れるはずだった文章。
字数の関係でカットした部分を引っ張ってきました。
さて、次回は悪魔カップルにも動いて頂きますかね。
……1日のうちに纏めて3つも更新なんて、初めてだわ。