二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』  祝・参照600突破! ( No.44 )
日時: 2012/07/26 15:03
名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: Jc47MYOM)

<episode 11 夜と闇>





 “星が綺麗だから、月見酒ならぬ星見酒でも”と誘ったのは、昌宏の方だった。
 翌日の料理の仕込みで、夜遅くまでレストランの厨房に立っていた茂と昌宏。仕込みを終えて、メンバー全員で共同生活を送っている城島家の洋風邸に戻り、二人ともお風呂から上がった後でのこと。

「星見酒?」
「外を歩いている時に空を見たら、すっごく綺麗だったの。たまには男二人でさ、どうよ」

 道路を一本挟んで向かい側にある屋敷へ戻るわずかな道のりの中で、昌宏は星空を見ていたのだろう。

「せやな。由貴にはちょっと悪いけど、寝る前に一杯やろか」
「よし決まり。裏庭に行こう」

 そして今、彼らは裏庭のベンチに腰をおろし、缶ビール片手に星空観察を楽しんでいた。

「ねぇ、リーダー」

 流れ星が見えた、と二人で大騒ぎした後、昌宏はポツリと呟いた。

「なんや」
「……夜と闇って、どう違うの?」
「……これまた急な質問で」

 昌宏がロマンチックな思考の持ち主であるのは前から知っていたが、こんな質問が飛んでくるとは思わなかった。

「今ふと思い出した。前から聞こうと思っていたけど、機会が無くて」
「けど、どうして僕に聞くん?」
「言い出しっぺがアンタだから。兄ぃや長瀬に聞いても、意味ないもん」

 はて、自分もロマン色の強い思考を持っているが、夜と闇について語ったことはあっただろうか。茂は記憶の引き出しを一つ一つ開けて、目的の記憶を探した。

「あ、思い出した。目の話やな」

 案外早く見つかった。とはいえ、茂が正しければ2年前のことである。

「そうそう。よし江さんと正義の目の話だよ」
「よし江さんが夜色で、正義が闇色ってたな。確かに言った、うん」

 “よし江”はデモリーナが、“正義”はデモキンが、それぞれ人間界で使用する名前。この二人に初めて会った時、それぞれの目を見つめて『夜色』、『闇色』と評したのを、茂は思い出した。

「……で、松岡はその夜と闇の違いが分からんかったと」
「今一ピンと来なくてさ」
「よし分かった。教えたる」

 昼間の熱気とは無縁の、涼しい風が中庭を駆け抜けていった。
 氷のように静かで透き通った瞳を夜空に向け、茂は言葉を紡いだ。

「まず質問。夜空には何がある?」
「えっと……夜空そのものに、星、月、飛んでいるヘリコプターとかの光、雲」
「お、スラスラ出てきた。まあ、ヘリとか飛行機の光はちょっと置いといて、僕が言いたいのは空と星と月。雲一つない場合を考えてな。そう……今夜のような」

 この日の夜空は、とても美しかった。一度見上げると、そのまま吸い込まれていくようで、時を忘れて見入った。その内、全身の緊張がほぐれ、星空そのものに優しく包まれている気分にもなってくる。
 この考えに至った時、昌宏の中で何かが引っかかった。夜空の魅力、何処かで見たことがあるような。

「……気付いたみたいやな。一応説明させてもらうけど、夜には月と星が出る。漆黒の中にある小さな光と、漆黒そのもので全てを包み込み、その日一日の疲れを癒してくれる。夜空の美しさ、静かさ、優しさが、よし江さんの目の中に見えたんや」
「じゃあ、正義の闇色はその逆で、ただ黒いだけだと」
「それは違う」

 昌宏の発言をスッパリ切り捨て、茂は溜め息をついた。

「何があるのか、分からんかった」

 ただ、全てをはねのける冷たさが伝わってきたという。

「分かんないから、闇色?」
「僕にはそうとしか表現できへん」

 茂はベンチから立ち上がると、大きく体を伸ばした。

「実はオマケの話があるんやけど、聞きたい?」

 此処まで来てしょうもない話をされてはたまらないが、彼を信じて昌宏は頷く。

「正確には、由貴の話なんやけどな」

 曰く。

『正義さんの目は真っ黒で何も分からないけど……傷を抱えているように思えたわ』

「傷……」
「もしかしたら、それを隠しながらも、誰かに助けて欲しくて、独りで震えているのかも……あ、松岡!」
「どうしたの?」
「空見てみ、流れ星!」

 興奮した声に釣られ、空を見上げた。
 茂の指が示す先には、軌跡を残して夜空を翔る星が1つ。それが消えると、2つ目、3つ目と次々流れ星が姿を見せた。

「獅子座流星群にしては、まだ早いよな」

 昌宏の言葉が終わるか否かの所で、2階のベランダに多くの人の気配が現れた。

「すげぇ、太一くん、流れ星っすよ!」
「分かってる。近所迷惑になるから騒ぐな」
「おー、綺麗だ綺麗」
「なんや、みんなまだ起きとったんか」
「起きてるわよーっ!」

 気配の正体は、由貴、達也、太一、智也の4人。彼らも交え、男二人の星見酒は、賑やかな流れ星観察会に変わった。

「お願い事しないと。えーと、これからもみんなと仲良く暮らせますように!」
「長瀬らしいな。俺は……平穏な海で目一杯サーフィンが出来ますように」
「これからも健康でいられますように」
「茂との夫婦仲がいつまでも続きますように」
「由貴との夫婦仲が末永く続きますように」

 それぞれが願い事をする中、昌宏はふと目についた流れ星に、己の願いを託した。

『デモキンの奴が本当に独りで苦しんでいるのなら、似た者同士の友情に懸けて、彼を助けられますように』

 彼の願いを乗せた光は、地平に向かって夜空を飛び、消えていった。





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<あとがき>
作者の一番好きな組み合わせによる、ロマンチック(?)なお話。
松兄ぃにするか、ぐっさんにするか、ちょっとだけ迷った。
いつの間にやら参照700突破。ありがとうございます!