二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』  祝・参照600突破! ( No.49 )
日時: 2012/08/07 02:22
名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: Jc47MYOM)

<episode 12 疲労>





『悪魔界から人間界へ、常駐の担当官を派遣する』

 この決定が下されたのは、人間界に初めて封魔が出現してから1ヶ月も経たない頃。事件が発生する度に悪魔界から担当者を送り込むようでは効率が悪い上、頻繁に二つの世界を行き来するようでは、出入り口の封印が緩んでしまう。行き来の回数を減らし、且つ事件に対し迅速に対応できるよう、担当官を常駐させることとなった。
 人間界を細かくブロック分けし、ブロックごとの封魔出現率や被害状況を参考にして、何処にどのような人物を配置するかも、最終決定がなされた。
 それでも、悪魔界の長たるデモキンに休息の時は訪れない。
 通常の政務をこなし、封魔討伐に何度も駆り出され、派遣する一部の悪魔を下宿させてもらうため人間界の友人たちと連絡を取り合い、こういう多忙な時に限って多発する幹部の汚職事件の事後処理に奔走。最初の頃は、右腕として信頼するデモリーナがそばにいて補佐してくれていたが、彼女は激務の連続が祟り、2日前、遂にダウンしてしまった。

「あいつがいないと、こんなにも不便だったとはな」

 何度目かも分からない封魔討伐から戻ったデモキンは、自室で武装を解きながら独り呟いた。
 常にデモキンのそばに控えているはずの優秀な部下は、今はいない。代役を立てようにも、デモリーナの代わりを務め得る者は、一人もいなかった。リュオンかケルヴィルに頼もうとしたが、この二人も酷い頭痛で仕事どころではなく、既に3日は寝込んでいるとか。
 不便だ不便だとぼやきながら、増えた仕事もキッチリこなす。そこがデモキンのすごい所でもあったりする。

「稟議書は全て目を通した、昌宏の所に連絡を入れた、バカ王子からの手紙の返事も書いた……」

 今日一日でこなした仕事を指折り数えると、あっという間に指が足らなくなった。

「……で、リュオン、ケルヴィル、デモリーナの見舞いも済んだ。これで全部だな」

 本来やるべきことを全て終えたことを確かめ、満足げに頷く。また封魔討伐で呼び出されない限り、のんびりすることが出来る。
 しかし、と彼は溜め息をついた。

「我が悪魔界軍の戦士たちは、封魔と戦うにあたり、いちいち俺を呼ばなければならないほど脆弱であっただろうか」

 封魔の被害は、日増しに多くなる。その分、討伐・封印のため兵士が出動する回数が増え、相手が強力であれば、デモキンを含めた上層部の悪魔が武器を振るうこともあった。
 デモリーナ、ケルヴィル、リュオンの三人が健在の頃は、デモキンも政務のみに没頭することができた。しかし、三世界屈指の剣士や魔導士として軍を率いる立場にあるとはいえ、彼らには本業が別にある。多忙を極める本業に従事する傍ら、戦闘にも駆り出され、最終的には三人とも過労で倒れてしまった。最大の戦力とも言える彼らを失い、軍の力は一気に落ち込んだ。
 元が弱いのではなく、疲れて弱っているのである。

「健康と体力が売りのケルヴィルが倒れたとなれば……下級の戦士は、どうなっている?」

 指揮官が疲弊しきってダウンしたのだ。その下で戦う兵士たちの疲労は、計り知れない。

「戦士たちの保養も考え直さねばならん。明日の会議で出すとしよう」

 鎧を丁寧に片付けて部屋着に着替えたデモキンは、今しがた思いついたことを書き留めておこうと、机のある方を振り返った。

「さて、寝る前に最後の仕事を……?」

 一体何が起こったのか、その瞬間は判断できなかった。
 突然、全身が熱く、重くなった。足の力が抜け、床に膝をつき、手をつく。
 
「なんだ、これは……!」

 めまい、耳鳴り、頭痛。未だかつて味わったことのない苦痛が、デモキンの身にのしかかる。
 熱い。
 重い。
 苦しい。
 痛い。

「ここで、俺が倒れるわけには……」

 デモキンの意識をかろうじて現実世界につなぎ止めているもの、それは、彼の意地であり、プライドであり、遥か昔に下した決断だった。

「……俺は、絶対に倒れない!!」

 そう叫んだ瞬間、のしかかる苦痛が、嘘のように消えた。
 立ち上がったデモキンは服の埃を払い落とし、何事も無かったかのように机に向かい、書き物を始めた。
 さっきの異変は、ただの夢か幻だったのだろうか。夢や幻で片付けば良かったが、確かに現実のことであった。その証拠に、耳鳴りの中で捉えた声が、今でもデモキンの脳裏にこびり付いて離れない。


『あなたのこと、ずっと、信じていたのに!』






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<あとがき>
受験シーズン真っ盛りでも、懲りずに更新←
ここから本格的に話が動いていく、はず。
今回の話はデモキン様おひとりで。