二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』  祝・参照600突破! ( No.50 )
日時: 2012/08/11 16:17
名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: Jc47MYOM)

<episode 13 そっくりさん、見参!>





 太陽の光を反射し、全ての色が鮮やかに映える真夏の日本。蝉の鳴き声と気温も頂点を迎え、あまりの暑さに外出を避け、クーラーの効いた屋内に引きこもる人が、どんどん増えている。
 昼間だというのに、人影のない駅前の大通りを、一人の若者が歩いている。片手に地図を持ち、もう片方の手で大きな旅行用トランクを引っ張る彼は、ファッション雑誌からそのまま抜け出してきたかのような爽やかな出で立ち。甘いマスクを隠すサングラスを外すと、鋭い切れ長の目が現れた。

「えっと、電車を降りて、駅の南口から出て……しばらく直進っと」

 地図で道順を確かめると、再びサングラスを装着。正体を隠し、まるで何かから逃げるかのように、早足でこの場を去っていった。



 城島邸に一風変わった客人が現れたのは、同じ日の昼下がりの頃。その日は定休日だったため、屋敷内にはメンバー全員が揃っていた。
 玄関のインターホンが鳴り、たまたま近くにいた由貴が応対する。ドアを開けて瞬間、外にいた人物は止める間もなく屋敷の中に入り、後ろ手でドアを閉めた。

「突然の無礼な行為をお許しください。こうでもしなければ、騒ぎになりかねないので」

 由貴に静かにするよう合図し、謎の客人は非礼を詫びた。
 一方の手で地図を、もう一方の手で大きなトランクの取っ手を握る、長身でスマートな男性。雑誌からそのまま抜け出していたような、爽やかな服装をしている。サングラスを外すと、切れ長の目が現れ、顔の全容が明らかになった。
 素顔を見た由貴は、思わず目を疑った。自分の目の前にいる男性は、何処からどう見ても、彼女が隠れファンとして応援する、アイドルグループのメンバーとしか思えないのだ。

「なんで、関ジャニ∞の大倉さんが……」
「そのセリフ、あなたで10人目ですよ。申し訳ありませんが、僕は大倉 忠義さんではなく、こういう者です」

 大倉 忠義氏のそっくりさんは、Tシャツの襟元から小さな金属の玉を連ねた鎖を引っ張りだしてみせた。それに繋がるのは、銀の十字をあしらった水色のメダル。由貴にも見覚えのある、悪魔界のシンボルだった。

「封魔対策係としてこの周辺の地域を担当する者で、フェイスと申します」

 ここでやっと合点がいった。

「あ、今日から下宿するのって、あなただったの?」
「ええ、そうですよ」
「ごめんなさい、すっかり忘れてたわ。取りあえず、上がって」
「では、お邪魔します」

 『人間界に悪魔族を派遣するので、1人を下宿させて欲しい』と、正義ことデモキンから直々に連絡があったのは、今から2週間前。依頼を快諾し、受け入れ態勢をバッチリ整えてはいたが、まさか今をときめくアイドルのそっくりさんがやってくるとは、全く考えもしなかった。
 由貴がフェイスをリビングに招き入れた途端、その場にいた茂、達也、太一、昌宏、智也の五人は、由貴と全く同じ反応を示した。これでフェイスを大倉氏本人と間違えた人間は、計15人となった。

「ほんまにそっくりやな。道中大変やったんちゃう? 迎えに行ってもよかったんやで」
「いえ……土地勘を養う為にも、歩く方がよかったんです。ただ、道行く人々に注目され続けた上に何度も声をかけられるとは、思っていなくて」

 互いに自己紹介を済ませた後、太一がおもむろに質問した。

「フェイスって、人間界での名前はあるの?」
「ありますけど……?」
「もしかして、忠義?」
「いえ、違います。源氏物語の“源”に、聖徳太子の“太”で、源太(ゲンタ)。実家がからくり屋なもんで、丁度いいだろうって」
「からくり屋の源太って、必殺仕事人じゃねぇか!」

 時代劇マニアの顔を持つ昌宏のツッコミにうろたえることも無く、源太の言葉は続く。

「他にもいますよ。近所の担当官で言えば……少年隊の東山 紀之さんに似ているから“小五郎”、KAT-TUNの田中 聖さんに似ているから“匳”、福山 雅治さんに似ているから“龍馬”」

 人間界の有名人似の悪魔が、この周辺だけで4人。しかも全員、時代劇で御本人たちが演じた役の名を名乗っている。

「一体誰なんだよ、名付け親は」

 昌宏の質問に、源太は誇らしげに胸を張って答えた。

「デモキン様です」



 その日の夜、昌宏はデモキンに連絡を入れ、名前の一件を問いただした。彼が使うのは、デモキンも愛用するスマートフォンの悪魔界バージョンだ。

「なんで芸能人のそっくりさんばかり送り込んだんだよ」
『適任の者を選んで会ってみたら、偶然そうなっただけだ。それにな、一から名前を考えられるほど悠長な事案でもないんだ』
「だからドラマの役名から取って名付けたと」
『そういうこと。納得したか?』
「後一つ。AKB48似の女性担当官もいるんだって?」
『え、あ、まぁ、いるにはいるが』
「名前はどうした?」
『余裕がなくなってきたから、字だけをかえて、御本人と同じ名前を……』
「……推しメン、誰だっけ」
『……前田 敦子ちゃんだが、それがどうした』
「……やーい、ミーハー」
『うるさいっ!』





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<あとがき>
「Faith(フェイス)」=「忠義」
×「ただよし」 ○「ちゅうぎ」。
……念のため。