二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 祝・参照600突破! ( No.54 )
- 日時: 2012/08/29 18:58
- 名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: Jc47MYOM)
<episode 14 謎だらけ>
今まで何とも思わなかった事が、突然気になり始め、疑問に変わる事がある。
「デモキン様の治世、いつから続いているのかしら」
「は?」
悪魔界諜報部の部屋でデモリーナが呟いた言葉が、正にそれだった。
とある案件を調査する為にケルヴィルを含めた諜報員は全て出払っており、室内に残るのは部下と上方の帰りを待つリュオンと、「次に呼び出すまで休憩しておけ」とデモキンに命令されたデモリーナのみ。室内が通常より静かである分、音も大きく聞こえ、デモリーナがぽろっと零した疑問は容易くリュオンの耳に入る事となった。
「リュオンだって疑問に思った事、あるでしょ」
「あるけど、何をいきなり」
「分からない。急に頭の中に浮かんできたの。今まで気にした事は無かったのに」
「それって良くあるわよね、疑問がフッと出てくるやつ」
リュオンも気になり始めたらしく、おもむろに年数を弾き出した。
「わたしのひいおじいちゃんが生まれた時点で、もうデモキン様は悪魔界を率いておられたそうだし…………軽く1000年は超えているわ」
「ちょっと待って、デモキン様って今お幾つ?」
「わたしに聞かないでよ、デモリーナこそ知らないの?」
校庭の意味を込めて頷いた直後、デモリーナはある事に気付き、ただならぬ衝撃を受けた。
公私ともに親しく、互いに心は通じ、想い合っているはずの彼——デモキンのことを、自分はまるで何も知らない。根は優しくて照れ屋な事、AKB48の隠れファンである事。彼について知っている事と言えば、この2つくらいか。
「2つも知っていれば十分よ。それってば最高機密並みの情報じゃない!」
リュオンの言う通りかもしれない。冷酷無情かつ無表情の悪魔王子が、実は心優しい好人物で、陰で人間界のアイドルを応援している事が一般に知れたら、様々な意味で世の中が騒ぎ出すだろう。
にわかに表情を曇らせたデモリーナから事情を聞き出したリュオンは、何とか気を持ち直させようとするが、相手の表情はいっこうに変わらない。彼女は室内照明をオレンジから青に切り替えた事を後悔していた。「オレンジだと、なんだか落ち着かない」と部下が呟くのを聞いて半月前から青くしているが、これではデモリーナの沈鬱な表情が目立つばかりだった。
「無責任に聞こえるかもしれないけど、知らないなら聞いちゃえば? 本人に」
「……教えてくれると思う?」
「教えてくれそうな顔じゃないもんね。……じゃあ、自分で探るとか」
「私生活を勝手に引っ掻き回すなんて……」
「デモリーナって優しいから、そーゆー思い切った事が出来ないのよね。“君王為人不忍”、だっけ。人間界の歴史書に、似たような言葉があった気がする」
「こんな所に司馬遷の史記なんか引っ張ってきてどうすんのよ。それ、鴻門之会のシーンでしょ」
「共通点があったから引用してみた。最も、項羽がデモリーナ並みに優しいかどうかは知らないけど」
ほんの少しの間は歴史書談義で盛り上がり、空気も多少は軽くなった。
その話題も尽きると、リュオンはデモキンに関する疑問を一つ一つ、改めて数え上げてみた。
「デモキン様って、元から謎が多いのよ。まず年齢不詳でしょ、治世が何年続いているかも不明」
「悪魔はみんな黒髪だけど、デモキン様だけは銀色だし」
「それもそうね。あとは……」
悪魔界の頂点に立つ身でありながら、なぜ肩書きは王子のままなのか。王は存在しないのか等々。数え出したのはいいものの、次から次へと浮かんでくるからキリが無い。
「デモリーナも、よくもまあ、こんな謎だらけの男と付き合おうなんて考えたわね」
「いや、付き合ってないから!」
「じゃあ何なの」
「……わたしの方からお慕い申し上げているだけよ」
「似たような物じゃない。根底にある気持ちは一緒なんだから」
リュオンの言葉に反撃する事が出来なくて悔しさを味わったデモリーナだが、デモキンが持つミステリアスな雰囲気に惹かれているのも、片想いを通り越して両想いであることも、また事実であった。
「ま、そんな謎だらけな所に魅力を感じるのも、分からんでもないけどね」
「そういうリュオンは、ケルヴィルと上手くやってる?」
ここでデモリーナは攻撃に出た。リュオンの余裕の表情が崩れるのを見逃すことなく、更に畳み掛ける。
「今年でお付き合い10周年なんだって? 何かプレゼントもらった?」
「ちょっと、それ誰から聞いたの?!」
「諜報部メンバー全員。察してはいたけど、ケルヴィルとおつきあい中だったとはね」
「あいつら……」
悪魔界の諜報員は国家の秘密を守る事で手一杯となり、どうやら上司のプライベート情報まで守る事は出来ないらしい。
「帰ってきたら、全員ぶっ飛ばしてやるー!」
ケルヴィルと恋仲である事を暴露され、リュオンは怒り心頭。
その熱は、デモリーナの上着のポケットから聞こえてくる軽やかな音楽で一気に引いた。
「端末、鳴ってるわよ」
「うん……」
ポケットから例のスマホ風通信端末を取り出すデモリーナ。届いていたのは、デモキンからの呼び出しメールだった。
「デモキン様からの呼び出し。悪いけど、もう行かなきゃ」
「はいはい、いってらっしゃい」
部屋を去って行くデモリーナと入れ替わるかのように、諜報員たちが続々と戻ってきた。先程まで抱えていた部下たちへの怒りをグッと抑え、リュオンは簡単な労いの言葉とともに彼らを迎えた。
ケルヴィルを含めて全員が揃った事を確かめると、リュオンは自分の席にゆっくりと腰を下ろし、咳払いをした。
「……それじゃ、調査報告をして」
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<あとがき>
司馬遷による古代中国の歴史書「史記」。
とても面白いので、皆様もぜひ読んでみては……?