二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 ( No.55 )
- 日時: 2012/08/31 23:51
- 名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: Jc47MYOM)
<episode 15 「裏切り者は」>
「……何かの冗談か?」
「我々が総力を挙げて調査をした結果です。冗談が入る隙など、存在しません」
「……間違いは、ないんだろうな」
「もちろんです。諜報部だけでは至らなかった部分があるので、そこに関しては特捜部に委任することになりますが」
「構わん。近々命が下る事は、お前から特捜部に伝えてくれ」
「はっ……」
ケルヴィルにとって、こんなにも気の重くなる報告は初めてだった。
“封魔の暴走を抑制する為の封印が、古のものならまだしも、新しいものまですぐに解けてしまう。誰かが手を加えているのでは?”
諜報部に、デモキンから直々に調査命令が下り、メンバー総動員で走り回った。封印が施されていた場所をシラミ潰しに調べて、疑わしい所にはリュオンとケルヴィルが足を運び、持ち前の能力——本質と秘められた力を見抜く能力、触れたモノの過去を読み取る能力——を駆使して確認する。地道に作業を続けた結果、やはり誰かの手で封印が妨害されている事が判明した。
「(妨害に使われた魔力をたどったら、そりゃもう出るわ出るわ……)」
特捜部にデモキンからの伝言と関係資料を届け、諜報部へ戻る道すがら、ケルヴィルは調査の過程を思い返していた。
封印妨害に使われた魔力の痕跡から、その使い手を徹底的に洗い出すと、一つの共通点が浮かび上がってきた。
それこそが、諜報部全体の空気を重くし、デモキンをして“冗談か?”と言わしめた原因だった。
「ただ今戻りました」
「お帰りなさい」
自分の仕事場に戻っても、気分は晴れない。
「……ケルヴィル」
耳鳴りがするような沈黙の中で、リュオンの声は拡声器を使ったかのように大きく響いた。
「どうした?」
「デモキン様の反応、どうだった?」
「……明らかに動揺していたな。眉間にシワよってたし、読み終えて少し間を空けてから“何かの冗談か?”とかおっしゃってたし」
「余程衝撃的だったんでしょうね」
「当たり前だろ。まさか……」
「まさか、あの方が……」
ほぼ同じ頃。デモキンに呼ばれて執務室に来たデモリーナは、ケルヴィルによって届けられた調査報告書を読んで愕然としていた。
「俺も同じ気持ちだ。今でも信じ難い」
デモキン自身は壁に背を預けて目を閉じている。淡々と言葉を紡ぐかのように思われたが、その声も心無しか揺らいでいるように聞こえた。
「まだ決まったわけではない。特捜部の報告を以て、最終決定を下す」
「もし……私とデモキン様が望むような結果が出なかったら?」
「その時は……」
デモキンは自分の手を見つめた。この手で、一体いくつの命を奪っただろう。そして今、その数がまた一つ、増えようとしている。
「法に従うのみだ。私情を挟んではならぬ」
遥か昔、デモキン自らが定めた法である。それを破るのは、自身を欺く事に直結する。
デモキンの右手が紫色の光を放ち、数秒で消えた。光に代わってその手が握るのは、彼と共に幾多の戦場を切り開き、駆け抜けてきた銀色の長剣。
「法を適用せずに済めばいいのだが……」
左から右へと薙ぎ払い、空を斬った。
『裏切り者は、死を以て償うがいい』
デモキンが法に従ってある行動を起こすとき、必ず口にする言葉である。
剣を振った時にも、心の中で呟いたこのセリフ。
実際には言わずに済むのか、それとも…………
——————————————————————————————
<あとがき>
おっ、今回はコンパクトに収まった。
シリアス一色にしてみましたが、いかかでしょうか。