二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 祝・参照1000突破! ( No.61 )
- 日時: 2012/09/21 17:58
- 名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: Jc47MYOM)
<episode 16 リンク>
夏の終わりと秋の到来を告げる風が吹き、その涼しさを肌に感じて、昌宏はふと目を覚ました。彼が今いるのは、レストランの厨房ではなく、屋敷の中の自室。丸めたタオルケットを抱き枕代わりにし、しがみつきながらベッドの上に寝転んでいた。
「そうだ、昼休憩中に早退して、そのまま寝ちゃったんだ……今、何時だろう」
激しい頭痛とめまいに襲われ、昌宏と同じく厨房に立って料理をする茂と太一の手によって半ば強制的に早退させられたのが、確か午後2時頃。今は何時なのか、どれだけ眠っていたのか。ベッド脇の小机に置いてある目覚まし時計に、手を伸ばした瞬間。
「おはよーございまーすっ」
朗らかな挨拶の直後、“パチッ”という小さくて軽い音と共に、天井の照明に光が灯った。
「わっ……!」
暗闇にすっかり慣れた目にとって、突如点灯した光は凶器以外の何者でもない。元から光に弱い昌宏にとっては尚更で、再び目が慣れるまで30秒を要した。
「酷いよ太一くん、病人に対する気遣いが全く感じられないんだけど」
部屋の電灯のスイッチに手をかけ、あくまでも鷹揚な感じで立っている若者こそが、挨拶の声の主、太一であった。
「あー、ごめんごめん」
「何、その棒読みボイス」
「そんな怨めしそうな目で見るなよ、怖いから……分かったよ、悪かったって」
「……で、御用は?」
「晩ご飯だから松岡の事も起こしてやれって、山口くんが」
「起こし方が乱暴だっつーの……晩ご飯?!」
自分が何か大きなミスを犯した気がして、昌宏は飛び起きた。
「太一くん、今何時?!」
「えーと……9時をちょっと廻ったくらい」
「朝? 昼? 夜?」
「朝とか昼に晩ご飯を食べるか? 夜に決まってるだろ、寝過ぎでボケたんじゃないの?」
「夜9時……うっわ、6時間以上も寝ていたんだ」
「安心して。松岡が早退した後は残り6人で営業したし、片付けと仕込みはリーダーと由貴さんがやってくれているから」
昌宏はすぐにでもレストランに飛んで行きたかったが、「病人は大人しくしていろ」と釘を刺されたために、引き下がるしかなかった。
「とにかく、長瀬と山口くんが待っているから、早く来いよ」
「うん、メール打ったら行く」
太一が部屋から去った後、昌宏は小机の引き出しからスマートフォン風通信端末を取り出し、短い文章からなるメッセージを作成した。
『いっぺん、メシ食いに来い。』
句読点を含めて13文字。小鳥のさえずりもびっくりの短さである。その中に、彼は送信先に伝えたい事を全て詰め込んだつもりだった。
心と体がリンクしていても、面と向かって話さなければ分からない事がある。異世界の支配者たる一人の友人を呼び出すのには、激務の中で大量に溜まっていると思われる愚痴を聞いて、多少なりとも楽にしてやりたいという昌宏なりの考えがあった。
「……送信完了」
メールがきちんと送信されたことを確認すると、端末をそのままズボンのポケットに突っ込み、昌宏はベッドを離れた。
仲間たちが待つ場所に行くにあたって部屋の電気のスイッチを切ると、室内は夜闇と同じ色に染まった。カーテンが開け放たれたままの窓から差し込む月の光だけが、床を照らしている。
「あいつの心に、月の光を取り入れる窓はあるのかな……」
全てをはねのけ拒絶する冷たい目をした友人の姿を思い出し、昌宏はそう呟かずにはいられなかった。
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<あとがき>
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本日(9月21日)付けで、我らがアイドル・ロックバンド「TOKIO」は結成18周年。
おめでとうございます! これからも素敵な音楽を生み出し続けてください。