二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 祝・参照1000突破! ( No.65 )
- 日時: 2012/10/27 12:05
- 名前: 炎崎 獅織 ◆3ifmt4W30k (ID: Bukazeet)
<episode 18 友の迎え>
悪魔界での裏切り騒動が治まった後、“好青年・正義くん”に姿を変え、人間界を訪れたデモキン。昌宏から『いっぺん、飯喰いに来い。』というメッセージを受け取ってから2ヶ月、ようやく落ち着く事が出来たため、その好意に甘えるべく独り歩みを進めていた。
「……寒っ」
季節は冬の初め。冷えきった風が一台の車と共にすぐ横を通り過ぎて行き、正義は身震いした。両手をコートのポケットに入れ、マフラーを口元まで引き上げても、冷気は容赦なく、痛みさえ伴って襲ってくる。日が完全に沈んでいる事も手伝って、いっそう寒く感じられた。
「日中であれば、多少は暖かいのだろうな」
信号待ちのとき、夜空を見上げて呟いてみた。雲一つない漆黒の中に、小さな光がいくつも浮かんでいる。文字通り吸い込まれていくような、透き通った色に懐かしさを感じ、マフラーの下で僅かに口角を上げた。
「……綺麗だな」
「佳江さんの目とそっくりだもんね」
「言われてみれば、確かに」
「あれ、気が付かなかったの?」
「いや、何処か懐かしい感じはしていた……」
いつの間にか声が一つ増え、正義とごく普通に会話をしていた。
声の主が誰なのかは、もう分かっている。
「それで、いつから俺の隣りに?」
「信号が赤になって、すぐくらい」
「では、なぜ此処にいる」
「店長命令にて、あなたをお迎えする為に参上したのですよ、デモキン様」
悪魔王子の名を知る人物は、正義に向かってうやうやしく、そしてわざとらしく頭を下げてみせた。
「うむ、ご苦労……ひとまず顔を上げてくれ。一般の方々に変な誤解をされたら堪らん」
「かしこまりました」
親しみと敬意をごちゃ混ぜにしたような口調で答えた相手は、直立体勢に戻り、ふと笑みを浮かべた。
「よっ、正義」
「……久しぶりだな、昌宏」
声も背格好も、果てには顔までまるきり同じ。人間界での一番の“友人”、昌宏だった。
互いに簡単な挨拶を済ませると、昌宏は正義の腕を掴み、半ば引きずるようにして自らの来た道を戻り始めた。この先にある100円パーキングに車を止めてあるという。
「わざわざ迎えにこなくても良かったんだぞ。しかも車で……」
「電車代ケチって5駅分も寒空の下を歩く奴なんか、見てられねぇもん」
「……なぜ分かった」
「お前の考えなんか、お見通しなんだよ」
駐車場の清算を済ませた昌宏は、正義を車の助手席に押し込み、自身は運転席に収まった。
シートベルトをしっかり締め、車のエンジンをスタートさせる。低い唸りと心地よい振動が、座席やハンドルを通じて伝わって来た。
「シートベルトは締めたか?」
昌宏の質問に、正義は沈黙を以て答えた。それを「YES」と受け取った昌宏は肩をすくめ、アクセルを踏んだ。
「……昌宏」
窓の外を流れていく夜の町並みを黙って見ていた正義は、信号待ちの時を見計らって運転手の名前を呼んだ。
「何よ」
「念のために言っておくが、徒歩でお前を尋ねようとしたのは、電車代を惜しんだからではない」
「知ってる。可能な限りゆっくり歩いて、俺と会うのを先延ばしにしたかったんだろう」
「…………」
「駅5つ分の愚痴くらい受け止めてやる。俺だけに限らず、少しは誰かを頼れ」
そういった昌宏がカーステレオのスイッチを入れると、信号が青に変わった。
車内に流れる、ピアノの音色。「拠り所を失ってしまい、どうすればいいのか分からなくて苦悩する」ことを描いた、静かで切ない曲。
城島邸に到着するまで、二人が再度口を開く事は、無かったそうだ。
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<あとがき>
「ダブル松岡くん」による、今回のお話。
ラストに登場した車内BGMは……
ドラマ本編で流れていた、デモリーナのテーマ曲のピアノアレンジだと思って頂ければOK。