二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 怪物くん 『白銀色の孤独』 ( No.7 )
日時: 2012/04/27 22:01
名前: 炎崎 獅織 (ID: zfcOpvSu)

<episode 2 これが日常 —人間界の場合—>





 人間界、日本のどこかの昼下がり。
 小さなレストラン“Season”では、お客さんの波が一段落した後で、店員達の遅いランチタイムが始まろうとしていた。今のところ、店内にお客さんの姿はない。

「松岡ぁ、腹減った」
「まだできないの?」
「後少しで出来上がるんだ。それまで黙ってろ!」

 この日の賄い当番として厨房に立つ昌宏は、催促の声を適当になだめつつ、華麗な包丁さばきでトンカツを切り分けていく。

「リーダー、鍋の方は?」
「おう、温度も味もバッチリや」

 同じく賄い当番の茂の言葉に大きく頷く。

「わかった。じゃあ、器にご飯を盛りつけて」

 昌宏が冷蔵庫に向かう中、茂は業務用の巨大炊飯器の蓋をあけた。保温が効いていたため、湯気が勢い良くわき上がる。
 湯気と格闘しながら、それでも手際良くご飯を器に盛っていく。大盛りが2杯、普通が4杯。

「ほい、ご飯が6人分」
「アンタ大丈夫? 顔がビショビショだよ」

 野菜がてんこ盛りになっているサラダボウルを抱えた昌宏に言われ、茂は初めて、自分の顔が濡れていることに気がついた。

「ああ、炊飯器の湯気やな。……水も滴る良い男、なんつって」
「はいはい」

 さらりとスルーされ、茂は頬を膨らませた。

「もうちょっと付き合ってくれてもええやん!」
「それより鍋の中身。冷めちゃうから、早めにね」
「松岡のケチンボ!」
「何とでも言え!」

 本来ならばもう少し言い合いが続くが、料理が冷めるといけないので、今回は此処でストップ。茂がコンロに置かれている寸胴鍋の蓋を開けると、こちらでも湯気が立ち上った。
 お玉で中身を掬い、器に盛られたご飯の上にかけていく。その内大盛りの器には、昌宏が切り分けたトンカツを乗せた。
 本日の昼食はカレーライス(その内二つはカツカレー)である。

「はいはい、お待たせしました……長瀬、一旦席に戻り。料理は逃げへんで」

 出来上がりを見計らい、厨房まで一直線に飛んできた大柄な青年———智也は、茂が持つトレイの上に乗っているカレーライスを一心に見つめていた。好物を目の前に尻尾を振る子犬のようだ。

「じゃあ、俺が持っていきます!」
「ほな、お願い。落とさんようにな」

 大盛りカレーが乗ったトレイを智也に任せ、茂は別の物を手にした。
 本来ならばお客さんが座っている筈のテーブル席の一つには、店を支えるメンバーが既に全員揃っていた。
 茂も配膳を終えると、メンバーの紅一点で自身の妻である由貴の隣に腰を下ろした。

「なあ由貴、聞いて! 松岡のやつ、僕の話に付き合ってくれへん!」
「三十路過ぎで駄々っ子のマネしても、可愛くないわよ」
「由貴まで……」
「冗談。後でちゃんと聞いてあげるから、お昼にしましょう」

 わざとらしく凹んだふりをする夫を宥め、由貴は咳払いをした。

「それでは、いただきます」
「「「「「いただきまーす」」」」」

 言い終わるや否や、大盛りカレーを掻き込み始める人物が一人。

「山口くん、もっとゆっくり食べなよ」
「何言ってんだよ、これが俺にとっての通常スピードなんだから」

 一同の中では一番小柄な太一の言葉を無視し、達也は目を見張るスピードでカレーを平らげていく。
 そんな賑やかなランチタイムが、そろそろ終わりに近付こうかという頃。レストランの扉が開いて、一人の青年が入ってきた。

「あ、食事中でした?」

 上司命令で茶菓子を買いに走る、ケルヴィルが人間に変身した姿だった。

「あ、雅紀くんだ!」
「お久しぶりです、長瀬さん」

 人間の姿では“雅紀”と名乗るケルヴィルは、智也に負けないくらいの人懐っこい笑顔でテーブルに近付いてきた。このレストランのメンバーとは、様々な出来事の末、仲の良い関係が続いている。彼だけでなく、リュオンやデモキン、デモリーナも顔なじみである。

「今日は、どんな用事で人間界に来たの?」
「“人間界まで、茶菓子買ってこい!”と上司に命令されまして……」

 すでに雅紀の手には、お菓子が大量に入っているであろう紙袋が提げられていた。

「……で、もう帰るところなんで、地下室を貸してもらえませんか?」
「なんや、行きと同じ場所はあかんのか」
「土手にある草むらの中に出たんですけど、帰りに寄ってみたら草刈りが始まってたんです」

 茂たちとは普通に会話をし、悪魔であることも明かしているが、世間に雅紀たちの存在は知られていない。道の真ん中で空間移動を使う訳にもいかず、このレストランに立ち寄ったという。以前にも何度か、帰り用として地下室を貸してもらうことがあった。

「それは仕方ないね。しばらく開けてないから埃っぽいけど、いい?」
「ええ、構いません」

 昌宏が席を立ち、雅紀と共に厨房の奥に消えていくのを見送りながら、残された一同は何となく溜め息をついた。

「悪魔も大変だね」

 達也の手の上には、紅蓮の火の玉。

「僕らも似たような人種やで、正体を隠す苦労は良く分かるわ。」

 茂の手は、凍てつくような冷気を纏っていた。





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<あとがき>
デモキンのそっくりさん設定で松岡さんを出した勢いで、TOKIOを全員出してしまいました。
いつのまにやら城島さんが結婚してますが、この話はあくまでフィクションです。
ちなみにケルヴィルは、私の脳内で嵐の相葉さんの姿をしています。