二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第一章 1話 ( No.2 )
- 日時: 2012/04/24 11:29
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
そこは一言で言えば『図書館』だった。
1つの扉に、中央に丸いテーブルと、4脚の椅子。それ以外はひたすら本棚に納められた本。
ギィィィ———。
扉が重々しい音をたててゆっくり開いた。
この部屋の主はその音に敏感に反応した。
「この魔力(香り)は、美国織莉子(みくにおりこ)さんね」
主はそういうと扉の前に立つ、真っ白な少女に顔を向けた。
「お久しぶりね、叶(かなえ)ゆかりさん」
「ほんとうね。アナタが魔法少女になったばかりの頃以来ですものね」
ゆかりは手に持っていた本をテーブルに置いた。すると本は溶けるように消えてしまった。
「ふふ。アナタがここに来たということは、視えたのかしら?ワタシの最後が……」
「まるで他人事ね」
「覚悟はしていたから……。まぁ、そうとなればワタシも動かなくてはいけないわね」
ゆかりはふと立ち上がり、近くの本棚から本を抜き取った。
「この本の結末は、羨ましいくらいのハッピーエンド。美国さん、アナタの視た未来はどう?」
「変わらないわ。あの子たちはワルプルギスの夜に負ける……」
ゆかりはため息をついた。だが口元には笑みが浮かんでおり、落ち込んでいる———という感じではなかった。
「美国さんの視た未来は絶対。でもそれはあくまで『今』の話よね。行動次第で、もしかしたら『明日』視る未来は変わっているかもしれない」
「……ゆかりさんは、こんな世界、護る意味あるのかって考えたりしない?」
「美国さんは思っているのかしら?」
ゆかりの表情は依然として笑顔だった。対照的に織莉子の表情は少々怒りを含んでいた。
「私の『すべて』を知っているあなたの言葉にしては少し軽率じゃない?」
「そうね……ごめんなさい。でも……『生きる目的』を持っているならさっきの質問の答えは出ているんじゃないかしら」
「…………」
ゆかりは織莉子の横を抜け、扉に手をかけた。
「鹿目まどかに会いに行くの?」
「そうねぇ……鹿目さんにもいずれ会わなくてはいけないわね。でも今回のキーは鹿目さんではなく、暁美ほむらさんね。あと———」
ゆかりは織莉子のほうに向き直った。そして胸に手をあてた。
「ワタシがこの世界を護る意味……それはアナタがワタシを刻んでくれているから———かしらね」
ゆかりは織莉子に手を振って扉の奥へと消えていった。
その姿を見送った織莉子は、もう永遠にゆかりと出会うことはない———そう感じた。
- Re: 第一章 2話① ( No.3 )
- 日時: 2012/04/24 13:16
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
そこは一言で言えば『図書館』だった。
1つの扉に、中央に丸いテーブルと、4脚の椅子。それ以外はひたすら本棚に納められた本。
(いつの間に……?これは結界?)
暁美(あけみ)ほむらは表情に出さずにいたが、この状況に内心困惑していた。
(巴マミをなんとか魔女から救って……まどか達を家に送り届けて……それから……)
「暁美ほむらさん……でいいのよね?」
「!!」
突然した声にほむらはすぐさま反応し、拳銃をその声の主に向けた。
(魔法少女?)
椅子に腰掛けているのは、ほむらよりも少し年上の女性だった。
「突然のことで驚いたわよね、ごめんなさい。でも安心して。取って食おうだなんて思ってないから」
「あなた誰?なぜ私のことを知っているの?」
「ワタシは叶(かなえ)ゆかり。アナタのことはある予知能力者から聞いたわ」
予知能力者。
それを聞いてほむらの頭にはすぐさま美国織莉子(みくにおりこ)の顔が浮かんだ。
「アナタとお話がしたくて……無礼かと思ったけれど、ここに呼ばせてもらったの」
「呼んだ?ここはあなたが作った結界なの?」
「そうよ。長年、魔法少女なんてやっていると、こういった技術も身についたりするわ。それより良かったらこちらに来てもらえないかしら?
アナタの魔力(気配)はわかるけれどどこにいるかまではちょっとわからないのよ」
ゆかりのその言葉で、ゆかりの目に包帯が巻かれていることに、ほむらは初めて気がついた。
「あなた……目が見えないの?」
「ええ、ずっと前から……ね」
ほむらは拳銃をおろした。
目が見えないこともそうだが、何よりゆかりに敵意を感じなかった。
「立ち話もなんだし、座って」
ゆかりの誘いを受けるべきか少し悩んだが、ゆかりという存在に興味があった。
「お言葉に甘えさせてもらうわ」
ほむらはゆかりと向かい合うように座った。
「良かったら何か飲む?一通りは何でもあるけど……」
「結構よ。それより話って———」
いつの間にかゆかりの差し伸べた手がほむらお手の上に乗せられていた。
「ふふ、アナタはずいぶんツライ思いをしてきたのね」
ゆかりがそう言うと空いたもう片方の手の中に一冊の本が現れた。
- Re: 第一章 2話② ( No.4 )
- 日時: 2012/04/24 13:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「———!!あなた一体なにを!!」
ほむらはすぐさま手を引っ込め、鋭い視線をゆかりに向けた。
「これが私の魔法よ。触れた人の記憶を読み取り、本にする。つまりこれは暁美さんの記憶のアルバムってわけね。見る?」
「記憶……!!」
ほむらはまず自分の記憶に欠落が無いかを確認した。記憶を操作する魔法ならば、余計な記憶を消し去り、都合の良い記憶に置き換えられたりされる可能性があるからだ。
だが少なくとも自分がわかる範囲で記憶に欠落はない。
———と、なれば記憶を抜き取る理由は弱点を知ること。
(私の能力の性質や何度もこの世界をループしている事実。なによりまどかのことを知られたら……)
それらを知られてしまえば、ほむらの計画が破綻する大きな障害になってしまうかもしれない。
ならばいっそその前に———。
ほむらは左腕の盾から拳銃をゆかりに気づかれないように取り出した。
「アナタ、ワタシをここで殺してしまおう……そう今考えているでしょ?」
「!!」
「図星かしら?アナタの記憶から充分に推測できるわ、アナタの行動をね」
「ならわかるでしょ?誰にも私の邪魔をさせない」
ほむらは拳銃をゆかりに向けた。
「アナタはアナタの望むハッピーエンドを目指して頑張っているのよね。ワタシはね、そんな暁美さんの手助けがしたいのよ」
ゆかりのその言葉でほむらの心は揺れた。
何度も何度もループをしたが、一向として良い展開に進むことなど無かった。
ゆかりとの出会いには困惑もあったが、こういったイレギュラーが未来を変えるきかっけになるかもしれないと考えると正直、期待してしまうのだ。
「何が目的……?」
ゆかりは口元に笑みを浮かべた。
「暁美さんは、自身が存在している証明って何だと思う?」
「え……?」
唐突に変わった話題に、ほむらは思わず気の抜けた声を出してしまった。
「ワタシは『記憶』こそが存在の証明だと思っているわ」
「記憶?」
「そう。例えば、ワタシは今確かにここにいると自分では認識しているわ。でもそれってワタシがそう思っているだけで実際は何の証拠もない。
じゃあどうしたらワタシの存在を証明できるのか……。それは別の誰かがワタシの存在を『記憶』しておいてくれること。
誰かがワタシを知っている。それだけでワタシがこの世界に存在していた証明になる———」
「でも人はいつか忘れてしまうわ。どんなに親しい人でも……」
「そうね。記憶は所詮データにすぎないという人もいるわ。だからワタシはその誰かの中にワタシが刻まれている証明を形で残しておきたい」
ほむらはタイトルに自分の名が刻まれた本を見た。
「だから『本』なのね……」
「そう、これが私の願い。なんてことの無い、自己満足な魔法よね」
「そんなことないわ。記憶は……大切なものよ」
ほむらは今まで渡ってきた世界で出会ったまどかのことを思った。
どれも切り離せない大切な記憶だった。
- Re: 第一章 2話③ ( No.5 )
- 日時: 2012/04/24 13:18
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「そう言ってもらえると嬉しいわ。あなたにも大切な記憶がたくさんあるものね」
ほむらは拳銃をおろした。顔に自然と笑みがこぼれていた。
今まで誰として自分の言葉を信じてくれなかった。
だからこうしてそれを理解してくれる人に出会えたことがほむらに安心感を与えた。
「前置きが長くなってしまったわね。本題に入りましょうか」
ゆかりはほむらの記憶の本を、ほむらに差し出した。
「ワタシの目的はアナタたちにワルプルギスの夜を倒してもらうことよ」
「ワルプルギスの夜を?」
それはほむらの目的の一つだった。
幾多のイレギュラーがあり、完璧な形でワルプルギスの夜を倒せたことはなかったが……。
「アナタはよく知っているだろうけど、この魔女はとても強い。それこそ1人で太刀打ちできる相手じゃない」
「でも1人で戦うしかない。何度も何度も繰り返してきたけれど、アイツを相手にするまでにいつも犠牲が出てしまう……。助けようとしてもまたどこかで問題が生じてしまう」
「そうね。アナタはそうして1人で戦う道を選んだのよね。でもやっぱり1人では勝てない」
「わかってる……!でも誰も信じてくれない。私の見てきたことを……」
ほむらは顔を伏せ、スカートを握り締めた。さまざまな感情がこみ上げてきた。
「絶望しては駄目よ。言葉では確かに伝わらないかもしれない。でもアナタが経験してきたことを視せることが出来れば変わるかもしれないわ」
「視せる……?」
ゆかりはそっとほむらの記憶の本に手を置いて頷いた。
「ここにあるじゃない。アナタの『記憶』が———」
ほむらは本を手に取った。中は写真や文章で自身の記憶が敷き詰められていた。
「ワタシは本にした記憶を別の誰かに刻み込むことも出来るの。おまけでついて来たような力だけど、役立つ時は役立つものね」
「これを皆に……?」
ゆかりは首を振った。
「記憶の本は一度『記憶』に戻してしまったらもう二度と本には出来ないの。だから視せることが出来るのは1人だけ。いるでしょ?アナタが一番伝えたい人が……」
「伝えたい人———まどか……」
「その本の中にはアナタのすべてが詰まっている。それはつまりアナタのすべてをその相手に知られることになるわ。そして時にその記憶がその相手にとって絶望を与えることもある。その子はそれらすべて受け入れてくれるかしら?」
幾多の世界の中でまどかがほむらに与えてくれた優しさは、今のほむらの生きる希望で、そんな優しいまどかを救いたいと思う願いの糧でもあった。
まどかの優しさはまどかの強さなのだとほむらは思った。
「まどかならきっと受け入れてくれるわ……。だって私なんかよりずっと強い子だから……」
ほむらはまどかとの記憶が詰まった自身の本を抱きしめた。
「余計な心配だったわね。アナタに覚悟があるのはわかったわ。あとはその子の覚悟を聞くだけね」
ほむらはゆかりの言葉に頷いた。
「その本の結末にハッピーエンドが描かれるといいわね」
ほむらの腕の中に抱きしめられた本をみて、ゆかりはそうつぶやいた。
- Re: 第一章 3話① ( No.6 )
- 日時: 2012/04/24 17:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
潮の匂い。波の音。
(海……)
叶ゆかりはすぐに自分のいる場所がわかった。
「そっか……捨てられちゃったのね」
ゆかりは今置かれている状況を悟った。
「当然よね。目の見えないワタシなんて何の役にも立たないもの」
ゆかりは生まれてすぐに失明した。
ゆかりが生まれ育った村は貧しく、働き手となりえないゆかりは誰もが疎ましく思う存在だった。
それでも今まで捨てられずに済んだのは優しい父がずっと庇ってくれていたからだ。
その父も先日、はやり病で死んだ。
そして今ゆかりはここにいる。
目の見えない自分が1人で生きていくのは到底無理な話だ。
ここで朽ち果てるのも仕方の無いことなのかもしれない。
(死ぬのは怖くない。でもワタシのこと、誰か覚えていてくれるのかな……)
ふとゆかりはそう思った。
自分を愛してくれた父はもう居ない。
村の人たちはすぐにゆかりのことなど忘れてしまうだろう。
ならば誰が叶ゆかりという存在を『記憶』していてくれるのだろうか?
そう考えると、とても寂しい気持ちになった。
「アンタこんなとこで何してんの?」
「!!」
ボーっと考えていた上に誰も来ないと思ってたいたところに突然声がしたため、ゆかりは言葉にならない悲鳴をあげた。
「ははは!何驚いてんだよ」
声の主はどうやら女の人のようだった。
「ん?アンタ目が見えないのか?」
ゆかりは頷いた。
「ふーん。アンタ捨てられたんだ」
遠慮ひとつなく、女はぶっきらぼうにそう言った。
「まぁ……こんなご時勢だからね。よくある話だよ。でも安心しなよ」
「え?」
「オレがアンタの友達になってやるよ」
「と、ともだち?」
一度も耳にしたことのない言葉だった。
でも何となく悪い言葉じゃない———そう思った。
「知らないのか?。泣いたり、笑ったり、たまに喧嘩したり。一緒に飯食って、風呂とか入って。そういうのが友達さ」
「そ、そうなの?」
「そうさ。楽しいぜ、友達がいるとさ」
「友達は、ワタシのことずっと忘れずにいてくれる?」
「当然だろ。友達ってのは忘れられない思い出つくってこそだぜ」
「思い出……」
とても良い響きの言葉だった。
この女の人は自分が求めていたもの、足りなかったもの、それらを埋めてくれるような気がした。
「アンタ名前は?」
「ワタシはゆかり」
「いい名前じゃん。オレはね……」
女はゆかりの手を取って握り締めた。
「オレの名前は天音———」
- Re: 第一章 3話② ( No.7 )
- 日時: 2012/04/24 17:19
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「リン……」
ゆかりは知らずにうちにそう寝言を呟いていた。
(いつのまにか寝ちゃってたのね。それにしても懐かしい夢だったわね)
ゆかりは喉の渇きを潤そうと思い、立ち上がろうとした。
その時、自分以外の気配がそばにあることに気がついた。
「ノックもなしに入るものじゃないわよ、キュゥべぇ」
「ちゃんとしたさ。でもキミがとても気持ちよさそうに寝ていたからね。起きるのを待っていたんじゃないか」
一見、ぬいぐるみのような可愛らしさを持っているが、その実態はインキュベーターと呼ばれる地球外生命体だ。
魔法少女と呼ばれる存在はこのインキュベーターにより生み出されるのだ。
「しかし相変わらず凄いね、キミは。この結界といい、魔力の感知能力といい、プロの中のプロだね。キミほどの魔法少女が魔女になったら、さぞ質の良いエネルギーを生み出してくれるんだろうね」
「そんな悪い冗談を言いにここに来たのかしら?」
「いやいや、褒めているんだよ。それに今日はキミにお礼を言いに来たんだ、叶ゆかり」
「お礼?アナタに礼を言われるようなことをした覚えはないけど?」
「いいや、キミはとても素晴らしいことをしてくれた。何せ、鹿目まどかという唯一無二の存在を救ってくれたのだから」
キュゥべぇはテーブルの上に飛び乗った。
「もしキミが美国織莉子を説得してくれなければ、彼女は鹿目まどかを殺していただろう」
「まだわからないわよ。暁美さんが失敗すれば、この話は無かったことになるわ」
「確かにそうだね。でもキミは成功すると思っているんだろう?勝算のない賭けをするようには見えないしね」
「ふふ、どうかしらね」
「……暁美ほむらも何を考えているのかわからないけど、キミはもっとわからないよ。何を企んでいるんだい?」
「企んでいるなんて……ただワタシは友達を救いたいだけよ」
「友達……?天音リンのことかい?」
ゆかりは一瞬余計なことを言ってしまったと思った。もちろん表情には出さなかったが……。
「———これ以上、話がないなら帰りなさい」
「やれやれ……」
キュゥべぇはテーブルから飛び降り、ゆかりに背を向け去っていった。
ゆかりはため息をつき、顔を伏せた。
(リンを救うためには鹿目さんを魔法少女にさせてはいけない。そのためには鹿目さんが魔法少女となる原因であるワルプルギスの夜を暁美さん達に倒してもらう必要がある)
ゆかりは美国織莉子から聞いた未来を思い出し、身震いした。
(なんとしても……リンを救ってみせる!!)
ゆかりは決意と共に己のこぶしを握り締めた。
- Re: 第一章 4話① ( No.8 )
- 日時: 2012/04/25 16:54
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
時計は午後4時を回ったところだった。
日が落ちるのが早いとはいえ、公園はまだまだ賑わいを保っていた。
そんな公園のベンチに鹿目まどかは1人で座っていた。
(ほむらちゃん、まだかなぁ)
まどかは周りを見渡してみたが、ほむらの姿はない。
ふとまどかの視界に二人の男女が目に入った。
女の子はまどかと同じ制服を着ており、すぐに見滝原中学校の生徒だとわかった。
女の子はどこか身体が悪いのか、車椅子に乗っていた。
男の子のほうはと言うと、まどかよりも顔つきはやや年上くらいに見えるが、どこかクールな印象がより一層大人っぽさをプラスしていた。
「そろそろ帰ろうか?」
「そうだね、お兄ちゃん」
男女———兄妹はそう言って笑いあった。
男の子が車椅子を動かそうと、車椅子のハンドルを握りしめたその時だった。
(あっ!)
いつの間にか兄妹の前に女性がおり、それに気づかなかった男の子はその女性に車椅子を当ててしまっていた。
「きゃっ!?」
女性は手から杖を落とし、その場に尻餅をついてしまった。
『だ、大丈夫ですか!?』
まどかと、男の子の声が重なった。
男の子は女性を起こし、まどかは杖を拾った。
「すみません。気づかなかったもので……。お怪我はないですか?」
男の子は頭を下げて謝った。
「そんなに気を使わなくて大丈夫。かすり傷ひとつ無いわよ」
女性は笑顔を見せた。
その様子をみて男の子と女の子は安堵の表情を浮かべた。
そして兄妹は再び頭を下げ、まどかにもお礼を言うとその場を去っていった。
「あ、あのこれ……」
まどかは渡しそびれていた杖を女性に手渡した。
(この人、目が見えないんだ……)
目に巻かれた包帯を見て、女性が盲目で、そのための杖だったのだと気づいた。
「優しいのね、鹿目まどかさん」
「へっ?えっと……どこかで会ったことあります?」
急に名前を呼ばれ、動転したまどかは、いつの間にか手を握られていることにすら気づけなかった。
「いいえ。初めましてよ」
「!!?」
まどかはここでやっと異変に気がついた。
先ほどまで賑やかだった公園は風の音すらしない静寂に包まれていた。
人の気配はまったく無く、まだそう遠くに行っていないはずの兄弟の姿も見えなくなっていた。
「ちょっと驚かしてしまったかしら?アナタはもう結界の中なのよ」
公園だったはずの風景はもの凄いスピードで書き換わり、別の風景を作り出した。
- Re: 第一章 4話② ( No.9 )
- 日時: 2012/04/25 16:56
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「と、図書館……?」
「ようこそ、記憶の世界へ」
女性はまどかの手を引いて、中央に置かれたテーブルに促した。
「これって、その……あなたはもしかして———」
「そう、考えているとおり。ワタシは叶ゆかり。魔法少女よ」
ゆかりは椅子に腰掛けた。
まどかは未だに状況が把握できず、ただ立ち尽くしていた。
そんな様子のまどかを見てゆかりは笑みを浮かべた。
「緊張するな……というほうが無理な話ね。とりあえず座って」
まどかは言われたとおりにゆかりの正面に座った。
「はい、どうぞ」
ゆかりはどこからとも無くココアを出し、まどかの前に差し出した。
「好きでしょ?毒なんて入ってないから安心して」
まどかはココアを一口飲んだ。
ほどよい甘みと身体に行き渡る温かみは父親の淹れてくれたものに似ていて、どこか安心できた。
「少しは落ち着いた?」
「はい……あの……」
「ワタシの目的は何なのか———かしら?」
まどかは頷いた。
「そうね……アナタと話がしたかった———じゃ、だめ?」
「話、ですか?」
「そう。とても大事な話」
ゆかりはここでひと息ついた。
まどかはゆかりの存在に緊張しているようだが、実のところゆかりもかなり緊張していた。
(本当に……凄い力。感じ取っているワタシのほうが押しつぶされそう)
キュゥべぇはゆかりをプロ中のプロと言った。
実際そうなるまでにそれなりの苦労があって、その上で手に入れた力だ。
だがまどかの力はそれらの努力を一瞬で蹴散らしてしまうほど強大で計り知れない。
(キュゥべぇが契約したがるのも納得だわ。でも会ってみてわかった。この子は魔法少女にしてはいけない)
「あの……」
「ああ、ごめんなさい。続けましょうか」
ゆかりは動揺を隠すように、笑顔でまどかに向き直った。
「鹿目さんは自分に何の取り柄もないって思ってるでしょ?」
「え?それは……」
いつもまどかが思っているコンプレックスだった。
周りの友達は輝くものを持っているのに、自分にはそれがないのだと。
「私、何をやってもダメで、どんくさいし……。魔法少女になったら変われるかなって思ったけど、マミさんが命を落としかけた時、やっぱり怖いって思って……。マミさんに一緒に戦おうって約束したのに、出来なくて……。私ってズルいよね」
- Re: 第一章 4話③ ( No.10 )
- 日時: 2012/04/25 16:57
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
どうにかして役に立ちたい。
そう思っても力も勇気もないことに嫌気がさしていた。
「そうね、今のアナタは非力かもしれない。なら、アナタはどうしたいの」
「マミさんや、ほむらちゃん、さやかちゃんの力になりたい。皆の力になれる力が欲しい」
「力ね……。それって本当に必要なのかしら?非力なままじゃダメなの?」
「え?」
「確かに魔女を倒せるほどの力があればアナタのお友達を手助けできるかもしれない。でもそれは本当にアナタがやるべきことなのかしら?」
「やるべき、こと?」
「ワタシはね、このとおり目が見えないから、魔女となんて戦えない。だからワタシは仲間を助けるためにどうするべきかを考えた。その結果がこの結界や、魔力の感知能力とかなの」
「でもそれはやっぱりゆかりさんが、魔法少女で、魔法って力があるから———」
「確かにこの力は魔法という力があってこそよね。でもそれ以前にワタシは今ある力で自分が仲間たちに何が出来るかを考えたわ」
「何が出来るか?」
「そうよ。世の中の生きている者たちは魔法なんか無くても強く生きているわ。それは皆それぞれが、自分に何が出来るかを考えて助け合っているからだと思うの」
ゆかりはまどかの手を取って握り締めた。
「鹿目さん。今のアナタでも持っているわ。アナタだから出来ること。そのための力」
「私の力?」
「そう……さっきワタシを助けてくれたように、アナタには優しさという武器がある。アナタは大したこと無いと思っているかも知れないけれど、その優しさに救われている人がいるのよ」
「私に救われている人?」
ゆかりは頷くと、ある方向に視線を向けた。
まどかもそれに習ってその方向を見た。
「ほ、ほむらちゃん!?」
まどかは椅子から立ち上がった。
「ごめんなさい、まどか。あなたを騙すようなことをして……」
「私が救った人って、ほむらちゃん……?」
ほむらと出会ってまだひと月と経っていない。
救われたことは何度もあったが、救ったことなど一度も無かったはずだ。
「私、ほむらちゃんに助けてもらってばかりで……私なんか何の役にも立ってないよ……」
「そんなことなんかないわ!」
「ほ、ほむら……ちゃん?」
まどかはほむらに抱きしめられていた。
ほむらの身体は震えており、瞳からは涙が流れていた。
まどかが知っているほむらとは遠くかけ離れた姿だった。
「今の私があるのは、まどかと出会えたからなんだよ……。今まで出会ってきたあなたが私に勇気をくれたから頑張ってこれた……。だから役立たずだなんて言わないで……」
「でもほむらちゃんは転校してきたばかりで———」
ほむらはまどかの言葉に首を振った。
「まどかにとってはそうかもしれない。でも私は違うの」
「違うって、どういうことなの?」
「私、この何度も同じ時間を繰り返してるの。何度も何度も……」
「そんな……でもどうして……」
ほむらの言葉が信じられないわけではない。だがなぜそんなことをしているのか分からなかった。
- Re: 第一章 4話④ ( No.11 )
- 日時: 2012/04/25 16:58
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「鹿目さん、アナタのためなのよ」
「ゆかりさん……」
「アナタと交わした約束を守るために、暁美さんは何度も何度も辛い思いをしながら同じ時間を繰り返してるの」
「ほむらちゃんが……私のために?でもほむらちゃん、そんなこと一言も……」
「話しても信じてもらえなかった。一番大切な人に信じてもらえないということは、とても辛いことよ」
「!!」
まどかは何となくほむらの涙の理由を悟った。
信じてもらえないならすべて一人で事を起こすしかない。
そうなってしまったら今までの自分、気持ちさえ押し殺さなければならない。
それはとても辛いことに違いない。
だから今、押さえ込めなくなった気持ちが涙と言う形で溢れ出しているのだ。
「ほむらちゃん……」
まどかはほむらを抱き返した。
そしてほむらのために今出来ることは何かないのかと思った。
「ほむらちゃん。私に何か出来ることないかな?辛かったこととか、悲しかったこととか……ほむらちゃんの苦しみを少しでも共有できたらいいなって……」
「まどか……」
ゆかりはまどかのその言葉を聞いて笑みを浮かべた。
「鹿目さん、今の言葉に偽りはない?」
まどかは頷いた。
さっきまでの思い悩んでいた時とは違い、眼差しに決意が込められていた。
「そう……なら———」
ゆかりの手の中に一冊の本が現れた。
その本のタイトルにはほむらの名が刻まれていた。
「これは暁美さんの記憶の本。この中には暁美さんの体験したことのすべてが詰まっているわ。鹿目さん……アナタは暁美さんのすべてを受け入れられる?」
「ほむらちゃんの記憶……」
まどかはゆかりから本を受け取った。
「待って!やっぱり駄目……その本の中にはアナタの大切な人の死や、まどか自身の死だって描かれてる……。そんなの見せられない!」
「大丈夫だよ、ほむらちゃん。だってほむらちゃんは私のためにたくさん頑張ってくれたんでしょ?なら私はそんなほむらちゃんの頑張りを受け止めてあげなきゃ」
まどかはゆかりに本を差し出した。
「ゆかりさん、お願いします」
「わかったわ」
ゆかりは本に手を置いた。
本は淡い光を纏いながらゆっくりと1ページ目を開けた。
それを皮切りにもの凄いスピードで本がめくられて行った。
めくられて行ったページは光となって消え、1分も経たないうちに本自体が光となって消えた。
事が終わっても、まどかは立ち尽くしているだけだった。
「ま、どか……?」
まどかの頬を一筋の涙が伝った。
「まどか!!」
「ほむらちゃん……」
「まどか、やっぱり———!!」
動揺するほむらの手をそっとまどかは握った。
「ごめんね……ってあれ?ありがとう、かな?」
「え?」
「えへへ。いろいろありすぎてなんて言ったらいいのかわからないなぁ」
まどかは涙をふき取り笑顔を見せた。
「でもね全部わかったよ。いくつもの時間でほむらちゃんが私のためにがんばってくれたこと、何もかも……。何度も泣いて傷だらけになりながら、それでも私のために……。ずっと気づけなくてごめんね……」
「まどか……」
「私にはこんなも大切な友達がいてくれたんだって……。ほむらちゃんありがとう———。あなたは私の最高の友達だったんだね」
「ま、ど———うぅ……!!」
もうほむらには止められなかった。
まどかの言葉一つ一つが辛いことすべてを洗い流してくれた。
「泣いていいんだよ……ほむらちゃん」
まどかはほむらを抱きしめ続けた。
ほむらの辛さや悲しさすべてが流れ落ちるまで———。
- Re: 第一章 4話⑤ ( No.12 )
- 日時: 2012/04/25 16:59
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ほんとうにありがとう、ゆかりさん。ゆかりさんのおかげで私、これからどうするべきか分かった気がします」
「そう、それは良かった。それにしてもひどい顔ね、暁美さん」
泣きすぎて腫れあがったほむらの顔を見てゆかりは笑った。
「うぅ……」
ほむらは恥ずかしさのあまり顔を下げてしまった。
「少しでもハッピーエンドに近づく手助けが出来て良かった———本当に良かった……間に合って」
「え……?」
「ワタシの最後の仕事だったのよ。ほら……」
ゆかりは自身のソウルジェムを二人に見せた。
ゆかりのソウルジェムは真っ黒に変色し、中で黒い何かが渦巻いていた。
「そ、そんな!!」
まどかは悲鳴に近い叫びを上げた。
ほむらはもちろんのこと、ほむらの記憶を見たまどかにも理解できた。
今ゆかりの身に迫っていることを———。
「ほむらちゃんっ!グリーフシードの余りとかってないの!?」
「ごめんなさい……この前、巴マミの傷を癒すのに使ってしまってストックがないの……」
「そんな……このままじゃ、ゆかりさん……魔女になっちゃうよ!!」
ゆかりは自身のソウルジェムをテーブルに置いた。
「本当に優しいのね、鹿目さんは。でもいいのよ、このままで」
「良くないよ!!だって魔女に……」
「本当にいいの。だってワタシは、ワタシの思いをアナタ達に託せたのだもの」
ゆかりは椅子に腰掛け、今にもグリーフシードに変化してしまいそうなソウルジェムを見た。
(ワタシの最後が来る前に、リンのことを託せた。それだけでワタシは充分よ)
ゆかりは目に巻かれた包帯を取った。
かすかだが、光を感じ取れた。
本当に薄っすらとだが、二人の姿も見えた。
(魔法のおかげね。本当に奇跡ってあるのね)
ゆかりはソウルジェムを両手に包み込んだ。
「さっき最後の仕事は終わったって言ったけど、これが本当の最後の仕事だったわ」
「あなた……まさか!!」
ゆかりは二人に笑顔を向けた。
(本当の友達は『記憶』なんて必要としていないのかもしれないわね。二人のように数多の時間をかけて繋がる絆……そういうのがあれば、アナタとも離れ離れにならずに済んだかしら?)
ゆかりは魔力をソウルジェムに流し込んだ。
ピシッピシッと音が響く。
その音を聞いてまどかもゆかりがしようとしていることに気がついた。
「ゆか———さ———!!」
まどかの声が聞こえる。だがそれは断片的にしか聞こえなかった。
(もうワタシの魂は消えかけているのね)
ゆかりは自分の中に刻まれた記憶を思い返した。
天音リンという存在に出会ってから、ゆかりという存在に光がさした。
リンのためにと魔法少女になり、そして100年あまり。
どの記憶の中にもリンいた。
(魂が消えてしまったら、この記憶はどうなるのかしら……。それだけが気がかりね……)
もう目覚めることはない。
そう思った時だった。
「ゆかりさん!!」
ゆかりはまどかの叫びで再び現実に引き戻された。
そしていつの間にか自分がまどかの腕の中で抱きしめられていることに気がついた。
「アナタは出会ったばかりのワタシのためにも涙を流してくれるのね……。こんな友達のいる暁美さんが羨ましい」
横たわるゆかりは力なくそう言った。
(ワタシはアナタの最高の友達にはなれなかったわね。本当に羨ましいわ)
ゆかりの頬を涙が伝った。
「ワルプルギスの夜を倒せたのなら……お願い、あの子を救ってあげて———」
ゆかりのソウルジェムが砕け散った。
今の願いが声になったのかどうか———ソウルジェムの砕け散る音も、泣きじゃくるまどかの声も聞こえなくなったゆかりにそれを知るすべはなかった。
- Re: 第一章 4話⑥ ( No.13 )
- 日時: 2012/04/25 17:00
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
『なぁ、知ってるか?ゆかり』
『いきなり何よ、リン』
『アイアイガサだよ。傘の絵の下にオレとゆかりの名前を書くと一生友達って意味なんだってよ』
『ふふ。それ間違ってるわよ。普通は友達とするんじゃなくて恋人同士でするものよ』
『そ、そうなのか?まぁでも関係ねーよ』
『え?』
『だってオレはゆかりのこと好きだしさ』
『そうね、ワタシもリンのこと好きよ』
『ならいいじゃん。アイアイガサ』
『恋人同士みたいに、ずっと一緒に居られたらいいわね』
『当たり前だろ?死ぬまで一緒だよ』
砕け散ったソウルジェムの、かすかに残った輝きの中にその記憶はあった。
幸せだった頃の記憶。
(ワタシの記憶……。リン……出来ることならずっと一緒に居たかった)
手を差し伸べてももう届くことのないそれはゆかりが本当に求めていたものだった。
(リン……。ごめんね、ワタシ……先に逝くわね)
叶ゆかりの魂はこの世から消え去った。
これはある魔法少女の物語。最後の物語。
- Re: 第一章 最終話 ( No.14 )
- 日時: 2012/04/25 17:01
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「どうかしたんすか、リンちゃん?」
「どうかしたって何がだよ、ゴンべぇ」
「リンちゃん、泣いてるじゃないっすか」
「え?あれ?マジだ……なんでだろう」
「人間が泣くのは悲しい時なんでしょ?なんか悲しいことでもあったんすか?」
「悲しいことか……。なんとなくだけどさ、大事なものを失ったって思ったんだよ」
「大事なもの?」
「ああ。オレはこの世界が大嫌いだけどよ……でも大好きなもんもあったんだよ」
「トモダチってやつっすか?」
「ああ……。オレがこんなになる前。すっげー楽しかった頃。その時一緒だったヤツさ」
「今は居ないんすか?」
「離れ離れになっちまった。埋められない溝が出来ちまってさ。後悔なんてないはずなのに、たまにソイツのこと思い出すと本当にこれで良かったのかって思うんだよ」
「よっぽど大好きだったんすね〜。リンちゃんは」
「大好きだったよ。いや……今でも大好きだ。会いたいだなんて、今のオレには思ってもいけない事なのかもしれないけど、それでも会いたいなぁ」
リンは一冊の本を出現させた。
内容が難しくて一度も最後まで読んだことが無い本だった。
リンは本の最後のページをめくった。
そこには本の内容には不釣合いな落書きが描かれていた。
「それアイアイガサっすか?でももう1人の名前消えかかってるじゃないっすか」
「だいぶ古いからな……。今、何してんのかなぁ……ゆかりは———」
リンはずっと昔にわかれた友のことを思った。
たくさんのゆかりとの思い出がリンの中にはあった。
もしもこの場にゆかりが居たのなら、こういっただろう。
『ワタシが消えてしまっても、アナタの中に『ワタシ』は刻まれていたのね。』と———。