二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第五章 1話 ( No.103 )
- 日時: 2012/05/25 13:42
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「うーん、実に今日も良い契約日和だ」
塀の上を一匹の白い生き物が歩いていた。
それは猫でも犬でもない、専門家がみたら新種の生き物だと騒ぎ立てるに違いない生き物だった。
知るものはこの生物をキュゥべぇ、もしくはインキュベーターと呼ぶ。
「シャアアア!」
「ん?」
キュゥべぇの目の前に野良猫が一匹。キュゥべぇを威嚇(いかく)していた。
「やれやれ」
キュゥべぇは華麗なジャンプで反対側の塀に飛び移った。
いくら猫とはいえ、塀から塀に飛び移るのは無理らしく、反対側からキュゥべぇを威嚇するだけしてどこかに去っていってしまった。
「この星の生命体は獰猛(どうもう)なのが多いなぁ。感情なんて余計なものがあるからかな」
キュゥべぇは公園にやってきた。
「契約者探しの前にちょっと休もう」
キュゥべぇは噴水の淵で寝転がった。
ほどよく水しぶきがかかり、また太陽の日差しも良い感じに当たる。
キュゥべぇはここで日向ぼっこするのが日課だった。
1時間ほど寝て、目を覚ましてみるとなぜか目の前の風景は噴水ではなかった。
(誰かに抱きかかえられてる?)
人の腕の感触がした。
「君がボクを連れ出したのかい?」
「うわぁ!ぬいぐるみさんがしゃべった!」
「ボクはぬいぐるみじゃなくてキュゥべぇっていうんだけど……」
「きゅーぴー?」
「いや、キュゥべぇだよ」
キュゥべぇを抱いていたのはランドセルを背負った女の子だった。
- Re: 第五章 2話 ( No.104 )
- 日時: 2012/05/25 13:43
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
顔つきからして6〜7歳くらいだろう。
「そういえば君はボクが見えるのかい?」
「??」
キュゥべぇは魔法少女と呼ばれる特別な存在と、その力を秘めた者にしか見えない。
つまりこの子は幼いながら魔法少女としての才能があるのだろう。
(インキュベーター・データベースに問い合わせてこの子の情報をゲットだぜ)
「君は籠目舞歌(かごめまいか)っていうんだね」
「えー!なんでわかったの?きゅーべーは魔法使いさん?」
「いや、ボクはインキュベーターさ」
「いんきゅべーたー?」
(この年齢の子はまだ知能がさほど高くないんだな。これもこの星の面倒なところだ)
「ボクは君たち人間を魔法使いにしてあげるのが役目なんだ」
「そうなの!?じゃー、マイカのことも魔法使いにしてくれる?」
「もちろん出来るよ。でもマイカはもう少し大きくなってからのほうが凄い魔法使いになれるよ!」
嘘ではなかった。
この年でキュゥべぇの姿を視認出来るのだ。それなりの才能を持ち合わせているのだ。
(鹿目(かなめ)まどかにどことなく名前が似ているのも面白いところだね)
「魔法使いなったら、お空も飛べるかな?」
「願い事しだいだね」
「ねがいごと?」
「そうさ。ボクはマイカを魔法使いにする変わりに何でも好きな願いを叶えてあげる。どんな願いだって叶えてあげられる」
「すっごーい!きゅーべーは神さまなの!?」
「うーん、それもちょっと違うかな。まぁどう捉えるかはマイカに任せるよ」
「じゃあ、じゃあ!きゅーべーはマイカのお友達!」
「は?」
急に話の方向がおかしくなった上に勝手に友達にされてしまった。
- Re: 第五章 3話 ( No.105 )
- 日時: 2012/08/27 10:01
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
まさにわけがわからない状況だった。
「なんでそうなるんだい?」
「友達いっぱい作ると、ママが元気になるの!」
「マイカの母親は元気じゃないのかい?」
「マイカはよくわからないんだけど、ママはずーとびょーいんってところで寝てるの。それでパパがね、もうすぐママとお別れしなくちゃいけないって言ってたの」
(確かにこの子の母親は末期ガンでもう間もなく死んでしまうみたいだね)
「マイカね、ママとお別れしたくないってパパに頼んだの。そうしたらパパが、『友達いっぱい作れたらママも元気になる』って」
(この年の子じゃガンなんて理解出来ないだろうしね。父親もなんとかごまかしたかったのかな?)
「でもマイカはここに来たばっかりであんまり友達居なくて……。早くたくさん友達欲しいのに」
「それでボクをマイカの友達にしたいわけかい?」
「そうなの!マイカと友達になってくれる?」
感情の無いキュゥべぇにとって友達も家族もその価値観はただ知っている人というレベルでしかない。
友達という特別な存在になっておけば、将来この子が大きくなった時に契約しやすいだろうなくらいにしか思わなかった。
「いいよ、ボクでよければね」
「やったぁー♪じゃあこれからお出かけしよー!」
「は?」
なぜそうなるのか?
本日二度目のわけがわからないだった。
「友達って一緒に遊ぶものでしょ?」
「そうなのかい?」
「そーなの。とっておきの場所いこう!」
マイカはキュゥべぇを抱き上げると走り出した。
- Re: 第五章 4話 ( No.106 )
- 日時: 2012/05/25 13:44
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
マイカは子供でないと通れないような場所や、ちょっと危ないような場所を進み汚れるのもお構いなしに走った。
「ついたー」
「ここは……」
キュゥべぇは目の前に広がる花畑を見て正直驚いた。
花畑の向こう側にはもう誰も住んで居ないであろう廃墟が物静かに佇(たたず)んでいた。
「文明の進んだ現代で、まだこんな場所があるとは」
大昔、人が文明を築く前は当たり前のようにあった光景だ。
「すごいでしょ?ここのことを教えたのきゅーべーが最初だよ」
マイカはキュゥべぇをおろした。
(元は人が育てていたものだろうけど、もう何十年も手が加えられた形跡がない。自然にここまで繁殖したのか)
キュゥべぇに感情は無い。
だがふと浮かんできた言葉は『綺麗』だった。
それが状況に応じてコンピューターが出した感想なのか、それとも感情なのかキュゥべぇには理解できなかった。
「何をしているんだい?」
「花輪作ってるの。ママが喜んでくれるから」
「へぇ、器用なんだね」
「ママが居ないからパパがご飯とかお掃除とかお洗濯とかしてるの。マイカもパパのお手伝い出来ないかなって、いろいろ練習したんだ」
「練習の成果はでたのかい?」
「うん!マイカはね、パパよりもお裁縫(さいほう)がうまいの。パパも言ってた。マイカは器用だねって」
マイカはその後も花輪作りに夢中になっていた。
キュゥべぇはその様子をボーっと眺めていた。
「でーきた!」
首に通せるくらいの花輪が出来上がった。
「すごいね、とても立派だ」
「でしょー。あ、そうだ」
マイカはちょっと小さめの花輪をキュゥべぇのしっぽに通した。
- Re: 第五章 5話 ( No.107 )
- 日時: 2012/05/25 14:02
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「プレゼントだよ」
「ありがとう、マイカ。でもプレゼントは特別なお祝いの時にあげるものじゃないのかい?」
「お友達になってくれたお礼だよ」
「お礼?」
「そーだよ。きゅーベーはマイカの大事なお友達!」
「……」
インキュベーターがしていることは人間達には受け入れられないことが多い。
悪者扱いされ、時に命を狙われることもある。
このように『友達』と言われ、受け入れられたのは初めての経験かもしれなかった。
「あ、もうこんな時間。ママにこれを届けなくちゃ!きゅーべーはどうするの?」
「……ボクも家に帰るよ」
「そっか、今日は楽しかったよ!また遊んでね!」
「うん。ボクも楽しかったよ、マイカ」
手を振って走り去っていくマイカをキュゥべぇは見えなくなるまで見送った。
- Re: 第五章 最終話 ( No.108 )
- 日時: 2012/05/25 14:03
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
マイカが病院につくと、父親が半泣きの状態で病室の前に立っていた。
「パパ?」
「ま、舞歌!ママが、ママが!!」
「え……?」
父親はその場に泣き崩れた。
そしてマイカを抱きしめた。
その様子をだいぶ離れたビルの屋上からキュゥべぇが見ていた。
「友達か。ボクにはその価値がわからないけど、感情というものがあったらさぞ素晴らしいものなんだろうね」
キュゥべぇはマイカたちに背を向けた。
そしてふと首だけマイカたちのほうに向けた。
「君の願いはエントロピーを凌駕(りょうが)した。代償は……ふぅ……やれやれ、どうもまどかのおせっかい焼きがうつったみたいだ?」
そういい残し、キュゥべぇは姿を消した。
キュゥべぇが居た場所には生命を燃やし尽くしたように白くなった花輪が落ちていた。