二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第六章 美樹さやかの午後① ( No.119 )
- 日時: 2012/05/29 10:18
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「やっほー、ミキティ」
前から小走りで走ってきたのは隣のクラスにいる友人の梶浦優子(かじうらゆうこ)だった。
中学1年生のときに同じクラスになり、仲良くなった。
「何よ、その変なあだ名」
「美樹だからミキティじゃない」
「一週間前はさやさやだったじゃない」
「細かいこと気にしてばっかいるとハゲるわよ〜」
優子は人にあだ名をつけるというのが趣味と言うちょっと迷惑な人間だった。
親友の鹿目(かなめ)まどかはほっぺたが某ゲームのスライムのように柔らかいと言う理由で『マドリン』と命名されていた。
「なんか用?」
「つれないなぁ〜。まぁそれは置いといて……。今日の放課後って暇?」
放課後は特に予定が無かった。
強いて言えばテスト勉強くらいか。
「その様子だと暇そうね。校門前で待ってるから!じゃね♪」
「ちょ、ちょっと!」
優子はさやかの返事を聞かずに半ば押し付けるようにして行ってしまった。
「相変わらず無茶いうわぁ〜」
さやかは呆れ顔で優子を見送った。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後② ( No.120 )
- 日時: 2012/05/29 10:19
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
放課後、さやかは校門の前で優子を待っていた。
ここに来る途中、まどかに一緒に勉強しないかと誘われたのだが、一応優子との約束があったため断った。
「まどかには悪かったかなぁー。今回のテスト範囲、わからない事だらけだって嘆いてたっけ……」
そう口にしてから自分も人のこと言えないなと思い、ちょっと空しくなった。
「やっほー、サヤエンドウちゃん!」
さやかはとりあえず優子にゲンコツをかました。
「いったーい。もー冗談だって」
「いや、なんかイラっとしちゃってさ」
2人は並んで学校を出た。
「ミキティはさ、確かエレキできたよね?」
頭をさすりながら優子はそうたずねて来た。
「え?まぁ……」
幼馴染の上条恭介(かみじょうきょうすけ)がヴァイオリンをしているのを見て、自分も似たことで肩を並べられたらと思い色々な楽器を手にしてきた。
その中でそこそこ相性が良かったのがエレキギターだった。
恭介が事故にあってからはまったくやらなくなってしまったが。
「あたしってさ、バンドやってるじゃない?でね、来月の文化祭で1ステージ設けて貰えることになったのよ」
文化祭では毎年文化部系の部活が自慢の技を披露する自慢大会なものが行われていた。
昨年も卒業した先輩がバンド演奏していた。
「でさー、せっかくチャンス貰ったってのにメンバーの1人が怪我しちゃってね。全治二ヶ月の骨折よ」
さやかは既に優子が何を言いたいのか理解できていた。
「それであたしにその子の代わりをやれってわけ?」
「ざっつらいと〜!」
優子は盛大な拍手を1人でさやかに送った。
さやかは首を横に振って、やれやれとつぶやいた。
「嫌だよ。仮にやったとしてもかなりブランクあるんだから」
「えー。さやかならやってくれると思ったんだけどなぁ」
優子は大げさに落ち込んで見せた。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後③ ( No.121 )
- 日時: 2012/05/29 10:20
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「出来れば、私からもお願いしたいんだけど」
「え?」
さやかは声のしたほうに身体を向けた。
そこには季節はずれのマフラーをした女の子が立っていた。
「あー!せっちゃん!」
「白井雪良?」
白井雪良(しらいせつら)のことは、さやかも知っていた。
見滝原中で知らない者は居ないと言われているほどの有名人だ。
かなりの歌唱力の持ち主で、プロデビューの話もあったとか。
しかしなぜか身を引いてしまい、今ではほとんど歌わなくなったという。
「優子のバンドのゲストでお呼ばれしてるの。私も歌うの久しぶりだから、そういう意味ではあなたと同じよ」
雪良の声はとても透明感があった。
ただ話しているだけだと言うのに、心に響いてくるような不思議な声だった。
聞きほれてしまっていたさやかはハッとして我に帰った。
「いやいや、あたしはやらないって!」
そういうと雪良は首をかしげた。
「なんで?あなたと私は同じでしょ?」
「は?」
意味不明なことをいう雪良にさやかの頭はパニック寸前だった。
「……」
今度は言葉なしでジーっとさやかを見つめてきた。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後④ ( No.122 )
- 日時: 2012/05/29 10:20
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(な、なんなの!)
さやかは優子に目配せをして助け舟を出した。
「せっちゃんはいつもこんな感じだよ。んで、さやかを指名したのはせっちゃん」
「あたしを?この子が?」
雪良のことは噂でしっているというくらいで実際に話すの今日が初めてだ。
なぜ自分が指名されるのかまったく理解できなかった。
「私は変なことなんて言ってないよ?あなたと私は似たもの同士なの」
「どういうことなのよ、それ」
雪良は首をかしげてなぜか困ったようなポーズをとった。
「困ってるのはあたしのほうじゃー!」
さやかは頭を抱えて奇声をあげた。
「とにかくさ、お試しってことで一週間でもいいからあたしらに付き合わない?せっちゃんの言いたいこともわかるかもよ?」
「む……うーん」
正直あまり関わりたくない。
だが妙に雪良のことが気になる。
「わかった……。やるかやらないかはそのお試し期間ってやつで決めるわ」
「よっしゃー!それじゃあ、お試し期間開始はテスト後ね!」
「今からじゃないの!?」
優子はゲラゲラ笑って「やーねぇ」とおばさんの様に言った。
「あたしら学生の本業は勉学に励むことでしょうに。テスト優先よ」
「それはちょっとずるいんじゃ……」
「それじゃあ、とりあえずカラオケでもいこっか?」
優子はさやかのことを無視して雪良に言った。
雪良は「おー」と手をグーにして空に掲げた。
「なんでそうなるのよ!」
「いかないの?」
「行かないなんてっ!って、あぁ!」
「けって〜い♪」
さやかは強引にカラオケに付き合わされてしまった。
ちなみに優子とさやかの期待を裏切り、雪良は一度も歌わなかった。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後⑤ ( No.123 )
- 日時: 2012/05/29 10:22
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
優子に解放された、さやかはトボトボと1人で夜道を歩いていた。
「ほんと疲れるわ……まだ杏子(きょうこ)のほうがマシかも。でもあいつはあいつで滅茶苦茶だし……」
杏子が居ないことを良いことにさやかは愚痴をはいた。
「ん?」
ふと足が止まった。
児童公園と呼ばれる近所の子供達用に作られた小さな公園だ。
小さいため目ぼしい遊具はなく、子供達はいつも砂場で遊んでいた。
もちろんこんな時間に子供が遊んでいるはずもなく、公園はものけの殻のはずなのだが———。
(ソウルジェムが光ってる……魔女が近くにいる!)
さやかは荷物を置き、魔法少女に変身した。
それを待っていたかのように景色が変わっていった。
ざざざー!
あたり一面砂場と化したその空間のそこら中から何かが移動する音が聞こえた。
「!!」
突然、砂場から30センチくらいのサメが飛び出してきた。
さやかはそれを斬り払った。
「この音って全部こいつらの音?」
音から推測するに結構な数がいると思われた。
一匹のサメがさやかに襲い掛かった。
それを合図に次々とさやかに襲い掛かる。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後⑥ ( No.124 )
- 日時: 2012/05/29 10:22
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「なめんじゃないわよ!」
さやかは空に飛んでそれをかわし、空中で剣を10本ほど出現させ、それをサメ目掛けて飛ばした。
今の攻撃で数匹を始末したさやかは着地と同時にもう一本剣をだし、二刀流でさらに襲い掛かるサメを次々と倒した。
「あたしだって変わらないわけじゃ……ないんだからね!」
見事な身のこなしでサメを倒し続け、ついに音がしなくなった。
「はぁ、はぁ。どうやら使い魔だけだったみたい」
そう思い、安堵のため息をついた瞬間だった。
凄まじい殺気が背後からした。
「え!!」
背後には10メートル以上あるサメが大口を開いてさやかに迫っていた。
「うそ!よけられ———」
今に食べられてしまう。
そう思った瞬間だった。
襲い掛かってきていたサメが横から突然現れた黒い塊に食べられてしまった。
「な、なに?」
「ははは、危なかったなぁ。喰う喰われる……中々いい構図だったろ?」
呆然としているさやかの上から聞き覚えのある声がした。
結界が消え、もとの公園に戻った。
声のしたほうにはジャングルジムがあり、その一番上に少女が1人座っていた。
「あ、あんた!」
その少女は着物を来ていた。小柄でまどかと同じくらいの背丈だ。
さやかはその少女に一度出会い、負かされたことがあった。
「天音(あまね)リン!」
さやかは剣を構えて攻撃の体勢をとった。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後⑦ ( No.125 )
- 日時: 2012/05/29 10:23
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「待てって。オレはお前と戦う気なんてないぜ。それに今助けてやったんだから礼くらい言えよな」
確かにもしさやかを倒すつもりならば、今助ける必要なんて無かったはずだ。
それにリンにはまったくと言っていいほど戦う意思を感じられなかった。
「わかった、信じてあげる。それに……助かったわ」
さやかが素直にそういうと、リンは子供のような無邪気な笑顔をさやかに向けた。
「素直が一番だぜ。ここで会ったのも何かの縁だ。せっかくだし話に付き合えよ」
リンは手招きをした。
さやかは一瞬悩んだが、憎めないリンの態度に飲み込まれてしまったのか、結局従った。
「今日は月が綺麗だな。高いところから見るのもいいけど、ここからの眺めも中々いいねぇ」
リンは指でフレームを作り、月をおさめた。
そんなリンを横目でさやかは見ていた。
(この子、よく見ればかなり顔立ちもいいし可愛いかも。それに何だか今日は———)
前に出会ったときはどこかだらしなさを感じた。
寝起きで髪の毛がボサボサでも、服がずれていたって気にしないぞって感じに思えていた。
しかし今日は妙にきっちりしているのだ。
着物も完璧に着こなしている。
和風美人というやつだ。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後⑧ ( No.126 )
- 日時: 2012/05/29 10:24
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「さやか、お前今オレのこと美人だと思ったろ?」
「へ?いやいや……」
リンはさやかの態度を見て大笑いした。
「嘘が下手だなぁ。オレは結構人の内心を見破るのが得意なんだ。例えば……今日なんか嫌なことあったろ?」
「え!?」
さやかはドキっとした。
なかなか的を射ていた。
嫌なことというか、嫌なことを思い出してしまったというべきか。
「上条恭介か?」
「!!」
今度のはど真ん中に的中していた。
「な、なんであんたが恭介のこと……」
意味の無いことを言葉にしていた。
自分のことやほかの仲間のことだって知っているのだから、その関係者のことを知っていても不思議ではない。
「大方、なんかがきっかけで昔のことでも思い出しちまった……ってとこか?」
「あんたに関係ないでしょ!」
なぜこんなにもイライラするのか自分でもわからなかった。
恭介のことはもう諦めたはずなのに。
「確かにオレは関係ないね。あんたの恋バナなんかさ」
どこからともなく湧き上がる怒りに顔を歪めるさやかに対し、リンは本当に興味なさそうな表情をしていた。
「でもさーなんでそんなイライラしてるわけ?」
「そんなお気楽そうなあんたにはわからないわよ!好きなのに諦めなくちゃいけないあたしの気持ちが!」
わけもわからないまま、なぜか涙が出そうになった。
「そこだよ、そこ。なんで諦めなくちゃいけねーの?」
「え?」
さやかは顔をあげてリンを見た。
本当に理解できないという顔だった。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後⑨ ( No.127 )
- 日時: 2012/05/29 10:25
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「諦められないなら諦めなければいい。欲しいなら求めるのが普通だろ?」
「そんなの他人だから言えることなんだよ……それができるならしたいわよ……」
リンはため息をついた。
「オレからしたらうらやましい限りだぜ。その悩みがよ」
「何でよ……」
リンは悲しそうな、はたまた哀れんでいるような微妙な笑顔を浮かべた。
「そうやって求める人がいるってのはさ。失ってしまえばそれも出来ないんだぜ」
「それって……」
「オレにも心を寄せていた人がいたんだけどさ。とっくの昔に死んじまった。大切な友達も……」
リンは立ち上がって月を見上げた。
「友達も?」
「ああ……いつどこで死んだかはわからない。色々調べて、恐らく今から1年前くらい。この辺りで消滅したんだ」
「魔女になったの?」
リンは首を振った。
「いや、そっちの気配じゃなかった。残っていたのはわずかな魔力。たぶん自決したんだろうな」
リンの言うとおり、さやかは大切なものを失ったわけではない。
そういう意味ではまださやかは幸せなのかもしれない。
だからといって笑って過ごせるかと言ったらそれは無理な話だ。
「なんであんたは笑っていられるのよ……」
「簡単なことさ。オレはまだ絶望しちゃいない」
リンはきっぱりと言い切った。
想い人を亡くし、親友を亡くしたというのにまだ希望があると言っているのだ。
「さやかは心許せる友達はいるか?自分を理解してくれる友達が」
すぐにまどかや杏子の顔が浮かんできた。
「いるわよ。そこまで寂しい女じゃないわよ」
そういったさやかの顔は自然と笑顔だった。
- Re: 第六章 美樹さやかの午後⑩ ( No.128 )
- 日時: 2012/05/29 10:27
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「へへ、ならいいじゃんか。悩んだ時はそいつらにぶちまければいい。オレと話すよりもっと楽になれるぜ」
リンはジャングルジムから飛び降りた。
「前にあったときオレはお前らの敵だって言ったよな?」
さやかは頷いた。
「敵になるかどうかはお前ら次第だ。お前らがどんな風にこの世界を思い、この世界のためにどう動くのか。それによってオレはお前らの敵にもなり、味方にもなる」
「どういうことよ?」
リンはその質問には答えなかった。
「さやか、オレはお前を気に入ってる。オレの敵になるなよ」
リンは背を向けて歩き出した。
「ちょ、ちょっと!」
さやかが呼び止めてもリンの足が止まることはなかった。
「何なのよ……言いたいことだけ言ってさ……」
そう愚痴りながらも、どこかスッキリした自分がいた。
そして仲間達の顔がみたいなと心の奥底から思った。
「たまには杏子のやつでも誘ってやろうかな!」
さやかは明日を追い求めるかのように駆け足で自宅を目指していった。