二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第六章 千歳ゆま&呉キリカの午後① ( No.135 )
- 日時: 2012/06/01 11:26
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「お醤油はあるし、お塩もある……卵は買わなくちゃ」
千歳(ちとせ)ゆまはノートに記された食材にチェックをつけながら呟いた。
「うまく行くといいわね」
美国織莉子(みくにおりこ)はゆまの真剣な顔を見ながら微笑んだ。
「せっかく織莉子に教えて貰ったんだもん。がんばるよ!」
「そうね」と織莉子は言い、時計を見た。
「そろそろマミさんが来るわね。ゆまちゃんもお茶してく?」
ゆまは首を振った。
「そろそろ近くのスーパーで卵の安売りがあるの。そっち行かなくちゃ!」
気合充分に言うゆまに、織莉子は苦笑を浮かべた。
「杏子さんのそばに居るだけあるわね……」
ゆまは荷物をリュックにしまった。
「今日はちょっと早いけど行くね。キョーコが来たら先に帰ったって言ってね。あ、あとあのことは内緒だよ?」
「わかってるわ。気をつけて帰るのよ」
織莉子に送り出され、ゆまは駆け足で目的地のスーパーに向かった。
ゆまが訪れたスーパーは毎日タイムセールを行っていて、今日は卵の日だった。
あまり無駄遣いの出来ない杏子とゆまはこういったところで節約しなくては食べていけないのだ。
(はやくしないと売れきれちゃう!)
ゆまは一目散に卵売り場を目指した。
卵は着々と売れ、ゆまが到着した時には完売目前だった。
「たーまーごー!」
ゆまは残った卵に手を伸ばした。
だが掴んだのは卵ではなく人の手だった。
「!」
「あ?」
2人は顔を合わせ、お互い嫌な顔をした。
「千歳ゆま……」
「呉(くれ)キリカ……」
ほぼ同時にお互いの名を呼び合った。
- Re: 第六章 千歳ゆま&呉キリカの午後② ( No.136 )
- 日時: 2012/06/01 11:27
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「何でキリカがここにいるの?」
「それはこっちのセリフさ」
ゆまはキリカが嫌いだった。
出会った頃に杏子のことを傷つけたこともあったし、最近はちょくちょく嫌がらせをしてくるのだ。
「ゆまは卵が欲しいからここにいるんだよ」
「それは私も同じさ。織莉子が欲しいという以上は何としても手に入れないとね」
キリカは見下ろすようにして鋭い視線をゆまに向けた。
ゆまはそれに怯むことなく睨み返す。
「キリカは織莉子がゆまに取られるのが気に食わないんでしょ?」
「なっ!?」
ゆまがニヤニヤしながらそういうとキリカは明らかに動揺していた。
「嫉妬してるんでしょ?大人げないなー」
「くぅぅぅ!そ、そこまで言われたら決着をつけないわけにはいかないね!」
キリカの目に戦う意思が灯った。
ゆまもそれに応え、身構えた。
「お、らっきー」
2人の間を割って入ってきたのは見知らぬオジサンだった。
『え?』
2人は揃って卵売り場を見た。
完売していた。
最後の一個を持っていかれたのだ。
「!!」
キリカは慌ててオジサンの姿を追うが、会計を済ませて出て行ってしまっていた。
ゆまは売り場を見ながら呆然としていた。
「言い争いなんかしてなければ……」
ゆまはがっくりと肩を落とした。
「……」
キリカもぐうの音も出ないようで立ち尽くしていた。
「こうなったらあそこに行くしかない……」
「あそこ?」
キリカは半分死んだような目でゆまを見た。
「ちょっと危険な場所なの。ゆま1人じゃダメだから手伝ってよ!」
「背に腹はかえられない……織莉子のためなら何でもやるよ……」
キリカはため息をつきながら言った。
ゆまも出来ればキリカと組みたくなどないが、キリカが言うように背に腹は変えられないのだ。
「時間がないよ!急ごう!!」
ゆまはキリカを置いて走り出した。
- Re: 第六章 千歳ゆま&呉キリカの午後③ ( No.137 )
- 日時: 2012/06/01 11:27
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
2人がついたのは先ほどいたスーパーとは別の店だった。
「こ、これは!」
キリカはつくなり驚愕の表情を浮かべた。
「危険でしょ?」
ゆまはゴクリと生唾を飲み込んだ。
そこにあるのは人の山だった。
「これはこれで違った戦場だね……」
キリカは渇いた笑いを浮かべ、激安商品に群がる人を見た。
「このお店の定番、卵の投売りをこの時間にやるんだよ!でもあまりの周りの人の戦闘力の高さにキョーコでさえやられちゃったんだけど……」
ゆまはキリカを何か求めるような眼差しで見つめた。
「キリカの魔法なら潜り抜けられるかも!」
「!!」
キリカの魔法は一定範囲の対象の動きを遅くすること。
確かにこの魔法を使えばこの戦場を乗り切れるかもしれなかった。
しかし魔法の有効範囲内にこれだけの人を入れるためにはその中心にキリカが居なくてはならない。
それはすなわち———。
「私、死ぬ!!」
「いや、死にはしないから」
大げさに悶えるキリカにゆまは白い目で突っ込んだ。
「なんにせよ私は織莉子のために散れるなら大いに結構!安らかに絶望できる!!」
キリカは魔法少女に変身し、人ごみの中心に飛び込んだ。
キリカの魔法により、人の動きが鈍くなる。
それでも人の勢いが止まるわけではない。
「うわああああ!」
キリカの悲鳴が聞こえた。
ゆまはキリカに起きている現実に目を背けそうになるが、首を振ってそれを頭から消し去った。
「キリカのことはあんまり好きじゃないけど、その命は無駄にしないよ!」
ゆまは動きの遅くなった人たちに向かって飛び込んでいった。
- Re: 第六章 千歳ゆま&呉キリカの午後④ ( No.138 )
- 日時: 2012/06/01 11:28
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ゆまとキリカの2人は店から離れたところで息を切らしていた。
「予想外だった……キリカの魔法でゆままで遅くなっちゃうなんて……」
「こっちは魔法を制御している暇なんてないよ。織莉子への愛が無かったら私は藻屑と化してたっ」
未だに混み続ける店を横目に、ゆまは安堵の息をついた。
「でも良かった。なんとか買えて……」
ゆまの手には卵2パックの入った袋が握られていた。
あれだけの人ごみを潜り抜けてきたが、卵には傷1つなかった。
「キリカ、これ」
ゆまは卵1パックをキリカに渡した。
「なぜかよくわからないけど感動だよ」
卵を抱きしめながらキリカは瞳を潤ませた。
「何だかんだでキリカが居てくれて良かった」
「そーんな風に言ったって別に何も出やしないよ」
キリカはフフンと鼻で笑った。
ゆまはそんなキリカに頬を膨らませた。
「せっかく素直にお礼を言ったのに!そんなんだから友達できないんだよっ」
「織莉子さえ居れば充分だよ」
キリカはあっかんベーをした。
そしてきびすを返し上半身だけゆまに向けた。
「じゃーね。今日は恩にきるよ」
そう言って走っていってしまった。
「キリカも素直なら可愛いのに」
ゆまは走り去っていくキリカの後姿に対してそうつぶやいた。
- Re: 第六章 千歳ゆま&呉キリカの午後⑤ ( No.139 )
- 日時: 2012/06/01 11:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ゆまはキリカと別れたあと、必要な材料を買い揃えて帰宅した。
そして織莉子に教えて貰った通りに少々ぎこちないながらも料理を進めて行く。
途中失敗を重ねながらも、何とかゆまは1人で目的の料理を完成させた。
「できたー!」
ゆまは後片付けをして、テーブルを綺麗にして料理を並べた。
「ただいま〜」
「あ、キョーコ!」
ゆまは駆け足でキョーコを迎えに行った。
「ゆま、用事があるならあるって……って何だその格好?」
エプロン姿のゆまに杏子は首を傾げた。
「それに何か懐かしい良い匂いが……」
「いいから、いいから!こっち、こっち〜」
ゆまはキョーコの背中を押して居間へと促した。
居間についた杏子はテーブルに並べられた料理を見て感嘆の声をあげた。
「お〜、懐かしい匂いはこれかぁ」
ゆまが一生懸命作ったのは『オムライス』だった。
ゆまくらいの年の子だったら大体が好物と答えるメニューだ。
「座って、座って!」
杏子を椅子に座らせ、ゆまも杏子の隣に座った。
「全部ゆまが作ったのか?」
「そーだよ」
杏子はカレンダーを見つめた。
- Re: 第六章 千歳ゆま&呉キリカの午後⑥ ( No.140 )
- 日時: 2012/06/01 11:33
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「今日は何の日だっけ?」
「今日はね、ゆまとキョーコが始めてあった日なんだよ」
そう笑顔で言うゆまをキョトンとした表情で杏子は見た。
「そーかぁ……もう一年か」
改めてカレンダーを見て杏子は頷いた。
「キョーコに出会ったときは頑張らないとゆまのこと捨てちゃうのかなって不安だった。でもキョーコはワルプルギスの夜の日だって、その後だって、今の今までずっと側でゆまのこと見守ってくれた。だからゆまも何かキョーコのためにしたいなーって思ったんだ」
少し照れながらゆまは言った。
何か出来ればと思い、織莉子に相談した。
それで織莉子が提案したのが何か料理を作ってあげることだった。
日頃から偏った食事をしている杏子のために、料理でも出来れば杏子の身体のためになる。
魔法少女としてではなく、千歳ゆまとしてしてあげられるいい方法だと思った。
「それで織莉子にオムライスの作り方教えて貰ったんだ。うまく出来てればいいけどなぁ」
「そうか……。嬉しいことしてくれるじゃんか」
杏子はゆまの頭を撫でてやった。
「せっかくゆまが作ってくれたんだ。冷めないうちに食べよう」
「うんっ」
2人は一緒に『いただきます』をした。
いつも一緒に食事をとっているが、今日の食事は普段よりは数倍おいしく感じた。
何より杏子の嬉しそうな顔が、とても嬉しかった。
- Re: 第六章 千歳ゆま&呉キリカの午後⑦ ( No.141 )
- 日時: 2012/06/01 11:34
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
時間は数時間前に戻る。
「ただいま……」
「お帰り、キリカ。遅かったわね」
迎えに出た織莉子はどんよりと落ち込むキリカを見て一瞬動きが止まった。
「ど、どうしたの?」
「うぅ……織莉子のお使いすらまともにこなせない私は本当にダメな子だっ!」
そう言い放つとキリカはその場に崩れ落ちた。
織莉子はキリカの足元にある袋をのぞき見た。
「あぁ……」
そこには割れた卵が入っていた。
「急いで帰ろうと思って走っていたら、急に飛び出してきた猫に驚いて———うぅ」
その様子が手に取るように浮かんだ。
織莉子は苦笑を浮かべた。
「今日は卵づくしね。私1人じゃとても食べきれないし、キリカもどう?」
織莉子がそういうとキリカは顔をあげて驚愕の表情で織莉子を見つめた。
「許してくれるのかい!?」
「今までこんな些細なことでキリカを嫌いになったことなんてないわよ。もー、大げさね」
「織莉子ーー!!」
キリカは織莉子に抱きついた。
「無限に愛してるよ!」
「ふふ、はいはい」
織莉子は割れた卵を右手に、甘えるキリカを左手に歩き出した。
「そうだ、今日はオムライスにしましょうか」
「織莉子の作るものなら何でもいいよ!」
その晩、卵づくしの夕飯でキリカが奮闘したことはまた別の話———。