二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第六章 巴マミの午後① ( No.149 )
- 日時: 2012/06/06 11:18
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「……」
巴(ともえ)マミは少々困っていた。
美国織莉子(みくにおりこ)とお茶をするために織莉子の自宅を訪ねてきた。
普段なら他愛の無い世間話でそれなりに盛り上がるのだが、今日は違っていた。
(上の空よね……)
話をしていても中身の無い返事ばかりで、さらに覇気もない。
昨晩電話で話した時は普通そうだったのだが。
「ねぇ、織莉子さん」
「?」
織莉子は言葉に出さず、視線だけをマミに向けた。
「もしかして何か悩み事でもあるのかしら?」
「悩み事……」
織莉子は少し考えこんで、それからティーカップを置いてため息をついた。
「例えば話なのだけれど……とても尊敬している人が自分の壁として立ちはだかってしまったとしたらどうする?」
「え?」
話の方向性が一気に変わり、一瞬何を言われたのかマミは理解できなかった。
「越えなければ目的を果たすことはできない。でもそうすることでその人を傷つけてしまうかもしれない……」
思ったよりも深刻そうな悩みのようだった。
(軽い気持ちで答えるわけにはいかないわ)
マミはそう思い、頭をめぐらせた。
ふと一人の女の子の姿が思い浮かんだ。
決して忘れることの無い一人の女の子。
- Re: 第六章 巴マミの午後② ( No.150 )
- 日時: 2012/06/06 11:19
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「自分の進みたい道を進めばいい。ただ一つ、その先が自分の正義に反していないことだけはしっかり確認しろ」
「マミさん?」
普段の口調とは違う調子で語ったためか、織莉子は少し驚いたような表情を浮かべた。
マミは苦笑した。
「昔、お世話になった女の子が私に言った言葉なの。正義感の塊みたいな子でね……自分を正義のヒーローだなんて言ってたわ」
「変わった子だったのかしら?」
マミは笑みを浮かべて頷いた。
「ほんと変な子だった。変な技名とか叫んで魔女に突撃したり、襲ってきた魔法少女に同情して逆にやられちゃったり」
そのときのことを思い出すと、自然と笑いがこみ上げてきた。
自分が魔法少女になりたてで戦い方などほとんど知らないときに一緒に居てくれた恩人だ。
「変な子だったけど、とにかく真っ直ぐな子だった。さっきの言葉もあの子じゃないと言えないわよ」
「でも中々良いこと言ってると思うわ。ちょっとスッキリしたもの」
織莉子の表情が少しだが普段のものに戻っていた。
それを見てマミは内心でホッとした。
「その子は今は何をしているの?」
織莉子は何となくそう聞いたのだろう。
だがその問いに対して返したマミの表情はどこか寂しげだった。
「答えずらいことだったらいいのよ」
織莉子はマミの表情から悟ったのか、そう言ってこれ以上聞かなかった。
そのあと世間話をして過ごしたが、お互い普段どおりという風には行かなかった。
- Re: 第六章 巴マミの午後③ ( No.151 )
- 日時: 2012/06/06 11:21
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
夜科麗夏(よしなれいか)。
それが彼女の名前だった。
魔法少女になりたてのマミが魔女に襲われ、やられかけたところを助けてくれた。
その後も何かと気にかけ、一緒に戦ってくれた。
魔法少女としての戦い方を教えてくれたのも麗夏だった。
『アタシに出来ることは少ないから、せめて大好きなこの街は守りたい』
それが麗夏の口癖だった。
マミが一人前になったら一緒にコンビを組んで戦おう———そう約束もした。
前に後輩の美樹(みき)さやかに、マミは見滝原を守る正義の魔法少女だと言われたことがあった。
しかし今思えばその意思は麗夏から受け継いだものなのだ。
「しばらくぶりね、麗夏さん」
マミは夜科麗夏と彫られた墓標の前にしゃがみ、一輪の花を置いた。
「ごめんなさい。急な思いつきで来たものだから、これぐらいしか出来なくて……」
お世辞にも綺麗とはいえないその墓標は、麗夏を知る魔法少女たちが力を合わせて作ったものだ。
麗夏は変わり者だったが、人望は厚かった。
麗夏の最後を知って涙した人も多かった。
ここに麗夏の遺体はない。
魔女の結界に取り込まれ、何一つ残っていないのだ。
本当に死んだのかもわからない。
魔女と共に消えていく様を見たのはマミ一人だけだったからだ。
「私、一人前になれたかしら?これでも魔法少女の後輩ができたんだから」
こんなことを言ったらきっと笑われるだろう。
よく未熟者!と小突かれたものだ。
- Re: 第六章 巴マミの午後④ ( No.152 )
- 日時: 2012/06/06 11:22
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あら、珍しい」
「!!」
マミは背後から突然声をかけられ驚いてしまった。
ここには麗夏を知るものしか訪れない。
誰かと会うなんて思いもしなかった。
「夜科さんの知り合い?」
フリフリの日傘に、フリフリのドレスで着飾ったその女の子はどこか異様だった。
顔は傘に隠れてわからないが、声からするとかなり若そうだ。
「麗夏さんに昔お世話になって……」
マミがそういうと女の子はクスリと笑った。
「そう……いいお友達を持っているわねぇ」
マミは何となくこの子とは合わないと思った。
「あなたお名前は?」
「えっと……」
答えていいものなのだろうか。
何となく嫌なのだ。
「あぁ……私から名乗るのが礼儀よねぇ。私は九条更紗(くじょうさらさ)よ」
「と、巴マミ……です」
思わず答えてしまった。
「巴マミ?へぇ……あなたが」
更紗は一人納得していた。
「どこかで会ったことあるかしら?」
更紗はクスクス笑った。
- Re: 第六章 巴マミの午後⑤ ( No.153 )
- 日時: 2012/06/06 11:24
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「無いわよ。お互い初めましてよ」
「……」
一言一言にどこか悪意を感じた。
「あなたも魔法少女なのよね?」
「そうよ。でなければここには来ないわよぉ」
意外とあっさりとそう答えた。
「私とあなた……きっと相性最悪よ。ふふふ」
「なっ」
更紗は墓標に背を向けた。
「もうお参りは充分。あなたに会えたから」
「あなた一体……」
更紗が傘の奥から顔を覗かした。
それを見てマミはぞっとした。
目と口に笑みを浮かべていた。
だがその瞳には光は無く、まるで悪意を溜めているかのようだった。
「また会いましょう」
そう言い残して更紗は行ってしまった。
(何か私たちの知らないところで起きてるんじゃないかしら……)
ワルプルギスの夜を倒し、平穏な日々が訪れたと思っていた。
だがそれがいつの間にか、束の間の日々に変わってしまっていたのではないかと思い始めた。
(蒼井くんの件も、もしかしたらその何かの一部なのかもしれないわ)
マミは墓標に視線を向けた。
「麗夏さん———私がこの街を、皆を守って見せるわ。だからもう少し見守っていて」
マミは麗夏の墓標を後にした。
そこに残ったのは月明かりに照らされた一輪の花だけだった。