二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 1話① ( No.171 )
日時: 2012/06/11 11:09
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 鹿目(かなめ)まどかはいつの間にか見知らぬ場所に迷い込んでいた。

 不安げな表情を浮かべて立ち止まり、ただ呆然と周りを見渡すことしか出来なかった。

「どうして……」

 思わずそう口から漏れた。

 無理も無いことだった。

 なにせまどかはいつもと同じ通学路を通って帰宅する途中だったのだから。

 三年も通った道を間違えるはずなど無いし、ましてやまどかの見知らぬ場所などこの辺りには無かったはずだった。

 まどかは無闇やたらに動くのは良くないとわかってはいたが、今いるトンネルの中が異様に不気味で怖かった。

 そのためとりあえずここから出たいと思い、早足でトンネルを抜けた。

 トンネルの先はなぜか噴水広場だった。

 車も通れるほどの大きさのトンネルの先が噴水広場という世界構成の滅茶苦茶なこの空間の正体に対し、まどかはある一つの答えを導き出そうとしていた。

「これって魔女結界……」

 当然魔法少女でないまどかに魔女の気配を感じ取ることは出来ない。

 そのためいつの間にか迷い込んでいた———なんてことは普通にありえる。

「ここは魔女結界ではありませんよ」

「!!」

 背後から聞こえた声にまどかは声無き悲鳴をあげた。

「驚かしてしまい、申し訳ありません」

 声の主は初老の男性だった。

 服装を見る限りではお屋敷の執事という感じだった。

「わたくしはクロードと申します。とあるお屋敷に住まう主に仕えております」

 クロードは手を胸に当てて一礼した。

「失礼ながら……あなた様のお名前は鹿目まどか様でよろしかったでしょうか?」

 まどかはとても場違いなクロードの存在に戸惑いながらも、首を縦に振ってその質問に答えた。

「そうですか。人違いでなくて良かった」

 クロードは笑顔でそう言った。

「あの……ここは一体……」

「あぁ、ここですか?ここは結界の中です」

 まどかは前に出会った叶(かなえ)ゆかりのことを思い出した。

 ゆかりも自身の魔法で結界を作り、その中で行動していた。

 それと同じ類のものなのだろうか。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 1話② ( No.172 )
日時: 2012/06/11 11:10
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「あなたと二人だけでお話がしたいと思いまして。ご迷惑かとは思いましたがここに呼ばせていただきました」

「私と……?」

 クロードは頷いた。

 そして懐から砂時計を取り出した。

 取り出された砂時計は既に砂が落ちており、幾分かの時を刻んでいることがわかった。

「この砂時計はちょうど三日の時を刻めるように設定されております。見ての通りすでにその三日の時は始まっております」

 クロードは砂時計を手から離した。

 砂時計は落ちることなく宙に浮いていた。

「何の時かと言いますと……」

 クロードは笑顔のまま、まどかを見つめた。

「まどか様、あなたの命が終わるまでの時間でございます」

「え……?」

 まどかは何を言われたのかまったく理解できなかった。

 命が無くなる?

 つまり死ぬということか?

「突然このようなことを言われてもピンときませんよね。もう少し詳しく申しますと、わたくしがあなた様を契約させ、その力を奪うのがちょうど三日後———ということです」

「契約?力を奪う?」

 そう言われてもやはりわからなかった。

 クロードの目的がまるで見えてこないのだ。

 ただかつて蒼井彰(あおいあきら)が欲したように、まどかの秘めた才能は必要な者からすれば喉から手が出るほど欲しい力ということは理解している。

「わたくしはあらゆる手を使ってこの三日後、あなた様を契約に導きます。ですからまどか様……残りの時間を大切に過ごされるようお願いします」

 クロードは再び一礼をした。

 そしてクロード共々、空間がぐにゃりとゆがみ始めた。

「ちょっと待って!!」

 まどかが呼び止める声も空しく、空間は消え去り、いつも見ている景色へと帰った。

「そんな……私、どうしたら」

『残りの時間を大切に』

 クロードはそうまどかに言った。

 だが胸の中に漂う不安はそんなことを考える余裕など与えてくれそうに無かった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話① ( No.173 )
日時: 2012/06/11 11:11
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

放課後。

巴(ともえ)マミは自身が通う見滝原高校の2年生の教室の前にいた。

「お待たせ、巴さん」

「いえ、こちらこそ時間を作って貰っちゃって……。ありがとうございます、高科先輩」

高科(たかしな)はマミの一つ上の先輩で、中学生の頃から少しだが交流があった。

「それで聞きたいことって何?」

「あの……蒼井先輩のことなんですけど」

「蒼井?もしかして蒼井彰?」

高科がそう聞き返すとマミはそれに対し頷いた。

ワルプルギスの夜のあとに起きた大きな出来事と言えば蒼井彰(あおいあきら)の事件だ。

もしこれから何か起きるのだとすれば、あの事件も無関係ではないかもしれない。

そう考えたマミは発端とも言える蒼井彰のことを少し調べておこうと思ったのだ。

「ははーん」

高科はそんなマミの考えとは裏腹に思わぬことを考えているようだった。

そしてその内容は高科の表情から簡単に読み取れた。

「あの……別に特別な感情とかないですから」

マミは一応そう弁明した。

「まぁまぁ。蒼井くんは成績優秀、スポーツ万能、しかも中々イケメンで誰隔てなく優しい完璧超人だからねぇ。ライバル多いよー」

まるで高科はマミの弁明を聞き入れていなかった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話② ( No.174 )
日時: 2012/06/11 11:12
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「でも蒼井くんは極度のシスコンだからね。彼女作る気なんて無いと思うし……それに今行方不明だしね」

「行方不明……」

その最後を見たのは後輩の鹿目(かなめ)まどかだけだ。

生きているのか死んでいるのか、それすらわからない。

そのため学校のほうでも行方不明として噂が広まっていた。

「噂によれば妹さんと一緒に居なくなったとか。無理心中とかしてなきゃいいけど」

「そんなに思いつめていたんですか?」

「よく何か考えてるようだったけど。夢中でやってた剣道をやめたくらいだから結構思いつめてたんじゃないかなぁ」

「剣道やってたんですか?」

初耳だった。

確かに一度戦った時は少し戦い慣れている———そんな風には思っていた。

「そうよ。ってか巴さん知らないの?蒼井くんって言えば神童って言われるくらい剣道がうまくて、中学校ころは大会に出たら必ず優勝してたんだから」

「そうだったんですか?」

彰もマミと同じ見滝原中の元生徒だ。

それだけの記録を残していたというのに全然知らなかった。

(私も魔法少女として戦ってばかりであまり周りが見えてなかったものね……)

戦ってばかりの中学時代を思い出し、マミは渇いた笑いを浮かべた。

「もし蒼井くんのこと、もう少し知りたいなら剣道部行ってみたら?」

「そうですね。そうします」

マミはお礼を言って頭をさげた。

「頑張ってね、巴さん!」

そして別れ際になぜかエールを送られた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話③ ( No.175 )
日時: 2012/06/11 11:14
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「あのー」

マミは恐る恐る剣道部の活動している道場の入り口をまたいだ。

「あ、マミさんじゃない!」

「中沢さん?」

同じクラスの女の子だった。

「剣道部のマネージャーしてたのね。良かったわ、知り合いがいて……」

「どうしたの?もしかしてマネージャー希望!?」

中沢(なかざわ)の問いにマミは苦笑いを浮かべて首を横に振った。

「ちょっと聞きたいことがあって———」

マミはそう言いかけたところでふと視線を活動中の男子に向けた。

「……」

もの凄く見られていた。

「気をつけてマミさん。こいつらケダモノだから」

耳元で中沢がささやいた。

「ケダモノって……」

「剣道一筋で女っ気に飢えてるのよ。マミさんみたいな美人、滅多に拝めないから……」

確かに只ならぬ力を感じた。

マミは心の中で早くここから出ようと決意した。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話④ ( No.176 )
日時: 2012/06/11 11:15
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「あのね、蒼井先輩のこと聞きたいの」

「え!?もしかしてマミさんも蒼井先輩のこと!!?」

「違うわよ。って、も?」

マミがそう突っ込むと中沢は顔を赤くした。

「ち、違うんだね。先輩のことなら鈴木先輩に聞くのがいいよ!」

中沢はそう言うと鈴木(すずき)に声をかけ、連れて来てくれた。

「彰のこと聞きたいって?」

「は、はい。ちょっと知り合いに蒼井先輩のこと気になっている子がいて。それで蒼井先輩のこともっと知りたいって頼まれちゃって……」

とりあえずそう取り繕った。

鈴木は特に疑うことも無く「そうなんだ」と返した。

「彰とは中学入ってからずっと剣道しててさ。まぁ、あいつ強すぎたから俺じゃ全然練習相手にならなかったんだけど……」

鈴木は悔しがる様子も無く、笑って答えた。

「あいつもともとは剣道じゃなくて居合いをやってたらしんだよね」

「居合い?」

「鞘に刀を納めた状態から切る技のことだよ。小学生の間は見滝原とは別のところに居たみたいで、確か鏡音(かがみね)道場だったかな?そこで長い間居合いをやってたんだって。んで、こっちに越してからは居合い道場なんて無いから、代わりに剣道始めたらしいんだ」

この街にきてから彰の人生は変わったといえる。

もしこの街に来なければ今も幸せに暮らしていたのかもしれない。

そう思うと何だか寂しい気持ちになった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話⑤ ( No.177 )
日時: 2012/06/11 11:15
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「居合いをやってた頃のあいつは知らないけどさ。剣道やってる時のあいつは輝いてた。嫉妬するくらいさ……。あんなに夢中だったのにその剣道もやめて、ましてや行方不明なんて———」

鈴木は表情を暗くした。

付き合いが長いため、色々思い出すこともあるのだろう。

「まぁあいつには明奈(あきな)ちゃんっていう妹がいたからな。明奈ちゃんは身体が弱いみたいで、ほとんど寝たきりだったんだけど、どうも余命宣告を受けてたらしい。あいつそれですっごい悩んでてなぁ。行方不明になった原因もそれなのかな……」

まどかから妹を救うために契約したらしいということは聞いた。

ここに来るまで何人かの人に彰の話を聞いたが、必ず出てくるのは妹想いの兄の姿だった。

それほどまでに大事にしていた妹が死ぬかもしれないとわかったら、悪魔に魂を売ってでも救いたいと願うだろう。

マミはそれからもう少し鈴木から話を聞くと、道場を後にした。

特に重大なことはわからなかった。

ただわかったのは、彰は自分達が思っていたものとは違っていたということだった。

彰を心配する友達もいる。

慕うものもいる。

そして何より妹想いなその姿は彰の人間性を如実に現している。

「きっと彼は道を踏み外してしまっただけだったのね」

マミはとりあえず帰ろう———そう思った時だった。

「!!」

ソウルジェムが淡く光った。

(魔女?この近くに?)

マミはソウルジェムが知らせる魔女の気配を追ってその場を後にした。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 3話① ( No.178 )
日時: 2012/06/13 13:27
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 魔女の気配を辿って到着したのはマミが通う高校の東側に位置する校舎の裏側だった。
 
 放課後ということもあり人気はない。
 
 マミは既に魔法少女姿に変身しており、いつでも戦える状況にあった。
 
 だが……。
 
「こ、これって魔女なの!?」
 
 目の前にいる異形の存在にマミはたじろいでしまった。
 
 マミの前にいるのは全身真っ白でローブに身を包んだ長身の人型の化け物だった。
 
 ソウルジェムは確かに反応しているが、どうも魔女という感じではない。
 
 魔女結界を展開させる様子もないし、魔女にしてはソウルジェムが感じ取る魔力の量も少ない。
 
 どちらかといえば使い魔に近い存在なのだろうか。
 
 だが直感的にこれは使い魔ではないと思った。
 
(あきらかに実体を持ってる……)
 
 魔女や使い魔は普通の人間には見えない。
 
 だがこいつは実体持っており、誰にでも視認できる。
 
 だとすれば何者なのか?
 
(可能性があるとすれば別の魔法少女の能力……)
 
 化け物がようやくマミの存在に気付いたようで雄たけびをあげた。
 
 そして化け物は口に何か力を溜め始めた。
 
「!!?」
 
 マミはとっさに上にジャンプした。
 
 化け物の口から吐き出された光線はマミのいた場所を抉り取った。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 3話② ( No.179 )
日時: 2012/06/13 13:29
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「なんて攻撃……。アニメに出てくる怪獣じゃないんだから」
 
 そう愚痴りながらマミは伸縮自在なリボンを化け物に向かって伸ばした。
 
 リボンは化け物に絡みつき、化け物の動きを封じた。
 
「敵意があるとわかったなら容赦しないわよ」
 
 マミの背後に無数のマスケット銃が出現した。
 
「悪いけど、決めさせて貰うわ!」
 
 マスケット銃が一斉に火を噴いた。
 
 放たれた弾丸は身動きの取れない化け物に容赦なく被弾し、化け物を言葉通り蜂の巣にした。
 
 マミはトドメの一撃を入れようと必殺技『ティロ・フィナーレ』の準備態勢に入った。
 
 だが化け物の口には再び力が溜められていた。
 
 もう動けるはずがない———そう思っていたマミは完全に不意を衝かれてしまっていた。
 
(今のままじゃ無傷で避けるのは……!!)
 
 諦めかけたそのときだった。
 
 突然化け物の頭が吹き飛んだ。
 
 そして化け物は溶ける様にして跡形も無く消えた。
 
「油断大敵ね……マミ」
 
「あ、暁美さん!!」
 
 マミの前に降り立ったのはショットガンを手に持った暁美ほむら(あけみ)だった。
 
「近くでヤツの気配を感じて来てみたらあなたが戦っていたから……。とりあえず無事でよかったわ」
 
 ほむらはそう言って微笑んだ。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 3話③ ( No.180 )
日時: 2012/06/13 13:30
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ありがとう……。でも一体あれは?」
 
 マミはほむらの横を抜け、化け物が居た場所に歩を進めた。
 
「魔女でも使い魔でもないわよね?」
 
「そうね。おそらく私たちの知らない魔法少女によるものね」
 
「やっぱりそうよね……」
 
 キュゥべぇが契約すればした数だけ魔法少女は増える。
 
 当然そうすればマミたちの知らない魔法少女だっているのだ。
 
「だとすれば、ずいぶんひねくれた子なのね……」
 
 マミは思わずそう愚痴った。
 
「どうしてそう思うの?」
 
「え?」
 
 意外にもほむらがそれに反応した。
 
「だってそうじゃない?こんな危ないものを野放しにしているんだもの」
 
「……」
 
 ほむらは肯定するわけでも否定するわけでもなく、無言でマミを見つめた。
 
「暁美さんがこんなこと気にかけるなんて珍しいわね。何か心当たりでもあるの?」
 
 マミがそう言い終わったときには先ほどまで目の前に居たはずのほむらが居なくなっていた。
 
「あけ———」
 
 突然強い衝撃が頭を貫いた。
 
 視界が歪み、意識が遠のいていく。
 
「あなたには関係のないことよ」
 
 ふとそうほむらの声が聞こえた。
 
 マミは最後の力を振り絞ってほむらを見た。
 
 ほむらの手にはハンドガンが握られていた。
 
 マミはハンドガンのグリップで殴られたという答えにすぐ行き着いた。
 
「な……んで?」
 
 ほむらは何も答えなかった。
 
 マミはそのまま暗闇へと落ちていった。