二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 1話① ( No.171 )
- 日時: 2012/06/11 11:09
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
鹿目(かなめ)まどかはいつの間にか見知らぬ場所に迷い込んでいた。
不安げな表情を浮かべて立ち止まり、ただ呆然と周りを見渡すことしか出来なかった。
「どうして……」
思わずそう口から漏れた。
無理も無いことだった。
なにせまどかはいつもと同じ通学路を通って帰宅する途中だったのだから。
三年も通った道を間違えるはずなど無いし、ましてやまどかの見知らぬ場所などこの辺りには無かったはずだった。
まどかは無闇やたらに動くのは良くないとわかってはいたが、今いるトンネルの中が異様に不気味で怖かった。
そのためとりあえずここから出たいと思い、早足でトンネルを抜けた。
トンネルの先はなぜか噴水広場だった。
車も通れるほどの大きさのトンネルの先が噴水広場という世界構成の滅茶苦茶なこの空間の正体に対し、まどかはある一つの答えを導き出そうとしていた。
「これって魔女結界……」
当然魔法少女でないまどかに魔女の気配を感じ取ることは出来ない。
そのためいつの間にか迷い込んでいた———なんてことは普通にありえる。
「ここは魔女結界ではありませんよ」
「!!」
背後から聞こえた声にまどかは声無き悲鳴をあげた。
「驚かしてしまい、申し訳ありません」
声の主は初老の男性だった。
服装を見る限りではお屋敷の執事という感じだった。
「わたくしはクロードと申します。とあるお屋敷に住まう主に仕えております」
クロードは手を胸に当てて一礼した。
「失礼ながら……あなた様のお名前は鹿目まどか様でよろしかったでしょうか?」
まどかはとても場違いなクロードの存在に戸惑いながらも、首を縦に振ってその質問に答えた。
「そうですか。人違いでなくて良かった」
クロードは笑顔でそう言った。
「あの……ここは一体……」
「あぁ、ここですか?ここは結界の中です」
まどかは前に出会った叶(かなえ)ゆかりのことを思い出した。
ゆかりも自身の魔法で結界を作り、その中で行動していた。
それと同じ類のものなのだろうか。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 1話② ( No.172 )
- 日時: 2012/06/11 11:10
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あなたと二人だけでお話がしたいと思いまして。ご迷惑かとは思いましたがここに呼ばせていただきました」
「私と……?」
クロードは頷いた。
そして懐から砂時計を取り出した。
取り出された砂時計は既に砂が落ちており、幾分かの時を刻んでいることがわかった。
「この砂時計はちょうど三日の時を刻めるように設定されております。見ての通りすでにその三日の時は始まっております」
クロードは砂時計を手から離した。
砂時計は落ちることなく宙に浮いていた。
「何の時かと言いますと……」
クロードは笑顔のまま、まどかを見つめた。
「まどか様、あなたの命が終わるまでの時間でございます」
「え……?」
まどかは何を言われたのかまったく理解できなかった。
命が無くなる?
つまり死ぬということか?
「突然このようなことを言われてもピンときませんよね。もう少し詳しく申しますと、わたくしがあなた様を契約させ、その力を奪うのがちょうど三日後———ということです」
「契約?力を奪う?」
そう言われてもやはりわからなかった。
クロードの目的がまるで見えてこないのだ。
ただかつて蒼井彰(あおいあきら)が欲したように、まどかの秘めた才能は必要な者からすれば喉から手が出るほど欲しい力ということは理解している。
「わたくしはあらゆる手を使ってこの三日後、あなた様を契約に導きます。ですからまどか様……残りの時間を大切に過ごされるようお願いします」
クロードは再び一礼をした。
そしてクロード共々、空間がぐにゃりとゆがみ始めた。
「ちょっと待って!!」
まどかが呼び止める声も空しく、空間は消え去り、いつも見ている景色へと帰った。
「そんな……私、どうしたら」
『残りの時間を大切に』
クロードはそうまどかに言った。
だが胸の中に漂う不安はそんなことを考える余裕など与えてくれそうに無かった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話① ( No.173 )
- 日時: 2012/06/11 11:11
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
放課後。
巴(ともえ)マミは自身が通う見滝原高校の2年生の教室の前にいた。
「お待たせ、巴さん」
「いえ、こちらこそ時間を作って貰っちゃって……。ありがとうございます、高科先輩」
高科(たかしな)はマミの一つ上の先輩で、中学生の頃から少しだが交流があった。
「それで聞きたいことって何?」
「あの……蒼井先輩のことなんですけど」
「蒼井?もしかして蒼井彰?」
高科がそう聞き返すとマミはそれに対し頷いた。
ワルプルギスの夜のあとに起きた大きな出来事と言えば蒼井彰(あおいあきら)の事件だ。
もしこれから何か起きるのだとすれば、あの事件も無関係ではないかもしれない。
そう考えたマミは発端とも言える蒼井彰のことを少し調べておこうと思ったのだ。
「ははーん」
高科はそんなマミの考えとは裏腹に思わぬことを考えているようだった。
そしてその内容は高科の表情から簡単に読み取れた。
「あの……別に特別な感情とかないですから」
マミは一応そう弁明した。
「まぁまぁ。蒼井くんは成績優秀、スポーツ万能、しかも中々イケメンで誰隔てなく優しい完璧超人だからねぇ。ライバル多いよー」
まるで高科はマミの弁明を聞き入れていなかった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話② ( No.174 )
- 日時: 2012/06/11 11:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「でも蒼井くんは極度のシスコンだからね。彼女作る気なんて無いと思うし……それに今行方不明だしね」
「行方不明……」
その最後を見たのは後輩の鹿目(かなめ)まどかだけだ。
生きているのか死んでいるのか、それすらわからない。
そのため学校のほうでも行方不明として噂が広まっていた。
「噂によれば妹さんと一緒に居なくなったとか。無理心中とかしてなきゃいいけど」
「そんなに思いつめていたんですか?」
「よく何か考えてるようだったけど。夢中でやってた剣道をやめたくらいだから結構思いつめてたんじゃないかなぁ」
「剣道やってたんですか?」
初耳だった。
確かに一度戦った時は少し戦い慣れている———そんな風には思っていた。
「そうよ。ってか巴さん知らないの?蒼井くんって言えば神童って言われるくらい剣道がうまくて、中学校ころは大会に出たら必ず優勝してたんだから」
「そうだったんですか?」
彰もマミと同じ見滝原中の元生徒だ。
それだけの記録を残していたというのに全然知らなかった。
(私も魔法少女として戦ってばかりであまり周りが見えてなかったものね……)
戦ってばかりの中学時代を思い出し、マミは渇いた笑いを浮かべた。
「もし蒼井くんのこと、もう少し知りたいなら剣道部行ってみたら?」
「そうですね。そうします」
マミはお礼を言って頭をさげた。
「頑張ってね、巴さん!」
そして別れ際になぜかエールを送られた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話③ ( No.175 )
- 日時: 2012/06/11 11:14
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あのー」
マミは恐る恐る剣道部の活動している道場の入り口をまたいだ。
「あ、マミさんじゃない!」
「中沢さん?」
同じクラスの女の子だった。
「剣道部のマネージャーしてたのね。良かったわ、知り合いがいて……」
「どうしたの?もしかしてマネージャー希望!?」
中沢(なかざわ)の問いにマミは苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「ちょっと聞きたいことがあって———」
マミはそう言いかけたところでふと視線を活動中の男子に向けた。
「……」
もの凄く見られていた。
「気をつけてマミさん。こいつらケダモノだから」
耳元で中沢がささやいた。
「ケダモノって……」
「剣道一筋で女っ気に飢えてるのよ。マミさんみたいな美人、滅多に拝めないから……」
確かに只ならぬ力を感じた。
マミは心の中で早くここから出ようと決意した。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話④ ( No.176 )
- 日時: 2012/06/11 11:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あのね、蒼井先輩のこと聞きたいの」
「え!?もしかしてマミさんも蒼井先輩のこと!!?」
「違うわよ。って、も?」
マミがそう突っ込むと中沢は顔を赤くした。
「ち、違うんだね。先輩のことなら鈴木先輩に聞くのがいいよ!」
中沢はそう言うと鈴木(すずき)に声をかけ、連れて来てくれた。
「彰のこと聞きたいって?」
「は、はい。ちょっと知り合いに蒼井先輩のこと気になっている子がいて。それで蒼井先輩のこともっと知りたいって頼まれちゃって……」
とりあえずそう取り繕った。
鈴木は特に疑うことも無く「そうなんだ」と返した。
「彰とは中学入ってからずっと剣道しててさ。まぁ、あいつ強すぎたから俺じゃ全然練習相手にならなかったんだけど……」
鈴木は悔しがる様子も無く、笑って答えた。
「あいつもともとは剣道じゃなくて居合いをやってたらしんだよね」
「居合い?」
「鞘に刀を納めた状態から切る技のことだよ。小学生の間は見滝原とは別のところに居たみたいで、確か鏡音(かがみね)道場だったかな?そこで長い間居合いをやってたんだって。んで、こっちに越してからは居合い道場なんて無いから、代わりに剣道始めたらしいんだ」
この街にきてから彰の人生は変わったといえる。
もしこの街に来なければ今も幸せに暮らしていたのかもしれない。
そう思うと何だか寂しい気持ちになった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 2話⑤ ( No.177 )
- 日時: 2012/06/11 11:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「居合いをやってた頃のあいつは知らないけどさ。剣道やってる時のあいつは輝いてた。嫉妬するくらいさ……。あんなに夢中だったのにその剣道もやめて、ましてや行方不明なんて———」
鈴木は表情を暗くした。
付き合いが長いため、色々思い出すこともあるのだろう。
「まぁあいつには明奈(あきな)ちゃんっていう妹がいたからな。明奈ちゃんは身体が弱いみたいで、ほとんど寝たきりだったんだけど、どうも余命宣告を受けてたらしい。あいつそれですっごい悩んでてなぁ。行方不明になった原因もそれなのかな……」
まどかから妹を救うために契約したらしいということは聞いた。
ここに来るまで何人かの人に彰の話を聞いたが、必ず出てくるのは妹想いの兄の姿だった。
それほどまでに大事にしていた妹が死ぬかもしれないとわかったら、悪魔に魂を売ってでも救いたいと願うだろう。
マミはそれからもう少し鈴木から話を聞くと、道場を後にした。
特に重大なことはわからなかった。
ただわかったのは、彰は自分達が思っていたものとは違っていたということだった。
彰を心配する友達もいる。
慕うものもいる。
そして何より妹想いなその姿は彰の人間性を如実に現している。
「きっと彼は道を踏み外してしまっただけだったのね」
マミはとりあえず帰ろう———そう思った時だった。
「!!」
ソウルジェムが淡く光った。
(魔女?この近くに?)
マミはソウルジェムが知らせる魔女の気配を追ってその場を後にした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 3話① ( No.178 )
- 日時: 2012/06/13 13:27
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
魔女の気配を辿って到着したのはマミが通う高校の東側に位置する校舎の裏側だった。
放課後ということもあり人気はない。
マミは既に魔法少女姿に変身しており、いつでも戦える状況にあった。
だが……。
「こ、これって魔女なの!?」
目の前にいる異形の存在にマミはたじろいでしまった。
マミの前にいるのは全身真っ白でローブに身を包んだ長身の人型の化け物だった。
ソウルジェムは確かに反応しているが、どうも魔女という感じではない。
魔女結界を展開させる様子もないし、魔女にしてはソウルジェムが感じ取る魔力の量も少ない。
どちらかといえば使い魔に近い存在なのだろうか。
だが直感的にこれは使い魔ではないと思った。
(あきらかに実体を持ってる……)
魔女や使い魔は普通の人間には見えない。
だがこいつは実体持っており、誰にでも視認できる。
だとすれば何者なのか?
(可能性があるとすれば別の魔法少女の能力……)
化け物がようやくマミの存在に気付いたようで雄たけびをあげた。
そして化け物は口に何か力を溜め始めた。
「!!?」
マミはとっさに上にジャンプした。
化け物の口から吐き出された光線はマミのいた場所を抉り取った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 3話② ( No.179 )
- 日時: 2012/06/13 13:29
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「なんて攻撃……。アニメに出てくる怪獣じゃないんだから」
そう愚痴りながらマミは伸縮自在なリボンを化け物に向かって伸ばした。
リボンは化け物に絡みつき、化け物の動きを封じた。
「敵意があるとわかったなら容赦しないわよ」
マミの背後に無数のマスケット銃が出現した。
「悪いけど、決めさせて貰うわ!」
マスケット銃が一斉に火を噴いた。
放たれた弾丸は身動きの取れない化け物に容赦なく被弾し、化け物を言葉通り蜂の巣にした。
マミはトドメの一撃を入れようと必殺技『ティロ・フィナーレ』の準備態勢に入った。
だが化け物の口には再び力が溜められていた。
もう動けるはずがない———そう思っていたマミは完全に不意を衝かれてしまっていた。
(今のままじゃ無傷で避けるのは……!!)
諦めかけたそのときだった。
突然化け物の頭が吹き飛んだ。
そして化け物は溶ける様にして跡形も無く消えた。
「油断大敵ね……マミ」
「あ、暁美さん!!」
マミの前に降り立ったのはショットガンを手に持った暁美ほむら(あけみ)だった。
「近くでヤツの気配を感じて来てみたらあなたが戦っていたから……。とりあえず無事でよかったわ」
ほむらはそう言って微笑んだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 1日目 3話③ ( No.180 )
- 日時: 2012/06/13 13:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ありがとう……。でも一体あれは?」
マミはほむらの横を抜け、化け物が居た場所に歩を進めた。
「魔女でも使い魔でもないわよね?」
「そうね。おそらく私たちの知らない魔法少女によるものね」
「やっぱりそうよね……」
キュゥべぇが契約すればした数だけ魔法少女は増える。
当然そうすればマミたちの知らない魔法少女だっているのだ。
「だとすれば、ずいぶんひねくれた子なのね……」
マミは思わずそう愚痴った。
「どうしてそう思うの?」
「え?」
意外にもほむらがそれに反応した。
「だってそうじゃない?こんな危ないものを野放しにしているんだもの」
「……」
ほむらは肯定するわけでも否定するわけでもなく、無言でマミを見つめた。
「暁美さんがこんなこと気にかけるなんて珍しいわね。何か心当たりでもあるの?」
マミがそう言い終わったときには先ほどまで目の前に居たはずのほむらが居なくなっていた。
「あけ———」
突然強い衝撃が頭を貫いた。
視界が歪み、意識が遠のいていく。
「あなたには関係のないことよ」
ふとそうほむらの声が聞こえた。
マミは最後の力を振り絞ってほむらを見た。
ほむらの手にはハンドガンが握られていた。
マミはハンドガンのグリップで殴られたという答えにすぐ行き着いた。
「な……んで?」
ほむらは何も答えなかった。
マミはそのまま暗闇へと落ちていった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 1話① ( No.181 )
- 日時: 2012/06/13 13:31
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(今日もほむらちゃんはお休み……。何かあったのかな)
鹿目(かなめ)まどかは座る者のいない席を自席から見た。
昨日も暁美(あけみ)ほむらは学校に来なかった。
まどかからほむらに電話してみたのだが、ほむらはでなかった。
まどかは休み時間になると友人の美樹(みき)さやかと人気のない場所に移った。
「ほむらのやつどうしたのかなぁ」
さやかがそう言うとまどかは視線を落とした。
「今朝も一応メールしてみたんだけどまだ返事ないし……。何か危険な目にあったりしてないかな?」
「ほむらに限って魔女にやられるなんてことないだろうけど……。まどかからの連絡を無視してるってのが気にかかるのよね」
ほむらが人一倍まどかを思っていることは知っている。
だからこそまどかからの連絡に対し、何の返事もしないことにさやかも違和感を感じていた。
「放課後、ほむらの家に行ってみようか?」
「うん……」
さやかの提案にまどかは頷いた。
そして休み時間が終わりに近づいていることに気づいたさやかに促され、まどかは自分の教室に向かった。
教室に戻る間、まどかはクロードに言われたことを思い出した。
『あらゆる手段を使って———』
(それって皆を巻き込んでってことじゃ……。だとしたらほむらちゃんも———)
最悪の状況が頭に浮かんだ。
まどかは首を振ってそれをかき消した。
今日は文化祭が近いこともあり、授業が早めに切り上げられる。
準備の参加自体は個人の自由であり、支障がなければ帰宅しても良いことになっている。
クラスの者に用事があるからと断れば早めに学校をでることも可能だろう。
(早くほむらちゃんの無事を確認したい……)
ざわめく心を押さえつけながらまどかはその日の授業をこなしていった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 1話② ( No.182 )
- 日時: 2012/06/13 13:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
放課後、まどかとさやかの二人はほむらの自宅の前に来ていた。
さやかが二度ほどチャイムを鳴らしたが、いっこうに出てくる様子は無かった。
「やっぱいないか……。なんか人気もないしね」
さやかはため息をついた。
まどかは淡い期待も届かず、ほむらに会えなかったことに気を落とした。
「だ、大丈夫だって。ほむらにだって色々あるんだよ、きっとさ!」
落ち込むまどかに慌ててさやかはフォローを入れた。
まどかは力なく頷くだけであまり効果は無いようだった。
さやかは頭を掻いて「うーん」と唸った。
「こうなったら手当たり次第探すかぁ」
「え?」
さやかは自分のソウルジェムを取り出した。
「魔法少女なら魔法少女を追えるんじゃないかな?あとは前にマミさんがしたみたいにキュゥべぇを使って探してもいいし」
「そっか!それなら探せるかもっ」
まどかはさやかの考えに目を輝かせた。
そんなまどかを見てさやかは内心ホッとした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 1話③ ( No.183 )
- 日時: 2012/06/13 13:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「じゃあマミさんと杏子にも声かけて探してみるよ。まどかはほむらから連絡あるかもしれないから、家で待ってて」
まどかはそうさやかに言われて素直に「うん」と言えなかった。
もしほむらがクロードに何かされて居なくなったのだとすれば、それは同じ仲間であるマミたちにも及ぶ可能性がある。
そう考えると、このまま行かせてしまうのは自殺行為のような気がしてならなかった。
(やっぱり皆に話したほうが……)
まだほむらのことがクロードの仕業と決まったわけではない。
今の状態でクロードに言われたことを話せば、余計な心配をかけさせてしまう。
そうすれば間違いなくまた傷つく人が出てきてしまうだろう。
かと言って、被害が出てからでは遅いのも事実だ。
「マミさん、電話出ないなぁー。普通に考えたら授業中か……。とりあえず杏子と探しに行ってくるよ」
「さ、さやかちゃんっ!」
「ん?」
「えっと、その……」
まどかは胸の前で手をモジモジさせながら言うべき言葉を捜した。
「大丈夫だって。あたしと杏子がやられるわけないじゃん」
さやかはまどかが自分達を心配しているのだろう———そう思って明るく返した。
「ま、だから大船に乗ったつもりで、このさやかちゃんの帰りを待っててくださいなっ」
さやかは魔法少女に変身すると風のごとく駆け抜けて行った。
「さやかちゃん……うぅ」
結局何も言い出せなかったことに胸が痛んだ。
(こんなどっちつかずの気持ちじゃ、また皆を傷つけちゃうよ……)
まどかは携帯の画面を確認した。
やはりほむらからの連絡はない。
まどかはため息をついてとりあえずさやかに言われたとおり自宅で連絡を待つことにした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 2話① ( No.184 )
- 日時: 2012/06/14 09:56
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
鹿目(かなめ)まどかが暁美(あけみ)ほむらの自宅から離れていく姿を少し離れたマンションの屋上から蒼井彰(あおいあきら)は見ていた。
(まどかちゃん……。心配だろうな)
まどかとほむらの絆の深さは実際に見てよく知っている。
だから今のまどかの心境がなんとなく彰にもわかった。
彰はまどかのあとをずっと追っていた。
以前に出会った【概念】の口ぶりから、まどかを狙っている可能性は高い。
そう考えていた矢先、得たいの知れない化け物がこの街を徘徊するようになった。
これらもすべてまどかに向けられたものだとするならば、まどかを追っていけばその原因にたどり着くことが出来るかもしれない。
同時にまどかを守ることも出来る。
そう思ってここまでやってきたのだが、まさかほむらが行方不明になっているとは思いもしなかった。
彰はほむらに対して償いきれない過ちを犯している。
故にまどかと同等にほむらのことも気にかけていた。
「なぁ、千里」
「呼びましたー?」
彰の自称弟子である綾女千里(あやめちさと)は、ポテトチップスを咥えたまま彰に振り向いた。
「千里の魔法でほむらちゃんを探せないかな?」
「そりゃー探せますけど……。あの人感じ悪いんでちーは嫌いだなぁ」
嫌そうな、めんどくさそうな表情を浮かべて千里は文句を言った。
「マスターが頼んでいるんです。やってあげたらどうですか?あ、上がりです」
「あー!ちーが見てない間にすり替えたでしょ!」
千里はトランプを地面に叩きつけて同じく自称弟子の楢咲双樹(たるさきそうじゅ)に詰め寄った。
「そんなことアナタじゃあるまいし……」
「きぃぃぃぃ!!」
緊張感の無い二人に彰はため息をついた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 2話② ( No.185 )
- 日時: 2012/06/14 09:57
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「なぁ、二人とも……。一応弟子って自称してるくらいなんだから、俺に強力してくれよ」
「しないなんて言ってないじゃないですかー。ちーは大好きなししょーのために何でもやっちゃいますよ」
千里の言葉に双樹も頷いて同意した。
千里は残りのポテトチップスを口の中に注ぎ込むと、衣服に付いたゴミをはたいて立ち上がった。
「さーて!今日もギョロちゃん頼むよ!」
千里は先端に大きな目玉の付いた見た目グロテスクな杖を出現させた。
ギョロちゃんという名のとおり、先端についた目玉はギョロギョロと忙しく動いていた。
千里は杖を自分の少し前方の地面に立て、手を離した。
杖は魔法の力で倒れることなくその場に固定された。
先端の目玉からオレンジ色のレーザーのような光線が放たれると、光線は物凄いスピードで何かを描き始め、それはやがて地図となった。
そして地図上に白い点が浮かび上がり、その点はゆっくりと動き出した。
このようにしてGPS端末のように、千里が一度見た人物を追跡することが出来る。
これが彰が千里眼と呼ぶ千里の魔法である。
「どうやらほむらって人はここにいるみたいだね」
「そんなに遠くないな。行って見よう」
彰がそう言うと千里はギョロちゃんを消して、「はーい」とやはり緊張感の無い声で返事した。
対して双樹は黙って頷いた。
彰は二人の同意を取ると目的の場所へと向かった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 3話① ( No.186 )
- 日時: 2012/06/14 09:58
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
美樹(みき)さやかは鹿目(かなめ)まどかと別れたあと、佐倉杏子(さくらきょうこ)とキュゥべぇと合流した。
合流したさやかは杏子に暁美(あけみ)ほむらの行方がわからなくなったことを話した。
「ほむらもか?」
「も?」
杏子の意外な返事にさやかは間の抜けた返事を返した。
「マミのやつも昨日から連絡がつかないんだよ。それでアタシもこいつに聞いてみようかと思ってさ」
杏子は表情一つ変えずにたたずむキュゥべぇを横目で見て言った。
「ほむらとの連絡がつかなくなったのも昨日……。なんかやばくない?」
「……だな。こりゃただ事じゃないかもな」
巴(ともえ)マミもほむらも簡単にやられるような相手ではない。
それを充分知っているからこそ、杏子は内心不安を感じていた。
「キュゥべぇの話によると二人とも生きてはいるらしい」
「じゃあ捕まってるってこと?」
さやかが杏子に向かってそう聞くと代わりにキュゥべぇが答えた。
「ほむらに関しては居場所はわかってるんだ。マミはソウルジェムの気配自体は感じるんだけど、なぜか場所がわからないんだ」
「それってほむらは無事ってことなんだよね?」
さやかはキュゥべぇと杏子を交互に見た。
杏子はお手上げのポーズをし、キュゥべぇは首をかしげた。
「わかんねー。でもまぁ、ほむらに聞けば何かわかるかもな」
「そうだね。今ある手がかりといえばほむらしか居ない。杏子の考えにボクは賛成だね」
さやかも頷いて杏子に同意した。
「ほむらの居場所ならわかるよ。ついてきて!」
キュゥべぇが先頭を切って走り出す。
二人はそのあとを追っていった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 3話② ( No.187 )
- 日時: 2012/06/14 09:58
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
さやかたちがほむらの元にたどり着いたとき、ほむらは戦闘中だった。
白いローブに身を包んだ長身の人型の化け物が二体。
黒いローブに身を包んだのが一体。
計三体の化け物がほむらを襲っていた。
「杏子!」
「わかってるよ!」
杏子は自身の分身を二人作り出し、白い化け物に一斉攻撃を仕掛けた。
そしてそれとほぼ同時に、さやかはもう一体の白い化け物に切りかかった。
「ほむら!大丈夫か!?」
杏子がほむらにそう声をかけると、一瞬驚いた表情を浮かべ、しかしすぐに真剣な眼差しに戻ると小さく頷いた。
「よしっ。じゃあ、さっさと片付けちまおーぜ!」
杏子は分身たちとの総攻撃で化け物の四肢を破壊した。
「杏子!そいつの額についている石を破壊して!でないとまた復活するわ!」
「わかった!」
ほむらの助言に杏子は間髪いれずに行動した。
分身で化け物をかく乱させ、隙が出来た額に杏子は狙いを定めた。
そして勢いをつけ、そのまま槍で化け物の額を貫いた。
化け物は額を貫かれた瞬間ドロドロに溶け、そして消滅した。
「いっちょあがり!」
杏子は二人の手助けをしようと二人の様子を伺った。
『おおおお!』
ちょうどさやかがもう一体の白い化け物の額の石を砕き、倒したところだった。
「やるじゃん」
「なめて貰っちゃ困るわよ!なんてね」
さやかと杏子は目配せして笑みを浮かべた。
そして二人はすぐにほむらのほうに加勢した。
「ほかの二体は雑魚よ。こいつが中ボスってところかしら」
黒い化け物は向かってくることも無く、三人を見下ろしていた。
「こいつは白い奴と基本的な行動パターンは同じだけど、力やスピード、知性が数段上よ」
ほむらの解説を聞き終わると、杏子はニヤリと笑みを浮かべた。
「上等だ。どっちが格上か思い知らせてやろうじゃん」
ほむらとさやかは杏子の言葉に頷いた。
「いくぞ!」
杏子が飛び掛った。
二人もそれに続くように空へと飛び上がった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話① ( No.188 )
- 日時: 2012/06/15 12:48
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
黒い化け物は飛び掛ってきた杏子(きょうこ)に反応し、拳を振り上げてきた。
杏子はそれを難なく避け、横目でほむらとさやかの様子を伺った。
敵を倒すことだけを考えるなら、ほむらが時間停止をして爆弾あたりで一気に決めるのが手っ取り早い。
だがこの敵はどうも魔女や使い魔といった類ではないようで、実体を持っているのだ。
そのため現在繰り広げているこの戦闘も、結界の中で行われているわけではない。
結果内であれば人に見られる心配も、危害が加わる心配もない。
だが現実世界で戦闘をしている以上、爆弾や銃を使ったりするのは周りの被害や音からも警察沙汰になりかねない。
ほむらが今まで攻撃に転じられないのはそれも関係しているのだろう。
(あとは何か危険性がないかどうかも探ってるのかもな)
時間停止しさえすれば爆弾は使えなくとも、弱点を一点集中で狙い撃ちすることも可能なはずだ。
それをしないのはさっき倒した二体とはレベルが違うと言ったように、何か特別な力などを秘めていた場合に逆にやられる可能性があるためだ。
ほむらは前の蒼井彰(あおいあきら)との戦いで時間停止の魔法を破られ、やられている。
その例もあって警戒しているのだろう。
(慎重になるのも仕方ないか。早いとここいつの攻撃パターンを把握しないと……)
そう思った矢先、黒い化け物の背中から二本の触手が現れた。
それは鞭のようしなりながら、杏子とさやかを襲った。
「ちょっ!そりゃ反則でしょ!」
さやかが紙一重で避けつつ愚痴をこぼした。
「人気の無いところだからってこれ以上長引くとまずいぞ。邪魔なのが増えたらやりずらい!」
避けながら杏子はさやかにそう言った。
「数多い相手ならアンタのほうが得意でしょ!」
さやかは先ほど杏子がやって見せた『ロッソ・ファンタズマ』のことをさして言った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話② ( No.189 )
- 日時: 2012/06/15 12:49
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ありゃ結構魔力使うんだよ!そう連発できないんだよ!!」
杏子は襲ってきた触手を切り裂いた。
だが触手は切ったそばからすぐに再生してしまった。
杏子はその様子を見て舌打ちをしてさやかとほむらのほうに駆け寄った。
「埒あかねーぞ。どうする?」
杏子がそう呟くとほむらがそれに対し口を開いた。
「私が囮になるわ。その隙にヤツの弱点を狙って」
今、厄介なのは自由自在に動き回る二本の触手だ。
弱点と思われる場所を攻撃し、何が起こるかわからないが、今は一か八かに賭けたほうがむしろ良い時かもしれない。
「大丈夫なの?結構すばやいよ」
「心配ないわ。時を止めながらなら充分よけられる」
さやかの心配にほむらは笑みを浮かべて言った。
「よし、じゃあその作戦で行こう。アタシとさやかで危ないと思った時は援護するよ」
「頼むわ。それじゃあ行くわよ!」
ほむらはサイレンサーの付いた拳銃を盾から取り出すと、黒い化け物に向かって駆けて行った。
杏子とさやかはお互いに黒い化け物に気付かれないように移動し、挟み撃ちになるように動いた。
黒い化け物は、どうやらほむらのことしか頭に無いようで、ほむらを執拗に攻めていた。
ほむらはそれを能力を駆使しながら避け続けた。
一本の触手がほむらを襲いに行った。
ほむらはそれを時を止めて避けた。が———。
「!!」
能力を解除するタイミングを狙っていたのか、丁度いい位置にもう一本の触手が迫っていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話③ ( No.190 )
- 日時: 2012/06/15 12:49
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ほむらはそれを間一髪で避け、幸い髪の毛をかすった程度すんだ。
だが無理やり避けたため不自然な体勢となり、身動きが取り辛くなってしまった。
そこを狙い、黒い化け物の手がほむらを捕まえた。
「うぐっ!」
大きな手に捕まってしまい、まったく抜け出せなかった。
黒い化け物は両手でほむらを包み、完全に動きを封じると触手で狙いを定めた。
「ま、まずい!」
もがくが一向に抜け出せない。
触手がビクビクっと動いた。
動いたと思ったら、触手はだらんと力を失い、溶け落ちていった。
『おおおお』
そして次々と黒い化け物に身体は溶けていき、最後には跡形も無くなった。
解放されたほむらは一息つきながら着地した。
「大丈夫か?」
杏子が駆け寄ってきた。
逆方向からさやかも近寄ってくる。
ほむらは二人を見て頷いた。
「問題ないわ。髪をかすっただけ……。髪は伸びるし、リボンくらい幾らでも替えはあるわ」
「そうか、それならよかった」
杏子はほむらの言葉を聞いて安心すると、武器をしまった。
だがさやかは武器をしまうところか、それをほむらに向けた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話④ ( No.191 )
- 日時: 2012/06/15 12:50
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「お、おい!何やってるんだよ、さやか!」
杏子は思わぬさやかの行動に珍しく動揺していた。
剣を向けられたほむらの表情は相変わらずのポーカーフェイスだったが。
「あんた……ほんとにほむら?」
さやかは突然意味不明なことを言った。
「見てわからないかしら?」
見た目では誰が見てもほむら本人だ。
だがさやかが引っかかったのはある言葉だった。
「あんたさ、『リボンくらい幾らでも替えはあるわ』って言ったよね?」
「それがどうかした?」
「普通のほむらならありえないのよ。だってそれ、まどかがプレゼントしたものじゃない」
さやかがそう言ったところで杏子も思い出した。
今、ほむらが髪を結ぶのに使っていたリボンは、昨年のクリスマスにまどかがほむらにプレゼントしたものだった。
そしてそれを異常なほど大事にしていたことも思い出した。
「普段のアンタならありえない。アンタ何者!」
さやかが戦闘体勢をとった。
「ふふ。美樹さやか……意外と鋭いわね」
ほむらがそう言い終わった時にはすでにさやかの前にほむらは居なかった。
時間を止めた。
そうさやかが認識した時には杏子が気絶し、倒れようとしていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話⑤ ( No.192 )
- 日時: 2012/06/15 12:50
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「き、杏子!ほむら、あんた!」
ほむらの目的がまるでわからない今、自分たちの動きを封じるためなのか、命を奪うことが目的なのか———そのどちらかでどう行動するべきか判断は分かれた。
ただ動きを封じるだけならば、さやかがとるべき行動はほむらを一旦倒すこと。
だがもし命を奪うことが目的ならば、気を失っている杏子は絶好の標的だ。
今杏子を助けられるとすればそれはさやかしか居ない。
どうするべきかという選択肢。
さやかはまったく迷うことなく、杏子の元に向かった。
もし杏子が気を失っていなければ、間違いなく自分に構うなと言ってくるだろう。
確かに全滅するより、一人の犠牲で敵を倒せるのならそれば最善の策なのかもしれない。
(だからって友達を見捨てられるわけないでしょ!)
さやかは敵を倒した先の未来よりも、友達を救うという現在を選んだ。
「愚策ね……さやか」
「っ!!?」
さやかの身に強い衝撃が走った。
グラグラっと視界が歪む。
「友達も救えないで……未来なんか救えるわけ……ないでしょ」
さやかはそう言い残して、杏子の上に倒れこむようにして気を失った。
「……」
ほむらは気絶した二人を光のない目でただ見つめていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話① ( No.193 )
- 日時: 2012/06/19 10:10
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
蒼井彰(あおいあきら)は佐倉杏子(さくらきょうこ)と美樹(みき)さやかの二人を背負ってその場を後にする暁美(あけみ)ほむらの姿を離れたところから見ていた。
「ししょー……これって修羅場?」
綾女千里(あやめちさと)は仲間同士が争う光景を目にして青ざめていた。
「信じられない……ほむらちゃんがあんなことをするなんて」
目の前で起きた出来事が彰もまだ信じられなかった。
「間違いなくほむらちゃんなんだよな?」
彰はそう千里に聞いた。
「記録している魔力の反応から本人だと思うんですけど……」
千里の千里眼は一度見たものしか追えない。
正確には見たものの魔力を記録して追う魔法のため、姿かたちが同じでもその者が持つ魔力が異なれば追うことは出来ない。
「マスター、助けなくていいのですか?」
これまで黙っていた楢咲双樹(たるさきそうじゅ)が連れ去れて行く杏子とさやかを指して言った。
「今は助けない。あの様子なら命を捕ろうとしているわけでは無さそうだしね。なら後を追って少しでも手がかりを掴もう」
それに彰はほむらがこのような行為をしたことに納得がいっていなかった。
(何か理由があるのか……それとも操られているのか)
真意を確かめたい———この気持ちが一番大きかった。
「気付かれないギリギリの範囲で追おう。千里は一応能力で監視しておいてくれ」
「はいさー」
彰たち三人は、ほむらの追跡を開始した。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話② ( No.194 )
- 日時: 2012/06/19 10:11
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ししょー、反応が離れていきます」
「よし……」
千里の展開した地図からほむらの反応を示す点が離れていく。
彰はそっと壁から様子を伺った。
彰たちがほむらを追ってたどり着いたのは開発途中で放置された小さなホテルだった。
この辺りの開発は鷺宮(さぎみや)という政治家が推し進めていたと聞いたことがある。
だがその政治家はだいぶ前に汚職問題が露呈したことで自殺した。
結果として開発途中で話が無くなってしまい、かといって取り壊す金もない為に放置された建物が割りと多い。
(身を隠すにはうってつけだな)
「ししょー、もう大丈夫だと思います」
「じゃあ、中に入ってみよう。千里はここで待ってて」
「えー!いやだぁ!」
彰がそう言うと千里は駄々をこね始めた。
「こんなとこにちー一人じゃ怖いよぉ」
「怖いって……魔女と戦ってるくせにお化けが怖いのか?」
「魔女は魔女で怖いし、お化けはお化けで怖いんです〜」
千里は瞳を潤ませながら彰にしがみついた。
千里は大人ぶってはいるが、実際のところ10歳の子供なのだ。
お化けを怖がってもおかしくはないが……。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話③ ( No.195 )
- 日時: 2012/06/19 10:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(索敵能力は凄いけど、戦闘能力は皆無だからなぁ。何が起こるかわからない所に連れて行くのも危険だ)
そう思って留守番させようと思ったのだが、今のままでは何を言っても言うことを聞かないだろう。
「千里にはほむらちゃんが戻ってこないか監視しておいて欲しいんだ。いざという時に知らせて欲しい」
「それなら別にここに残らなくてもいいじゃないですかぁ」
「能力使いながら戦闘になったら危ないだろ?」
「それはそーですけどー」
やはり離れようとしなかった。
彰はため息をついた。
「マスター、なら私が残ります」
双樹の思わぬ申し出に彰は耳を疑った。
「いいの?」
双樹は別の意味で千里より彰のそばから離すのが大変なのだ。
その双樹がここに残ると言い出したことに彰は驚いた。
「えぇ、マスターなら一人でも大丈夫でしょうし。私のことは気にしないでください。前よりは私も一人で居られるようになりましたから」
双樹はそう言って笑顔を見せた。
「そっか。なら任せようかな」
彰は双樹と残るように千里に指示し、千里もそれで渋々納得した。
「じゃあ、行って来る」
彰は二人に見送られながら、ホテルに向かっていった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話① ( No.196 )
- 日時: 2012/06/19 10:13
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ホテルの建設はほぼ完成間近だったため、内装もほとんど出来上がっており、綺麗にすればすぐにでも営業できそうなレベルだった。
小さいながらも高級感があり、金持ち層を狙っていたのが伺える。
「こういうとこ泊まってみたいもんだねぇ」
蒼井彰(あおいあきら)はそうぼやきながら、家族旅行に一度も行った事ないなとかなんとなく思った。
彰は少し歩き、ロビーの中心まで来ると周りを見渡した。
中心にはカウンターがあり、左右にエレベーターが配置されている。
左のエレベーターの隣に非常階段への出入り口があるくらいで、他に特に入れる部屋は無いようだった。
(エレベーターはもちろん動いてないだろうから、非常階段で行くしかないかな)
外から見る限りで階数は五階まで。
階段で見て回ってもそんなに苦ではない。
そう考え、彰は非常階段に向かって歩を進めた。
「!!」
だがそれを阻止するかのように、地面から白い人型の化け物が一体姿を現した。
「番人ってとこかな?やっぱりここに何かあるんだな」
彰は変身し、大剣を構えた。
化け物は口にエネルギーを溜め、そして左から右へ、横線を引くかのように光線を放った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話② ( No.197 )
- 日時: 2012/06/19 10:14
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
彰はそれを難なく避けると、一気に間合いをつめた。
化け物は巨大な足を持ち上げ、近づいてきた彰を踏み潰そうと足を降ろした。
だがそれも避けられた化け物は地団駄を踏むかのように両足で足踏みをした。
「そんなノロい攻撃受けるわけないだろ」
無我夢中で足踏みをしている化け物の肩に、彰は着地した。
化け物が首を動かし、彰を見ようとしたタイミングに合わせて彰は大剣で額の石を突いた。
化け物は雄たけびをあげながら溶けて消えた。
彰は兜をはずすと、化け物の消えた跡を見た。
「何なんだ……?刺した瞬間、嫌な感じが俺の中に入り込んできた……」
彰は大剣をしまうと、胸に手を当てた。
(この嫌な感じ……罪悪感?なぜ?)
妹の明奈の願いにより、彰は『無かったことにする』能力とは別の能力を身につけていた。
その能力の影響で、たまに相手の感情が流れ込んでくることがある。
きっと今のも化け物から流れ込んできた感情が彰にどういうわけか罪悪感を覚えさせたのだ。
(これは思った以上に大きな何かが起こっているのかもしれない)
彰は一抹の不安を覚え、先を急いだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話③ ( No.198 )
- 日時: 2012/06/19 10:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
1時間ほどかけて五階まで見て回った彰は、ロビーに戻ってきていた。
結果から言うと、何もなかった。
ここに連れて来られたはずの佐倉杏子(さくらきょうこ)も美樹(みき)さやかも見当たらなかった。
(どういうことだ?何か見落としているのか?)
改めて彰はロビーを見渡した。
そしてふと、先ほど戦った化け物のことを思い出した。
(現れた敵はロビーの一体だけだった。上に行かせたくないなら各階に居てもおかしくないはず……。まさか!)
彰は左右のエレベーターをこじ開けて確認した。
「やっぱりな……」
右側のエレベーターには昇降機が無く、風の音だけが鳴り響く空間が広がっていた。
その空間は上だけではなく、下にも伸びていた。
「上に行かせたくないんじゃなくて、下に行かせたくなかったんだな」
彰は昇降機のロープを掴み、下に降りていった。
ちょうど一階分降りたところで空間は終わっており、開きっぱなしの扉があった。
扉から地下一階に足を踏み入れた。
エレベーターから出てすぐにとにかく頑丈そうな扉が姿を現した。
扉の横にタッチパネル式の画面が配置されており、ここに暗証番号を打ち込めば開くのだろうと容易に想像できた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話④ ( No.199 )
- 日時: 2012/06/19 10:16
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「駐車場にしては行き過ぎだな」
エレベータには地下一階に行くためのボタンは無かった。
つまりこのフロアは非公式な場所なのだ。
一部の者しか知り得ないであろう場所、そしてこの異常に頑丈な扉。
想像できる答えそれは———。
「シェルターか。政治家の考えそうなことだ」
彰は呆れ顔でため息をつくと、なんとなくタッチパネルに触れた。
するとタッチパネルの画面が点灯し、暗証番号の入力を促す文字が表示された。
「電気がきてるのか?」
彰は扉に手を触れた。
「さすがに壊すのは無理だな……。なら、無かったことにすればいい」
彰の手の触れた部分から扉が次々と消失していった。
扉が作られたという事実を無かったことにしたのだ。
シェルターの中は真っ暗で先が見えなかった。
さらに異様な臭いが鼻をつき、彰は思わず顔をしかめた。
(何だ、この臭い……?とりあえず電気が通っているなら明かりをつけられるかもしれない。スイッチを探そう)
彰は手のひらに魔力で作り出した光の玉を浮かばせた。
(これだけ広い場所なんだ。スイッチは入り口のそばだろうな)
彰は入り口付近の壁に重点を置いてスイッチを探し始めた。
「!!」
彰はスイッチを発見するよりも前に思わぬ発見をした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話⑤ ( No.200 )
- 日時: 2012/06/19 10:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「杏子ちゃんにさやかちゃん……。マミちゃんも!?」
三人は地面に寝かされていた。
彰は巴(ともえ)マミを抱きかかえた。
「傷はない……。息もしているし、ソウルジェムが破壊されたわけじゃ無さそうだ。ん……これは?」
マミの首筋に奇妙な模様のイレズミのようなものがあった。
(魔女の口づけ?なぜこんなものが……)
他の二人にも同じものがあった。
奇妙なマークについては気になるが、とりあえず無事を確認できたことに彰は安堵した。
そしてある疑惑が確信へと変わった。
(やっぱりほむらちゃんは単独では行動していない)
協力者、もしくはほむらを操る黒幕が存在する。
疑惑を裏付けたのはこのシェルター内に三人が居たことだった。
パスワードがない限りこの中に入ることは出来ない。
ミサイルでもない限り破壊することの出来ないこの扉は、ほむらの能力でこじ開けることなど出来ない。
無論そういった破壊行為の跡がないのだから無理あり開けようとしたわけでもないだろう。
ほむらが元々パスワードを知っていた可能性もある。
だがこれは政治家が作らせたものなのだから、恐らくは要人向けのシェルターなのだろう。
相手が魔法少女とはいえ、そういった場所のパスワードをそうそう知られるとは思えない。
ならば可能性は一つ。
パスワードを知る何者かが存在する。
そしてそいつが黒幕なのではと、彰は考えた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話⑥ ( No.201 )
- 日時: 2012/06/19 10:18
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(とりあえず収穫はあったな。しかしどうやって三人を連れ出そうか……)
三人を一人で担いでいくのはさすがに厳しい。
そう思いなんとなく周りを見渡した時だった。
「これ……電気のスイッチか?」
彰は偶然見つけたスイッチをオンにした。
バチバチっと音を立てながら入り口から順に電気が点いていく。
次第に露わになっていくシェルターの中の様子を目の当たりにして、彰は目を疑った。
檻が数十個配置されていた。
檻は大体50人くらいは余裕で収容できるくらいの大きさで、高さは3メートルほどあった。
その光景だけでも充分異常だというのに、さらに異常な光景がそこにはあった。
「な、なんだよ……これは!!」
彰は思わず口元を手で覆ってしまった。
どの檻もおびただしい血の跡が残されていた。
渇ききっていないものまである。
中には肉片のような物が散らばっている檻すらあった。
「ぐっ!!」
彰は吐きそうになるのを抑え、入り口の外まで駆け出た。
「はぁ!はぁ!一体何があったんだよ!あれ……人の血だよな……?」
これ以上ここにいると何だかおかしくなってしまうような気がした。
(こんな所、千里と双樹に見せられない……)
彰は無理やりマミたちを背負い、シェルターを出た。
この現場を目にした彰の中に吐き気を催すようなある推測が浮かんだ。
(俺の考えていることが本当なら早く黒幕を突き止めないと……)
今、彰の中には催す吐き気とは裏腹に使命感のようなものがこみ上げていたのだった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 1話① ( No.202 )
- 日時: 2012/06/20 10:46
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
美国織莉子(みくにおりこ)は穏やかな寝顔で眠る千歳(ちとせ)ゆまと呉(くれ)キリカの二人を見て笑みを浮かべた。
昨日から佐倉杏子(さくらきょうこ)が帰ってこないと、ゆまは織莉子に泣きついて来た。
初めは手のつけようのない状態のゆまだったが、キリカと喧嘩をしているうちにいつもの調子に戻った。
(喧嘩するほど仲が良いっていうのは二人のことを言うのかしらね……)
織莉子は音を立てないように立ち上がり、そっと家を出た。
織莉子は既に魔法少女に変身しており、また表情に何か決意のようなものも浮かんでいた。
「こんな時間にどこ行くんだ?美国織莉子」
織莉子は別に驚くこともなく声の主のほうに視線を向けた。
「あなたこそ何の用かしら……天音(あまね)リンさん」
リンは口元に笑みを浮かべて織莉子に近づいた。
「いやぁ……別に何か用事があるってわけじゃないんだけどさ。ただこの暴走した忠誠にどう立ち向かうのか……それが気になってさ」
「忠誠……ね。確かにあの子はそこを見誤っていたのかもしれないわ」
冷静にそう語る織莉子に対し、リンは声を出して楽しそうに笑った。
「それがわかっててアンタはどうすんだよ?」
織莉子は目を瞑り、黙り込んで考えた。
「どうするのが一番なのかしらね……」
そして目をゆっくり開け、そう曖昧な言葉を口にした。
「へぇ……意外だな。アンタならサッパリと殺すって言いそうなんだけどなぁ」
「私、そんなに野蛮な人間に見える?」
リンは「いいや」と首を振って否定した。
「あなたは見た目とは裏腹に結構残酷よね?」
リンは口元に笑みを浮かべたまま、しかし視線は鋭くして織莉子を見た。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 1話② ( No.203 )
- 日時: 2012/06/20 10:49
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「アンタ、一体どんな未来を視ているんだ?」
リンがそう聞くと、今度は織莉子が笑みを浮かべて見せた。
「気になる?あなたの未来が……」
「……」
リンの表情から笑みが消えた。
なぜなら織莉子の表情に浮かんでいるものは、まるで興味のない物を目の前にした時のそれだったからだ。
織莉子の視た未来には天音リンという存在は大した価値が無い———そう言われているようなものなのだ。
「あなたが今どう思っているかはわからないけれど……一つ忠告しておくわ」
「忠告?」
織莉子は頷いた。
「重要なのは未来じゃないわ。本当に知るべきは過去に起きた出来事なのよ」
リンには織莉子の言っていることの真意がまるで汲み取れなかった。
「過去が意味のあるものでなければ、未来は何の価値もない。空っぽの箱の中を覗くようなものなのよ」
「どういう意味だ?お前、何を視たんだ?」
リンがそう聞いたが、織莉子はそれに答えずただ首を横に振った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 1話③ ( No.204 )
- 日時: 2012/06/20 10:50
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「今見ている世界がすべてだとは思わないほうがいいわ。未来なんて元々不確定要素の塊……。小さいことですぐ変わってしまうもの。でもそれとは違う……。不確定とかそんなレベルじゃなくて、今視える未来は本当に空っぽなのよ」
諦めたような、絶望しているようなそんな気持ちを含んだ口ぶりで語った。
「だから何を言っているかさっぱり……」
「私もわからないのよ。何を言っていいのか……。でもその答えをもしかしたらあの子は知っているのかもしれない」
織莉子は懐から一枚の手紙を取り出した。
「私、招待されているの。もう行かなくちゃ」
そういうと織莉子はリンに背を向けた。
リンは振り向くことなく歩いていく織莉子を黙って見つめた。
そして見えなくなったところでリンはため息をついた。
「今見ているものがすべてじゃない、か。すべてもくそもねぇよ……。オレはなんで鹿目まどかの力が欲しいのかすらわからねーんだから……。『世界のすべて』の前に、オレ自身のすべてを知りたいよ」
リンは唇をかみ締め、誰に言うでもなくそうつぶやいた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 2話① ( No.205 )
- 日時: 2012/06/20 10:52
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
まどかはただ発信音を鳴らすだけの携帯画面を見つめ、瞳を潤ませた。
昨日、別れたあとからさやかと連絡が取れなくなっていた。
同様にマミとも連絡が取れない。
恐らく杏子も行方がわからなくなっているのだろう。
「どうしよう……。私のせいだ……」
まどかは力なく崩れ落ちて膝をついた。
手から零れ落ちた携帯電話は幾度と聞いた留守電アナウンスを流していた。
どうすれば良いのか。
まどかが途方に暮れているとき、突如携帯電話が着信を知らせた。
「!!」
まどかは急いで携帯電話を拾い上げ、画面に表示された発信者の名前を確認すると電話に出た。
「ほむらちゃん!!?今、どこにいるの!?」
まどかは相手の応答を待つよりも早く、口早にそう聞いた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 2話② ( No.206 )
- 日時: 2012/06/20 10:53
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
『今、学校の近くよ。ずっとまどかのこと探してたの』
聞きなれた声にまどかは涙を流して安堵した。
「私もずっと探してたんだよ?すごく心配したんだから……」
『ごめんなさい……。私も今までどこに居たのかわからなかったの。気付いたら見知らぬ場所に居て……やっとここまで戻ってきたのよ』
「やっぱりほむらちゃんも……。あのね、さやかちゃんもマミさんも連絡がとれないの。もしかしてほむらちゃんと同じなんじゃないかな?」
『そうかもしれないわ。もしそうならまどかも危ないわ。とりあえず合流しましょう』
「うん。私も学校にいるから……」
『わかったわ。そっちに行くからそこから動かないで』
まどかはほむらに詳しい居場所を教え、電話を切った。
一刻も早く、ほむらの無事な顔が見たかった。
(早くほむらちゃんの顔が見たいよ……)
まどかは携帯電話に表示された時間を見た。
クロードに宣告された時まであと3時間をきっていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 2話③ ( No.207 )
- 日時: 2012/06/20 10:53
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ほむらちゃん!」
まどかは三日ぶりに見る大切な友達の姿を目の前にし、我慢できずに飛びつくようにして抱きしめた。
「良かったよぉ。ほんとに無事で……。どこか怪我とかしてない?」
「大丈夫よ。むしろまどかに抱きしめられてる今が一番痛いくらい」
そう冗談を言いつつほむらは笑顔を見せた。
「えへへ。ごめん、ごめん。つい嬉しくて……」
まどかはほむらから離れ、改めて顔を見た。
ほむらの言葉通り、元気そうでまどかは心底ホッとした。
「私もまどかが無事みたいで良かったわ。あとはさやかたちね……」
ほむらがそういうとまどかは不安げな表情を浮かべた。
ほむらは笑顔でまどかの手を握った。
「大丈夫よ。そうそう簡単にやられたりしないもの。それにきっと私が助け出すわ」
「うん……。私も何か出来ないかな?」
ほむらはちょっと困ったような顔をした。
ほむらはあまりまどかを危険なことに巻き込みたくないといつも言っている。
その言葉通り、できればこれ以上この件に首を突っ込んで欲しくないのだろう。
「とりあえずは私たちの知っていることを確認しあいましょう」
ほむらは曖昧な返事を返した。
まどかはそれに対して反発することはしない。
それがほむらの優しさであることを知っているからだ。
「まどかがここの生徒だと敵は当然知っているはずよ。だったらここは危ないわ。移動しましょう」
まどかが頷くとほむらは手に取ったまどかの手に少し力を入れた。
この手が離れないように———そういう思いを感じた。
まどかはそれに応えるようにほむらの手を握り返した。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話① ( No.208 )
- 日時: 2012/06/21 13:13
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
まどかとほむらは息を切らしながらやっとの思いで建物の裏に身を隠した。
「はぁ!はぁ!」
まどかはずっと走りっぱなしで息があがってしまっていた。
「大丈夫?まどか……」
ほむらは心配そうにまどかを見た。
まどかはなんとか笑顔で返して「大丈夫」と言った。
魔法少女でないまどかには体力の限界がある。
そういう点でもほむらの足手まといにしかならない。
『私を置いて逃げて———』
そう口にしかけるが、高鳴る心臓をなだめながらグッとその言葉を飲み込んだ。
(私のためにほむらちゃんは戦ってくれているんだ。ほむらのちゃんの気持ちを無碍(むげ)にするようなことしたら失礼だよね)
まどかは一度大きく深呼吸をした。
だいぶ身体も落ち着き、再び走れるだけの状態には戻った。
「もう行ける?」
「うん、大丈夫!」
ほむらは頷くと、先行して建物から飛び出した。
まどかもほむらを追いかけるようにして飛び出す。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話② ( No.209 )
- 日時: 2012/06/21 13:14
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
『おおおお!』
恐ろしい雄たけびがまどかの耳をついた。
「ま、またきてるよ!」
「大丈夫、私たちの足でも逃げ切れるわ!」
まどかたちが学校を出てすぐに長身の白い化け物に襲われた。
何体もいるのか、巻いても巻いても襲ってくる。
明らかに狙われていた。
「まどか、こっちよ!」
ほむらに促され、まどかはトンネルの中に入った。
当然、白い化け物も追ってくるがスピードがあまり早くないため、何とか乗り切れそうだった。
どんどん離れていく化け物を見ていると、やはり自分が狙われているのだという実感がひしひしと沸いてきた。
実感すると共に、ほむらたちを巻き込んだあげく取り返しのつかなくなる寸前まできてしまったことに後悔した。
(ちゃんと言わなきゃ。三日前のこと!)
ここまで来てしまった以上、真実を話してほむらに敵を知らせるべきだろう。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話③ ( No.210 )
- 日時: 2012/06/21 13:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ほむらちゃん!待って!」
ほむらはまどかの呼びかけに足を止めた。
「どうかした?もうすぐ出口よ。そこまで行けば身体を休められるわ」
「ううん、違うの。話があって……。ほんとならもっと早く皆に話すべきだったんだけど———」
「わかった。でも立ち止まってると危ないわ。先を進みながら聞くわ」
まどかが言おうとしていることの重大さに感づいたのか、ほむらはそう提案した。
二人は先ほどよりは少し速度を落としながら走った。
「あのね、三日前くらいなんだけど……私、ある人に会ったの」
ほむらは何も言わずに前を向いたままだった。
しかしまどかの声がしっかりと聞こえる間合いは保っており、むしろ話の腰を折らないための配慮と言えた。
まどかはそう感じ取って話を続けた。
「おじさんと言うよりかは、もうおじいちゃんに近いのかな?どこかのお屋敷に仕えているって言ってた。その人に私、急に凄いこと言われて……。ちょうどこんな感じのトンネルを抜けたところ———」
まどかの足が止まった。
少し前でほむらも立ち止まった。
二人の立っているすぐ目の前がトンネルの出口で、その先には見覚えのある噴水広場が見えていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話④ ( No.211 )
- 日時: 2012/06/21 13:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「な、なんで……?ここって……。ね、ねぇ、ほむらちゃん?」
足が震えていた。
ほむらに促されてたどり着いた先が、クロードがかつて結界の中と答えたその場所だった。
また迷い込んだのか?
しかしほむらは最初からここを目指していたかのように行動していた。
「ねぇ、ここは危ないよ……。早く出よう!」
「その必要は無いわ」
淡々と、感情無く、吐き捨てるかのようにそう言うと、ほむらが振り向いた。
まどかはほむらの目を見てゾッとした。
輝きの無い、死者ようなの目。
「まどか、クロード様がお待ちよ」
まどかの頬に一筋の涙が伝った。
「嘘だよ……。こんなの……」
まどかは目の前の出来事がまるで理解できなかった。
思考停止状態と言っていいほど、まどかの頭の中は真っ白だった。
それでもまどかの瞳からは涙が流れ続けた。
何がどうしてそんなに悲しいのか、それすらまともに考えられなかった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話⑤ ( No.212 )
- 日時: 2012/06/21 13:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
感情の無い目でまどかを見つめるほむらは、最早まどかの知っているほむらではない。
一番大切な、信じて疑わない友達が口にした言葉の先にあるものは、敵に仲間を売る行為に他ならない。
思考力を取り戻してきた頭に浮かんでくるのは、『自分は裏切られたのか?』ということだった。
今まで共に築いてきたほむらとの思い出を思い返せば思い返すほど、ほむらが裏切るような人間ではないことをまどかの中で裏づけていった。
だからこそ聞かずにはいられなかった。
「ほむらちゃん……何かの間違いだよね?きっと何か理由があるんだよね?」
ほむらは何も答えなかった。
「間違えでは、ありませんよ」
「!!?」
ほむらの代わりに答えたのは低いがよく通る声の持ち主———クロードだった。
「暁美ほむらさんは、その手であなたをここに導きました。そしてあなたのお友達を陥れたのもね」
「さやかちゃんたちも……?」
さやかたちの行方について何も知らない———そんな風な態度をとっていたほむらだったが、それも演技だったというのか。
「予告の三日後までまだ少し時間がありますね。まぁ、舞台はもう整っているのですが、そこは時間厳守としておきましょう。ですからどうですか?私と暁美ほむらさんの出会いのお話でもいたしましょうか?」
「出会ったときの話……?」
「えぇ、三日前……。あなたと出会う少し前の話ですよ」
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話① ( No.213 )
- 日時: 2012/06/22 16:06
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ほむらはキュゥべぇとは別のインキュベーターであるゴンべぇに呼び止められていた。
「ろくな話ではなないのでしょう?どうせお前もキュゥべぇと変わらないのだろうし」
ほむらがそういうとゴンべぇは大げさに首を振って否定した。
「先輩と同じだなんてもったいないっすよ!オイラは名前すらもらえないただの量産型っすから。『ゴンべぇ』って名前だって名無しのごんべぇからとってリンちゃんがつけたものっすからねぇ」
ゴンべぇはケラケラと笑った。
「……」
このゴンべぇはキュゥべぇと違い感情を表現できるらしい。
そのためキュゥべぇより人間的で接しやすくなっている———というのがゴンべぇ自身の説明だ。
だがほむらからすれば感情が余計にある分、キュゥべぇよりも何を考えているのかわからない。
そういう意味ではキュゥべぇより気味が悪かった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話② ( No.214 )
- 日時: 2012/06/22 16:07
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「それで話って?」
「あーそうっす、そうっす。実はここんとこ街を荒らしてる奇妙なヤツがいて困ってるんすよー」
「奇妙なヤツ?」
魔女や使い魔ではない。
ほむらはすぐにそう悟った。
誰よりも魔女のことを知っているはずのインキュベーターが対象のことを『魔女』や『使い魔』と言わず、『ヤツ』と表現したのがインキュベーターにとっても未知の存在であることを物語っていた。
「とにかくデカイやつで白いローブに身を包んだ人型の化け物なんす。どうも普通の人にも視認できてるみたいなんすよね」
「一般の人にも?」
「そーなんすよー。そいつら見境無く人を襲ってはどっかに連れて行って……。おかげオイラたちの商売も上がったっりすよ」
インキュベーターたちのことなどはどうでも良いが、普通の人にも見える上に、人を襲っているとなればこれは困った話だ。
ほむら自身、正義のヒーローを気取るつもりなど毛頭ないが、まどかの身の回りの人に被害があってはまどかが悲しむ。
(私って一日中まどかのことばかり考えてるわね……)
それが当たり前になっている自分に対してほむらは苦笑した。
「いいわ。案内して」
「さっすが話がわかるっすねー!」
ゴンべぇは営業スマイルをしてほむらに礼を言った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話③ ( No.215 )
- 日時: 2012/06/22 16:09
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ゴンべぇに案内された先に、その敵はいた。
ほむらはハンドガンタイプの銃では効果が薄いと感じ、ショットガンを盾から取り出した。
ゴンべぇは額の石が弱点だと言っていた。
敵はほむらの姿を見失っており、辺りをウロウロしている。
ほむらはその隙に敵の背後に回りこみ、時間を停止させた。
敵の額の石にショットガンの銃口を押し当て、ゼロ距離から引き金を引いた。
ショットガンの弾の先端が少し額の石に食い込んだところで静止した。
ほむらはそれを確認すると、敵から一定距離離れてから能力を解除した。
その瞬間静止していたショットガンの弾は一気に額の石を砕き、そのまま頭を貫通した。
『おおおおお!』
なすすべなくやられた敵はドロドロと溶けて消えた。
「思ったより大したこと無かったわね。でも一体何なのかしら?」
戦いは終わった———そう思ったこと、それがほむらの油断だった。
どこからともなく触手が伸びてきてほむらの両腕を封じた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話④ ( No.216 )
- 日時: 2012/06/22 16:10
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「なっ!?」
一瞬遅れて状況を把握した時にはすでに手遅れだった。
さらに別の触手が次はほむらの足を拘束し、完全に身動きが取れなくなった。
「一体何なのか?その質問にお答えいたしましょう」
「!?」
前から歩いてきたのは執事服に身を包んだ初老の男だった。
「あなたが倒した化け物を私は魔獣と名づけ、呼んでいます」
「名づけた?あれはあなたが作り出したものだと言うの?」
男は頷くと、ホテルの案内人のように右腕を右方向に流し、『どうぞこちらをご覧ください』と言わんばかりにほむらの視線を促した。
するとそこに先ほど倒した白い化け物が地面から生えてくるように姿を現した。
「こやつは人間をベースに作り出されたノーマルタイプの魔獣です。あなたも戦ってわかったとは思いますが、大した戦闘力はありません」
男は当たり前のことを語るように説明をした。
だがほむらには耳を疑う言葉が男から発せられたのを確かに聞いた。
「人間をベースにって……。まさかそいつは……」
男はニヤリと笑った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話⑤ ( No.217 )
- 日時: 2012/06/22 16:13
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「お察しの通り、これは元は人間です。どこにでもいる人間……。私の能力は生き物を魔獣に変異させるのですよ」
「!!」
ほむらは背筋が凍るのを感じた。
今、敵だと思い殺した化け物がもとは人間だったというのだ。
間接的とはいえ、ほむらは何の関係も無い人間を殺してしまったのだ。
「人を殺してしまった……そうあなたは思い悩んでいるのでしょう?暁美(あけみ)ほむらさん」
男は変わらず口調でそう言いながらほむらに近づいた。
「悔やむことはありませんよ。アレはもう人ではない。あなたのために用意した捨て駒という名の化け物なんですから」
「私の……ため?」
男の視線がほむらの足元に向いた。
ほむらも同じようにその方向に視線を向けた。
「ご苦労様です。ゴンべぇくん」
そこにはやはり営業スマイルのゴンべぇが居た。
「鹿目(かなめ)まどかを契約させられるんなら何でもやるっすよ。クロードさん」
と、ゴンべぇはほむらにとって聞き捨てなら無い発言をした。
「あなたたち、まどかを狙っているの!!」
「えぇ。そのための重要な駒が欲しかったのです。それがあなたというわけです」
「くっ!!あなたたちになんか協力するくらいなら死んだほうがマシよ!」
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話⑥ ( No.218 )
- 日時: 2012/06/22 16:14
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
男———クロードはほむらに手を伸ばし、頬に触れた。
「あなたならきっとそう言うと思っていました。でもそんなことは関係ないのですよ」
そういうとクロードは突然ほむらの服に手をかけ、破り始めた。
「なっ!?ちょっ、やめて!」
言葉で反抗しても身体が動かせない今の状態では結局されるがままだった。
両肩が露わになるとこまで破くと、クロードは手を止めた。
「ほむらさんは、ヴァンパイアをご存知ですか?」
ほむらは睨み付けるだけで何も答えなかった。
クロードは構わず続けた。
「私の生まれ育った国では結構馴染み深い怪人の類なのですが、ヴァンパイアの中には血を吸った者を従順な僕に出来る力を持った者も居たそうです」
クロードはほむらの右首筋を撫で、笑みを浮かべた。
「ちょうどあなたのように綺麗な女性がさぞ好みだったのでしょうね。ですが私は雑食なもので……。あまり好みとか無いのですよ」
クロードが歯を見せて笑った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話⑦ ( No.219 )
- 日時: 2012/06/22 16:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「!!」
クロードには映画で見たヴァンパイアのように鋭い牙が生えていた。
そしてほむらは先ほどのクロードの話との関連性に気付き、戦慄した。
噛まれればこいつの言いなりになってしまう。
ほむらはあらん限りの力で拘束から抜け出そうとした。
だがどう抵抗しようと触手が緩むことは無かった。
「安心してください。別に私は血を吸うわけではありません。その逆……私があなたに注ぎ込むのです。私の魔力を———」
クロードはほむらの首筋に噛み付いた。
「うっ!」
全身に電気が走ったような感覚を覚えた。
手足が痺れ、どんどん力が抜けていった。
クロードが離れた時には拘束が無くとも身動きが取れないくらいに身体の力を失っていた。
「私に噛まれたものには決まった末路が待っています」
ほむらは何とか首を動かし、クロードを見た。
「私には噛まれた者はまず、その証として首筋にマークが刻まれます。次第にあなたはあなた自身の思考力を失い、私の僕となります。これが第一段階」
人差し指を上げ、『1』の形を作った。
「第二段階は私が注入した魔法毒が全身を蝕み、凄まじい苦痛に見舞われます。並みの人間なら痛みに耐えかねて死に至るでしょう。死に際は凄惨ですよ。痛みの余り全身を掻き毟って大量出血したあげく、最後はドロドロに溶けてただの肉片と化します」
今度は掻き毟る動作をして哀れみの表情を浮かべた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話⑧ ( No.220 )
- 日時: 2012/06/22 16:16
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「最終段階……。もし死に至らず生き延びることが出来れば、魔獣として生まれ変わります。ただ人を襲うだけの……化け物へとね」
クロードは体勢を低くし、力なく見つめるほむらに視線を合わせた。
「後ろを見てください」
まともに動かすことすら出来ないはずなのに、クロードに言われるとそうしなければならないという感覚に襲われた。
無理やり身体をひねって、ほむらは後ろを向いた。
向いた先には先ほどと同じ姿かたちをした魔獣が居た。
ただ色が全身真っ黒だった。
「あれがあなたのなれの果てです」
「……?」
「普通の人間と違い、魔法少女は強力な力を秘めています。ですから魔法少女が魔獣になるとあのように亜種が産まれやすいのです」
ほむらの目から涙がこぼれた。
化け物に変わってしまう恐怖からか。
操られまどかを陥れるための駒として使われることへの痛みか。
自分の意思を失いかけている今のほむらにはなぜ自分が泣いているのかすらわからなかった。
ほむらはそのまま気を失った。
クロードはほむらを抱きかかえた。
「さぁ……あなたにはお嬢様のために道化となって頂きますよ」
ほむらを抱えたまま、クロードは姿を消した。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 5話① ( No.221 )
- 日時: 2012/06/26 11:27
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ひどいよ……」
クロードの話を聞き終えたまどかは震える口から言葉を何とか吐き出した。
クロードはそんなまどかを黙って見つめた。
「ほむらちゃんを返してよ!!」
まどかはクロードの目を真っ直ぐ見返し、人外の存在である相手にも怯まずに声を張り上げた。
そしてまどかはクロードとの距離を縮めようと一歩を踏み出した。
だがそれはほむらによって遮られた。
「ほ、ほむらちゃん……」
ほむらは銃口をぴったりとまどかの額に合わせ、引き金に指を当てていた。
これ以上近づけば容赦なく撃つ。
そういう気配がほむらにはあった。
「ほむらちゃん……」
操られているとわかっていても、ほむらが取った行動はまどかの心を大きく抉った。
「ふふふ。わかったでしょう?あなたの声は届きませんよ。あるのは私への忠誠心ですから」
クロードはほむらに合図を出し、銃を降ろさせた。
「さて……時間も丁度いいですし、本題に入りましょう」
クロードはそういうと指を鳴らした。
するとクロードとまどかを囲むように白と黒の魔獣が地面から一斉に出現した。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 5話② ( No.222 )
- 日時: 2012/06/26 11:28
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「!!」
まどかはその光景にゾッとした。
魔獣の数はざっと見た感じで30体以上はいる。
これが全て元は人であったり、魔法少女であったと思うと、クロードという人物の残酷さが身に染みてわかる。
「まどか様……あなたは先ほどほむらさんを返して欲しい———そう言いましたよね?その願い、聞き入れてもいいですよ」
「えっ?」
「実は第二段階に入る前でしたら、魔法毒を無効にすることが出来るのです」
クロードは懐からグリーフシードの形をした物体を取り出した。
「これを首筋のマークに当てると、魔法毒を吸出して無効化します。ちなみにこれはほむらさん専用で、代わりはありません」
物体をまどかに向けてちらつかせるとすぐに懐に戻した。
「どうしたら……それを渡してくれるんですか?」
「ふふ。簡単な取引をしましょう」
「取引……?」
「ええ。なんてことは無い。まどか様、あなたが魔法少女になり、ソウルジェム———すなわち命を差し出してくださればいいのです」
「!!」
三日前にクロードが予告していたこと。
その意味がようやく理解できた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 5話③ ( No.223 )
- 日時: 2012/06/26 11:29
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「そんな……そんなことのためにほむらちゃんを……」
「そんなことなんてありませんよ。あなたの力を手にすることが出来るのであれば、充分すぎるほど釣りがでます」
どんな手段を使ってでもと公言したように、クロードにとってほむらを利用したことは単なる手段でしかない。
クロードからすれば、ほむらという存在はそれ以外では何の価値も無いのだ。
ゆえに迷うこと無く殺す事だって出来る。
それを感じ取ってしまったからこそ、まどかはこの状況に混乱してしまっていた。
「あと3分待ちましょう。その間に契約しなければこの解毒剤は破壊します。ちなみにこの解毒剤だけを奪っても意味はないですよ。何せ、人質はほむらさんだけではありませんから」
さやかたちのことを指していた。
確かに運がよければほむらの解毒剤を奪うことが出来るかもしれない。
だがそのようなことをすれば、さやかたちの解毒は永遠に出来ない。
さやかたちの居場所も、解毒剤の在り処も、まるでわからないのだから。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 5話④ ( No.224 )
- 日時: 2012/06/26 11:29
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あと……お仲間を救うという願いをするのはやめたほうがいいですね。それを願った瞬間に全員……殺します」
クロードが今までに無い鋭い眼光をまどかに浴びせた。
その瞬間、まどかは完全に冷静さを失った。
願い方次第ではクロードがほむらやさやかたちに手を下す前にどうにかすることも出来たかもしれない。
だがそんな気の回る願いを考える時間と、冷静さをクロードはまどかから奪ったのだ。
三日前の予告により、クロードは時間通りに事を遂行する人物という暗示をまどかに与えた。
結果、3分と決められた時間は絶対的なタイムリミットなのだとまどかは思い込んだ。
そして仲間を人質に取ることにより、まどかが仲間を救うために契約せざる終えないという状況を作り、その上で願いを制限することでまどかの冷静さを奪い、もしもの場合をのリスクを最小限にした。
まどかはクロードの罠に完璧にはまっていた。
(ほむらさんは頭も回り、経験も豊富。ほむらさんを自由にしておけば、この場でまどか様の混乱を緩和させてしまう可能性もあった。ならば手中に収めておくのが上策……)
クロードは実を言うと普通の人間並の力しか持ち合わせていない。
魔法毒という特殊な力はあるにしても、真っ向から戦えば必ずといっていいほど敗れる。
それを補うのが知略だった。
自ら戦うのではなく、一歩引いたところで相手を罠にかける———それがクロードの戦い方だった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 6話① ( No.225 )
- 日時: 2012/06/26 11:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
クロードは自身の腕時計に目を向けた。
「3分、経ちましたね」
半錯乱状態にあったまどかはその言葉で少し現実に引き戻された。
クロードは再び懐から解毒剤を取り出し、それを親指と人差し指でつまんだ。
「私は戦闘タイプではありませんが、これくらいを握りつぶすことは造作もないことですよ?」
まどかの位置からでもクロードの指に力が加わるのがわかった。
「や、やめて!」
「約束の時間が過ぎたではありませんか。ならば私がすることは———」
「言うとおりにするから!だから……お願い……」
クロードは口元を吊り上げ、視線をまどかの足元に向けた。
「はいはい、オイラに用っすか!?」
いつのまにかまどかの隣にゴンべぇが居た。
ほむらのときと変わらず、営業スマイルを浮かべて座っている。
「ずっと待ち構えていたでしょうに。まぁ、それはどうでも良い事ですね」
視線をまどかに戻した。
「では、まどか様……。願いをどうぞ」
まどかは胸元で手を握るとグッと力をこめ、心を落ち着かせるように、決心が揺らがないようにと一息ついた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 6話② ( No.226 )
- 日時: 2012/06/26 11:31
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「私は……私はあなたになんか負けない……!。このあと、私がどうなるかわからないけど、それでも負けない!」
「支離滅裂ですよ。死んでしまったらそれで負けではありませんか」
まどかは首を横に振ってそれを否定した。
「私が負けを認めない限り、あなたはずっと勝てない。どんな結果になっても、それはあなたの自己満足でしかないんだよ!」
「何を今更……。そんな屁理屈で私が揺れるとでも思っているのですか?」
そう言いながらクロードは動揺していた。
クロードがまどかに持っていた印象はどこにでもいる普通の少女であり、逆に言えば力なき一人の少女だった。
だがそんなまどかがこうやって屁理屈とはいえ力強い言葉を向けてくるとは思いもしなかった。
誰が聞いても戯言を……と笑い飛ばす程度のことなのに、まどかが口にするだけでそれは神を相手にしているかのような威圧があった。
(内に持つ潜在能力の高さがこの雰囲気を醸し出しているのか?それとももっと別の何かを?)
クロードは今考えても仕方が無いこと———と割り切った。
「さぁ、ゴンべぇくん。よろしくたの……」
言いかけたとき、クロードはこの空間に発生した違和感に思わず周囲を見渡した。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 6話③ ( No.227 )
- 日時: 2012/06/26 11:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「どうしたんすか?」
「風が……吹いている!」
「風……っすか?」
この空間はクロードが作り出した結界の中だ。
クロードが作り出せるのは風景のみで、風や雷など自然現象は作り出せない。
もし風がこの空間に吹いているとしたらそれは———。
(結界を破られた?)
クロードがその思考に至ったとき、突然それは起こった。
グシャァ!と音を立ててゴンべぇが木っ端微塵に弾けとんだのだ。
クロードはすぐに何が起きたのかを悟った。
「狙撃だ!お前達、口さえきければ構わない!鹿目まどかを拘束しろ!!」
クロードの命令と共に魔獣たちが一斉にまどかに迫った。
「ひっ!!」
まどかは襲い来る魔獣の気迫に気圧され、瞬き一つすることすら出来ずに固まった。
だが次の瞬間、まどかを援護するかのように銃弾の雨が魔獣たちを襲い、まどかに届く前に吹き飛んだ。
しかしその銃弾の雨をも潜り抜け、数体の魔獣がまどかの目の前へと迫った。
もう駄目だ———まどかは心の中でそう思った。
「もう駄目って顔に出てるよ。負けないんじゃなかった?」
「え!?」
どこからともなく、この場に不釣合いな優しい声がした。
その声がまどかたちの頭上から聞こえたことに気付いたのは、空から落ちてきた黒い塊が魔獣たちをなぎ倒した後の事だった。
「まどかちゃんを負けさせなんかしない。絶対に……」
この混沌渦巻く世界に嵐のように降り立ったのは漆黒に包まれた一人の騎士だった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 7話① ( No.228 )
- 日時: 2012/06/27 16:16
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「バカな……?」
クロードの動揺が伝わったのか、魔獣たちの動きが止まった。
動揺しているのはクロードだけでは無かった。
目の前に立つ漆黒の騎士の姿にまどかも言葉を失っていた。
この瞬間までとても現実とは思えない出来事がたくさんまどかに起きた。
そんな非現実的なものを見てきてもなお信じられなかった。
会いたいと願った。
だがきっとその願いは叶うことは無いだろうと心の中で思っていた。
その思いが目の前に存在するその人が現実なのか、まどかを惑わせた。
だから確かめずにはいられなかった。
その名を呼ばずにはいられなかった。
「彰……さん?」
騎士は顔だけまどかに向けて縦に一度頷いて見せた。
「あとで話そう。今はここから逃げよう」
それだけ言って騎士は再びクロードに向きなおった。
まどかは言いたいことをグッと胸の奥にしまって、騎士に従った。
「あなた……なぜ生きているのですか?」
クロードの問いに騎士は答えなかった。
「話す必要は無い……。そういうことですか?ならば……」
クロードが右手を上げ、魔獣たちに合図を送った。
「お前達、あの男は殺して構いません。まどか様をとらえ———」
クロードの言葉を一発の銃声が遮った。
「え?」
まどかが間の抜けた声をあげ、そして何が起きたのか把握しようとした時には全て終わっていた。
気付いた時には騎士が自身の左肩に気絶したほむらを抱え、まどかも右肩に抱えられていた。
そのまま騎士はジャンプしてその場を離れていく。
離れていく最中、まどかは銃弾で頭を射抜かれて倒れているクロードの姿を見た。
先ほどの銃弾の狙いがクロードであったことにこの時まどかは気が付いたのだった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 7話② ( No.229 )
- 日時: 2012/06/27 16:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
建物の屋上にたどり着いた騎士はまどかを降ろし、ほむらをそっと寝かした。
「ほむらちゃんは?」
「大丈夫。気を失っているだけだよ」
騎士———蒼井彰(あおいあきら)は兜をはずしてそれを消した。
彰の顔を見て、まどかは一瞬ためらった。
嬉しい反面、この三日間の経験がまどかを疑心暗鬼にしていたのだ。
「本当に……彰さんだよね?」
「正真正銘、本物さ。足もあるし、操られてるわけでもないよ」
彰はおちゃらけた雰囲気で笑顔を見せると、数回足踏みをして足が地に着いていることをアピールした。
まどかはその様子を見て目を吊り上げて怒りを露わにした。
「なんで教えてくれなかったんですか!!?」
彰はまどかの怒りの原因が生きていることを黙っていたことだとすぐに理解すると、笑顔を苦笑いに変えた。
「ずっと待ってたのに……。全然、彰さんが来てくれないから私……」
「ごめん……」
何か気の利いた言い訳を言おうと思っていたのに、まどかの瞳に溜まる涙を目にしてその言葉しか口に出来なかった。
「本当は会いに行きたかったんだけど、やっぱり自分がまどかちゃんたちにしてきたことを思うと出来なかったんだ。出来ればちゃんとした形で再会できればよかったんだけど……ごめん」
彰は取り繕うように何とか伝えたいことを言葉にした。
まどかはそれに泣きながら頷いた。
お互い、言いたい事がたくさんあるはずなのになぜかそれが言葉に出来なかった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 7話③ ( No.230 )
- 日時: 2012/06/27 16:18
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「お取り込み中のところすみませんけどー」
沈黙を破ったのは千里だった。
「えっと……いつの間に?」
まどかは涙を袖で拭くと、いつの間にか自分達の横にいた千里と双樹の二人に視線を向けた。
「ずっといたよ」
そんなまどかを千里は目を細めて半ば睨むようにして見つめた。
「えっと……」
なぜ睨まれているのかわからないまどかは助けを求めるように彰を見た。
「この子は綾女千里(あやめちさと)。もう一人が樽咲双樹(たるさきそうじゅ)。二人とも仲間だよ」
千里は「ふん」とそっぽを向き、双樹は礼儀正しく一礼をした。
「わ、私は———」
「知ってるよ。だから別に名乗らなくていい!」
千里が語尾を強めてそう言った。
まどかは困惑してどうしたらいいかわからずに立ち尽くした。
「気にしなくていいよ。いつもあーだから」
そう彰がフォローをいれた。
そして彰はまどかの頭に手を乗せ、「ちょっと待ってて」と言って千里たちのほうに足を向けた。
「まだ奴らは俺たちの場所を把握出来てないよね?」
「ですねー」
千里は地図上に溢れかえる点が無闇やたらに動いていることを確認し、そう言った。
「よし、ならもう一度奴らに向けて一斉狙撃してくれる?俺は二人を連れてここを一旦離れるから」
「わかりました。すぐにマスターのあとを追います」
「頼むよ、双樹。千里もね」
双樹と千里はタイミングぴったりに親指を立ててグーサインをした。
彰もそれに返すようにグーサインをした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 8話① ( No.231 )
- 日時: 2012/06/27 16:20
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
樽咲双樹(たるさきそうじゅ)の主な武器はほむら同様に銃器だ。
だがほむらと違い、魔法で銃器を生成する。
そういう点においてはどちらかといえばマミに近い。
双樹は配置されたバレットM82を模した狙撃銃にあわせ、身体を寝かせた。
対物ライフルに分類されるオリジナル同様に、魔法で生成したこの銃も軽車両くらいなら貫ける。
銃同様に魔法で生成した弾丸は発射された瞬間に分裂し、複数の位置に狙撃することが出来る。
だがこれはあくまでオプションとしての能力で、双樹自身はスナイパーでもなく、魔法少女であることを除けばただの女の子だ。
この狙撃銃を使用しているのもただ本で目にしただけという理由だし、魔法で生成した銃であればどんな形状だろうと飛距離や威力などいくらでも好き勝手に可変可能だ。
それでも双樹は狙撃する時はこの銃だし、近接戦闘ではいつもデザートイーグルを模した物を使用している。
それには双樹が持つ本来の能力に起因している。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 8話② ( No.232 )
- 日時: 2012/06/27 16:21
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
双樹の魔法の性質、それは『依存』。
とにかく依存することでしか生きられない双樹はモノや人に対して異常な執着を持っている。
それを能力にしたのが『コ・ディペンデンシー』だ。
共依存の名を持つその能力は魔法少女を対象に依存することで発揮する。
能力が発動するとソウルジェムとソウルジェムが精神的リンクをはり、『依存状態』を作り出す。
依存状態に入ると双樹の精神は対象と融合し、相手が受けたダメージを代わりに請け負う。
そのかわり双樹は相手の能力を一部借り受けることが出来るようになる。
相手に自覚はなく、無意識のうちに頼り頼られの関係を作り出すのだ。
ただこの能力にも限界がある。
依存率により身代わりになるダメージも大きくなる。
精神的な融合であるため、受けたダメージは肉体ではなく精神———つまりソウルジェムに行く。
依存率があがれば借りられる能力の度合いも大きくなるが、それに固執してしまうと一瞬で魔女化してしまう可能性もあるのだ。
(私自身がそうして滅びるのは構わない。私は依存することでしか生きられないから。でも私の全てを受け入れてくれる人が居ない……)
どの程度依存できるかは相手との相性による。
双樹の望みは100パーセント依存できる、受け入れてくれる人を見つけ出すことなのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 8話③ ( No.233 )
- 日時: 2012/06/27 16:22
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(マスターは今まで出会った誰よりも私を理解してくれる。命を投げ出しても良いほどに依存できる。それでも私の求めている人ではない……)
彰と一緒に居るのは心地がいいし安心する。
実際に今はマスターと呼び『依存』している。
そんな彰でさえ、何か足りないと感じる。
(私は一体何を求めているのだろう……)
スコープの先に見える自我無きモンスターを見ていると、まるで自分のようだと思う。
今はこうして彰のために戦っているが、そうしようと決意したのは双樹ではない。
彰がそうして欲しいと望んでいるからだ。
双樹はそれが嫌だとか思ったことはないし、そうすることが幸せだとさえ感じる。
(なのに何か物足りない……)
双樹のソウルジェムが一瞬ぶるっと震えた。
リンクが確立された証だ。
(考えてもしょうがない。今はマスターのために……)
双樹がリンクした相手は綾女千里(あやめちさと)だ。
千里の千里眼による追尾能力と組み合わせれば自動追尾弾の完成だ。
二人の能力の相性は抜群に良い。
それに気がつき、実践化させたのは彰だ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 8話④ ( No.234 )
- 日時: 2012/06/27 16:23
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「そーちん、準備オッケー?」
「いつでもいいわ」
双樹の『コ・ディペンデンシー』は無意識のうちにリンクされるため、千里は双樹と繋がっているのかわからない。
だがこのように意思疎通をすればその問題も解消できる。
リンクされていることさえわかれば、意図的に敵の位置情報を双樹に送ることも出来るのだ。
「送るよ!」
千里は一度見た相手の魔力を記憶し、それを追跡する能力だ。
その魔力情報を双樹と共有すれば、千里とリンクし、一時的に千里の能力を使用できる双樹は千里の同じ相手を追跡可能になる。
双樹が覗くスコープの先に千里と同じ地図が展開された。
追跡するのは双樹たちではなく、弾丸。
双樹は引き金を一回引いた。
魔法で生成された弾丸は発射された瞬間、分裂して地図にマーカーされた敵に向かって飛んでいった。
今回のように複数相手にする場合は狙う場所を指定できない。
あくまでマーカーされた相手に当てるだけで、当たったということは認識できても、どこに当たったのか、倒せたのかはわからない。
故にこの攻撃は殲滅するためではなく、逃げる時間を稼ぐためのものなのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 8話⑤ ( No.235 )
- 日時: 2012/06/27 16:24
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(何か変だ……)
双樹は違和感を感じた。
地図上のマーカーが次々に消えている。
だが当たった感覚が無い。
双樹は千里に視線を向けた。
千里も困惑の表情を浮かべていた。
マーカーが消えるということは対象の魔力の消失を意味する。
消失のパターンは二つ。
対象が死亡した場合。
もう一つは意図的に魔力を消した場合。
(この攻撃方法ではこんなに効率よく敵を殲滅なんて出来っこない。相手が人ならまだしも切っても焼いても死なないような化け物ならなおさらオカシイ)
双樹はスコープから敵の姿を確認した。
やはり姿が見えなくなっている。
魔獣も、クロードの遺体も———。
「え!?」
クロードの遺体も無い。
そんなことはありえない。
ありえるとすれば……。
「マスター!!」
「ししょー!!」
双樹と千里が同時に叫んだ。
地図には彰たちのもとに向かう一つの反応が示されていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 9話① ( No.236 )
- 日時: 2012/06/29 15:56
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
彰はまどかから魔獣の正体、そしてほむらがクロードに操られていたことを聞いた。
「やっぱり魔獣は元は人だったのか……」
廃ホテルの地下で見た惨劇の跡は人が魔獣に変貌する工程でつけられたものだった。
ある程度予想していたこととは言え、正直普通の神経で出来ることではない。
(俺だって人殺しであることに違いは無い。それでも手にかけたとき、やっぱり躊躇ったし、自責の念を感じずにはいられなかった。でもあの執事にはそれがまったくない)
嫌悪感を覚えずにはいられなかった。
そして何より、まどかやほむらのことを思うと胸が痛んだ。
(追い込まれて、追い込まれて……。そして傷ついて……。なぜ彼女たちが幸せに過ごすことを許してくれないのだろう)
そう思いながら、自分もかつてまどかたちを追い込んだ人間なのだと嫌悪した。
「彰さん……」
「あぁ。ほむらちゃんを楽にしてあげよう」
未だ気絶するほむらの首筋にはクロードに噛まれた印が残っていた。
まどかの話だとこのまま行けばほむらは魔獣化してしまう。
そしてそれを阻止できるのはクロードの持つ解毒剤だけだという。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 9話② ( No.237 )
- 日時: 2012/06/29 15:56
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「解毒剤、か。必要ない」
彰はほむらの首筋に手を触れた。
すると首筋のマークが消え、心なしかほむらの表情が穏やかになった気がした。
「毒を『無かったこと』にした。これでもう大丈夫」
「よかった……。でもさやかちゃんたちが……」
「それも大丈夫だよ。偶然、ほむらちゃんを追っているときに捕まってる三人を見つけてね。念のため、三人の毒も『無かったこと』にしといたよ」
さやかたちを発見した時点では首筋のマークは魔女の口付けだと思っていた。
そのままでは魔女の言いなりになってしまうのではないかと思い、とりあえず『無かったこと』にしたのだが、それが功を奏したようだ。
まどかは心からホッとしたようでようやくいつもの笑顔を見せた。
「執事に魔獣にされた皆も救ってやらないとね」
数秒前に双樹と千里の一斉狙撃が行われた。
彰は敵が双樹たちに気が向いているうちにまどかたちを連れて一旦結界から出ようと考えていた。
だがそれは叶わなかった。
「マスター!!」
「ししょー!!」
二人の叫びは緊急事態であることを知らせるには充分だった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 9話③ ( No.238 )
- 日時: 2012/06/29 15:57
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「いやはや、まさかこのようなイレギュラーが起きるとは思ってもいませんでしたよ」
頭を射抜かれ、死んだと思われていたクロードが彰の前に降り立った。
「そんな!なぜ……!?」
「なぜ、ということはないでしょう?私もあなたが生きていて本当に驚いたのですから」
ソウルジェムが感じ取る気配からクロードは魔女ではない。
彰は、自分同様イレギュラーな契約者だと思っていた。
肉体を殺されれば、死んだと思い、ソウルジェムは機能しなくなる。
たとえどんなに強固な精神を持っていようと、『死』という感覚から逃げることは出来ない。
ソウルジェムを持つ以上、死なないはずがない。
(本当に吸血鬼なのか……?)
魔法少女なんてものが居るのだから居てもおかしくは無さそうだが、だからと言ってそうそう信じられるものではない。
「もうお分かりでしょうが、私は不死身です。肉体をバラバラにされようと、爆弾で木っ端微塵にされようとも死にません。これがどういうことだかわかりますか?」
「……」
彰はそれがどういうことだか理解していた。
クロードはそんな彰の様子を見て高らかに笑った。
「聡明ですね、あなたは。私は死ぬことは無い。だがあなた方は傷つき、そしていずれ心の闇がソウルジェムを濁らせる。勝負の見えた戦いなのですよ」
クロードの語るそれは彰たちに勝ち目の無いことを嫌というほどわからせた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 9話④ ( No.239 )
- 日時: 2012/06/29 15:58
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「彰さんの力だったらどうにかならないかな?」
『無かったこと』にする能力でクロードの不死を無かったことに出来ないか、まどかはそう聞いていた。
彰は首を振った。
「不死が能力なら無かったことに出来るけど、たぶんあの執事は産まれもって不死なんだ。視覚や聴覚みたいに感覚を無かったことには出来るけど、不死の身体を無かったことにするとなると、あの執事そのものを無かったことにしなくちゃいけない。でも俺の能力では命を無かったことには出来ないんだ」
不死であることも厄介だが、クロードは能力で強力な味方をいくらでも作り出せる。
今のままでは彰たちに勝ち目は無い。
今この場ではクロードを倒す術は無いが、もしかしたら何か良い方法が見つかるかもしれない。
だがその術を見つけるためにはまずこの場から逃げなくてはならない。
無駄死には避けたい。
だがその逃走という行為ですら、この場においては相当の難易度を誇っていた。
地面から次々と魔獣が姿を現した。
双樹たちが消えたと思っていた魔獣たちはクロードの手によって一時的に消されていたのだ。
「多すぎる……」
彰は次々と現れる魔獣たちを目の前にし、唇をかみ締めた。
数は依然30体近くはいる。
彰一人ならば逃げ切れただろう。
だが今戦えるのは彰と双樹だけ。
千里は戦闘系の能力ではないし、ほむらは未だ気絶から目覚めない。
無論、魔法少女ではないまどかに戦闘など無理だ。
つまり彰と双樹の二人で三人を守りながらこの場から逃げなければならないのだ。
普通に考えれば到底無理な話だ。
だが決して余裕のあるものではないが、彰の口元には笑みが浮かんでいた。
「多すぎるが、まとまってくれたのはラッキーだった」
誰に言うわけでもなく、彰は呟いた。
そして群がる魔獣たちを決意に満ちた目で見つめた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 10話① ( No.240 )
- 日時: 2012/06/29 15:59
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
美国織莉子(みくにおりこ)は人気の無い屋敷の廊下を静かに歩いていた。
そしてある扉の前で立ち止まった。
まるでここだよ、入っておいで———と言っているかのように半開きの扉は揺れていた。
織莉子は扉を開き、一歩中へと進んだ。
何て事のない普通の部屋だった。
クローゼットに本棚、机。
半分開かれた両開き窓、その手前にベッドが置かれいる。
この部屋の持ち主がかつて有名な政治家の娘のものだと知ったら、何も知らない者には意外と狭くて質素だなと思わせるかもしれない。
だが織莉子はベッドの上で上半身を起こし窓の外を見つめる少女が、いわゆる『金持ちの暮らし』にまったく興味ないことをよく知っていた。
「お久しぶりね、千鶴。気分はどう?」
鷺宮千鶴(さぎみやちづる)は大して驚く様子も無く、織莉子に視線を向けた。
「変な気分です。ずっと眠っていたはずなのに、私はしっかりと今目覚めるまでの記憶を宿している……」
千鶴は枕元に置いてあった小さな宝石箱を手に取った。
そしてそれを開けて中を確認すると微笑んだ。
織莉子は箱の中に大切に収められたソウルジェムを見て目を細めた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 10話② ( No.241 )
- 日時: 2012/06/29 16:00
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「私に『招待状』を持ってきてくれたあの執事はやっぱり……」
「えぇ。クロードは私の願いで生まれた人ならざる者……。本物のクロードはずっと前に亡くなっていますから」
「亡くなった?」
「お父様のしたことを公にしたのはクロードだったんです。でもそのせいでクロードは殺されてしまった……」
千鶴は視線を落とした。
そして少し躊躇いがちに言葉を口にした。
「私がしっかりしていれば、勇気があれば、織莉子さんのお父様もクロードも死ななかったかもしれない。私の弱さが生んだ悪意の連鎖がたくさんの不幸を招いてしまった……。そしてそれは今も続いている———」
「今のクロードさんは、あなたを目覚めさせるということを行動原理として動いている。それは少なからずあなたの望んだことではなかったの?」
千鶴は首を横に振った。
「私はつくづく無価値だと思うことがあるんです。一体何のために産まれて、何のために今を生きているのか、まったくわからなかった。眠っている間は、クロードの見たものが夢として流れてくるんです。眠っている私のことを屋敷の者達は『眠り姫』と呼んでいました。ただ眠るだけの価値無き者———」
「……」
「本当にその通りだと思います。私は悪意から目を背け、そして自殺を図ることで逃げようとした。織莉子さん、私はあなたが思っているほど、立派な人間ではないんです」
「……」
「ただ眠るだけの私の存在価値って何なのか。クロードの目を通して夢で現実を見ながら、ずっと考えていた。そして見つけたんです」
「それって?」
「ある人の助けになることです。その人はきっと私のことなど一切知らないのでしょうけど、それでも構わないんです。私はその人のやろうとしていることの一片となれればいいんです」
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 10話③ ( No.242 )
- 日時: 2012/06/29 16:01
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
それが鷺宮千鶴という人間の存在価値であり、存在証明なのだ。
だがその存在証明を残すことは一人では出来ない。
ましてや千鶴という人間では到底叶わない。
人には運命だとか神の導きだとか、到底普通ではありえない人生を歩むものがいる。
そういった者からすれば、千鶴は至って平凡であり、非凡な者の手助けをしようとすれば一人の力でまかなえる訳が無いのだ。
結果として千鶴の持つ運命のキャパシティから漏れたツケがクロードの暴走を招いた。
「私はある人の手助けをするために、悪役を買って出たつもりだった。クロードは私に代わって私の願いを叶えようとした。それがクロードの忠誠心を助長させて、結果としてたくさんの犠牲をだしてしまった」
「止めることは、出来ないの?」
「クロードを消滅させることは出来ます。ですが、クロードに魔獣にされたものは救われないでしょう……」
この一件で生まれた犠牲は千鶴の罪だ。
クロードという根本を絶ったとしても犠牲者が元に戻ることは無い。
ならばクロードを生んだ千鶴がそれらを背負わなくてはならない。
「でも私にはそれを背負い、楽にしてあげることは出来ません。私にはそんな価値も力もないから———」
「すべてを背負うことなんて誰にも出来ないわ。罪をつぐなうことは必要だと思うけど、何もすべて一人でしなくてもいいんじゃないかしら?」
「え?」
織莉子は闇の広がる世界を窓越しに見つめた。
「どんな闇だって照らす光があるわ。私たちの内面にある闇や傷だって照らしてくれる光があるはず。もしその光を作り出すことが出来るとすればきっと彼ね」
千鶴はハッとした。
クロードの目から送られる映像に映る決意に満ちた目をした青年の姿。
希望を捨てることなど決してしない———そう語る眼差しの持ち主。
「蒼井……彰」
その名を口にした瞬間、千鶴の胸が高鳴った。
- Re: 魔法少女まどかマギカ 〜True hope 〜 ( No.243 )
- 日時: 2012/07/02 05:51
- 名前: 更紗蓮華 ◆huAZHxao6. (ID: 9uhgIwvd)
はじめまして、ですよね? 更紗蓮華です。
ちょろっと読んで、「なんか見覚えがあるなー」と思ったんですが、もしかしてにじファンで書いてましたか?
お気に入り登録をした覚えもあります。こんなところで見つかるなんて、ちょっとびっくりです。
続きを楽しみにしてますね。
- Re: 魔法少女まどかマギカ 〜True hope 〜 ( No.244 )
- 日時: 2012/07/02 11:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
更紗蓮華さん
コメントありがとうございます。
初のコメントにちょっと感激してしまいました(笑)
仰るとおり、にじファンで投稿していました。
今はにじファンで続けることが出来なくなり、こちらにお世話になっている次第です。
現在はにじファンで投稿していたものを再アップという形で投稿していますが、いずれにじファンで投稿出来なかった続きをアップしたいと思っています。
もしよろしければまたご覧になって頂けると嬉しいです。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 11話① ( No.245 )
- 日時: 2012/07/03 14:27
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
クロードの胸が高鳴った。
(なんだ?この感覚は……)
この状況は誰がどう見ても彰にとって絶望的でしかない。
にも関わらず彰の目には決意が宿っており、諦めとはまるで無縁だった。
(何か奥の手でも?その気配を私は感じ取って震えているというのですか……)
クロードには30近い魔獣がついているし、その中には魔法少女をベースにした亜種も数体いる。
いくら彰であってもちょっとやそっとじゃ潜り抜けられない。
それがわかっていても感じる。それは———。
「怖いのか?」
「!!」
彰がクロードの心を読んだかのようにそう言った。
「伝わってくるよ。あんたの感情が……」
「感情……?」
「俺はどんなものであろうと心があると思ってる。それが例え魔女であろうと、目の前にいる魔獣であろうと」
魔女に感情や意思などは無い。
ただ本能に従い、呪いを振りまくだけの存在でしかないのだ。
「心があるから魔女だって救える……そう思っているのですか?」
馬鹿馬鹿しい。
クロードは半ば呆れた感じでそう返した。
だが彰は
「思っているよ」
と真面目に返事し、クロードは呆気に取られた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 11話② ( No.246 )
- 日時: 2012/07/03 14:28
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「誰だって心に傷を抱えているんだ。消えることの無い傷があるから心は自由になれないんだよ」
「何を言っているんですか……?」
「魔女や魔獣だって同じさ。心の傷が足かせになって、それが負の感情を生んで破壊衝動を引き起こす。でもそれって心がある証拠なんじゃないかな?」
「それはあなたの思いに、理想に過ぎないのですよ。そんなのありえるわけが———」
「ありえるよ。明奈の願い、思いが俺にそのことを教えてくれたんだ」
クロードは彰の話など耳に入っていなかった。
彰に起きている異変に目を奪われたからだ。
「こ、これは……?」
彰の背に虹色に輝く光の粒子がまるで意思を持っているかのようにうごめき合っていた。
そしてそれは次第に一つの形を作り上げた。
「翼……?」
一見すればそう見える。
だがその翼は本などで見る天使のそれとは遠くかけ離れた形状をしていた。
木の枝のように無造作に様々な大きさの管が分岐していた。
彰の背から生えるように展開されたそれは美しいというよりも不気味だった。
「———」
だがクロードが今起きた異変の中で最も目を奪われたもの、それは彰の瞳だった。
彰の右瞳の色が黒から鮮やかな金色に変わっていたのだ。
どうしてこんなにも目を奪われてしまうのかわらなかった。
もしもこの世に神様がいるのだとすれば、きっとこのような揺るがない決意と慈愛に満ちた目をしているのだろう———そういつの間にか考えていた。
彰が右腕を前に突き出した。
「さぁ、教えてくれ……君たちの痛みを!」
その声と共に、彰の背にある翼がざわめいたのだった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 12話① ( No.247 )
- 日時: 2012/07/03 14:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
『痛みの翼』
彰はそう名付け、呼んでいる。
蒼井明奈(あおいあきな)が消滅する間際に、彰の『痛みを受け入れて救いたい』という願いを受けて授けたものだ。
明奈が契約の際に願ったことは『彰の願いを叶えること』であり、その願いが成就された結果生まれた。
まさに彰と明奈の二人の願いによって生まれた力なのだ。
『痛みの翼』を構成している粒子の管は目にも留まらぬ速さで伸びて行き、今この場にいるすべての魔獣に突き刺さった。
魔獣たちはそれを引き抜こうとするが、すり抜けてしまい、掴むことすら出来なかった。
「蒼井彰!あなたは一体何を!!?」
「痛みを『共有』する!」
彰は一度深呼吸し、自分を落ち着かせると首にかかった鳥のガラス細工を握り締めた。
覚悟を決めなくてはならない。
死する覚悟を。
『痛みの翼』は対象と彰の心を繋ぐデバイスのようなものだ。
人それぞれが持つ心の傷は本人すらわからなくなってしまうくらい心の奥に眠っている。
その傷にはどんな言葉も届かない。
何せ本人すらわからない傷なのだ。
当然他の誰かがそれを知ることなどできない。
それが最大の問題なのだ。
知ることの出来ない傷は語る口も聞きいれる耳も持ち合わせていない。
それでも傷は求めているのだ。
自分がここにいるということを。
聞いて、知って欲しいのだ。
受け入れて欲しいのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 12話② ( No.248 )
- 日時: 2012/07/03 14:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
いつまでも自分が原因で自由になれない傷の持ち主を見るのは嫌なのだ。
傷は、苦しみ、変貌し、行き場の無い呪いを振りまく主人を解放したいと願っているのだ。
ならば受け入れ、共有しよう。
心の傷から目を逸らしているから、持ち主はその傷に気付かない。
気付きたくないから逸らす。
結果としてなぜ自分がこんなに行き場の無い気持ちを抱いて、呪いを振る巻いているのかわからない。
ならば目を向け、理解しよう。
一人で出来ないなら二人で共有すればいい。
(俺がお前達の傷を一緒に共有するから……。だから傷を受け入れて自由になろう。もう行き場の無い呪いを振りまくのはやめにしよう)
これが『痛みの翼』の第一の能力。
本人ですら目を逸らしている傷を浮かび上がらせ、彰と共有することで傷を和らげる。
目を向けて欲しいと願う傷たちは浮かび上がったことで静かに消えてゆく。
本来心の傷として眠っていたそれは、消えることによって本人に安らぎと許されるんだという気持ちを与える。
心の傷に向き合うこと、それは一度失った心に向き合うことに等しい。
再び己の心を知り、自分を取り戻し、そして解放される。
心を濁らせたもの、失ったものを理に導く。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 12話③ ( No.249 )
- 日時: 2012/07/03 14:31
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
そして『痛みの翼』の第二の能力。
共有した痛みを魔力に変えて翼が取り込む。
痛みは心。
心は魔力の源だ。
共有した傷という心を受け入れ、背負うことで翼の一部とするのだ。
今は小さくとも、受け入れた傷が多くなればいずれ巨大な力となるだろう。
もしまたワルプルギスの夜のように強大な敵が現れた時、翼に蓄えられたたくさんの人の心がそれらを打ち破るのかもしれない。
消えていった者達の願いや希望を無駄にしたくない。
そういった思いが生んだ力が『痛みの翼』なのだ。
しかしこの力は、云わば神の力と言っても過言ではない。
神がすべてを受け入れ、天国に導くようなものなのだ。
これは神という絶対的な存在だからこそ出来ることであり、彰は所詮は人だ。
人が神の真似事をしようとすれば当然、それは訪れる。
「うあああああああああああああ!!!!」
天を貫くような叫びが彰の口から放たれた。
人という器に耐え切れなくなる。
そして訪れる———オーバーフローが。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 13話① ( No.250 )
- 日時: 2012/07/05 13:42
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あ、彰さん!!?」
まどかは突然、胸を押さえて苦悶の表情を浮かべながら苦しむ彰に駆け寄った。
しかしそれを千里が止めた。
「今、ししょーに近寄っちゃ駄目!」
「で、でも!」
「今、ししょーは『痛みの翼』をコントロール出来てないの!近づいたらあの世につれてかれちゃうよ!」
「訳がわからないよ……。一体何が起きているの!?」
まどかと最後別れた後に手に入れた能力だ。
当然そのことを知らないまどかは今起きているこの事態にまったくついていけていなかった。
「マスターの『痛みの翼』は対象の持つ深層に眠る最も深い傷を共有し理解してあげることで魂を浄化して理(ことわり)……わかりやすく言えば天国に導く能力」
「でもその力と彰さんが苦しそうにしている関係って……?」
双樹の説明で大まかなことはわかった。
だが今なぜあんなにも彰が苦しんでいるのか、それがやはりわからなかった。
「あんた、マジでわからないの?」
千里がイライラしながらため息をついた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 13話② ( No.251 )
- 日時: 2012/07/05 13:43
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「傷となった記憶を共有するんだよ?傷は人それぞれだけど、どれもその人が傷になってしまうくらい嫌な事。目も背けたくなるような傷だってあるんだよ。それを何十人分も見せられてるんだから、普通の人だったらおかしくなるに決まってるじゃん!」
「そ、そんな!」
『痛みの翼』は諸刃の剣なのだ。
本来は魔女になってしまい、救いの無い魔法少女たちのために生み出された魔法。
グリーフシードが手に入らず、魔女化するものもいるだろう。
だが恐らく、それ以上に負の感情に支配されてソウルジェムを濁らしたがために魔女化する魔法少女のほうが多い。
なぜならそういった感情の爆発が起きた瞬間に生まれるエネルギーがインキュベーターたちにとって『上質』なのだから。
だからこそ感情を持つ生命体を選んだのだ。
負の感情を持って魔女化した魔法少女の傷は相当のものだろう。
魔女化するほどの傷を共有するということは、己自身も魔女化するリスクを背負わなくてはならない。
それはすなわち死を覚悟していなければ出来ない。
今、彰が相手にしているのは魔女ではない。
だが魔獣にされたという傷は大きいに違いない。
悔しさ、悲しさ、憎しみ。
ありとあらゆる負の感情を、彰は今一人で受け止めているのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 13話③ ( No.252 )
- 日時: 2012/07/05 13:44
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(そんなの……辛すぎるよ!)
まどかの瞳から涙があふれた。
まどかを助けたい———その気持ちが今の彰を動かしている。
それを知っているからこそ涙があふれた。
そして泣くことしか出来ない自分が情けなかった。
「悔やむ……ことはないよ……まどかちゃん」
「彰さん……!」
「俺は、君たちに救われたんだ。あの時……ほむらちゃんが俺が間違っていることに気が付かせてくれた。そしてまどかちゃんとの約束が……俺に生きる希望を与えてくれた……」
肉体を傷つけれられているわけでも無いのに、見るからに衰弱しているのがわかった。
「っ!!」
彰の左手のひらに埋め込まれたソウルジェムが半分濁っていた。
「今度は俺が二人を助ける……番でしょ?」
彰は力なく笑った。
「やめて……このままじゃ、彰さんが……」
彰は首を横に振った。
「これは明奈との約束でもあるんだ。痛みを背負った魔法少女たちを救うってさ」
『痛みの翼』がさらに大きくなった。
死を覚悟してでも救いたいという彰の意思を受け取ったかのように。
時間にしてみれば五分と経っていない。
とても長いと感じたその瞬間が終わりを告げたとき、『痛みの翼』の消滅と共に、彰はその身を沈めた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 14話① ( No.253 )
- 日時: 2012/07/05 13:45
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
彰が目を覚ますと見渡す限り真っ暗な世界が広がっていた。
身体は横になっているのだが、背中が地についている感覚は無く、まるで海の中を漂っているかのようだった。
(ここは……?)
確か自分は『痛みの翼』を使用した。
そして『痛みの翼』を通して伝わる痛みに心が捻りつぶされそうになった。
とても苦しくて、悲しかった。
ただそれしかわからなかった。
そのあと自分がどうなったのか全くわからなかった。
(死んだのかな?それとも魔女に?)
どちらにせよ、行き着く先が何も存在しない暗闇の世界ではあまりにも寂しいではないか。
『痛みの翼』で導かれた者たちは、せめて希望ある世界に行ってくれていたら良いのだけど———彰はそう思った。
彰は首にかかっているはずの鳥のガラス細工があることを確認しようと胸元を探った。
そしてそれがあることを確認すると安堵の息を漏らした。
(あれ?)
ふとおかしなことに気が付いた。
(感覚がある……)
胸に触れたとき、確かに触れたという感覚があった。
死んだ人間には五感というものが存在しないと思っていたのだが……。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 14話② ( No.254 )
- 日時: 2012/07/05 13:45
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(身体はただの入れ物で、実際に感じるのはソウルジェム———つまり魂だったよな……。ソウルジェムも手元にあるし、死んで魂だけになっても魔法少女は魔法少女のままなのかな?)
彰は身体を起こして立ち上がった。
こんな上も下もないような世界で『立ち上がる』というのも変な話だが。
とりあえず辺りを見回してみた。
「あれは……?」
遠くに光が見えた。
この真っ暗な世界においてその光は希望に見えた。
(希望……か。もしかしたら三途の川の向こうから手招きする死神だったりしてな)
苦笑しつつも、その光しか手がかりない今の状況ではそれにすがるしかなかった。
歩を進めるが、地面を踏んでいる感覚が無いため本当に進んでいるのかわからない。
だが着々と光に近づいているため、とりあえず進んでいるのは確かなようだ。
光は段々と大きくなり、そしてそこに何があるのかが見えてきた。
「これって……鳥かご……?」
それはとてつもなく大きな鳥かごだった。
一周するのに1時間はかかりそうだ。
「あの世にしては洒落てるなぁ」
彰は鳥かごに近づき、魔力で強化した目で格子越しにかごの中を覗いてみた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 14話③ ( No.255 )
- 日時: 2012/07/05 13:46
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「!!」
見開いた目と開いた口が塞がらなかった。
鳥かごの中央には椅子がポツンと一つ置かれており、そこには少女が座っていた。
穏やかな波のようにゆらゆらと長い髪を泳がせ、光を纏った純白のドレスを着ていた。
女の子というには失礼かと思ってしまうほど神々しく、その様はまさに女神だった。
しかし彰が驚いたのはその神々しさにでは無かった。
その子の顔が彰の知っている人物にあまりにも似ていたのだ。
「ま、まどかちゃん……?」
思わず口から漏れていた。
椅子に座った女の子は彰の声に反応し、驚きの表情を浮かべた。
女の子は立ち上がると突然音も無く消えた。
そして消えた時同様、突然彰の前に現れた。
「———!!」
突然のことに彰は言葉を失った。
強化した目で見ていたから近くにいるように見えていたわけであり、実際は歩いて近づけば数十分はかかる。
それを一瞬で近づいて見せた。
それはこの女の子には距離や時間という概念がまるで関係ない———自分が概念そのものだからと言わんばかりだった。
「どうしてここに……?」
「やっぱりその声……まどかちゃんなのか?」
彰がそう言うと、女の子は困った顔をした。
「あなたは……?」
「……」
確かにまどかの顔をしているが、自分が知っているまどかでは無い———そう彰は悟った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 14話④ ( No.256 )
- 日時: 2012/07/05 13:47
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「俺は蒼井彰……。気付いたらここにいたんだ」
「あなたが彰さん……?」
「俺を知ってるの?」
女の子は優しい笑顔で微笑んで頷いた。
「たくさん彰さんのこと聞かされたから。聞いたとおり、すごく優しそうな人……」
「君はその……まどかちゃんなのか?」
「彰さんの知っている私とは違う私。でも本当なら一つになるはずだった私なんだよ」
「どういう……」
『まどか』が彰の手を包み込んだ。
たくさん聞きたいことはあるはずなのに、その手が暖かくあまりに心地がよかったたせいかどうでもよくなってしまっていた。
包み込まれた手の隙間から黒いもやが蒸気のように上がっていた。
(俺のソウルジェムが浄化されてる!?)
本来グリーフシードでしか出来ないことを、この『まどか』は顔色一つ変えずにやってのけた。
彰のソウルジェムを浄化し終わると、『まどか』は手を離した。
「ここは彰さんの居るべき場所じゃないよ」
「え?」
「それって……」
なぜか目の前にいる『まどか』がとても儚く見えて、もう二度と会えないのではないかと思えて、彰は思わず手を伸ばした。
だがそれは叶わず、彰の身体は動かなくなっていた。
「まだここに来るには早いよ」
突然、背後から声がした。
(この声……嘘……だろ?)
視界が揺らいでだんだんと目の前が真っ白になっていった。
どこか悲しそうにしている『まどか』。
そして格子越しに『まどか』の隣に立つもう一人の少女、それは———。
「———っ!!」
既に言葉を発することが出来ず、少女の名を口に出来ぬまま、彰は再び暗闇へと沈んでいった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 15話① ( No.257 )
- 日時: 2012/07/06 15:55
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
どこか遠くから声が聞こえてきた。
次第にその声は大きくなり、それが自分の名を呼んでいるのだと彰はようやく認識できた。
「彰さん!!」
「まどか……ちゃん?」
朦朧とする意識の中、自分のことを泣き崩れた顔で見下ろすまどかを見た。
(ああ……俺、気を失ってたのか。何か夢を見ていたような……。でも何にも思い出せない)
思い出そうとしてもまるでカギをかけられてしまったかのように、記憶を引き出すことは出来なかった。
しかし目の前で安堵の笑顔を浮かべるまどかを目の当たりにして、彰は夢のことなどどうでも良くなった。
「やっぱ笑っているほうが可愛いよ」
「そんな冗談ばっかり言って……心配したんだよ……」
「ごめん、ごめん」
彰はなんとか自力で立ち上がると、クロードのほうに向き直った。
「俺はどれくらい気を失ってた?」
「1分くらいです」
双樹がそう答えた。
双樹と千里は、彰とまどかの前に壁になるようにして立っていた。
辺りに魔獣の姿はなく、どうやらすべて浄化することに成功したようだ。
(って言っても、あまり状況は変わらないか……)
魔獣は居なくなったが、彰の身体は満身創痍で戦うことなどほとんど出来ない。
(ここは俺を囮にしてでも逃げる……。それしかない!)
この考えを皆に言えば当然反対されるだろう。
だから彰は自身の内の中で決意を固め、人知れず拳を握り締めた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 15話② ( No.258 )
- 日時: 2012/07/06 15:56
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(こんなことが……)
30体近くいたはずの魔獣が一つ残らず消え去ったこの現状にさすがのクロードも動揺を隠せなかった。
彰がどのような魔法を使い、どのようにして魔獣を消し去ったのか、クロードには何が起こったのかまったく理解出来なかった。
(こんな魔法があって良いのですか?こんなのまるで神の所業……。先ほど蒼井彰の仲間が『傷となった記憶を共有する』と言っていた。それが本当だとしたら、蒼井彰は化け物……!)
痛みを共有するということは相手の辛い出来事を共有するということだ。
普通の魔法少女ならソウルジェムが真っ黒になり、魔女化してもおかしくない。
にも関わらず、彰は30体近くの魔獣たちの痛みを共有し、クロードの前に立っている。
(精神力の強さも異常だが、それをやってのける魔力のキャパシティも恐ろしい。一体何者なのですか、あなたは?)
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたが、すぐに笑みへと変わった。
(しかしこちらが有利なの変わりません。このまま一気に終わらせて勝利を手にするのです)
まどかさえ生きていればいい。
その前提で行けば、他の者に容赦する必要は無い。
弱っている彰とほむら。
戦闘力皆無の千里。
唯一戦える双樹にさえ気をつければ戦闘力の低いクロードでも充分に戦えるはずだ。
(色々イレギュラーが起きましたが、今度こそ終わりです!)
クロードが戦闘体勢を取る。
クロードそして彰。
二人の決意が揃った時、それぞれにとって意外な展開が前触れもなく訪れた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 16話① ( No.259 )
- 日時: 2012/07/06 15:57
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
鷺宮千鶴(さぎみやちづる)はクロード越しに見える蒼井彰(あおいあきら)の力を目の当たりにして言葉を失った。
「はは……」
自然と乾いた笑いがこぼれた。
「希望って信じる者には応えてくれるんですね」
千鶴の人生は諦めばかりだった。
自分という存在が何のためにあるのか?
その答えを求めていた。
だが目の前に壁があればすぐに折り返し、前に進むことをやめていた。
父の時もそうだ。
勇気が無かったんじゃない。
鷺宮千鶴という人間が意味もなく失われてしまうのを怖かったのだ。
希望など一度も抱いたことなど無かった。
もし彰のように希望を信じることが出来れば、恐れを断ち切り救える者もあったかもしれないのに。
今もある人の助けになろうと決めていたはずなのに、諦めかけていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 16話② ( No.260 )
- 日時: 2012/07/06 15:58
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(彼が私に希望をくれた。ならやっぱり私も果たさなくちゃ……)
千鶴は窓のから空に浮かぶ月を見た。
あの時もこんな夜だった。
「織莉子さん……。私の役目は伝えることなんです」
「千鶴さん?」
「私たちは運命の奴隷……逆らうことなんて出来ない。でも奴隷だって王にささやかな抵抗くらい出来ます。いずれそれは大きな亀裂となる」
「それが伝えること……?」
「そうです。言うなら、私たちにはそれしか出来ないんです」
これから織莉子に伝えることは、千鶴も伝えられたことだ。
少しずつ、そして確実にそれを伝えていかなければならない。
それは千鶴が魔法少女になって少し経ったころに聞いた話。
千鶴にとって運命を変えた出会い。
物語はワルプルギスの夜が現れる少し前にさかのぼる。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 17話① ( No.261 )
- 日時: 2012/07/06 15:59
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
千鶴は父が手を汚していたことを知った。
それを千鶴に教えたのは織莉子の父だった。
織莉子の父は汚職のことを公表すると伝えに来たのだ。
「千鶴ちゃん。私がこのことを君に伝えたのは、君の言葉ならお父さんを説得出来るかもしれないと思ったからだ。私は既に告発するための材料は揃えている。つまりいつでも行動を起こせるということだ。だがそうすることで一番苦しむのは君だ。だから私は事を起こす前に、君に希望を託したい」
そう言われたが千鶴は動くことが出来なかった。
父は千鶴をとても可愛がってくれていた。
千鶴が小さいときに母を亡くして以来、ずっと父は屋敷のものにほとんど手を借りることなく育ててくれた。
どんなに手を汚していようと千鶴にとっては大好きな父親なのだ。
千鶴という存在を認めてくれるのは父しか居ない。
父を失えば千鶴は自分を失うことになる。
それが怖くてたまらなかった。
「お譲様は旦那様を大切に思われているのですね。なら、そのお心をそのままにしておいてください」
悩む千鶴にそう言ったのはクロードだった。
そしてクロードは千鶴に代わって千鶴の父を告発した。
だが追い詰められ、精神を害した千鶴の父により道づれとしてクロードは殺害されてしまった。
その後、織莉子の父の死の原因が千鶴の父であることを知った。
あの時、もし自分が父を説得していれば死人が出ることは無かったかもしれない。
何ひとつ自分で決断することもできず、他人任せの人生。
織莉子の父を死なせ、クロードと自分の父を失った瞬間、千鶴は自分と言う存在を失った。
自分を失った瞬間、千鶴は自分を殺した。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 17話② ( No.262 )
- 日時: 2012/07/06 16:00
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「そうして君は自殺を図った。でも結局死ぬことは出来なかった」
目の前で表情を変えずにそう言うのは、まるでぬいぐるみのような容姿をした不思議な生物だった。
「そんな私を笑いに来たの……キュゥべぇは?」
「とんでもない。ボクは君の才能を生かしに来たんだ」
「才能……?」
「そうさ。君は魔法少女の才能があるんだ!」
魔法少女となって魔女という怪物と戦う代わりにどんな願いも叶えてくれる。
それがキュゥべぇが語った大まかな魔法少女についての話だ。
「こんな私にも魔法少女になる才能があるの?」
「もちろんさ。才能さえあれば君の肉体がこん睡状態に陥っていようと契約できる。心さえ生きていれば問題ないんだ」
「……」
現実から背を向けるため、自らの死を選んだにも関わらず、結局それすら出来なかった。
こんな中途半端な存在でしかない自分が魔法少女になることで何かできるのだろうか。
「さぁ、どんな願いでも叶えてあげる。言ってみるといいよ!」
「わ、私は……し、知りたい」
「ん?」
「私は、私自身の存在理由を知りたい!」
キュゥべぇは表情を変えずに千鶴を見つめた。
なんとなくキュゥべぇが何かを言いたげにしているような気がした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 17話③ ( No.263 )
- 日時: 2012/07/06 16:00
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「———確か君は織莉子と知り合いだったね」
「え?」
「いやー……君の願いと、織莉子の願いがとても似ているものだから、ちょっと驚いたのさ」
「織莉子さんが……?」
織莉子が魔法少女であることにも驚いたが、織莉子も自分の存在価値を見いだせずに居たことに驚いた。
織莉子は千鶴にとってただ一人わかり合える友人だった。
同時に羨ましくも思っていた。
千鶴から見た織莉子はすべてを持った理想の人間像だったからだ。
理想にしていた織莉子は、自分と同じ悩みを抱えていた。
意外だったが、なんだか嬉しく感じた。
「千鶴。願いはそれでいいのかい?」
千鶴は頷いた。
織莉子は今も己の存在証明を探しているのだろう。
ならば自分も、自分自身の生きる意味を見出してみよう。
千鶴はこうして魔法少女になったのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 18話① ( No.264 )
- 日時: 2012/07/12 10:14
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
千鶴はキュゥべぇと契約したことで魔法少女となった。
「願いは叶った。きっと君がこれから進む先に君の追い求めているものが見つかるはずだよ」
キュゥべぇはそう言い残して千鶴の意識の中から消えた。
当然、存在証明といった曖昧なものは形として手にすることは出来ない。
自らそれに出会い、そしてものにしなければ意味が無いのだ。
キュゥべぇはあくまで追い求める先を用意してくれただけで、そこまで行くのは自分の力なのだ。
千鶴は魔法で動けない自分の分身として、亡くなったクロードを作り出した。
作り出されたクロードは『生きる意味、存在証明を探す』というプログラムを元に自律行動をした。
千鶴は自律行動するクロードの目を通して今、刻々と進んでいく現実を夢に見た。
それで千鶴は知る。
屋敷の人間をはじめ、学校の人間、かつて父の知り合いや部下だった者たち。
それらの人間が、千鶴のことを忘れていたり、蔑んだりしていることを。
自分の存在価値を知るために手にした力が、逆に自身の無価値感を助長してしまっていた。
(私のような人間が、希望を求めることが間違いだったんだ……)
千鶴はしゃがみこむと、体育座りをして顔をうずめた。
(もう何も視たくない……。聞きたくない)
再び真っ暗な世界に閉じこもろうとしたとき、その手は突然差し伸べられた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 18話② ( No.265 )
- 日時: 2012/07/12 10:16
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「アナタ……ずいぶん後ろ向きなのね」
「え?」
顔をあげるといつの間にか見知らぬ場所に居た。
一言で言うならば、そこは『図書館』だった。
「そ、そんな……。いつの間に?それより私の中なのに……」
動揺する中、先ほど自分に対して言葉を投げかけた人がいることを思い出した。
「あ、あなたがここに?」
椅子に腰掛けた、自分より少し年上風の女性だった。
「ちょっと違うわね。アナタの世界の中に一時的に私の世界を作らせて貰っているのよ」
「そんなこと……」
そんなこと魔法少女でもない限り———そう思った時、改めてこの人が千鶴と同じ魔法少女であることに気が付いた。
「記憶と心って似ていると思わないかしら?どちらも目に見えないものだし、喜びや悲しみとかを刻み込むのも記憶や心だわ」
「どういう……ことですか?」
「似ているものだから、記憶と心は繋がれるのよ。アナタがワタシを記憶していたから、ワタシはアナタの中に居られるの。それがワタシの魔法……」
「でも私はあなたとは初対面のはず……」
いくら記憶を探っても目の前の女性のことを思い出せなかった。
「思い出せないと思うわ。アナタ、とても小さかったもの」
「小さいとき?」
「そう……。アナタは小さいときに魔女に襲われた。その時、アナタはお母さんを亡くしたのよ」
「母を……?」
母親は原因不明の事故で亡くなったと父から聞いていた。
魔女が原因であれば、魔法少女でない者から見れば『原因不明』で済まされてしまうだろう。
「アナタを助けたのがワタシの仲間だったのだけど、助けたアナタはお母さんを亡くした痛みで壊れてしまいそうだったの。だからワタシがその時の記憶を消したのよ」
母親の記憶はほとんど無い。
写真で母親の顔を見てもピンと来ないくらいだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 18話③ ( No.266 )
- 日時: 2012/07/12 10:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「アナタに母親の記憶を残してしまえば、それをきっかけに消した記憶が戻ってしまうかもしれない。いくらその時の記憶を消しても、アナタの心から消えることは無い。それが記憶というものだから。とは言え……とても申し訳ないことをしたわ」
女性はため息をついた。
「私は……母のことをどう思っていたのですか?」
なんとなく気になった。
記憶を消されていたため、千鶴は母親という存在を知らずに育った。
父親のように千鶴を愛してくれていたのだろうか。
「そうね……。アナタのお母さんは身体の弱い人だったわ。でも心の強い人だった。アナタのことを一番に思い、アナタに強く生きて欲しいと願っていたわ」
女性は記憶と心は似ている———繋がっていると言っていた。
今語っていることも、母親の記憶から感じ取ったことなのだろう。
「わ、私は母のことをどう思っていたんですか?」
無くしてしまった母親への思いを知りたかった。
父はたまに「自分よりずっと強い人で、私はそんな母さんのようにお前になって貰いたい」と言っていた。
しかし母親のことを知らない千鶴にはそれが理解できなかった。
だが、もし今母親への思いを知ることが出来れば、父の言葉の意味がわかるかもしれないと思った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 18話④ ( No.267 )
- 日時: 2012/07/12 10:18
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「アナタは……大好きなお母さんを守りたいと思っていたわ。お母さんが苦しまずに暮らせる幸せな世界を作りたいと」
「うっ……うぅ!」
千鶴の瞳から滝のように涙が流れ落ちた。
千鶴はずっと前から自分が生きる意味を知っていた。
周りがどう言おうと関係ない。
立派に貫ける信念があったのだ。
母親と父親は千鶴に強く生きて欲しいと願った。
そして千鶴は願いを知らずともしっかり受け取り、強くあろうとしていた。
「アナタは無価値なんかじゃないのよ。志のあること自体に価値がある。それさえわかっていれば残せるはず……アナタの存在証明を」
女性はこのことを伝えにきたのだ。
確かに願いは叶った。
千鶴のは己の存在理由を知ることが出来たのだ。
「あの……アナタの名前は?」
女性は微笑みを浮かべ、答えた。
「自己紹介が遅れたわね。ワタシの名前は、叶(かなえ)ゆかりよ」
これが千鶴の運命を変えた出会いだった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 19話① ( No.268 )
- 日時: 2012/07/12 10:20
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「アナタにお願いがあるの」
叶ゆかりは突然そう言った。
現実の世界では、ある魔法少女たちがワルプルギスの夜という強大な魔女を倒したという噂が流れていた。
「お願い……ですか?」
「アナタ、最近奇妙な存在に出会ったでしょう?」
漠然とした問いだったが、心当たりがあった。
「もしかして、自分を『概念』だとか名乗った人のことですか?」
正確には、出会ったのは自立活動しているクロードだ。
クロードの前に現れた『それ』は人と言うには抵抗があるような存在だった。
「何というか……運命ってものなのかしらね。アナタには無縁のことだと思っていたのだけど……」
ゆかりは一人で納得していた。
千鶴が首を傾げていると、ゆかりは苦笑を浮かべて謝った。
「実は私のお願いとその『概念』はとても関係があるの」
ゆかりは神妙な顔つきで千鶴を見つめた。
千鶴も気楽な気持ちで聞いていい話ではないと悟った。
「ワタシはワタシという存在を残したくて出会った人の記憶にワタシを刻み込んできた。でもそれはあくまでこの世界というものがあって初めて成り立つものなのよね」
ゆかりの言い方は一言で言うなら『変』だった。
まるでこの世界の存在があやふやだと言っているかのようだったからだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 19話② ( No.269 )
- 日時: 2012/07/12 10:21
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「誰も変だとは思わない。だって思えるはずがないもの。この世界で産まれ、生きて……そして死ぬ。それが当たり前だから。もちろんワタシもそう思っていたわ。あの人に会うまではね」
「あの人?」
「どんな人なのか……なんて名前なのか……それを言うことは出来ないの。それを知られるわけにはいかない。でも伝えなくてはいけないのよ。遠回りしてでも、時間がかかってもいい。あの『概念』に知られること無く、目的の人に……」
千鶴は生唾を飲み込んだ。
とてつもなく重大なことをゆかりは伝えようとしている。
しかも自分に。
「アナタはとても遠い位置で『鹿目まどか』と繋がっている。それは『概念』も知っていることだけど、アナタは知らない」
鹿目(かなめ)まどか。
その名を聞いたのはその『概念』からが初めてだった。
強大な力を秘めた子で、もし魔法少女にすることが出来たなら、その力を利用して千鶴を昏睡状態から目覚めさせることが出来るかもしれない。
そうクロードに語っていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 19話③ ( No.270 )
- 日時: 2012/07/12 10:22
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「『概念』はアナタ……正確にはクロードさんを鹿目さんにぶつけてその力を手にしようとしている。『概念』がそう考えたのは、アナタ自身は知らないけれども少なからず鹿目さんと関係性があるという微妙な立ち位置に居たから。それが『概念』とっては好都合だったし、ワタシたちにとってもチャンスとなった」
まどかと親密な関係にある者を誘惑しても意味がない。
まどかを擁護しようとするからだ。
だがまったく関わりが無ければ何かと不便なものだ。
一人でも対象のことを知る人物いるだけで、情報を得ることが出来たり、時として共に戦う仲間となってくれることもある。
そういう意味で千鶴は丁度良い立ち位置にいたのだ。
「アナタが鹿目さんのことと『概念』のことを知ったこと。そしてやはりアナタがどちらからも遠い位置にいること。それがワタシたちにとっても好都合なの」
「あの……『概念』って何なんですか?ゆかりさんの言い方だとまるで———」
倒すべき相手、つまり敵だと言っているようだった。
ゆかりは千鶴の考えていることを悟っているようだったが、否定することはしなかった。
「『概念』のことも話さなくてはいけないわね」
ゆかりは魔法で2つの人形を作り出した。
「これから始まるのは一人の女の子の絶望、希望、創造……そして果て無き戦いの物語よ」
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話① ( No.271 )
- 日時: 2012/07/13 15:23
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
一つはピンクの髪の毛を左右で縛った可愛らしい子。
もう一つは黒髪が綺麗でどこか儚げな感じの魔法少女。
「ピンクの髪の毛の子が鹿目(かなめ)まどかさん。黒髪の子が暁美(あけみ)ほむらさんよ」
ゆかりが二人の自己紹介を済ませるのと同時に、テーブルの上に見滝原市を模したジオラマが出現した。
そのジオラマの上空を魔女が浮いていた。
「暁美さんはこのワルプルギスの夜を倒し、なおかつ鹿目さんを魔法少女にしないために何度も何度も同じ一ヶ月を繰り返していたの。暁美さんは何度目ともわからない勝負に挑んだわ」
ほむらの人形がひとりでに動き出し、ワルプルギスの夜と戦っている。
だが。
「あっ!」
千鶴の目の前でほむらはワルプルギスの夜にやられてしまった。
「何度やっても暁美さんは勝てなかった。でもそんな暁美さんの前に、この時間軸の鹿目さんが現れたの。鹿目さんは大切な仲間の死、そして自分のためと一生懸命に戦う暁美さんを見てある願いを叶えようと考えていた」
ほむらとまどかの前に、今度はキュゥべぇの人形が現れた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話② ( No.272 )
- 日時: 2012/07/13 15:23
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「その願いは『すべての過去、未来の魔女を消し去ること』。そうすることで魔女化して呪いを振りまく存在となってしまう魔法少女たちを救おうとしたのよ」
「でもそんなすごい願い……叶えることができるんですか?」
「鹿目さんになら出来たのよ。言い換えるなら鹿目さんにしか出来なかった。暁美さんが繰り返し続けた時間の中で因果の特異点となり、強大な力を蓄え続けた鹿目さんにしかね」
まどかが魔法少女へと変身し、放った無数の矢によりワルプルギスの夜が消し去られた。
「この願いを叶えるためには時間という概念に囚われない、上位の存在———つまり概念そのものになるしかなかった。それは鹿目さんの存在そのものを過去、現在、そして未来から消し去ってしまうことを意味していたわ」
まどかは女神と言っても相違ない神々しい姿へとその身を変えた。
「これですべてが終わったはずだった。でもそうもいかなかった」
まどかの後ろに全身真っ黒に染めたもう一人のまどかが現れた。
「希望と絶望は表裏一体。希望が振りまかれれば絶望も同じように生まれる。鹿目さんが希望そのものだとすれば、この黒い鹿目さんは絶望そのもの」
まどかという希望が生まれたと同時に絶望も生まれてきた。
それは至極当然のことでコインに表と裏があるように、世界は常に同じになるようにバランスを取り続けている。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話③ ( No.273 )
- 日時: 2012/07/13 15:24
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「鹿目さんを慈悲の女神とするならば、この黒いのは無慈悲なる悪魔。この悪魔こそ、ワタシたちが倒すべき『概念』なの」
「でもそれってつまり……相手は神様みたいなものなんですよね?」
まどかと『無慈悲なる悪魔』は元々同じ存在。
つまり二人の力は同じ。
その力は拮抗しあい、勝負がつくことは無かった。
「ワタシたちでは到底勝つことなんて出来ない。でもある人は唯一太刀打ちできる術を持っている……。その人にある人物を引き合わせることがワタシたちの役目なの」
戦う力は無くとも、伝えることなら出来る。
それがゆかりの、そしてこの話を聞いた千鶴の役目なのだ。
「『無慈悲なる悪魔』は拮抗状態を打破するための策にでたの」
「それが……この時間軸のまどかさんの力を奪うこと……?」
同じ力を持っているがゆえに決着のつかない戦い。
ならばこの状態を崩すためには、それより大きな力を手にすればいい。
単純だが確実な策であった。
「そう……。そのために『無慈悲なる悪魔』は改変されるはずだった一つの並行世界を密かに自分の手中に収めた」
「この世界が!?」
ゆかりは頷いた。
語っている自分ですから、まるで御伽噺を話しているようだとゆかりは思っていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話④ ( No.274 )
- 日時: 2012/07/13 15:25
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「手中に収めたこの世界を『無慈悲なる悪魔』は、女神となった鹿目さんから見た最も幸せな世界に作り上げた。仲間が死ぬことなくワルプルギスの夜を倒し、そして皆で幸せな生活を送る。鹿目さんが目指した楽園……」
このとき、ゆかりは『無慈悲なる悪魔』がそのような世界を作った理由がまどかを油断させて動きを鈍らせることだと推測した。
その推測は後に見事に当たってしまう。
『無慈悲なる悪魔』の手によって、まどかは力の及ぶこと無い概念世界の奥の奥に閉じ込められてしまったのだ。
「本来『概念体』はワタシたちよりも上位層に存在する姿無きもの。だからワタシたちは視認出来ないしそれらの声を聞くことなんて出来ないの。『概念体』も直接的な干渉できない……。でも『無慈悲なる悪魔』の恐ろしいところはその弱点を克服しているところにあるのよ」
千鶴は改めて気付いた。
クロードに接触してきた『無慈悲なる悪魔』は確かにクロードと話をしていた。
ぼんやりだが何となくそこに居る———という感覚もあった。
千鶴たちは認識出来ないはずの存在を認識していたのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話⑤ ( No.275 )
- 日時: 2012/07/13 15:26
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「『無慈悲なる悪魔』は女神となったまどかさんのように、魔法少女たちを救うという力を持ち合わせていない。その代わりにワタシたちに干渉できる力を持っているの」
「それじゃあ、私たちの話だって知られてしまうんじゃ……」
どこにも居なくてどこにでも居る存在。
そう『無慈悲なる悪魔』は言っていた。
その通り、『無慈悲なる悪魔』はこの世界には居ないが、上位の世界から千鶴たちすべてを見通すことが出来る———つまりどこにでも居るようにすべてを捉えられるのだ。
「そうね……本来ならね」
「本来……なら?」
「あらゆるものを見通せる目がありながら、その上でワタシたちに直接干渉できる……だとすればもう太刀打ち出来ないわね。でもそうじゃないの。『無慈悲なる悪魔』はこの世界に実体化しているときは、あくまでこの世界に存在するもの。つまりすべてを見通す目を持っていないのよ」
「でも確かに『どこにも居なくてどこにでも居る存在だ』って言ってましたよ?」
ゆかりは「ふふ」と声に出して笑った。
「ハッタリよ」
「は、ハッタリ!?」
「そう。でも相手をよく知らない状態でそう言われたらそれが出来るような気がするでしょ?ワタシたち魔法少女だって初対面では力の探りあいですものね」
初めて会う相手に対しては、いかに自分を大きく見せてプレッシャーを与えるかが勝負になってくる。
昆虫や動物はそのようにして相手に威圧をかけたりするという。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話⑥ ( No.276 )
- 日時: 2012/07/13 15:26
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「だからワタシたちは相手の目を盗んで打ち勝つための作戦を着々と進められる。だからと言って油断は出来ない……。ばれてしまえば圧倒的な力の前にすべて無に返すことになるわね」
「でも……なぜ『無慈悲なる悪魔』はこんな面倒なことをしたんでしょうか?それほどの力があるのならいくらでも方法があった気がするのですけど……」
インキュベーターたちのようにエネルギーを集める方法はいくらでもあるはずだ。
いちいち新しい世界を作ってまどかが契約するのを待つなど、遠回りに思えた。
「ちょっとやそっとのエネルギーじゃ拮抗したバランスは崩せないわ。だから手っ取り早いのは自分と同じ力をもった鹿目さんをもう一度魔法少女にしてその力を奪うこと」
まどかの願いによってすべての平行世界上のまどかは一つとなって神となった。
そしてまどかの願いを理とした世界が新たに生み出された。
再びまどかを契約させるためには、この理の外に出なければならない。
そのため、『無慈悲なる悪魔』は改変される前の並行世界を抜き出したのだ。
これによりまどかの作り出した理に囚われない新しい世界が誕生した。
『無慈悲なる悪魔』が作り出したこの世界に対してまどかに干渉されては困る。
そこで『無慈悲なる悪魔』はまどかを封じることで身動きの取れない状態にした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話⑦ ( No.277 )
- 日時: 2012/07/13 15:28
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「でもね……『無慈悲なる悪魔』がこの方法を取らざる終えなかった最大の理由はある魔法少女の存在だったのよ」
「ある魔法少女……それがゆかりさんにこのことを伝えた人……?」
「そうよ。その人は『無慈悲なる悪魔』を倒せる可能性を秘めていた。その人の力をこれ以上大きくしないためにはこの方法を取るしかなかったの。『無慈悲なる悪魔』はその人を遠ざけることに成功したと思った。でも……ある偶然によってその人はこの世界と繋がることが出来たのよ」
「ある偶然……?」
「本来、存在しないはずの人間がこの世界において存在している。でもそれは無数にある可能性から考えればありえない事ではないの。ワタシが産まれてくる世界、その逆の世界……それぞれがあるように。だから『無慈悲なる悪魔』はその偶然———イレギュラーに気付かなかった」
「その魔法少女に会わせたい人っていうのが、その本来存在しない人……なんですね?」
ゆかりは頷くと、テーブルに展開したジオラマ上からまどかとほむらの人形を消した。
「その魔法少女はすべてを知っているからこの偽りの世界においても真実の目を失わなかった。ゆえに分身ともいえるその人に繋がることが出来たの。でも分身のほうはこの世界の真実を知らないために、その魔法少女のことを知りえずにいる。だから……」
ジオラマ上にさっき消滅したはずのワルプルギスの夜が再び現れた。
「その魔法少女に引き合わせるために、この世界で生じている矛盾をその分身に教える必要があるのよ。今まで見えていなかったものも、認識一つで見えてくる。うまく行けば真実に手が届く可能性があるわ」
「矛盾……?」
「アナタ、ワルプルギスの夜を倒したって噂を聞いているわよね?」
「え?は、はい……」
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話⑧ ( No.278 )
- 日時: 2012/07/13 15:29
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ゆかりはジオラマ上に浮かぶワルプルギスの夜を見つめた。
「ワルプルギスの夜を倒した子たちの記憶に刻み込んだ『ワタシ』が、確かに倒された瞬間を『視て』いるわ……」
記憶として生きるゆかりは、刻み込まれたゆかりたちの記憶を共有している。
かつて出会った、まどかとほむらの記憶にゆかり自身を刻み込んでいた。
刻み込まれたゆかりはまどかとほむらの記憶を見て、ワルプルギスの夜の最後を確かに『視た』。
それゆえに今から口にする言葉に違和感を感じずにはいられなかった。
「この時間軸のワルプルギスの夜は……倒されていないのよ」
「え?」
「倒す、倒さないの問題じゃないわ……。そもそも現れてすら居ない!」
記憶は嘘を語らない。
そう信じていたゆかりは、『無慈悲なる悪魔』が作り出した記憶に騙されていた。
その悔しさにゆかりは唇を強くかみ締めた。
そんなゆかりをあざ笑うかのように、ジオラマ上に浮かぶワルプルギスの夜は不快な笑い声をあげていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 21話① ( No.279 )
- 日時: 2012/07/17 14:28
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「これが私が聞いた話です」
千鶴は一息ついた。
織莉子は高鳴る心臓の鼓動に思わず表情を歪めた。
(まさかこんな所であなたのことを聞くことになるとは思わなかった……ゆかりさん)
織莉子はゆかりの最後を予知し、それを伝えた。
このときのゆかりはまだ『真実』を知らなかったはずだ。
恐らく出会った人にゆかりの記憶を刻み込んだのは、親友である天音(あまね)リンのためだったのだろう。
だが『真実』を知ったゆかりはその力を生かしてたった一人で来るべき日を待ち続けた。
(さすがは記憶の魔女の異名を持った人だわ。頭が下がるわね……)
織莉子は力なく笑った。
高鳴る鼓動は止まらない。
その理由はわかっている。
「なぜ今の話を私に?」
「それは織莉子が既にこの世界の矛盾に気付いているはずだからですよ」
「……」
織莉子は内心、「やっぱりそうか」と思った。
ゆかりはそのことでさえ予想しており、千鶴に伝えるべき相手として選出していたのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 21話② ( No.280 )
- 日時: 2012/07/17 14:29
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ええ。ワルプルギスの夜が倒されていないことを知っていたわ。視えてしまったから」
未来を予知する能力者であることをゆかりは知っていた。
ゆえにこの矛盾を予知するであろうと推測したのだ。
(ゆかりさんと最後会った時は、まだワルプルギスの夜に暁美ほむらたちが敗北するという予知だった。ゆかりさんも私から聞いてそれは知っていたはず……。だとすれば———)
ゆかりは死後、記憶だけの存在になってから恐らく『ある魔法少女』に出会った。
その時聞いた話から、ワルプルギスの夜が現れないと予想していた。
その理由は簡単だ。
女神となったまどかを陥れるという目的の一環でもあったのだろうが、一番はこの時間軸のまどかに死なれないためだ。
まどかがワルプルギスの夜と遭遇して生き残ったケースは無い。
それはほむらがループし続けていたという事実からも明白だ。
ゆえに『無慈悲なる悪魔』はワルプルギスの夜を遠ざける方法をとったのだ。
本来なら起こるはずだったワルプルギスの夜の到来。
それが『無慈悲なる悪魔』の手によって捻じ曲げられようとしていると聞かされれば、それによって一度視た予知が改変されると推測するのは容易だ。
ゆかりはそのことから織莉子がこの矛盾に気付くであろうと推測し、千鶴に織莉子に託すように伝えたのだろう。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 21話③ ( No.281 )
- 日時: 2012/07/17 14:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(どこまで先を見通しているのかしらね……。私よりよっぽど予知能力者が様になっているわ……)
だがこの矛盾に気がついてしまった以上、いずれどのような形にせよ何かが起こると覚悟はしていた。
「それで私はこのことを誰に伝えればいいの?」
「ゆかりさんは、『ある魔法少女』の記憶を持っているって言っていたわ。それを見せることが伝達者としての最終的な目標だと」
「ならゆかりさんに会う必要があるわね」
ゆかりは人の記憶を本にする能力がある。
そしてその本を対象者に見せることで持ち主の記憶を刻むことができる。
だがそれが出来るのは無論ゆかりだけである。
「ゆかりさんはどこかに自分自身を刻んでいるのね?」
記憶は人以外にも、場所や物に自身の記憶を刻み込むことが出来た。
ゆかりが出会ったもの全てが、ゆかりにとっては刻みたい記憶なのだ。
「ゆかりさんの能力はある意味、肉体を失ってもなお生き続けることの出来る無敵の能力。でもそれはそう思えるだけで実際は違うと……。ありとあらゆる場所に記憶を刻むことで存在できるけど、それはあくまで記憶のカケラだから存在自体はとてもあやふやでいつ消えてもおかしくないらしいんです」
千鶴はそれを噂話に例えた。
語られているうちは人々の中に生き続けるが、語られなくなってしまえば噂は人知れず消えてしまう。
そういうあるか無いかわからないものはいずれ消えてしまう運命なのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 21話④ ( No.282 )
- 日時: 2012/07/17 14:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ゆかりさんはそういった記憶たちを繋ぎとめるブレインが居ると言っていました。もっとも強く刻み込まれたその場所にそれは存在すると———」
「もっとも強く刻み込まれた場所……?そこはどこなの?」
織莉子がそう問うと、千鶴は首を振った。
「教えて貰っていないんです。ゆかりさんはとても注意深い人でしたから……情報を分散して敵に気付かれないようにしているみたいです」
「それじゃあ、どこにいるかわからない……」
「ゆかりさんはこう言っていました。鹿目さんの記憶に本と共に刻み込んだって……。そのカギは……もう渡してあります」
織莉子はそれがすぐにクロード経由で渡された千鶴からの手紙だと悟った。
だがその内容にはカギとなるようなものは書かれていなかったはずだ。
「ゆかりさんがしたように私も注意深くやらないといけませんから。その手紙、ある条件を満たすと魔法で書かれた文章が浮かび上がるようになっているんです」
「なるほどね。それならそう簡単にばれない。それで条件って?」
千鶴は微笑んだ。
その笑みに織莉子は背筋が凍った。
何せそれはすべてを終えて目標にたどり着き、達成した者の死に際の笑みだったからだ。
「条件は私が死ぬことです」
恐怖心も後悔の欠片も無く、当たり前のことを言うかのように千鶴はそう告げた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 22話① ( No.283 )
- 日時: 2012/07/17 14:31
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
クロードが駆け出すのを見て、蒼井彰(あおいあきら)は舌打ちをした。
(ヤツの狙いはおそらく双樹……。双樹がやられたらまずい!)
彰たちの中で唯一まともに戦えるのは樽咲双樹(たるさきそうじゅ)だけだ。
双樹さえ倒してしまえばクロードは勝ったも同然なのだ。
案の定、クロードは双樹に目掛けて手刀を振り下ろしてきた。
双樹はそれを軽く避け、デザートイーグルをクロードの足に狙いを定めて発砲した。
だがそれはあらぬ方向に着弾してしまい、掠りさえしなかった。
それを見たクロードはさらに攻撃の手数を増やしてきた。
「っ!」
先ほどとは違い、攻撃が避けきれずに掠り始めた。
しかも致命傷を避けるのが精一杯で攻撃に転じることが出来なかった。
(双樹……!)
生傷を増やしていく双樹を見ながら彰は身体がまともに動かない己を呪った。
双樹は戦闘タイプの魔法少女ではあるが、能力によって他人から力を借りることで発揮する。
そのため双樹単体の戦闘能力はあまり高くない。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 22話② ( No.284 )
- 日時: 2012/07/17 14:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(俺がこんな状態でなければ……)
双樹の能力『コ・ディペンデンシー』によって肩代わりする相手のダメージは、今負っているダメージも対象となる。
彰と双樹の依存率は70%。
つまり今彰が受けているダメージの70%を肩代わりすることになってしまうのだ。
双樹は身代わりとなること自体に抵抗は無い。
だがそれが出来ないのは、そうすることで引き起こるある可能性に問題があった。
(俺が受けてるダメージを肩代わりしたら一発で魔女化だ……。双樹は自分が魔女化してこの状況を悪化させたくないんだ)
彰も双樹が自ら傷を負うような行為をして欲しくはない。
そういう意味では双樹を救ったことになるが、結局のところ彰たちが絶体絶命であることに変わりは無い。
「このろくでなしっ!」
一方的に双樹を攻めていたクロードに綾女千里(あやめちさと)が飛び掛った。
「あなたはお呼びではないですよ!」
「きゃあ!」
だが一撃当てることも出来ず、千里はクロードに蹴り飛ばされてしまった。
クロードが千里から再び双樹に向き直ろうとしたとき、クロードの肩を銃弾が掠めた。
「むっ!」
クロードがバックステップで後退する。
そしてデザートイーグルの銃口をクロードに合わせ、鋭い眼差しで立つ双樹に改めて視線を合わせた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 22話③ ( No.285 )
- 日時: 2012/07/17 14:33
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「なるほど……今のは私から注意を逸らす作戦でしたか。ですが、あなたの腕では当たりませんよ」
「どうでしょうかね……」
双樹が引き金を引いた。
銃弾はクロードの右太ももを掠めた。
「!!?」
またしても当たった。
偶然によるものなのか。
「次は当てるわよ」
双樹が再び引き金を引いた。
それと同時にクロードは銃弾の軌道上から逸れるように横へ飛んだ。
当たらないと思ってはいるが、もしもの場合に備えてそう行動した。
だがそのもしもの行為はまるで意味を成さない結果となる。
「な、なにっ!?」
真っ直ぐ進むはずの銃弾が物理法則を無視して軌道を変えてクロードに向き直ったのだ。
「こ、これは!!ホーミング弾!?」
クロードはこれに動揺し、結果として防御が間に合わずに銃弾を右太ももに受けてしまった。
「ね?当たったでしょ?」
吹き飛ぶクロードに———否、その後方にいる千里に向けて双樹は笑みを浮かべた。
そのクロードを一泡吹かせた攻撃を見た彰は双樹たち同様に笑みを浮かべた。
(千里に向けて能力を使ったのか!千里の千里眼と組み合わせれば追跡弾が撃てる!!)
魔法によって強化された弾丸はクロードの右足をもぎ取った。
そのためクロードは受身を取ることもできずに地面に叩きつけられた。
叩きつけられたクロードは右足を失ったとはいえ、やはりそれほどダメージは無いのかすぐに立ち上がろうとした。
だがその様子にその場に居た誰もが目を疑った。
立ち上がれないクロードの姿に。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 22話④ ( No.286 )
- 日時: 2012/07/17 14:33
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
もっとも驚いたのはクロード自身だった。
普段ならどんな傷だろうと一瞬で再生できる。
なにせ自分は魔法によって作られた人形なのだから。
それなのにもぎ取られた足は再生出来なかった。
「これは一体どういうことなのだ……」
思わず声に出してしまっていた。
「魔法を使った本人が居なくなってしまえば、当然その効果も消えてしまう。あなたが自立型の魔法生命体だったから今は消えずにいるのだろうけど……」
彰たちでは無い、別の女の声がした。
「美国織莉子(みくにおりこ)!!なぜあなたがここに?それよりも本人が居なくなったというのは……!」
今まで見たこと無いほどの焦りがクロードの表情を支配していた。
織莉子はそんなクロードとはまるで真逆———無表情で答えた。
「鷺宮千鶴(さぎみやちづる)は死んだわ。私が殺したの」
その言葉を聞いた瞬間、クロードの身体は糸の切れた人形のようにガクリと崩れ落ちた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 23話 ( No.287 )
- 日時: 2012/07/18 15:51
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
信じるものや目的があれば限界を超えた力が出せる。
だが一度それを見失えば、現実を知ってしまえば途端に均衡は崩れさってしまう。
知らぬが仏———まさにその言葉通りに。
「うぅ」
クロードが消え入るようなうめき声をあげた。
砕けた足から順々に、ゆっくりと身体が消滅していた。
主人である千鶴が居なくなったことを知った瞬間、クロードを繋ぎとめていたものが崩れ去ったのだ。
「なぜ……あなたが?ご友人ではなかったのですか?」
「あなたは結局作られたクロードさんなのよ。本物のクロードさんならそんなこと聞かなくてもわかっていたのでしょうね」
織莉子は哀れみを浮かべて言った。
「皮肉なものよね。生きる目的、己の存在する証明を捜し求めていた人間が作り出した人形が、確固たる意思と目的をもって『悪役』を演じていたのだから」
「……」
クロードは千鶴のことを考えていた。
クロードの持つ記憶は千鶴の記憶を元に構成されたものだ。
つまりそれは千鶴から見たクロードであり、本物のクロードのものではない。
本物のクロードがどのように千鶴を思っていたのか、まったく知らないのだ。
(私は誰よりもお嬢様を知っている。なぜならお嬢様の手によって作り出されたのだから。だから本物以上に知っていると思っていた)
千鶴の分身であるクロードは千鶴のことを知っていて当たり前なのだ。
千鶴のジレンマを良く知っていたからこそ、そのためにこの手を汚そうと思った。
(本物の私はどのように考え、思い、行動していたのだろうか。まずこんなことをしようと思ったのだろうか……)
今は亡き人間だ。
今更それを聞くことなど出来ない。
もしも自分がしてきたことが千鶴の思っていたことと違っていたのなら、とんだ道化だ。
千鶴のクロードにもなりきれず、千鶴の存在証明にもなれない。
「それでは私は……まるで存在価値の無い人形ではないですか……」
そう言い残し、クロードは消えた。
「あなたは充分に千鶴さんの存在証明になっていたわ。あとこれは千鶴さんから……。『ありがとう、ごめんなさい』だそうよ」
織莉子は何も無くなった虚空の空に向かって独り言のように呟いた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 24話① ( No.288 )
- 日時: 2012/07/18 15:52
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ゆかりさんは『例え仕組まれた偽りの世界でも、ワタシたちは確かに生きている。生きている限り、意思がある限り、ワタシたちには逆らう義務がある』。そう言っていたわ」
千鶴がそう呟いた。
「私はゆかりさんに出会い、未来を繋ぐために伝える……という役目をもらいました。それは充分すぎるほどの役目です」
「そのためになら死ぬことも厭わないって言うの?」
織莉子は若干の怒気を含めて言った。
「それくらいじゃないと到底、達成できない役目と思っていますから。それが私の運命ならそれに従うまで……」
千鶴は織莉子の気迫に物怖じせず答えた。
「『無慈悲なる悪魔』はきっと私が自分の価値観を見出せずに悩んでいることを知って、あえてクロードに接触してきたんだと思います。そうしてクロードは私を目覚めさせ、さらに鹿目さんの力を持って私に新たな一歩を踏ませようとするだろうと」
千鶴が作り出した分身であるクロードは千鶴の考えをよく理解している。
逆に言えば、自立行動しているクロードの考えも千鶴にはわかるということだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 24話② ( No.289 )
- 日時: 2012/07/18 15:53
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「クロードがそうするのはわかります。だってゆかりさんに出会う前の私なら、間違いなく目の前に今の自分を変えられる力があればすがっていたと思いますから」
「……」
「でもクロードがそう動いてくれることが私にはチャンスだったんです。ゆかりさんから託されたこの役目を果たすのに」
「チャンス?」
「『無慈悲なる悪魔』の思い通りに事が運べば、『無慈悲なる悪魔』は私を疑わないはず。『無慈悲なる悪魔』からすれば私は所詮駒の一つでしかないのですから」
そして織莉子は気付く。
クロードがまどかたちにしたことは、すべて『無慈悲なる悪魔』を欺くためのこと。
千鶴に対しての疑いをなくし、その隙を狙って言葉を伝える。
まどかに近しければ近しいほど、『無慈悲なる悪魔』の目は厳しくなっていく。
ゆえに織莉子に事を伝えるためにはそれなりの注意が必要だった。
そのために千鶴がとった行動が、クロードを悪役にし、その術者である千鶴を織莉子に殺させることだった。
事件を終わらせるために、千鶴のもとに織莉子が殺しに来る。
その構図であれば結果的にこうなった———と怪しまれることは無い。
「だからこの事件を織莉子さんが収束しなくては、自然の流れに逆らうことになってしまうんです」
「そこまでしてあなたはその役目を……」
「悲しくも、怖くもありませんよ。だってこんな私がこの世界の未来を変えるかもしれない出来事の一端として役立てるのだから。もし無事に事が済んだあと、私を知る人が私のことを覚えていてくれたのなら、私のしたことは無駄ではなかった……。存在証明を残せたんだと思えます」
そう言いながらも、なぜか千鶴は浮かない顔をしていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 24話③ ( No.290 )
- 日時: 2012/07/18 15:53
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「でも千鶴さん、あなたは悲しい顔をしているわよ」
「役目を果たすために……そう思ってはいても、やっぱりクロードには悪いことをしたなって思うんですよ。私のためにと頑張ってくれているのに、私は悪役として利用してしまった。私の想像以上にたくさんの被害者を出してしまったし、それをしたのがクロードなのだと思うとやっぱり悲しい」
千鶴が作った分身とはいえ、姿は長年の間家族のように付き合ってきたその人そのものなのだ。
それを悪役として立てるのはかなり心が痛んだ。
達成したとしても複雑な気持ちは変わらなかった。
「織莉子さん。もしクロードに会ったら、私の代わりに伝えてください。『ありがとう、ごめんなさい』って。もし今の私に心残りがあるとしたら、それを伝えられないことだから」
「千鶴さん……」
伝えなければいけないこと。
それがどんな内容であろうと、重要さに上下は無いのだと思う。
それ一つ一つが大事なのだから当たり前のことで、伝えられなかったときは平等に悲しいものだ。
伝えられなかった後悔が付きまとったままでは、きっと笑顔で眠ることは出来ないだろう。
だから織莉子は頷いた。
鷺宮千鶴が笑って眠れるように。
眠り姫が後悔無く、笑顔でその存在証明を残せるように。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 25話① ( No.291 )
- 日時: 2012/07/19 13:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「私は千鶴さんのソウルジェムを破壊した。そしてこのような事件を引き起こしてしまったクロードさんに最後の言葉を伝えて欲しいと頼まれたの。彼女は笑顔で眠るように逝ったわ」
織莉子は彰たちに鷺宮千鶴のこと、クロードのことを話した。
無論、『無慈悲なる悪魔』については話さなかったが。
「その人も言いようのない傷を負っていたんだね。その結果、あの執事を生んでしまったんだ」
彰はクロードの消えた場所を見た。
狂気を振りまいたその姿の向こう側に、己を攻め続け、悩み続けた少女がいた。
そう思うと、なんだか寂しい気持ちになった。
(俺たちの知らないところでそうやって苦しんでいる人がいるんだよな)
魔女は負の感情の塊だという。
もし今回のように傷を負った者が居て、苦しんでいたのなら、その者に手をさし伸ばすことが出来たのなら何か変わっていたのかもしれない。
手を差し伸ばす勇気があれば、魔女という存在を減らすことが出来るのかもしれない。
目の見えないところでまだまだ苦しむ人がいる。
彰は改めてそう思わされた。
そして自分の未熟さにも。
「もう行くわ。あなたたちも無理しないでね」
「……?」
彰が見た、織莉子が去り際に見せた横顔は勝利者のものでは無かった。
納得していない、不満がある———そういった顔だった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 25話② ( No.292 )
- 日時: 2012/07/19 13:13
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
織莉子は彰たちが見えなくなったくらいの位置で立ち止まった。
「千鶴さん……」
織莉子は歯軋りをたてた。
「私はあなたを助けたかった!」
悔しさのあまり涙が流れた。
彰たちの前では理由を知りながら、悪者として事の顛末を語らなければいけなかった。
助けたいと思った者を汚さなければならないこの状況に納得がいかなかった。
こうなることも受け入れて千鶴は逝った。
すべてを受け入れることが出来る器を持っていたからこそ安らかな寝顔で逝けたのだと思う。
本人が語る以上に強い意志を持っていた。
(私が思っているほど強くないって、千鶴さんは言ったわよね。そんなこと……全然無かったわ)
助けたいと思った者を救えず、状況に流されてしまった自分。
結局、自分の意思とは関係なく突然に事は始まり、終わっていく。
それはまるで先の見えない暗闇、不確定な未来のように。
織莉子が予知した未来は刻々と変わっていく。
もはや能力の意味を成さないペースで。
確定された未来などない。
決まったレールの上を歩いていたのでは、織莉子の求めている生きる意味など到底見つけられないということなのだ。
(だったら私も逆らってみるわ。未来に……)
千鶴やゆかりが言ったように、出来ることなど限られているのだろう。
だが千鶴が見つけたように、その先に目的を成す何かがあるのだと言うのなら求めてみてもいいはずだ。
(今度は私が見つける番ね。あなたの最後に恥じないように努力してみるわ)
織莉子は再び歩を進めた。
今は帰ろう。
友の待つ場所へ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 エピローグ① ( No.293 )
- 日時: 2012/07/19 13:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ニュースで鷺宮千鶴(さぎみやちづる)が自宅で衰弱死し、死体で発見されたことが報道されていた。
父親が有名な元政治家であったため、少なからず話題になった。
それでも1週間ほどで人々の頭から忘れ去られ、あっという間に過去の出来事とされてしまった。
「ふー」
蒼井彰(あおいあきら)は公園のベンチで缶コーヒーを片手にため息をついた。
彰はあれから高校に復学した。
行方不明扱いになっていたため、言い訳を見繕うに少々苦労した。
だがこれも千鶴のニュース同様に、1週間もすれば落ち着いた。
世の中には裏表がある。
魔法少女(?)なんてやっているとつくづくそう思わされる。
今目の前で遊んでいる子供や、立ち話している主婦たちは、彰たちが命がけで戦っていることなどまるで知らないのだから。
(知らないってことは、良いことなのか……悪いことなのか……)
知らないからこそ頑張れることもある。
知らなかったから罪になることもある。
今回の事件はどっちだったのだろうか。
千鶴の痛みを知らなかったがために、クロードという狂気を生んでしまったとしたらそれは罪なのかもしれない。
人は一人ではいけていけない。
痛みを分かち合う誰かが必要なのだ。
だがもし、知られないことが千鶴にとって意味のある事だったとしたらまた話は違ってくるだろう。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 エピローグ② ( No.294 )
- 日時: 2012/07/19 13:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(まぁ……どっちかなんてわからないんだよな)
痛みを分かり合えればすべてを救えると思っていた。
だが美国織莉子(みくにおりこ)が最後に見せた表情は、それを否定しているように思えて仕方が無かった。
「ししょー。お待たせです」
「ん……別に待ってないよ」
綾女千里は笑顔で「良かったです」と言うと、彰の手を握った。
「ちーたちどんな風にみえますかね!?」
「妹と兄じゃない?」
「そーですかね?小学生を誘拐しようとしているロリコンさんと、その小学生じゃないですかー?」
彰は握られた手を話すと千里の額にデコピンをした。
「いったーい!」
「変なこというからだ」
文句を漏らす千里を無視し、彰は家に向かって歩き出した。
ふと、さっきまで座っていたベンチに振り返った。
(俺とまどかちゃんが出会ったのもここだった。叶ゆかりとも……)
『痛みの翼』で気を失った時に見た夢のことがずっと気になっていた。
見たということは覚えていても、まるで内容が思い出せない。
でも心の奥底でこれはきっと運命が導いたものだったんだ———そう確信していた。
運命なんてものがあるのだとすれば、それはいつから始まったのか。
鹿目(かなめ)まどかと叶(かなえ)ゆかりと初めて出会った日のことが彰の脳内でフラッシュバックした。
(あの時から始まっていたのかな?運命とやらが……。もしかして千鶴さん、あんたもその運命に足を踏み入れていたのか?)
「ししょー?」
「あぁ、ごめん。行こうか」
二人は再び歩き出した。
気になる色とりどりの葉っぱは少しずつ落ち始め、冬が近づいていることを知らせていた。
だが冬の訪れを待たずに、それは彰たちの背に迫ってきている。
彰たちの知らないところで、『運命』はすでに折り返し地点をすぎている。