二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 1話① ( No.181 )
- 日時: 2012/06/13 13:31
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(今日もほむらちゃんはお休み……。何かあったのかな)
鹿目(かなめ)まどかは座る者のいない席を自席から見た。
昨日も暁美(あけみ)ほむらは学校に来なかった。
まどかからほむらに電話してみたのだが、ほむらはでなかった。
まどかは休み時間になると友人の美樹(みき)さやかと人気のない場所に移った。
「ほむらのやつどうしたのかなぁ」
さやかがそう言うとまどかは視線を落とした。
「今朝も一応メールしてみたんだけどまだ返事ないし……。何か危険な目にあったりしてないかな?」
「ほむらに限って魔女にやられるなんてことないだろうけど……。まどかからの連絡を無視してるってのが気にかかるのよね」
ほむらが人一倍まどかを思っていることは知っている。
だからこそまどかからの連絡に対し、何の返事もしないことにさやかも違和感を感じていた。
「放課後、ほむらの家に行ってみようか?」
「うん……」
さやかの提案にまどかは頷いた。
そして休み時間が終わりに近づいていることに気づいたさやかに促され、まどかは自分の教室に向かった。
教室に戻る間、まどかはクロードに言われたことを思い出した。
『あらゆる手段を使って———』
(それって皆を巻き込んでってことじゃ……。だとしたらほむらちゃんも———)
最悪の状況が頭に浮かんだ。
まどかは首を振ってそれをかき消した。
今日は文化祭が近いこともあり、授業が早めに切り上げられる。
準備の参加自体は個人の自由であり、支障がなければ帰宅しても良いことになっている。
クラスの者に用事があるからと断れば早めに学校をでることも可能だろう。
(早くほむらちゃんの無事を確認したい……)
ざわめく心を押さえつけながらまどかはその日の授業をこなしていった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 1話② ( No.182 )
- 日時: 2012/06/13 13:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
放課後、まどかとさやかの二人はほむらの自宅の前に来ていた。
さやかが二度ほどチャイムを鳴らしたが、いっこうに出てくる様子は無かった。
「やっぱいないか……。なんか人気もないしね」
さやかはため息をついた。
まどかは淡い期待も届かず、ほむらに会えなかったことに気を落とした。
「だ、大丈夫だって。ほむらにだって色々あるんだよ、きっとさ!」
落ち込むまどかに慌ててさやかはフォローを入れた。
まどかは力なく頷くだけであまり効果は無いようだった。
さやかは頭を掻いて「うーん」と唸った。
「こうなったら手当たり次第探すかぁ」
「え?」
さやかは自分のソウルジェムを取り出した。
「魔法少女なら魔法少女を追えるんじゃないかな?あとは前にマミさんがしたみたいにキュゥべぇを使って探してもいいし」
「そっか!それなら探せるかもっ」
まどかはさやかの考えに目を輝かせた。
そんなまどかを見てさやかは内心ホッとした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 1話③ ( No.183 )
- 日時: 2012/06/13 13:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「じゃあマミさんと杏子にも声かけて探してみるよ。まどかはほむらから連絡あるかもしれないから、家で待ってて」
まどかはそうさやかに言われて素直に「うん」と言えなかった。
もしほむらがクロードに何かされて居なくなったのだとすれば、それは同じ仲間であるマミたちにも及ぶ可能性がある。
そう考えると、このまま行かせてしまうのは自殺行為のような気がしてならなかった。
(やっぱり皆に話したほうが……)
まだほむらのことがクロードの仕業と決まったわけではない。
今の状態でクロードに言われたことを話せば、余計な心配をかけさせてしまう。
そうすれば間違いなくまた傷つく人が出てきてしまうだろう。
かと言って、被害が出てからでは遅いのも事実だ。
「マミさん、電話出ないなぁー。普通に考えたら授業中か……。とりあえず杏子と探しに行ってくるよ」
「さ、さやかちゃんっ!」
「ん?」
「えっと、その……」
まどかは胸の前で手をモジモジさせながら言うべき言葉を捜した。
「大丈夫だって。あたしと杏子がやられるわけないじゃん」
さやかはまどかが自分達を心配しているのだろう———そう思って明るく返した。
「ま、だから大船に乗ったつもりで、このさやかちゃんの帰りを待っててくださいなっ」
さやかは魔法少女に変身すると風のごとく駆け抜けて行った。
「さやかちゃん……うぅ」
結局何も言い出せなかったことに胸が痛んだ。
(こんなどっちつかずの気持ちじゃ、また皆を傷つけちゃうよ……)
まどかは携帯の画面を確認した。
やはりほむらからの連絡はない。
まどかはため息をついてとりあえずさやかに言われたとおり自宅で連絡を待つことにした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 2話① ( No.184 )
- 日時: 2012/06/14 09:56
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
鹿目(かなめ)まどかが暁美(あけみ)ほむらの自宅から離れていく姿を少し離れたマンションの屋上から蒼井彰(あおいあきら)は見ていた。
(まどかちゃん……。心配だろうな)
まどかとほむらの絆の深さは実際に見てよく知っている。
だから今のまどかの心境がなんとなく彰にもわかった。
彰はまどかのあとをずっと追っていた。
以前に出会った【概念】の口ぶりから、まどかを狙っている可能性は高い。
そう考えていた矢先、得たいの知れない化け物がこの街を徘徊するようになった。
これらもすべてまどかに向けられたものだとするならば、まどかを追っていけばその原因にたどり着くことが出来るかもしれない。
同時にまどかを守ることも出来る。
そう思ってここまでやってきたのだが、まさかほむらが行方不明になっているとは思いもしなかった。
彰はほむらに対して償いきれない過ちを犯している。
故にまどかと同等にほむらのことも気にかけていた。
「なぁ、千里」
「呼びましたー?」
彰の自称弟子である綾女千里(あやめちさと)は、ポテトチップスを咥えたまま彰に振り向いた。
「千里の魔法でほむらちゃんを探せないかな?」
「そりゃー探せますけど……。あの人感じ悪いんでちーは嫌いだなぁ」
嫌そうな、めんどくさそうな表情を浮かべて千里は文句を言った。
「マスターが頼んでいるんです。やってあげたらどうですか?あ、上がりです」
「あー!ちーが見てない間にすり替えたでしょ!」
千里はトランプを地面に叩きつけて同じく自称弟子の楢咲双樹(たるさきそうじゅ)に詰め寄った。
「そんなことアナタじゃあるまいし……」
「きぃぃぃぃ!!」
緊張感の無い二人に彰はため息をついた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 2話② ( No.185 )
- 日時: 2012/06/14 09:57
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「なぁ、二人とも……。一応弟子って自称してるくらいなんだから、俺に強力してくれよ」
「しないなんて言ってないじゃないですかー。ちーは大好きなししょーのために何でもやっちゃいますよ」
千里の言葉に双樹も頷いて同意した。
千里は残りのポテトチップスを口の中に注ぎ込むと、衣服に付いたゴミをはたいて立ち上がった。
「さーて!今日もギョロちゃん頼むよ!」
千里は先端に大きな目玉の付いた見た目グロテスクな杖を出現させた。
ギョロちゃんという名のとおり、先端についた目玉はギョロギョロと忙しく動いていた。
千里は杖を自分の少し前方の地面に立て、手を離した。
杖は魔法の力で倒れることなくその場に固定された。
先端の目玉からオレンジ色のレーザーのような光線が放たれると、光線は物凄いスピードで何かを描き始め、それはやがて地図となった。
そして地図上に白い点が浮かび上がり、その点はゆっくりと動き出した。
このようにしてGPS端末のように、千里が一度見た人物を追跡することが出来る。
これが彰が千里眼と呼ぶ千里の魔法である。
「どうやらほむらって人はここにいるみたいだね」
「そんなに遠くないな。行って見よう」
彰がそう言うと千里はギョロちゃんを消して、「はーい」とやはり緊張感の無い声で返事した。
対して双樹は黙って頷いた。
彰は二人の同意を取ると目的の場所へと向かった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 3話① ( No.186 )
- 日時: 2012/06/14 09:58
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
美樹(みき)さやかは鹿目(かなめ)まどかと別れたあと、佐倉杏子(さくらきょうこ)とキュゥべぇと合流した。
合流したさやかは杏子に暁美(あけみ)ほむらの行方がわからなくなったことを話した。
「ほむらもか?」
「も?」
杏子の意外な返事にさやかは間の抜けた返事を返した。
「マミのやつも昨日から連絡がつかないんだよ。それでアタシもこいつに聞いてみようかと思ってさ」
杏子は表情一つ変えずにたたずむキュゥべぇを横目で見て言った。
「ほむらとの連絡がつかなくなったのも昨日……。なんかやばくない?」
「……だな。こりゃただ事じゃないかもな」
巴(ともえ)マミもほむらも簡単にやられるような相手ではない。
それを充分知っているからこそ、杏子は内心不安を感じていた。
「キュゥべぇの話によると二人とも生きてはいるらしい」
「じゃあ捕まってるってこと?」
さやかが杏子に向かってそう聞くと代わりにキュゥべぇが答えた。
「ほむらに関しては居場所はわかってるんだ。マミはソウルジェムの気配自体は感じるんだけど、なぜか場所がわからないんだ」
「それってほむらは無事ってことなんだよね?」
さやかはキュゥべぇと杏子を交互に見た。
杏子はお手上げのポーズをし、キュゥべぇは首をかしげた。
「わかんねー。でもまぁ、ほむらに聞けば何かわかるかもな」
「そうだね。今ある手がかりといえばほむらしか居ない。杏子の考えにボクは賛成だね」
さやかも頷いて杏子に同意した。
「ほむらの居場所ならわかるよ。ついてきて!」
キュゥべぇが先頭を切って走り出す。
二人はそのあとを追っていった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 3話② ( No.187 )
- 日時: 2012/06/14 09:58
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
さやかたちがほむらの元にたどり着いたとき、ほむらは戦闘中だった。
白いローブに身を包んだ長身の人型の化け物が二体。
黒いローブに身を包んだのが一体。
計三体の化け物がほむらを襲っていた。
「杏子!」
「わかってるよ!」
杏子は自身の分身を二人作り出し、白い化け物に一斉攻撃を仕掛けた。
そしてそれとほぼ同時に、さやかはもう一体の白い化け物に切りかかった。
「ほむら!大丈夫か!?」
杏子がほむらにそう声をかけると、一瞬驚いた表情を浮かべ、しかしすぐに真剣な眼差しに戻ると小さく頷いた。
「よしっ。じゃあ、さっさと片付けちまおーぜ!」
杏子は分身たちとの総攻撃で化け物の四肢を破壊した。
「杏子!そいつの額についている石を破壊して!でないとまた復活するわ!」
「わかった!」
ほむらの助言に杏子は間髪いれずに行動した。
分身で化け物をかく乱させ、隙が出来た額に杏子は狙いを定めた。
そして勢いをつけ、そのまま槍で化け物の額を貫いた。
化け物は額を貫かれた瞬間ドロドロに溶け、そして消滅した。
「いっちょあがり!」
杏子は二人の手助けをしようと二人の様子を伺った。
『おおおお!』
ちょうどさやかがもう一体の白い化け物の額の石を砕き、倒したところだった。
「やるじゃん」
「なめて貰っちゃ困るわよ!なんてね」
さやかと杏子は目配せして笑みを浮かべた。
そして二人はすぐにほむらのほうに加勢した。
「ほかの二体は雑魚よ。こいつが中ボスってところかしら」
黒い化け物は向かってくることも無く、三人を見下ろしていた。
「こいつは白い奴と基本的な行動パターンは同じだけど、力やスピード、知性が数段上よ」
ほむらの解説を聞き終わると、杏子はニヤリと笑みを浮かべた。
「上等だ。どっちが格上か思い知らせてやろうじゃん」
ほむらとさやかは杏子の言葉に頷いた。
「いくぞ!」
杏子が飛び掛った。
二人もそれに続くように空へと飛び上がった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話① ( No.188 )
- 日時: 2012/06/15 12:48
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
黒い化け物は飛び掛ってきた杏子(きょうこ)に反応し、拳を振り上げてきた。
杏子はそれを難なく避け、横目でほむらとさやかの様子を伺った。
敵を倒すことだけを考えるなら、ほむらが時間停止をして爆弾あたりで一気に決めるのが手っ取り早い。
だがこの敵はどうも魔女や使い魔といった類ではないようで、実体を持っているのだ。
そのため現在繰り広げているこの戦闘も、結界の中で行われているわけではない。
結果内であれば人に見られる心配も、危害が加わる心配もない。
だが現実世界で戦闘をしている以上、爆弾や銃を使ったりするのは周りの被害や音からも警察沙汰になりかねない。
ほむらが今まで攻撃に転じられないのはそれも関係しているのだろう。
(あとは何か危険性がないかどうかも探ってるのかもな)
時間停止しさえすれば爆弾は使えなくとも、弱点を一点集中で狙い撃ちすることも可能なはずだ。
それをしないのはさっき倒した二体とはレベルが違うと言ったように、何か特別な力などを秘めていた場合に逆にやられる可能性があるためだ。
ほむらは前の蒼井彰(あおいあきら)との戦いで時間停止の魔法を破られ、やられている。
その例もあって警戒しているのだろう。
(慎重になるのも仕方ないか。早いとここいつの攻撃パターンを把握しないと……)
そう思った矢先、黒い化け物の背中から二本の触手が現れた。
それは鞭のようしなりながら、杏子とさやかを襲った。
「ちょっ!そりゃ反則でしょ!」
さやかが紙一重で避けつつ愚痴をこぼした。
「人気の無いところだからってこれ以上長引くとまずいぞ。邪魔なのが増えたらやりずらい!」
避けながら杏子はさやかにそう言った。
「数多い相手ならアンタのほうが得意でしょ!」
さやかは先ほど杏子がやって見せた『ロッソ・ファンタズマ』のことをさして言った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話② ( No.189 )
- 日時: 2012/06/15 12:49
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ありゃ結構魔力使うんだよ!そう連発できないんだよ!!」
杏子は襲ってきた触手を切り裂いた。
だが触手は切ったそばからすぐに再生してしまった。
杏子はその様子を見て舌打ちをしてさやかとほむらのほうに駆け寄った。
「埒あかねーぞ。どうする?」
杏子がそう呟くとほむらがそれに対し口を開いた。
「私が囮になるわ。その隙にヤツの弱点を狙って」
今、厄介なのは自由自在に動き回る二本の触手だ。
弱点と思われる場所を攻撃し、何が起こるかわからないが、今は一か八かに賭けたほうがむしろ良い時かもしれない。
「大丈夫なの?結構すばやいよ」
「心配ないわ。時を止めながらなら充分よけられる」
さやかの心配にほむらは笑みを浮かべて言った。
「よし、じゃあその作戦で行こう。アタシとさやかで危ないと思った時は援護するよ」
「頼むわ。それじゃあ行くわよ!」
ほむらはサイレンサーの付いた拳銃を盾から取り出すと、黒い化け物に向かって駆けて行った。
杏子とさやかはお互いに黒い化け物に気付かれないように移動し、挟み撃ちになるように動いた。
黒い化け物は、どうやらほむらのことしか頭に無いようで、ほむらを執拗に攻めていた。
ほむらはそれを能力を駆使しながら避け続けた。
一本の触手がほむらを襲いに行った。
ほむらはそれを時を止めて避けた。が———。
「!!」
能力を解除するタイミングを狙っていたのか、丁度いい位置にもう一本の触手が迫っていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話③ ( No.190 )
- 日時: 2012/06/15 12:49
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ほむらはそれを間一髪で避け、幸い髪の毛をかすった程度すんだ。
だが無理やり避けたため不自然な体勢となり、身動きが取り辛くなってしまった。
そこを狙い、黒い化け物の手がほむらを捕まえた。
「うぐっ!」
大きな手に捕まってしまい、まったく抜け出せなかった。
黒い化け物は両手でほむらを包み、完全に動きを封じると触手で狙いを定めた。
「ま、まずい!」
もがくが一向に抜け出せない。
触手がビクビクっと動いた。
動いたと思ったら、触手はだらんと力を失い、溶け落ちていった。
『おおおお』
そして次々と黒い化け物に身体は溶けていき、最後には跡形も無くなった。
解放されたほむらは一息つきながら着地した。
「大丈夫か?」
杏子が駆け寄ってきた。
逆方向からさやかも近寄ってくる。
ほむらは二人を見て頷いた。
「問題ないわ。髪をかすっただけ……。髪は伸びるし、リボンくらい幾らでも替えはあるわ」
「そうか、それならよかった」
杏子はほむらの言葉を聞いて安心すると、武器をしまった。
だがさやかは武器をしまうところか、それをほむらに向けた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話④ ( No.191 )
- 日時: 2012/06/15 12:50
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「お、おい!何やってるんだよ、さやか!」
杏子は思わぬさやかの行動に珍しく動揺していた。
剣を向けられたほむらの表情は相変わらずのポーカーフェイスだったが。
「あんた……ほんとにほむら?」
さやかは突然意味不明なことを言った。
「見てわからないかしら?」
見た目では誰が見てもほむら本人だ。
だがさやかが引っかかったのはある言葉だった。
「あんたさ、『リボンくらい幾らでも替えはあるわ』って言ったよね?」
「それがどうかした?」
「普通のほむらならありえないのよ。だってそれ、まどかがプレゼントしたものじゃない」
さやかがそう言ったところで杏子も思い出した。
今、ほむらが髪を結ぶのに使っていたリボンは、昨年のクリスマスにまどかがほむらにプレゼントしたものだった。
そしてそれを異常なほど大事にしていたことも思い出した。
「普段のアンタならありえない。アンタ何者!」
さやかが戦闘体勢をとった。
「ふふ。美樹さやか……意外と鋭いわね」
ほむらがそう言い終わった時にはすでにさやかの前にほむらは居なかった。
時間を止めた。
そうさやかが認識した時には杏子が気絶し、倒れようとしていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 4話⑤ ( No.192 )
- 日時: 2012/06/15 12:50
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「き、杏子!ほむら、あんた!」
ほむらの目的がまるでわからない今、自分たちの動きを封じるためなのか、命を奪うことが目的なのか———そのどちらかでどう行動するべきか判断は分かれた。
ただ動きを封じるだけならば、さやかがとるべき行動はほむらを一旦倒すこと。
だがもし命を奪うことが目的ならば、気を失っている杏子は絶好の標的だ。
今杏子を助けられるとすればそれはさやかしか居ない。
どうするべきかという選択肢。
さやかはまったく迷うことなく、杏子の元に向かった。
もし杏子が気を失っていなければ、間違いなく自分に構うなと言ってくるだろう。
確かに全滅するより、一人の犠牲で敵を倒せるのならそれば最善の策なのかもしれない。
(だからって友達を見捨てられるわけないでしょ!)
さやかは敵を倒した先の未来よりも、友達を救うという現在を選んだ。
「愚策ね……さやか」
「っ!!?」
さやかの身に強い衝撃が走った。
グラグラっと視界が歪む。
「友達も救えないで……未来なんか救えるわけ……ないでしょ」
さやかはそう言い残して、杏子の上に倒れこむようにして気を失った。
「……」
ほむらは気絶した二人を光のない目でただ見つめていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話① ( No.193 )
- 日時: 2012/06/19 10:10
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
蒼井彰(あおいあきら)は佐倉杏子(さくらきょうこ)と美樹(みき)さやかの二人を背負ってその場を後にする暁美(あけみ)ほむらの姿を離れたところから見ていた。
「ししょー……これって修羅場?」
綾女千里(あやめちさと)は仲間同士が争う光景を目にして青ざめていた。
「信じられない……ほむらちゃんがあんなことをするなんて」
目の前で起きた出来事が彰もまだ信じられなかった。
「間違いなくほむらちゃんなんだよな?」
彰はそう千里に聞いた。
「記録している魔力の反応から本人だと思うんですけど……」
千里の千里眼は一度見たものしか追えない。
正確には見たものの魔力を記録して追う魔法のため、姿かたちが同じでもその者が持つ魔力が異なれば追うことは出来ない。
「マスター、助けなくていいのですか?」
これまで黙っていた楢咲双樹(たるさきそうじゅ)が連れ去れて行く杏子とさやかを指して言った。
「今は助けない。あの様子なら命を捕ろうとしているわけでは無さそうだしね。なら後を追って少しでも手がかりを掴もう」
それに彰はほむらがこのような行為をしたことに納得がいっていなかった。
(何か理由があるのか……それとも操られているのか)
真意を確かめたい———この気持ちが一番大きかった。
「気付かれないギリギリの範囲で追おう。千里は一応能力で監視しておいてくれ」
「はいさー」
彰たち三人は、ほむらの追跡を開始した。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話② ( No.194 )
- 日時: 2012/06/19 10:11
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ししょー、反応が離れていきます」
「よし……」
千里の展開した地図からほむらの反応を示す点が離れていく。
彰はそっと壁から様子を伺った。
彰たちがほむらを追ってたどり着いたのは開発途中で放置された小さなホテルだった。
この辺りの開発は鷺宮(さぎみや)という政治家が推し進めていたと聞いたことがある。
だがその政治家はだいぶ前に汚職問題が露呈したことで自殺した。
結果として開発途中で話が無くなってしまい、かといって取り壊す金もない為に放置された建物が割りと多い。
(身を隠すにはうってつけだな)
「ししょー、もう大丈夫だと思います」
「じゃあ、中に入ってみよう。千里はここで待ってて」
「えー!いやだぁ!」
彰がそう言うと千里は駄々をこね始めた。
「こんなとこにちー一人じゃ怖いよぉ」
「怖いって……魔女と戦ってるくせにお化けが怖いのか?」
「魔女は魔女で怖いし、お化けはお化けで怖いんです〜」
千里は瞳を潤ませながら彰にしがみついた。
千里は大人ぶってはいるが、実際のところ10歳の子供なのだ。
お化けを怖がってもおかしくはないが……。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話③ ( No.195 )
- 日時: 2012/06/19 10:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(索敵能力は凄いけど、戦闘能力は皆無だからなぁ。何が起こるかわからない所に連れて行くのも危険だ)
そう思って留守番させようと思ったのだが、今のままでは何を言っても言うことを聞かないだろう。
「千里にはほむらちゃんが戻ってこないか監視しておいて欲しいんだ。いざという時に知らせて欲しい」
「それなら別にここに残らなくてもいいじゃないですかぁ」
「能力使いながら戦闘になったら危ないだろ?」
「それはそーですけどー」
やはり離れようとしなかった。
彰はため息をついた。
「マスター、なら私が残ります」
双樹の思わぬ申し出に彰は耳を疑った。
「いいの?」
双樹は別の意味で千里より彰のそばから離すのが大変なのだ。
その双樹がここに残ると言い出したことに彰は驚いた。
「えぇ、マスターなら一人でも大丈夫でしょうし。私のことは気にしないでください。前よりは私も一人で居られるようになりましたから」
双樹はそう言って笑顔を見せた。
「そっか。なら任せようかな」
彰は双樹と残るように千里に指示し、千里もそれで渋々納得した。
「じゃあ、行って来る」
彰は二人に見送られながら、ホテルに向かっていった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話① ( No.196 )
- 日時: 2012/06/19 10:13
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ホテルの建設はほぼ完成間近だったため、内装もほとんど出来上がっており、綺麗にすればすぐにでも営業できそうなレベルだった。
小さいながらも高級感があり、金持ち層を狙っていたのが伺える。
「こういうとこ泊まってみたいもんだねぇ」
蒼井彰(あおいあきら)はそうぼやきながら、家族旅行に一度も行った事ないなとかなんとなく思った。
彰は少し歩き、ロビーの中心まで来ると周りを見渡した。
中心にはカウンターがあり、左右にエレベーターが配置されている。
左のエレベーターの隣に非常階段への出入り口があるくらいで、他に特に入れる部屋は無いようだった。
(エレベーターはもちろん動いてないだろうから、非常階段で行くしかないかな)
外から見る限りで階数は五階まで。
階段で見て回ってもそんなに苦ではない。
そう考え、彰は非常階段に向かって歩を進めた。
「!!」
だがそれを阻止するかのように、地面から白い人型の化け物が一体姿を現した。
「番人ってとこかな?やっぱりここに何かあるんだな」
彰は変身し、大剣を構えた。
化け物は口にエネルギーを溜め、そして左から右へ、横線を引くかのように光線を放った。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話② ( No.197 )
- 日時: 2012/06/19 10:14
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
彰はそれを難なく避けると、一気に間合いをつめた。
化け物は巨大な足を持ち上げ、近づいてきた彰を踏み潰そうと足を降ろした。
だがそれも避けられた化け物は地団駄を踏むかのように両足で足踏みをした。
「そんなノロい攻撃受けるわけないだろ」
無我夢中で足踏みをしている化け物の肩に、彰は着地した。
化け物が首を動かし、彰を見ようとしたタイミングに合わせて彰は大剣で額の石を突いた。
化け物は雄たけびをあげながら溶けて消えた。
彰は兜をはずすと、化け物の消えた跡を見た。
「何なんだ……?刺した瞬間、嫌な感じが俺の中に入り込んできた……」
彰は大剣をしまうと、胸に手を当てた。
(この嫌な感じ……罪悪感?なぜ?)
妹の明奈の願いにより、彰は『無かったことにする』能力とは別の能力を身につけていた。
その能力の影響で、たまに相手の感情が流れ込んでくることがある。
きっと今のも化け物から流れ込んできた感情が彰にどういうわけか罪悪感を覚えさせたのだ。
(これは思った以上に大きな何かが起こっているのかもしれない)
彰は一抹の不安を覚え、先を急いだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話③ ( No.198 )
- 日時: 2012/06/19 10:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
1時間ほどかけて五階まで見て回った彰は、ロビーに戻ってきていた。
結果から言うと、何もなかった。
ここに連れて来られたはずの佐倉杏子(さくらきょうこ)も美樹(みき)さやかも見当たらなかった。
(どういうことだ?何か見落としているのか?)
改めて彰はロビーを見渡した。
そしてふと、先ほど戦った化け物のことを思い出した。
(現れた敵はロビーの一体だけだった。上に行かせたくないなら各階に居てもおかしくないはず……。まさか!)
彰は左右のエレベーターをこじ開けて確認した。
「やっぱりな……」
右側のエレベーターには昇降機が無く、風の音だけが鳴り響く空間が広がっていた。
その空間は上だけではなく、下にも伸びていた。
「上に行かせたくないんじゃなくて、下に行かせたくなかったんだな」
彰は昇降機のロープを掴み、下に降りていった。
ちょうど一階分降りたところで空間は終わっており、開きっぱなしの扉があった。
扉から地下一階に足を踏み入れた。
エレベーターから出てすぐにとにかく頑丈そうな扉が姿を現した。
扉の横にタッチパネル式の画面が配置されており、ここに暗証番号を打ち込めば開くのだろうと容易に想像できた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話④ ( No.199 )
- 日時: 2012/06/19 10:16
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「駐車場にしては行き過ぎだな」
エレベータには地下一階に行くためのボタンは無かった。
つまりこのフロアは非公式な場所なのだ。
一部の者しか知り得ないであろう場所、そしてこの異常に頑丈な扉。
想像できる答えそれは———。
「シェルターか。政治家の考えそうなことだ」
彰は呆れ顔でため息をつくと、なんとなくタッチパネルに触れた。
するとタッチパネルの画面が点灯し、暗証番号の入力を促す文字が表示された。
「電気がきてるのか?」
彰は扉に手を触れた。
「さすがに壊すのは無理だな……。なら、無かったことにすればいい」
彰の手の触れた部分から扉が次々と消失していった。
扉が作られたという事実を無かったことにしたのだ。
シェルターの中は真っ暗で先が見えなかった。
さらに異様な臭いが鼻をつき、彰は思わず顔をしかめた。
(何だ、この臭い……?とりあえず電気が通っているなら明かりをつけられるかもしれない。スイッチを探そう)
彰は手のひらに魔力で作り出した光の玉を浮かばせた。
(これだけ広い場所なんだ。スイッチは入り口のそばだろうな)
彰は入り口付近の壁に重点を置いてスイッチを探し始めた。
「!!」
彰はスイッチを発見するよりも前に思わぬ発見をした。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話⑤ ( No.200 )
- 日時: 2012/06/19 10:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「杏子ちゃんにさやかちゃん……。マミちゃんも!?」
三人は地面に寝かされていた。
彰は巴(ともえ)マミを抱きかかえた。
「傷はない……。息もしているし、ソウルジェムが破壊されたわけじゃ無さそうだ。ん……これは?」
マミの首筋に奇妙な模様のイレズミのようなものがあった。
(魔女の口づけ?なぜこんなものが……)
他の二人にも同じものがあった。
奇妙なマークについては気になるが、とりあえず無事を確認できたことに彰は安堵した。
そしてある疑惑が確信へと変わった。
(やっぱりほむらちゃんは単独では行動していない)
協力者、もしくはほむらを操る黒幕が存在する。
疑惑を裏付けたのはこのシェルター内に三人が居たことだった。
パスワードがない限りこの中に入ることは出来ない。
ミサイルでもない限り破壊することの出来ないこの扉は、ほむらの能力でこじ開けることなど出来ない。
無論そういった破壊行為の跡がないのだから無理あり開けようとしたわけでもないだろう。
ほむらが元々パスワードを知っていた可能性もある。
だがこれは政治家が作らせたものなのだから、恐らくは要人向けのシェルターなのだろう。
相手が魔法少女とはいえ、そういった場所のパスワードをそうそう知られるとは思えない。
ならば可能性は一つ。
パスワードを知る何者かが存在する。
そしてそいつが黒幕なのではと、彰は考えた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話⑥ ( No.201 )
- 日時: 2012/06/19 10:18
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(とりあえず収穫はあったな。しかしどうやって三人を連れ出そうか……)
三人を一人で担いでいくのはさすがに厳しい。
そう思いなんとなく周りを見渡した時だった。
「これ……電気のスイッチか?」
彰は偶然見つけたスイッチをオンにした。
バチバチっと音を立てながら入り口から順に電気が点いていく。
次第に露わになっていくシェルターの中の様子を目の当たりにして、彰は目を疑った。
檻が数十個配置されていた。
檻は大体50人くらいは余裕で収容できるくらいの大きさで、高さは3メートルほどあった。
その光景だけでも充分異常だというのに、さらに異常な光景がそこにはあった。
「な、なんだよ……これは!!」
彰は思わず口元を手で覆ってしまった。
どの檻もおびただしい血の跡が残されていた。
渇ききっていないものまである。
中には肉片のような物が散らばっている檻すらあった。
「ぐっ!!」
彰は吐きそうになるのを抑え、入り口の外まで駆け出た。
「はぁ!はぁ!一体何があったんだよ!あれ……人の血だよな……?」
これ以上ここにいると何だかおかしくなってしまうような気がした。
(こんな所、千里と双樹に見せられない……)
彰は無理やりマミたちを背負い、シェルターを出た。
この現場を目にした彰の中に吐き気を催すようなある推測が浮かんだ。
(俺の考えていることが本当なら早く黒幕を突き止めないと……)
今、彰の中には催す吐き気とは裏腹に使命感のようなものがこみ上げていたのだった。