二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話① ( No.193 )
日時: 2012/06/19 10:10
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 蒼井彰(あおいあきら)は佐倉杏子(さくらきょうこ)と美樹(みき)さやかの二人を背負ってその場を後にする暁美(あけみ)ほむらの姿を離れたところから見ていた。

「ししょー……これって修羅場?」

 綾女千里(あやめちさと)は仲間同士が争う光景を目にして青ざめていた。

「信じられない……ほむらちゃんがあんなことをするなんて」

 目の前で起きた出来事が彰もまだ信じられなかった。

「間違いなくほむらちゃんなんだよな?」

 彰はそう千里に聞いた。

「記録している魔力の反応から本人だと思うんですけど……」

 千里の千里眼は一度見たものしか追えない。

 正確には見たものの魔力を記録して追う魔法のため、姿かたちが同じでもその者が持つ魔力が異なれば追うことは出来ない。

「マスター、助けなくていいのですか?」

 これまで黙っていた楢咲双樹(たるさきそうじゅ)が連れ去れて行く杏子とさやかを指して言った。

「今は助けない。あの様子なら命を捕ろうとしているわけでは無さそうだしね。なら後を追って少しでも手がかりを掴もう」

 それに彰はほむらがこのような行為をしたことに納得がいっていなかった。

(何か理由があるのか……それとも操られているのか)

 真意を確かめたい———この気持ちが一番大きかった。

「気付かれないギリギリの範囲で追おう。千里は一応能力で監視しておいてくれ」

「はいさー」

 彰たち三人は、ほむらの追跡を開始した。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話② ( No.194 )
日時: 2012/06/19 10:11
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ししょー、反応が離れていきます」

「よし……」

 千里の展開した地図からほむらの反応を示す点が離れていく。

 彰はそっと壁から様子を伺った。

 彰たちがほむらを追ってたどり着いたのは開発途中で放置された小さなホテルだった。

 この辺りの開発は鷺宮(さぎみや)という政治家が推し進めていたと聞いたことがある。

 だがその政治家はだいぶ前に汚職問題が露呈したことで自殺した。

 結果として開発途中で話が無くなってしまい、かといって取り壊す金もない為に放置された建物が割りと多い。

(身を隠すにはうってつけだな)

「ししょー、もう大丈夫だと思います」

「じゃあ、中に入ってみよう。千里はここで待ってて」

「えー!いやだぁ!」

 彰がそう言うと千里は駄々をこね始めた。

「こんなとこにちー一人じゃ怖いよぉ」

「怖いって……魔女と戦ってるくせにお化けが怖いのか?」

「魔女は魔女で怖いし、お化けはお化けで怖いんです〜」

 千里は瞳を潤ませながら彰にしがみついた。

 千里は大人ぶってはいるが、実際のところ10歳の子供なのだ。

 お化けを怖がってもおかしくはないが……。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 5話③ ( No.195 )
日時: 2012/06/19 10:12
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

(索敵能力は凄いけど、戦闘能力は皆無だからなぁ。何が起こるかわからない所に連れて行くのも危険だ)

 そう思って留守番させようと思ったのだが、今のままでは何を言っても言うことを聞かないだろう。

「千里にはほむらちゃんが戻ってこないか監視しておいて欲しいんだ。いざという時に知らせて欲しい」

「それなら別にここに残らなくてもいいじゃないですかぁ」

「能力使いながら戦闘になったら危ないだろ?」

「それはそーですけどー」

 やはり離れようとしなかった。

 彰はため息をついた。

「マスター、なら私が残ります」

 双樹の思わぬ申し出に彰は耳を疑った。

「いいの?」

 双樹は別の意味で千里より彰のそばから離すのが大変なのだ。

 その双樹がここに残ると言い出したことに彰は驚いた。

「えぇ、マスターなら一人でも大丈夫でしょうし。私のことは気にしないでください。前よりは私も一人で居られるようになりましたから」

 双樹はそう言って笑顔を見せた。

「そっか。なら任せようかな」

 彰は双樹と残るように千里に指示し、千里もそれで渋々納得した。

「じゃあ、行って来る」

 彰は二人に見送られながら、ホテルに向かっていった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話① ( No.196 )
日時: 2012/06/19 10:13
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 ホテルの建設はほぼ完成間近だったため、内装もほとんど出来上がっており、綺麗にすればすぐにでも営業できそうなレベルだった。

 小さいながらも高級感があり、金持ち層を狙っていたのが伺える。

「こういうとこ泊まってみたいもんだねぇ」

 蒼井彰(あおいあきら)はそうぼやきながら、家族旅行に一度も行った事ないなとかなんとなく思った。

 彰は少し歩き、ロビーの中心まで来ると周りを見渡した。

 中心にはカウンターがあり、左右にエレベーターが配置されている。

 左のエレベーターの隣に非常階段への出入り口があるくらいで、他に特に入れる部屋は無いようだった。

(エレベーターはもちろん動いてないだろうから、非常階段で行くしかないかな)

 外から見る限りで階数は五階まで。

 階段で見て回ってもそんなに苦ではない。

 そう考え、彰は非常階段に向かって歩を進めた。

「!!」

 だがそれを阻止するかのように、地面から白い人型の化け物が一体姿を現した。

「番人ってとこかな?やっぱりここに何かあるんだな」

 彰は変身し、大剣を構えた。

 化け物は口にエネルギーを溜め、そして左から右へ、横線を引くかのように光線を放った。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話② ( No.197 )
日時: 2012/06/19 10:14
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 彰はそれを難なく避けると、一気に間合いをつめた。

 化け物は巨大な足を持ち上げ、近づいてきた彰を踏み潰そうと足を降ろした。

 だがそれも避けられた化け物は地団駄を踏むかのように両足で足踏みをした。

「そんなノロい攻撃受けるわけないだろ」

 無我夢中で足踏みをしている化け物の肩に、彰は着地した。

 化け物が首を動かし、彰を見ようとしたタイミングに合わせて彰は大剣で額の石を突いた。

 化け物は雄たけびをあげながら溶けて消えた。

 彰は兜をはずすと、化け物の消えた跡を見た。

「何なんだ……?刺した瞬間、嫌な感じが俺の中に入り込んできた……」

 彰は大剣をしまうと、胸に手を当てた。

(この嫌な感じ……罪悪感?なぜ?)

 妹の明奈の願いにより、彰は『無かったことにする』能力とは別の能力を身につけていた。

 その能力の影響で、たまに相手の感情が流れ込んでくることがある。

 きっと今のも化け物から流れ込んできた感情が彰にどういうわけか罪悪感を覚えさせたのだ。

(これは思った以上に大きな何かが起こっているのかもしれない)

 彰は一抹の不安を覚え、先を急いだ。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話③ ( No.198 )
日時: 2012/06/19 10:15
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 1時間ほどかけて五階まで見て回った彰は、ロビーに戻ってきていた。

 結果から言うと、何もなかった。

 ここに連れて来られたはずの佐倉杏子(さくらきょうこ)も美樹(みき)さやかも見当たらなかった。

(どういうことだ?何か見落としているのか?)

 改めて彰はロビーを見渡した。

 そしてふと、先ほど戦った化け物のことを思い出した。

(現れた敵はロビーの一体だけだった。上に行かせたくないなら各階に居てもおかしくないはず……。まさか!)

 彰は左右のエレベーターをこじ開けて確認した。

「やっぱりな……」

 右側のエレベーターには昇降機が無く、風の音だけが鳴り響く空間が広がっていた。

 その空間は上だけではなく、下にも伸びていた。

「上に行かせたくないんじゃなくて、下に行かせたくなかったんだな」

 彰は昇降機のロープを掴み、下に降りていった。

 ちょうど一階分降りたところで空間は終わっており、開きっぱなしの扉があった。

 扉から地下一階に足を踏み入れた。

 エレベーターから出てすぐにとにかく頑丈そうな扉が姿を現した。

 扉の横にタッチパネル式の画面が配置されており、ここに暗証番号を打ち込めば開くのだろうと容易に想像できた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話④ ( No.199 )
日時: 2012/06/19 10:16
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「駐車場にしては行き過ぎだな」

 エレベータには地下一階に行くためのボタンは無かった。

 つまりこのフロアは非公式な場所なのだ。

 一部の者しか知り得ないであろう場所、そしてこの異常に頑丈な扉。

 想像できる答えそれは———。

「シェルターか。政治家の考えそうなことだ」

 彰は呆れ顔でため息をつくと、なんとなくタッチパネルに触れた。

 するとタッチパネルの画面が点灯し、暗証番号の入力を促す文字が表示された。

「電気がきてるのか?」

 彰は扉に手を触れた。

「さすがに壊すのは無理だな……。なら、無かったことにすればいい」

 彰の手の触れた部分から扉が次々と消失していった。

 扉が作られたという事実を無かったことにしたのだ。

 シェルターの中は真っ暗で先が見えなかった。

 さらに異様な臭いが鼻をつき、彰は思わず顔をしかめた。

(何だ、この臭い……?とりあえず電気が通っているなら明かりをつけられるかもしれない。スイッチを探そう)

 彰は手のひらに魔力で作り出した光の玉を浮かばせた。

(これだけ広い場所なんだ。スイッチは入り口のそばだろうな)

 彰は入り口付近の壁に重点を置いてスイッチを探し始めた。

「!!」

 彰はスイッチを発見するよりも前に思わぬ発見をした。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話⑤ ( No.200 )
日時: 2012/06/19 10:17
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「杏子ちゃんにさやかちゃん……。マミちゃんも!?」

 三人は地面に寝かされていた。

 彰は巴(ともえ)マミを抱きかかえた。

「傷はない……。息もしているし、ソウルジェムが破壊されたわけじゃ無さそうだ。ん……これは?」

 マミの首筋に奇妙な模様のイレズミのようなものがあった。

(魔女の口づけ?なぜこんなものが……)

 他の二人にも同じものがあった。

 奇妙なマークについては気になるが、とりあえず無事を確認できたことに彰は安堵した。

 そしてある疑惑が確信へと変わった。

(やっぱりほむらちゃんは単独では行動していない)

 協力者、もしくはほむらを操る黒幕が存在する。

 疑惑を裏付けたのはこのシェルター内に三人が居たことだった。

 パスワードがない限りこの中に入ることは出来ない。

 ミサイルでもない限り破壊することの出来ないこの扉は、ほむらの能力でこじ開けることなど出来ない。

 無論そういった破壊行為の跡がないのだから無理あり開けようとしたわけでもないだろう。

 ほむらが元々パスワードを知っていた可能性もある。

 だがこれは政治家が作らせたものなのだから、恐らくは要人向けのシェルターなのだろう。

 相手が魔法少女とはいえ、そういった場所のパスワードをそうそう知られるとは思えない。

 ならば可能性は一つ。

 パスワードを知る何者かが存在する。

 そしてそいつが黒幕なのではと、彰は考えた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 2日目 6話⑥ ( No.201 )
日時: 2012/06/19 10:18
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

(とりあえず収穫はあったな。しかしどうやって三人を連れ出そうか……)

 三人を一人で担いでいくのはさすがに厳しい。

 そう思いなんとなく周りを見渡した時だった。

「これ……電気のスイッチか?」

 彰は偶然見つけたスイッチをオンにした。

 バチバチっと音を立てながら入り口から順に電気が点いていく。

 次第に露わになっていくシェルターの中の様子を目の当たりにして、彰は目を疑った。

 檻が数十個配置されていた。

 檻は大体50人くらいは余裕で収容できるくらいの大きさで、高さは3メートルほどあった。

 その光景だけでも充分異常だというのに、さらに異常な光景がそこにはあった。

「な、なんだよ……これは!!」

 彰は思わず口元を手で覆ってしまった。

 どの檻もおびただしい血の跡が残されていた。

 渇ききっていないものまである。

 中には肉片のような物が散らばっている檻すらあった。

「ぐっ!!」

 彰は吐きそうになるのを抑え、入り口の外まで駆け出た。

「はぁ!はぁ!一体何があったんだよ!あれ……人の血だよな……?」

 これ以上ここにいると何だかおかしくなってしまうような気がした。

(こんな所、千里と双樹に見せられない……)

 彰は無理やりマミたちを背負い、シェルターを出た。

 この現場を目にした彰の中に吐き気を催すようなある推測が浮かんだ。

(俺の考えていることが本当なら早く黒幕を突き止めないと……)

 今、彰の中には催す吐き気とは裏腹に使命感のようなものがこみ上げていたのだった。