二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 1話① ( No.202 )
日時: 2012/06/20 10:46
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 美国織莉子(みくにおりこ)は穏やかな寝顔で眠る千歳(ちとせ)ゆまと呉(くれ)キリカの二人を見て笑みを浮かべた。

 昨日から佐倉杏子(さくらきょうこ)が帰ってこないと、ゆまは織莉子に泣きついて来た。

 初めは手のつけようのない状態のゆまだったが、キリカと喧嘩をしているうちにいつもの調子に戻った。

(喧嘩するほど仲が良いっていうのは二人のことを言うのかしらね……)

 織莉子は音を立てないように立ち上がり、そっと家を出た。

 織莉子は既に魔法少女に変身しており、また表情に何か決意のようなものも浮かんでいた。

「こんな時間にどこ行くんだ?美国織莉子」

 織莉子は別に驚くこともなく声の主のほうに視線を向けた。

「あなたこそ何の用かしら……天音(あまね)リンさん」

 リンは口元に笑みを浮かべて織莉子に近づいた。

「いやぁ……別に何か用事があるってわけじゃないんだけどさ。ただこの暴走した忠誠にどう立ち向かうのか……それが気になってさ」

「忠誠……ね。確かにあの子はそこを見誤っていたのかもしれないわ」

 冷静にそう語る織莉子に対し、リンは声を出して楽しそうに笑った。

「それがわかっててアンタはどうすんだよ?」

 織莉子は目を瞑り、黙り込んで考えた。

「どうするのが一番なのかしらね……」

 そして目をゆっくり開け、そう曖昧な言葉を口にした。

「へぇ……意外だな。アンタならサッパリと殺すって言いそうなんだけどなぁ」

「私、そんなに野蛮な人間に見える?」

 リンは「いいや」と首を振って否定した。

「あなたは見た目とは裏腹に結構残酷よね?」

 リンは口元に笑みを浮かべたまま、しかし視線は鋭くして織莉子を見た。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 1話② ( No.203 )
日時: 2012/06/20 10:49
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「アンタ、一体どんな未来を視ているんだ?」

 リンがそう聞くと、今度は織莉子が笑みを浮かべて見せた。

「気になる?あなたの未来が……」

「……」

 リンの表情から笑みが消えた。

 なぜなら織莉子の表情に浮かんでいるものは、まるで興味のない物を目の前にした時のそれだったからだ。

 織莉子の視た未来には天音リンという存在は大した価値が無い———そう言われているようなものなのだ。

「あなたが今どう思っているかはわからないけれど……一つ忠告しておくわ」

「忠告?」

 織莉子は頷いた。

「重要なのは未来じゃないわ。本当に知るべきは過去に起きた出来事なのよ」

 リンには織莉子の言っていることの真意がまるで汲み取れなかった。

「過去が意味のあるものでなければ、未来は何の価値もない。空っぽの箱の中を覗くようなものなのよ」

「どういう意味だ?お前、何を視たんだ?」

 リンがそう聞いたが、織莉子はそれに答えずただ首を横に振った。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 1話③ ( No.204 )
日時: 2012/06/20 10:50
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「今見ている世界がすべてだとは思わないほうがいいわ。未来なんて元々不確定要素の塊……。小さいことですぐ変わってしまうもの。でもそれとは違う……。不確定とかそんなレベルじゃなくて、今視える未来は本当に空っぽなのよ」

 諦めたような、絶望しているようなそんな気持ちを含んだ口ぶりで語った。

「だから何を言っているかさっぱり……」

「私もわからないのよ。何を言っていいのか……。でもその答えをもしかしたらあの子は知っているのかもしれない」

 織莉子は懐から一枚の手紙を取り出した。

「私、招待されているの。もう行かなくちゃ」

 そういうと織莉子はリンに背を向けた。

 リンは振り向くことなく歩いていく織莉子を黙って見つめた。

 そして見えなくなったところでリンはため息をついた。

「今見ているものがすべてじゃない、か。すべてもくそもねぇよ……。オレはなんで鹿目まどかの力が欲しいのかすらわからねーんだから……。『世界のすべて』の前に、オレ自身のすべてを知りたいよ」

 リンは唇をかみ締め、誰に言うでもなくそうつぶやいた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 2話① ( No.205 )
日時: 2012/06/20 10:52
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 まどかはただ発信音を鳴らすだけの携帯画面を見つめ、瞳を潤ませた。

 昨日、別れたあとからさやかと連絡が取れなくなっていた。

 同様にマミとも連絡が取れない。

 恐らく杏子も行方がわからなくなっているのだろう。

「どうしよう……。私のせいだ……」

 まどかは力なく崩れ落ちて膝をついた。

 手から零れ落ちた携帯電話は幾度と聞いた留守電アナウンスを流していた。

 どうすれば良いのか。

 まどかが途方に暮れているとき、突如携帯電話が着信を知らせた。

「!!」

 まどかは急いで携帯電話を拾い上げ、画面に表示された発信者の名前を確認すると電話に出た。

「ほむらちゃん!!?今、どこにいるの!?」

 まどかは相手の応答を待つよりも早く、口早にそう聞いた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 2話② ( No.206 )
日時: 2012/06/20 10:53
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

『今、学校の近くよ。ずっとまどかのこと探してたの』

 聞きなれた声にまどかは涙を流して安堵した。

「私もずっと探してたんだよ?すごく心配したんだから……」

『ごめんなさい……。私も今までどこに居たのかわからなかったの。気付いたら見知らぬ場所に居て……やっとここまで戻ってきたのよ』

「やっぱりほむらちゃんも……。あのね、さやかちゃんもマミさんも連絡がとれないの。もしかしてほむらちゃんと同じなんじゃないかな?」

『そうかもしれないわ。もしそうならまどかも危ないわ。とりあえず合流しましょう』

「うん。私も学校にいるから……」

『わかったわ。そっちに行くからそこから動かないで』

 まどかはほむらに詳しい居場所を教え、電話を切った。

 一刻も早く、ほむらの無事な顔が見たかった。

(早くほむらちゃんの顔が見たいよ……)

 まどかは携帯電話に表示された時間を見た。

 クロードに宣告された時まであと3時間をきっていた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 2話③ ( No.207 )
日時: 2012/06/20 10:53
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ほむらちゃん!」

 まどかは三日ぶりに見る大切な友達の姿を目の前にし、我慢できずに飛びつくようにして抱きしめた。

「良かったよぉ。ほんとに無事で……。どこか怪我とかしてない?」

「大丈夫よ。むしろまどかに抱きしめられてる今が一番痛いくらい」

 そう冗談を言いつつほむらは笑顔を見せた。

「えへへ。ごめん、ごめん。つい嬉しくて……」

 まどかはほむらから離れ、改めて顔を見た。

 ほむらの言葉通り、元気そうでまどかは心底ホッとした。

「私もまどかが無事みたいで良かったわ。あとはさやかたちね……」

 ほむらがそういうとまどかは不安げな表情を浮かべた。

 ほむらは笑顔でまどかの手を握った。

「大丈夫よ。そうそう簡単にやられたりしないもの。それにきっと私が助け出すわ」

「うん……。私も何か出来ないかな?」

 ほむらはちょっと困ったような顔をした。

 ほむらはあまりまどかを危険なことに巻き込みたくないといつも言っている。

 その言葉通り、できればこれ以上この件に首を突っ込んで欲しくないのだろう。

「とりあえずは私たちの知っていることを確認しあいましょう」

 ほむらは曖昧な返事を返した。

 まどかはそれに対して反発することはしない。

 それがほむらの優しさであることを知っているからだ。

「まどかがここの生徒だと敵は当然知っているはずよ。だったらここは危ないわ。移動しましょう」

 まどかが頷くとほむらは手に取ったまどかの手に少し力を入れた。

 この手が離れないように———そういう思いを感じた。

 まどかはそれに応えるようにほむらの手を握り返した。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話① ( No.208 )
日時: 2012/06/21 13:13
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

まどかとほむらは息を切らしながらやっとの思いで建物の裏に身を隠した。

「はぁ!はぁ!」

まどかはずっと走りっぱなしで息があがってしまっていた。

「大丈夫?まどか……」

ほむらは心配そうにまどかを見た。

まどかはなんとか笑顔で返して「大丈夫」と言った。

魔法少女でないまどかには体力の限界がある。

そういう点でもほむらの足手まといにしかならない。

『私を置いて逃げて———』

そう口にしかけるが、高鳴る心臓をなだめながらグッとその言葉を飲み込んだ。

(私のためにほむらちゃんは戦ってくれているんだ。ほむらのちゃんの気持ちを無碍(むげ)にするようなことしたら失礼だよね)

まどかは一度大きく深呼吸をした。

だいぶ身体も落ち着き、再び走れるだけの状態には戻った。

「もう行ける?」

「うん、大丈夫!」

ほむらは頷くと、先行して建物から飛び出した。

まどかもほむらを追いかけるようにして飛び出す。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話② ( No.209 )
日時: 2012/06/21 13:14
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

『おおおお!』

恐ろしい雄たけびがまどかの耳をついた。

「ま、またきてるよ!」

「大丈夫、私たちの足でも逃げ切れるわ!」

まどかたちが学校を出てすぐに長身の白い化け物に襲われた。

何体もいるのか、巻いても巻いても襲ってくる。

明らかに狙われていた。

「まどか、こっちよ!」

ほむらに促され、まどかはトンネルの中に入った。

当然、白い化け物も追ってくるがスピードがあまり早くないため、何とか乗り切れそうだった。

どんどん離れていく化け物を見ていると、やはり自分が狙われているのだという実感がひしひしと沸いてきた。

実感すると共に、ほむらたちを巻き込んだあげく取り返しのつかなくなる寸前まできてしまったことに後悔した。

(ちゃんと言わなきゃ。三日前のこと!)

ここまで来てしまった以上、真実を話してほむらに敵を知らせるべきだろう。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話③ ( No.210 )
日時: 2012/06/21 13:15
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ほむらちゃん!待って!」

ほむらはまどかの呼びかけに足を止めた。

「どうかした?もうすぐ出口よ。そこまで行けば身体を休められるわ」

「ううん、違うの。話があって……。ほんとならもっと早く皆に話すべきだったんだけど———」

「わかった。でも立ち止まってると危ないわ。先を進みながら聞くわ」

まどかが言おうとしていることの重大さに感づいたのか、ほむらはそう提案した。

二人は先ほどよりは少し速度を落としながら走った。

「あのね、三日前くらいなんだけど……私、ある人に会ったの」

ほむらは何も言わずに前を向いたままだった。

しかしまどかの声がしっかりと聞こえる間合いは保っており、むしろ話の腰を折らないための配慮と言えた。

まどかはそう感じ取って話を続けた。

「おじさんと言うよりかは、もうおじいちゃんに近いのかな?どこかのお屋敷に仕えているって言ってた。その人に私、急に凄いこと言われて……。ちょうどこんな感じのトンネルを抜けたところ———」

まどかの足が止まった。

少し前でほむらも立ち止まった。

二人の立っているすぐ目の前がトンネルの出口で、その先には見覚えのある噴水広場が見えていた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話④ ( No.211 )
日時: 2012/06/21 13:17
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「な、なんで……?ここって……。ね、ねぇ、ほむらちゃん?」

足が震えていた。

ほむらに促されてたどり着いた先が、クロードがかつて結界の中と答えたその場所だった。

また迷い込んだのか?

しかしほむらは最初からここを目指していたかのように行動していた。

「ねぇ、ここは危ないよ……。早く出よう!」

「その必要は無いわ」

淡々と、感情無く、吐き捨てるかのようにそう言うと、ほむらが振り向いた。

まどかはほむらの目を見てゾッとした。

輝きの無い、死者ようなの目。

「まどか、クロード様がお待ちよ」

まどかの頬に一筋の涙が伝った。

「嘘だよ……。こんなの……」

まどかは目の前の出来事がまるで理解できなかった。

思考停止状態と言っていいほど、まどかの頭の中は真っ白だった。

それでもまどかの瞳からは涙が流れ続けた。

何がどうしてそんなに悲しいのか、それすらまともに考えられなかった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 3話⑤ ( No.212 )
日時: 2012/06/21 13:17
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

感情の無い目でまどかを見つめるほむらは、最早まどかの知っているほむらではない。

一番大切な、信じて疑わない友達が口にした言葉の先にあるものは、敵に仲間を売る行為に他ならない。

思考力を取り戻してきた頭に浮かんでくるのは、『自分は裏切られたのか?』ということだった。

今まで共に築いてきたほむらとの思い出を思い返せば思い返すほど、ほむらが裏切るような人間ではないことをまどかの中で裏づけていった。

だからこそ聞かずにはいられなかった。

「ほむらちゃん……何かの間違いだよね?きっと何か理由があるんだよね?」

ほむらは何も答えなかった。

「間違えでは、ありませんよ」

「!!?」

ほむらの代わりに答えたのは低いがよく通る声の持ち主———クロードだった。

「暁美ほむらさんは、その手であなたをここに導きました。そしてあなたのお友達を陥れたのもね」

「さやかちゃんたちも……?」

さやかたちの行方について何も知らない———そんな風な態度をとっていたほむらだったが、それも演技だったというのか。

「予告の三日後までまだ少し時間がありますね。まぁ、舞台はもう整っているのですが、そこは時間厳守としておきましょう。ですからどうですか?私と暁美ほむらさんの出会いのお話でもいたしましょうか?」

「出会ったときの話……?」

「えぇ、三日前……。あなたと出会う少し前の話ですよ」