二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話① ( No.213 )
日時: 2012/06/22 16:06
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 ほむらはキュゥべぇとは別のインキュベーターであるゴンべぇに呼び止められていた。

「ろくな話ではなないのでしょう?どうせお前もキュゥべぇと変わらないのだろうし」

 ほむらがそういうとゴンべぇは大げさに首を振って否定した。

「先輩と同じだなんてもったいないっすよ!オイラは名前すらもらえないただの量産型っすから。『ゴンべぇ』って名前だって名無しのごんべぇからとってリンちゃんがつけたものっすからねぇ」

 ゴンべぇはケラケラと笑った。

「……」

 このゴンべぇはキュゥべぇと違い感情を表現できるらしい。

 そのためキュゥべぇより人間的で接しやすくなっている———というのがゴンべぇ自身の説明だ。

 だがほむらからすれば感情が余計にある分、キュゥべぇよりも何を考えているのかわからない。

 そういう意味ではキュゥべぇより気味が悪かった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話② ( No.214 )
日時: 2012/06/22 16:07
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「それで話って?」

「あーそうっす、そうっす。実はここんとこ街を荒らしてる奇妙なヤツがいて困ってるんすよー」

「奇妙なヤツ?」

 魔女や使い魔ではない。

 ほむらはすぐにそう悟った。

 誰よりも魔女のことを知っているはずのインキュベーターが対象のことを『魔女』や『使い魔』と言わず、『ヤツ』と表現したのがインキュベーターにとっても未知の存在であることを物語っていた。

「とにかくデカイやつで白いローブに身を包んだ人型の化け物なんす。どうも普通の人にも視認できてるみたいなんすよね」

「一般の人にも?」

「そーなんすよー。そいつら見境無く人を襲ってはどっかに連れて行って……。おかげオイラたちの商売も上がったっりすよ」

 インキュベーターたちのことなどはどうでも良いが、普通の人にも見える上に、人を襲っているとなればこれは困った話だ。

 ほむら自身、正義のヒーローを気取るつもりなど毛頭ないが、まどかの身の回りの人に被害があってはまどかが悲しむ。

(私って一日中まどかのことばかり考えてるわね……)

 それが当たり前になっている自分に対してほむらは苦笑した。

「いいわ。案内して」

「さっすが話がわかるっすねー!」

 ゴンべぇは営業スマイルをしてほむらに礼を言った。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話③ ( No.215 )
日時: 2012/06/22 16:09
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 ゴンべぇに案内された先に、その敵はいた。

 ほむらはハンドガンタイプの銃では効果が薄いと感じ、ショットガンを盾から取り出した。

 ゴンべぇは額の石が弱点だと言っていた。

 敵はほむらの姿を見失っており、辺りをウロウロしている。

 ほむらはその隙に敵の背後に回りこみ、時間を停止させた。

 敵の額の石にショットガンの銃口を押し当て、ゼロ距離から引き金を引いた。

 ショットガンの弾の先端が少し額の石に食い込んだところで静止した。

 ほむらはそれを確認すると、敵から一定距離離れてから能力を解除した。

 その瞬間静止していたショットガンの弾は一気に額の石を砕き、そのまま頭を貫通した。

『おおおおお!』

 なすすべなくやられた敵はドロドロと溶けて消えた。

「思ったより大したこと無かったわね。でも一体何なのかしら?」

 戦いは終わった———そう思ったこと、それがほむらの油断だった。

 どこからともなく触手が伸びてきてほむらの両腕を封じた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話④ ( No.216 )
日時: 2012/06/22 16:10
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「なっ!?」

 一瞬遅れて状況を把握した時にはすでに手遅れだった。

 さらに別の触手が次はほむらの足を拘束し、完全に身動きが取れなくなった。

「一体何なのか?その質問にお答えいたしましょう」

「!?」

 前から歩いてきたのは執事服に身を包んだ初老の男だった。

「あなたが倒した化け物を私は魔獣と名づけ、呼んでいます」

「名づけた?あれはあなたが作り出したものだと言うの?」

 男は頷くと、ホテルの案内人のように右腕を右方向に流し、『どうぞこちらをご覧ください』と言わんばかりにほむらの視線を促した。

 するとそこに先ほど倒した白い化け物が地面から生えてくるように姿を現した。

「こやつは人間をベースに作り出されたノーマルタイプの魔獣です。あなたも戦ってわかったとは思いますが、大した戦闘力はありません」

 男は当たり前のことを語るように説明をした。

 だがほむらには耳を疑う言葉が男から発せられたのを確かに聞いた。

「人間をベースにって……。まさかそいつは……」

 男はニヤリと笑った。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話⑤ ( No.217 )
日時: 2012/06/22 16:13
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「お察しの通り、これは元は人間です。どこにでもいる人間……。私の能力は生き物を魔獣に変異させるのですよ」

「!!」

 ほむらは背筋が凍るのを感じた。

 今、敵だと思い殺した化け物がもとは人間だったというのだ。

 間接的とはいえ、ほむらは何の関係も無い人間を殺してしまったのだ。

「人を殺してしまった……そうあなたは思い悩んでいるのでしょう?暁美(あけみ)ほむらさん」

 男は変わらず口調でそう言いながらほむらに近づいた。

「悔やむことはありませんよ。アレはもう人ではない。あなたのために用意した捨て駒という名の化け物なんですから」

「私の……ため?」

 男の視線がほむらの足元に向いた。

 ほむらも同じようにその方向に視線を向けた。

「ご苦労様です。ゴンべぇくん」

 そこにはやはり営業スマイルのゴンべぇが居た。

「鹿目(かなめ)まどかを契約させられるんなら何でもやるっすよ。クロードさん」

 と、ゴンべぇはほむらにとって聞き捨てなら無い発言をした。

「あなたたち、まどかを狙っているの!!」

「えぇ。そのための重要な駒が欲しかったのです。それがあなたというわけです」

「くっ!!あなたたちになんか協力するくらいなら死んだほうがマシよ!」

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話⑥ ( No.218 )
日時: 2012/06/22 16:14
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 男———クロードはほむらに手を伸ばし、頬に触れた。

「あなたならきっとそう言うと思っていました。でもそんなことは関係ないのですよ」

 そういうとクロードは突然ほむらの服に手をかけ、破り始めた。

「なっ!?ちょっ、やめて!」

 言葉で反抗しても身体が動かせない今の状態では結局されるがままだった。

 両肩が露わになるとこまで破くと、クロードは手を止めた。

「ほむらさんは、ヴァンパイアをご存知ですか?」

 ほむらは睨み付けるだけで何も答えなかった。

 クロードは構わず続けた。

「私の生まれ育った国では結構馴染み深い怪人の類なのですが、ヴァンパイアの中には血を吸った者を従順な僕に出来る力を持った者も居たそうです」

 クロードはほむらの右首筋を撫で、笑みを浮かべた。

「ちょうどあなたのように綺麗な女性がさぞ好みだったのでしょうね。ですが私は雑食なもので……。あまり好みとか無いのですよ」

 クロードが歯を見せて笑った。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話⑦ ( No.219 )
日時: 2012/06/22 16:15
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「!!」

 クロードには映画で見たヴァンパイアのように鋭い牙が生えていた。

 そしてほむらは先ほどのクロードの話との関連性に気付き、戦慄した。

 噛まれればこいつの言いなりになってしまう。

 ほむらはあらん限りの力で拘束から抜け出そうとした。

 だがどう抵抗しようと触手が緩むことは無かった。

「安心してください。別に私は血を吸うわけではありません。その逆……私があなたに注ぎ込むのです。私の魔力を———」

 クロードはほむらの首筋に噛み付いた。

「うっ!」

 全身に電気が走ったような感覚を覚えた。

 手足が痺れ、どんどん力が抜けていった。

 クロードが離れた時には拘束が無くとも身動きが取れないくらいに身体の力を失っていた。

「私に噛まれたものには決まった末路が待っています」

 ほむらは何とか首を動かし、クロードを見た。

「私には噛まれた者はまず、その証として首筋にマークが刻まれます。次第にあなたはあなた自身の思考力を失い、私の僕となります。これが第一段階」

 人差し指を上げ、『1』の形を作った。

「第二段階は私が注入した魔法毒が全身を蝕み、凄まじい苦痛に見舞われます。並みの人間なら痛みに耐えかねて死に至るでしょう。死に際は凄惨ですよ。痛みの余り全身を掻き毟って大量出血したあげく、最後はドロドロに溶けてただの肉片と化します」

 今度は掻き毟る動作をして哀れみの表情を浮かべた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 4話⑧ ( No.220 )
日時: 2012/06/22 16:16
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「最終段階……。もし死に至らず生き延びることが出来れば、魔獣として生まれ変わります。ただ人を襲うだけの……化け物へとね」

 クロードは体勢を低くし、力なく見つめるほむらに視線を合わせた。

「後ろを見てください」

 まともに動かすことすら出来ないはずなのに、クロードに言われるとそうしなければならないという感覚に襲われた。

 無理やり身体をひねって、ほむらは後ろを向いた。

 向いた先には先ほどと同じ姿かたちをした魔獣が居た。

 ただ色が全身真っ黒だった。

「あれがあなたのなれの果てです」

「……?」

「普通の人間と違い、魔法少女は強力な力を秘めています。ですから魔法少女が魔獣になるとあのように亜種が産まれやすいのです」

 ほむらの目から涙がこぼれた。

 化け物に変わってしまう恐怖からか。

 操られまどかを陥れるための駒として使われることへの痛みか。

 自分の意思を失いかけている今のほむらにはなぜ自分が泣いているのかすらわからなかった。

 ほむらはそのまま気を失った。

 クロードはほむらを抱きかかえた。

「さぁ……あなたにはお嬢様のために道化となって頂きますよ」

 ほむらを抱えたまま、クロードは姿を消した。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 5話① ( No.221 )
日時: 2012/06/26 11:27
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ひどいよ……」

 クロードの話を聞き終えたまどかは震える口から言葉を何とか吐き出した。

 クロードはそんなまどかを黙って見つめた。

「ほむらちゃんを返してよ!!」

 まどかはクロードの目を真っ直ぐ見返し、人外の存在である相手にも怯まずに声を張り上げた。

 そしてまどかはクロードとの距離を縮めようと一歩を踏み出した。

 だがそれはほむらによって遮られた。

「ほ、ほむらちゃん……」

 ほむらは銃口をぴったりとまどかの額に合わせ、引き金に指を当てていた。

 これ以上近づけば容赦なく撃つ。

 そういう気配がほむらにはあった。

「ほむらちゃん……」

 操られているとわかっていても、ほむらが取った行動はまどかの心を大きく抉った。

「ふふふ。わかったでしょう?あなたの声は届きませんよ。あるのは私への忠誠心ですから」

 クロードはほむらに合図を出し、銃を降ろさせた。

「さて……時間も丁度いいですし、本題に入りましょう」

 クロードはそういうと指を鳴らした。

 するとクロードとまどかを囲むように白と黒の魔獣が地面から一斉に出現した。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 5話② ( No.222 )
日時: 2012/06/26 11:28
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「!!」

 まどかはその光景にゾッとした。

 魔獣の数はざっと見た感じで30体以上はいる。

 これが全て元は人であったり、魔法少女であったと思うと、クロードという人物の残酷さが身に染みてわかる。

「まどか様……あなたは先ほどほむらさんを返して欲しい———そう言いましたよね?その願い、聞き入れてもいいですよ」

「えっ?」

「実は第二段階に入る前でしたら、魔法毒を無効にすることが出来るのです」

 クロードは懐からグリーフシードの形をした物体を取り出した。

「これを首筋のマークに当てると、魔法毒を吸出して無効化します。ちなみにこれはほむらさん専用で、代わりはありません」

 物体をまどかに向けてちらつかせるとすぐに懐に戻した。

「どうしたら……それを渡してくれるんですか?」

「ふふ。簡単な取引をしましょう」

「取引……?」

「ええ。なんてことは無い。まどか様、あなたが魔法少女になり、ソウルジェム———すなわち命を差し出してくださればいいのです」

「!!」

 三日前にクロードが予告していたこと。

 その意味がようやく理解できた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 5話③ ( No.223 )
日時: 2012/06/26 11:29
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「そんな……そんなことのためにほむらちゃんを……」

「そんなことなんてありませんよ。あなたの力を手にすることが出来るのであれば、充分すぎるほど釣りがでます」

 どんな手段を使ってでもと公言したように、クロードにとってほむらを利用したことは単なる手段でしかない。

 クロードからすれば、ほむらという存在はそれ以外では何の価値も無いのだ。

 ゆえに迷うこと無く殺す事だって出来る。

 それを感じ取ってしまったからこそ、まどかはこの状況に混乱してしまっていた。

「あと3分待ちましょう。その間に契約しなければこの解毒剤は破壊します。ちなみにこの解毒剤だけを奪っても意味はないですよ。何せ、人質はほむらさんだけではありませんから」

 さやかたちのことを指していた。

 確かに運がよければほむらの解毒剤を奪うことが出来るかもしれない。

 だがそのようなことをすれば、さやかたちの解毒は永遠に出来ない。

 さやかたちの居場所も、解毒剤の在り処も、まるでわからないのだから。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 5話④ ( No.224 )
日時: 2012/06/26 11:29
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「あと……お仲間を救うという願いをするのはやめたほうがいいですね。それを願った瞬間に全員……殺します」

 クロードが今までに無い鋭い眼光をまどかに浴びせた。

 その瞬間、まどかは完全に冷静さを失った。

 願い方次第ではクロードがほむらやさやかたちに手を下す前にどうにかすることも出来たかもしれない。

 だがそんな気の回る願いを考える時間と、冷静さをクロードはまどかから奪ったのだ。

 三日前の予告により、クロードは時間通りに事を遂行する人物という暗示をまどかに与えた。

 結果、3分と決められた時間は絶対的なタイムリミットなのだとまどかは思い込んだ。

 そして仲間を人質に取ることにより、まどかが仲間を救うために契約せざる終えないという状況を作り、その上で願いを制限することでまどかの冷静さを奪い、もしもの場合をのリスクを最小限にした。

 まどかはクロードの罠に完璧にはまっていた。

(ほむらさんは頭も回り、経験も豊富。ほむらさんを自由にしておけば、この場でまどか様の混乱を緩和させてしまう可能性もあった。ならば手中に収めておくのが上策……)

 クロードは実を言うと普通の人間並の力しか持ち合わせていない。

 魔法毒という特殊な力はあるにしても、真っ向から戦えば必ずといっていいほど敗れる。

 それを補うのが知略だった。

 自ら戦うのではなく、一歩引いたところで相手を罠にかける———それがクロードの戦い方だった。