二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 9話① ( No.236 )
日時: 2012/06/29 15:56
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 彰はまどかから魔獣の正体、そしてほむらがクロードに操られていたことを聞いた。

「やっぱり魔獣は元は人だったのか……」

 廃ホテルの地下で見た惨劇の跡は人が魔獣に変貌する工程でつけられたものだった。

 ある程度予想していたこととは言え、正直普通の神経で出来ることではない。

(俺だって人殺しであることに違いは無い。それでも手にかけたとき、やっぱり躊躇ったし、自責の念を感じずにはいられなかった。でもあの執事にはそれがまったくない)

 嫌悪感を覚えずにはいられなかった。

 そして何より、まどかやほむらのことを思うと胸が痛んだ。

(追い込まれて、追い込まれて……。そして傷ついて……。なぜ彼女たちが幸せに過ごすことを許してくれないのだろう)

 そう思いながら、自分もかつてまどかたちを追い込んだ人間なのだと嫌悪した。

「彰さん……」

「あぁ。ほむらちゃんを楽にしてあげよう」

 未だ気絶するほむらの首筋にはクロードに噛まれた印が残っていた。

 まどかの話だとこのまま行けばほむらは魔獣化してしまう。

 そしてそれを阻止できるのはクロードの持つ解毒剤だけだという。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 9話② ( No.237 )
日時: 2012/06/29 15:56
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「解毒剤、か。必要ない」

 彰はほむらの首筋に手を触れた。

 すると首筋のマークが消え、心なしかほむらの表情が穏やかになった気がした。

「毒を『無かったこと』にした。これでもう大丈夫」

「よかった……。でもさやかちゃんたちが……」

「それも大丈夫だよ。偶然、ほむらちゃんを追っているときに捕まってる三人を見つけてね。念のため、三人の毒も『無かったこと』にしといたよ」

 さやかたちを発見した時点では首筋のマークは魔女の口付けだと思っていた。

 そのままでは魔女の言いなりになってしまうのではないかと思い、とりあえず『無かったこと』にしたのだが、それが功を奏したようだ。

 まどかは心からホッとしたようでようやくいつもの笑顔を見せた。

「執事に魔獣にされた皆も救ってやらないとね」

 数秒前に双樹と千里の一斉狙撃が行われた。

 彰は敵が双樹たちに気が向いているうちにまどかたちを連れて一旦結界から出ようと考えていた。

 だがそれは叶わなかった。

「マスター!!」

「ししょー!!」

 二人の叫びは緊急事態であることを知らせるには充分だった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 9話③ ( No.238 )
日時: 2012/06/29 15:57
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「いやはや、まさかこのようなイレギュラーが起きるとは思ってもいませんでしたよ」

 頭を射抜かれ、死んだと思われていたクロードが彰の前に降り立った。

「そんな!なぜ……!?」

「なぜ、ということはないでしょう?私もあなたが生きていて本当に驚いたのですから」

 ソウルジェムが感じ取る気配からクロードは魔女ではない。

 彰は、自分同様イレギュラーな契約者だと思っていた。

 肉体を殺されれば、死んだと思い、ソウルジェムは機能しなくなる。

 たとえどんなに強固な精神を持っていようと、『死』という感覚から逃げることは出来ない。

 ソウルジェムを持つ以上、死なないはずがない。

(本当に吸血鬼なのか……?)

 魔法少女なんてものが居るのだから居てもおかしくは無さそうだが、だからと言ってそうそう信じられるものではない。

「もうお分かりでしょうが、私は不死身です。肉体をバラバラにされようと、爆弾で木っ端微塵にされようとも死にません。これがどういうことだかわかりますか?」

「……」

 彰はそれがどういうことだか理解していた。

 クロードはそんな彰の様子を見て高らかに笑った。

「聡明ですね、あなたは。私は死ぬことは無い。だがあなた方は傷つき、そしていずれ心の闇がソウルジェムを濁らせる。勝負の見えた戦いなのですよ」

 クロードの語るそれは彰たちに勝ち目の無いことを嫌というほどわからせた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 9話④ ( No.239 )
日時: 2012/06/29 15:58
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「彰さんの力だったらどうにかならないかな?」

『無かったこと』にする能力でクロードの不死を無かったことに出来ないか、まどかはそう聞いていた。

 彰は首を振った。

「不死が能力なら無かったことに出来るけど、たぶんあの執事は産まれもって不死なんだ。視覚や聴覚みたいに感覚を無かったことには出来るけど、不死の身体を無かったことにするとなると、あの執事そのものを無かったことにしなくちゃいけない。でも俺の能力では命を無かったことには出来ないんだ」

 不死であることも厄介だが、クロードは能力で強力な味方をいくらでも作り出せる。

 今のままでは彰たちに勝ち目は無い。

 今この場ではクロードを倒す術は無いが、もしかしたら何か良い方法が見つかるかもしれない。

 だがその術を見つけるためにはまずこの場から逃げなくてはならない。

 無駄死には避けたい。

 だがその逃走という行為ですら、この場においては相当の難易度を誇っていた。

 地面から次々と魔獣が姿を現した。

 双樹たちが消えたと思っていた魔獣たちはクロードの手によって一時的に消されていたのだ。

「多すぎる……」

 彰は次々と現れる魔獣たちを目の前にし、唇をかみ締めた。

 数は依然30体近くはいる。

 彰一人ならば逃げ切れただろう。

 だが今戦えるのは彰と双樹だけ。

 千里は戦闘系の能力ではないし、ほむらは未だ気絶から目覚めない。

 無論、魔法少女ではないまどかに戦闘など無理だ。

 つまり彰と双樹の二人で三人を守りながらこの場から逃げなければならないのだ。

 普通に考えれば到底無理な話だ。

 だが決して余裕のあるものではないが、彰の口元には笑みが浮かんでいた。

「多すぎるが、まとまってくれたのはラッキーだった」

 誰に言うわけでもなく、彰は呟いた。

 そして群がる魔獣たちを決意に満ちた目で見つめた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 10話① ( No.240 )
日時: 2012/06/29 15:59
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

美国織莉子(みくにおりこ)は人気の無い屋敷の廊下を静かに歩いていた。

そしてある扉の前で立ち止まった。

まるでここだよ、入っておいで———と言っているかのように半開きの扉は揺れていた。

織莉子は扉を開き、一歩中へと進んだ。

何て事のない普通の部屋だった。

クローゼットに本棚、机。

半分開かれた両開き窓、その手前にベッドが置かれいる。

この部屋の持ち主がかつて有名な政治家の娘のものだと知ったら、何も知らない者には意外と狭くて質素だなと思わせるかもしれない。

だが織莉子はベッドの上で上半身を起こし窓の外を見つめる少女が、いわゆる『金持ちの暮らし』にまったく興味ないことをよく知っていた。

「お久しぶりね、千鶴。気分はどう?」

鷺宮千鶴(さぎみやちづる)は大して驚く様子も無く、織莉子に視線を向けた。

「変な気分です。ずっと眠っていたはずなのに、私はしっかりと今目覚めるまでの記憶を宿している……」

千鶴は枕元に置いてあった小さな宝石箱を手に取った。

そしてそれを開けて中を確認すると微笑んだ。

織莉子は箱の中に大切に収められたソウルジェムを見て目を細めた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 10話② ( No.241 )
日時: 2012/06/29 16:00
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「私に『招待状』を持ってきてくれたあの執事はやっぱり……」

「えぇ。クロードは私の願いで生まれた人ならざる者……。本物のクロードはずっと前に亡くなっていますから」

「亡くなった?」

「お父様のしたことを公にしたのはクロードだったんです。でもそのせいでクロードは殺されてしまった……」

千鶴は視線を落とした。

そして少し躊躇いがちに言葉を口にした。

「私がしっかりしていれば、勇気があれば、織莉子さんのお父様もクロードも死ななかったかもしれない。私の弱さが生んだ悪意の連鎖がたくさんの不幸を招いてしまった……。そしてそれは今も続いている———」

「今のクロードさんは、あなたを目覚めさせるということを行動原理として動いている。それは少なからずあなたの望んだことではなかったの?」

千鶴は首を横に振った。

「私はつくづく無価値だと思うことがあるんです。一体何のために産まれて、何のために今を生きているのか、まったくわからなかった。眠っている間は、クロードの見たものが夢として流れてくるんです。眠っている私のことを屋敷の者達は『眠り姫』と呼んでいました。ただ眠るだけの価値無き者———」

「……」

「本当にその通りだと思います。私は悪意から目を背け、そして自殺を図ることで逃げようとした。織莉子さん、私はあなたが思っているほど、立派な人間ではないんです」

「……」

「ただ眠るだけの私の存在価値って何なのか。クロードの目を通して夢で現実を見ながら、ずっと考えていた。そして見つけたんです」

「それって?」

「ある人の助けになることです。その人はきっと私のことなど一切知らないのでしょうけど、それでも構わないんです。私はその人のやろうとしていることの一片となれればいいんです」

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 10話③ ( No.242 )
日時: 2012/06/29 16:01
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

それが鷺宮千鶴という人間の存在価値であり、存在証明なのだ。

だがその存在証明を残すことは一人では出来ない。

ましてや千鶴という人間では到底叶わない。

人には運命だとか神の導きだとか、到底普通ではありえない人生を歩むものがいる。

そういった者からすれば、千鶴は至って平凡であり、非凡な者の手助けをしようとすれば一人の力でまかなえる訳が無いのだ。

結果として千鶴の持つ運命のキャパシティから漏れたツケがクロードの暴走を招いた。

「私はある人の手助けをするために、悪役を買って出たつもりだった。クロードは私に代わって私の願いを叶えようとした。それがクロードの忠誠心を助長させて、結果としてたくさんの犠牲をだしてしまった」

「止めることは、出来ないの?」

「クロードを消滅させることは出来ます。ですが、クロードに魔獣にされたものは救われないでしょう……」

この一件で生まれた犠牲は千鶴の罪だ。

クロードという根本を絶ったとしても犠牲者が元に戻ることは無い。

ならばクロードを生んだ千鶴がそれらを背負わなくてはならない。

「でも私にはそれを背負い、楽にしてあげることは出来ません。私にはそんな価値も力もないから———」

「すべてを背負うことなんて誰にも出来ないわ。罪をつぐなうことは必要だと思うけど、何もすべて一人でしなくてもいいんじゃないかしら?」

「え?」

織莉子は闇の広がる世界を窓越しに見つめた。

「どんな闇だって照らす光があるわ。私たちの内面にある闇や傷だって照らしてくれる光があるはず。もしその光を作り出すことが出来るとすればきっと彼ね」

千鶴はハッとした。

クロードの目から送られる映像に映る決意に満ちた目をした青年の姿。

希望を捨てることなど決してしない———そう語る眼差しの持ち主。

「蒼井……彰」

その名を口にした瞬間、千鶴の胸が高鳴った。

Re: 魔法少女まどかマギカ 〜True hope 〜 ( No.243 )
日時: 2012/07/02 05:51
名前: 更紗蓮華 ◆huAZHxao6. (ID: 9uhgIwvd)

はじめまして、ですよね? 更紗蓮華です。
ちょろっと読んで、「なんか見覚えがあるなー」と思ったんですが、もしかしてにじファンで書いてましたか?
お気に入り登録をした覚えもあります。こんなところで見つかるなんて、ちょっとびっくりです。
続きを楽しみにしてますね。

Re: 魔法少女まどかマギカ 〜True hope 〜 ( No.244 )
日時: 2012/07/02 11:12
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

更紗蓮華さん

コメントありがとうございます。
初のコメントにちょっと感激してしまいました(笑)

仰るとおり、にじファンで投稿していました。
今はにじファンで続けることが出来なくなり、こちらにお世話になっている次第です。

現在はにじファンで投稿していたものを再アップという形で投稿していますが、いずれにじファンで投稿出来なかった続きをアップしたいと思っています。

もしよろしければまたご覧になって頂けると嬉しいです。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 11話① ( No.245 )
日時: 2012/07/03 14:27
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

クロードの胸が高鳴った。

(なんだ?この感覚は……)

この状況は誰がどう見ても彰にとって絶望的でしかない。

にも関わらず彰の目には決意が宿っており、諦めとはまるで無縁だった。

(何か奥の手でも?その気配を私は感じ取って震えているというのですか……)

クロードには30近い魔獣がついているし、その中には魔法少女をベースにした亜種も数体いる。

いくら彰であってもちょっとやそっとじゃ潜り抜けられない。

それがわかっていても感じる。それは———。

「怖いのか?」

「!!」

彰がクロードの心を読んだかのようにそう言った。

「伝わってくるよ。あんたの感情が……」

「感情……?」

「俺はどんなものであろうと心があると思ってる。それが例え魔女であろうと、目の前にいる魔獣であろうと」

魔女に感情や意思などは無い。

ただ本能に従い、呪いを振りまくだけの存在でしかないのだ。

「心があるから魔女だって救える……そう思っているのですか?」

馬鹿馬鹿しい。

クロードは半ば呆れた感じでそう返した。

だが彰は

「思っているよ」

と真面目に返事し、クロードは呆気に取られた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 11話② ( No.246 )
日時: 2012/07/03 14:28
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「誰だって心に傷を抱えているんだ。消えることの無い傷があるから心は自由になれないんだよ」

「何を言っているんですか……?」

「魔女や魔獣だって同じさ。心の傷が足かせになって、それが負の感情を生んで破壊衝動を引き起こす。でもそれって心がある証拠なんじゃないかな?」

「それはあなたの思いに、理想に過ぎないのですよ。そんなのありえるわけが———」

「ありえるよ。明奈の願い、思いが俺にそのことを教えてくれたんだ」

クロードは彰の話など耳に入っていなかった。

彰に起きている異変に目を奪われたからだ。

「こ、これは……?」

彰の背に虹色に輝く光の粒子がまるで意思を持っているかのようにうごめき合っていた。

そしてそれは次第に一つの形を作り上げた。

「翼……?」

一見すればそう見える。

だがその翼は本などで見る天使のそれとは遠くかけ離れた形状をしていた。

木の枝のように無造作に様々な大きさの管が分岐していた。

彰の背から生えるように展開されたそれは美しいというよりも不気味だった。

「———」

だがクロードが今起きた異変の中で最も目を奪われたもの、それは彰の瞳だった。

彰の右瞳の色が黒から鮮やかな金色に変わっていたのだ。

どうしてこんなにも目を奪われてしまうのかわらなかった。

もしもこの世に神様がいるのだとすれば、きっとこのような揺るがない決意と慈愛に満ちた目をしているのだろう———そういつの間にか考えていた。

彰が右腕を前に突き出した。

「さぁ、教えてくれ……君たちの痛みを!」

その声と共に、彰の背にある翼がざわめいたのだった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 12話① ( No.247 )
日時: 2012/07/03 14:30
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

『痛みの翼』

彰はそう名付け、呼んでいる。

蒼井明奈(あおいあきな)が消滅する間際に、彰の『痛みを受け入れて救いたい』という願いを受けて授けたものだ。

明奈が契約の際に願ったことは『彰の願いを叶えること』であり、その願いが成就された結果生まれた。

まさに彰と明奈の二人の願いによって生まれた力なのだ。

『痛みの翼』を構成している粒子の管は目にも留まらぬ速さで伸びて行き、今この場にいるすべての魔獣に突き刺さった。

魔獣たちはそれを引き抜こうとするが、すり抜けてしまい、掴むことすら出来なかった。

「蒼井彰!あなたは一体何を!!?」

「痛みを『共有』する!」

彰は一度深呼吸し、自分を落ち着かせると首にかかった鳥のガラス細工を握り締めた。

覚悟を決めなくてはならない。

死する覚悟を。

『痛みの翼』は対象と彰の心を繋ぐデバイスのようなものだ。

人それぞれが持つ心の傷は本人すらわからなくなってしまうくらい心の奥に眠っている。

その傷にはどんな言葉も届かない。

何せ本人すらわからない傷なのだ。

当然他の誰かがそれを知ることなどできない。

それが最大の問題なのだ。

知ることの出来ない傷は語る口も聞きいれる耳も持ち合わせていない。

それでも傷は求めているのだ。

自分がここにいるということを。

聞いて、知って欲しいのだ。

受け入れて欲しいのだ。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 12話② ( No.248 )
日時: 2012/07/03 14:30
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

いつまでも自分が原因で自由になれない傷の持ち主を見るのは嫌なのだ。

傷は、苦しみ、変貌し、行き場の無い呪いを振りまく主人を解放したいと願っているのだ。

ならば受け入れ、共有しよう。

心の傷から目を逸らしているから、持ち主はその傷に気付かない。

気付きたくないから逸らす。

結果としてなぜ自分がこんなに行き場の無い気持ちを抱いて、呪いを振る巻いているのかわからない。

ならば目を向け、理解しよう。

一人で出来ないなら二人で共有すればいい。

(俺がお前達の傷を一緒に共有するから……。だから傷を受け入れて自由になろう。もう行き場の無い呪いを振りまくのはやめにしよう)

これが『痛みの翼』の第一の能力。

本人ですら目を逸らしている傷を浮かび上がらせ、彰と共有することで傷を和らげる。

目を向けて欲しいと願う傷たちは浮かび上がったことで静かに消えてゆく。

本来心の傷として眠っていたそれは、消えることによって本人に安らぎと許されるんだという気持ちを与える。

心の傷に向き合うこと、それは一度失った心に向き合うことに等しい。

再び己の心を知り、自分を取り戻し、そして解放される。

心を濁らせたもの、失ったものを理に導く。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 12話③ ( No.249 )
日時: 2012/07/03 14:31
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

そして『痛みの翼』の第二の能力。

共有した痛みを魔力に変えて翼が取り込む。

痛みは心。

心は魔力の源だ。

共有した傷という心を受け入れ、背負うことで翼の一部とするのだ。

今は小さくとも、受け入れた傷が多くなればいずれ巨大な力となるだろう。

もしまたワルプルギスの夜のように強大な敵が現れた時、翼に蓄えられたたくさんの人の心がそれらを打ち破るのかもしれない。

消えていった者達の願いや希望を無駄にしたくない。

そういった思いが生んだ力が『痛みの翼』なのだ。

しかしこの力は、云わば神の力と言っても過言ではない。

神がすべてを受け入れ、天国に導くようなものなのだ。

これは神という絶対的な存在だからこそ出来ることであり、彰は所詮は人だ。

人が神の真似事をしようとすれば当然、それは訪れる。

「うあああああああああああああ!!!!」

天を貫くような叫びが彰の口から放たれた。

人という器に耐え切れなくなる。

そして訪れる———オーバーフローが。