二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 18話① ( No.264 )
日時: 2012/07/12 10:14
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

千鶴はキュゥべぇと契約したことで魔法少女となった。

「願いは叶った。きっと君がこれから進む先に君の追い求めているものが見つかるはずだよ」

キュゥべぇはそう言い残して千鶴の意識の中から消えた。

当然、存在証明といった曖昧なものは形として手にすることは出来ない。

自らそれに出会い、そしてものにしなければ意味が無いのだ。

キュゥべぇはあくまで追い求める先を用意してくれただけで、そこまで行くのは自分の力なのだ。

千鶴は魔法で動けない自分の分身として、亡くなったクロードを作り出した。

作り出されたクロードは『生きる意味、存在証明を探す』というプログラムを元に自律行動をした。

千鶴は自律行動するクロードの目を通して今、刻々と進んでいく現実を夢に見た。

それで千鶴は知る。

屋敷の人間をはじめ、学校の人間、かつて父の知り合いや部下だった者たち。

それらの人間が、千鶴のことを忘れていたり、蔑んだりしていることを。

自分の存在価値を知るために手にした力が、逆に自身の無価値感を助長してしまっていた。

(私のような人間が、希望を求めることが間違いだったんだ……)

千鶴はしゃがみこむと、体育座りをして顔をうずめた。

(もう何も視たくない……。聞きたくない)

再び真っ暗な世界に閉じこもろうとしたとき、その手は突然差し伸べられた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 18話② ( No.265 )
日時: 2012/07/12 10:16
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「アナタ……ずいぶん後ろ向きなのね」

「え?」

顔をあげるといつの間にか見知らぬ場所に居た。

一言で言うならば、そこは『図書館』だった。

「そ、そんな……。いつの間に?それより私の中なのに……」

動揺する中、先ほど自分に対して言葉を投げかけた人がいることを思い出した。

「あ、あなたがここに?」

椅子に腰掛けた、自分より少し年上風の女性だった。

「ちょっと違うわね。アナタの世界の中に一時的に私の世界を作らせて貰っているのよ」

「そんなこと……」

そんなこと魔法少女でもない限り———そう思った時、改めてこの人が千鶴と同じ魔法少女であることに気が付いた。

「記憶と心って似ていると思わないかしら?どちらも目に見えないものだし、喜びや悲しみとかを刻み込むのも記憶や心だわ」

「どういう……ことですか?」

「似ているものだから、記憶と心は繋がれるのよ。アナタがワタシを記憶していたから、ワタシはアナタの中に居られるの。それがワタシの魔法……」

「でも私はあなたとは初対面のはず……」

いくら記憶を探っても目の前の女性のことを思い出せなかった。

「思い出せないと思うわ。アナタ、とても小さかったもの」

「小さいとき?」

「そう……。アナタは小さいときに魔女に襲われた。その時、アナタはお母さんを亡くしたのよ」

「母を……?」

母親は原因不明の事故で亡くなったと父から聞いていた。

魔女が原因であれば、魔法少女でない者から見れば『原因不明』で済まされてしまうだろう。

「アナタを助けたのがワタシの仲間だったのだけど、助けたアナタはお母さんを亡くした痛みで壊れてしまいそうだったの。だからワタシがその時の記憶を消したのよ」

母親の記憶はほとんど無い。

写真で母親の顔を見てもピンと来ないくらいだ。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 18話③ ( No.266 )
日時: 2012/07/12 10:17
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「アナタに母親の記憶を残してしまえば、それをきっかけに消した記憶が戻ってしまうかもしれない。いくらその時の記憶を消しても、アナタの心から消えることは無い。それが記憶というものだから。とは言え……とても申し訳ないことをしたわ」

女性はため息をついた。

「私は……母のことをどう思っていたのですか?」

なんとなく気になった。

記憶を消されていたため、千鶴は母親という存在を知らずに育った。

父親のように千鶴を愛してくれていたのだろうか。

「そうね……。アナタのお母さんは身体の弱い人だったわ。でも心の強い人だった。アナタのことを一番に思い、アナタに強く生きて欲しいと願っていたわ」

女性は記憶と心は似ている———繋がっていると言っていた。

今語っていることも、母親の記憶から感じ取ったことなのだろう。

「わ、私は母のことをどう思っていたんですか?」

無くしてしまった母親への思いを知りたかった。

父はたまに「自分よりずっと強い人で、私はそんな母さんのようにお前になって貰いたい」と言っていた。

しかし母親のことを知らない千鶴にはそれが理解できなかった。

だが、もし今母親への思いを知ることが出来れば、父の言葉の意味がわかるかもしれないと思った。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 18話④ ( No.267 )
日時: 2012/07/12 10:18
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「アナタは……大好きなお母さんを守りたいと思っていたわ。お母さんが苦しまずに暮らせる幸せな世界を作りたいと」

「うっ……うぅ!」

千鶴の瞳から滝のように涙が流れ落ちた。

千鶴はずっと前から自分が生きる意味を知っていた。

周りがどう言おうと関係ない。

立派に貫ける信念があったのだ。

母親と父親は千鶴に強く生きて欲しいと願った。

そして千鶴は願いを知らずともしっかり受け取り、強くあろうとしていた。

「アナタは無価値なんかじゃないのよ。志のあること自体に価値がある。それさえわかっていれば残せるはず……アナタの存在証明を」

女性はこのことを伝えにきたのだ。

確かに願いは叶った。

千鶴のは己の存在理由を知ることが出来たのだ。

「あの……アナタの名前は?」

女性は微笑みを浮かべ、答えた。

「自己紹介が遅れたわね。ワタシの名前は、叶(かなえ)ゆかりよ」

これが千鶴の運命を変えた出会いだった。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 19話① ( No.268 )
日時: 2012/07/12 10:20
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「アナタにお願いがあるの」

叶ゆかりは突然そう言った。

現実の世界では、ある魔法少女たちがワルプルギスの夜という強大な魔女を倒したという噂が流れていた。

「お願い……ですか?」

「アナタ、最近奇妙な存在に出会ったでしょう?」

漠然とした問いだったが、心当たりがあった。

「もしかして、自分を『概念』だとか名乗った人のことですか?」

正確には、出会ったのは自立活動しているクロードだ。

クロードの前に現れた『それ』は人と言うには抵抗があるような存在だった。

「何というか……運命ってものなのかしらね。アナタには無縁のことだと思っていたのだけど……」

ゆかりは一人で納得していた。

千鶴が首を傾げていると、ゆかりは苦笑を浮かべて謝った。

「実は私のお願いとその『概念』はとても関係があるの」

ゆかりは神妙な顔つきで千鶴を見つめた。

千鶴も気楽な気持ちで聞いていい話ではないと悟った。

「ワタシはワタシという存在を残したくて出会った人の記憶にワタシを刻み込んできた。でもそれはあくまでこの世界というものがあって初めて成り立つものなのよね」

ゆかりの言い方は一言で言うなら『変』だった。

まるでこの世界の存在があやふやだと言っているかのようだったからだ。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 19話② ( No.269 )
日時: 2012/07/12 10:21
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「誰も変だとは思わない。だって思えるはずがないもの。この世界で産まれ、生きて……そして死ぬ。それが当たり前だから。もちろんワタシもそう思っていたわ。あの人に会うまではね」

「あの人?」

「どんな人なのか……なんて名前なのか……それを言うことは出来ないの。それを知られるわけにはいかない。でも伝えなくてはいけないのよ。遠回りしてでも、時間がかかってもいい。あの『概念』に知られること無く、目的の人に……」

千鶴は生唾を飲み込んだ。

とてつもなく重大なことをゆかりは伝えようとしている。

しかも自分に。

「アナタはとても遠い位置で『鹿目まどか』と繋がっている。それは『概念』も知っていることだけど、アナタは知らない」

鹿目(かなめ)まどか。

その名を聞いたのはその『概念』からが初めてだった。

強大な力を秘めた子で、もし魔法少女にすることが出来たなら、その力を利用して千鶴を昏睡状態から目覚めさせることが出来るかもしれない。

そうクロードに語っていた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 19話③ ( No.270 )
日時: 2012/07/12 10:22
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「『概念』はアナタ……正確にはクロードさんを鹿目さんにぶつけてその力を手にしようとしている。『概念』がそう考えたのは、アナタ自身は知らないけれども少なからず鹿目さんと関係性があるという微妙な立ち位置に居たから。それが『概念』とっては好都合だったし、ワタシたちにとってもチャンスとなった」

まどかと親密な関係にある者を誘惑しても意味がない。

まどかを擁護しようとするからだ。

だがまったく関わりが無ければ何かと不便なものだ。

一人でも対象のことを知る人物いるだけで、情報を得ることが出来たり、時として共に戦う仲間となってくれることもある。

そういう意味で千鶴は丁度良い立ち位置にいたのだ。

「アナタが鹿目さんのことと『概念』のことを知ったこと。そしてやはりアナタがどちらからも遠い位置にいること。それがワタシたちにとっても好都合なの」

「あの……『概念』って何なんですか?ゆかりさんの言い方だとまるで———」

倒すべき相手、つまり敵だと言っているようだった。

ゆかりは千鶴の考えていることを悟っているようだったが、否定することはしなかった。

「『概念』のことも話さなくてはいけないわね」

ゆかりは魔法で2つの人形を作り出した。

「これから始まるのは一人の女の子の絶望、希望、創造……そして果て無き戦いの物語よ」

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話① ( No.271 )
日時: 2012/07/13 15:23
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

一つはピンクの髪の毛を左右で縛った可愛らしい子。

もう一つは黒髪が綺麗でどこか儚げな感じの魔法少女。

「ピンクの髪の毛の子が鹿目(かなめ)まどかさん。黒髪の子が暁美(あけみ)ほむらさんよ」

ゆかりが二人の自己紹介を済ませるのと同時に、テーブルの上に見滝原市を模したジオラマが出現した。

そのジオラマの上空を魔女が浮いていた。

「暁美さんはこのワルプルギスの夜を倒し、なおかつ鹿目さんを魔法少女にしないために何度も何度も同じ一ヶ月を繰り返していたの。暁美さんは何度目ともわからない勝負に挑んだわ」

ほむらの人形がひとりでに動き出し、ワルプルギスの夜と戦っている。

だが。

「あっ!」

千鶴の目の前でほむらはワルプルギスの夜にやられてしまった。

「何度やっても暁美さんは勝てなかった。でもそんな暁美さんの前に、この時間軸の鹿目さんが現れたの。鹿目さんは大切な仲間の死、そして自分のためと一生懸命に戦う暁美さんを見てある願いを叶えようと考えていた」

ほむらとまどかの前に、今度はキュゥべぇの人形が現れた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話② ( No.272 )
日時: 2012/07/13 15:23
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「その願いは『すべての過去、未来の魔女を消し去ること』。そうすることで魔女化して呪いを振りまく存在となってしまう魔法少女たちを救おうとしたのよ」

「でもそんなすごい願い……叶えることができるんですか?」

「鹿目さんになら出来たのよ。言い換えるなら鹿目さんにしか出来なかった。暁美さんが繰り返し続けた時間の中で因果の特異点となり、強大な力を蓄え続けた鹿目さんにしかね」

まどかが魔法少女へと変身し、放った無数の矢によりワルプルギスの夜が消し去られた。

「この願いを叶えるためには時間という概念に囚われない、上位の存在———つまり概念そのものになるしかなかった。それは鹿目さんの存在そのものを過去、現在、そして未来から消し去ってしまうことを意味していたわ」

まどかは女神と言っても相違ない神々しい姿へとその身を変えた。

「これですべてが終わったはずだった。でもそうもいかなかった」

まどかの後ろに全身真っ黒に染めたもう一人のまどかが現れた。

「希望と絶望は表裏一体。希望が振りまかれれば絶望も同じように生まれる。鹿目さんが希望そのものだとすれば、この黒い鹿目さんは絶望そのもの」

まどかという希望が生まれたと同時に絶望も生まれてきた。

それは至極当然のことでコインに表と裏があるように、世界は常に同じになるようにバランスを取り続けている。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話③ ( No.273 )
日時: 2012/07/13 15:24
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「鹿目さんを慈悲の女神とするならば、この黒いのは無慈悲なる悪魔。この悪魔こそ、ワタシたちが倒すべき『概念』なの」

「でもそれってつまり……相手は神様みたいなものなんですよね?」

まどかと『無慈悲なる悪魔』は元々同じ存在。

つまり二人の力は同じ。

その力は拮抗しあい、勝負がつくことは無かった。

「ワタシたちでは到底勝つことなんて出来ない。でもある人は唯一太刀打ちできる術を持っている……。その人にある人物を引き合わせることがワタシたちの役目なの」

戦う力は無くとも、伝えることなら出来る。

それがゆかりの、そしてこの話を聞いた千鶴の役目なのだ。

「『無慈悲なる悪魔』は拮抗状態を打破するための策にでたの」

「それが……この時間軸のまどかさんの力を奪うこと……?」

同じ力を持っているがゆえに決着のつかない戦い。

ならばこの状態を崩すためには、それより大きな力を手にすればいい。

単純だが確実な策であった。

「そう……。そのために『無慈悲なる悪魔』は改変されるはずだった一つの並行世界を密かに自分の手中に収めた」

「この世界が!?」

ゆかりは頷いた。

語っている自分ですから、まるで御伽噺を話しているようだとゆかりは思っていた。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話④ ( No.274 )
日時: 2012/07/13 15:25
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「手中に収めたこの世界を『無慈悲なる悪魔』は、女神となった鹿目さんから見た最も幸せな世界に作り上げた。仲間が死ぬことなくワルプルギスの夜を倒し、そして皆で幸せな生活を送る。鹿目さんが目指した楽園……」

このとき、ゆかりは『無慈悲なる悪魔』がそのような世界を作った理由がまどかを油断させて動きを鈍らせることだと推測した。

その推測は後に見事に当たってしまう。

『無慈悲なる悪魔』の手によって、まどかは力の及ぶこと無い概念世界の奥の奥に閉じ込められてしまったのだ。

「本来『概念体』はワタシたちよりも上位層に存在する姿無きもの。だからワタシたちは視認出来ないしそれらの声を聞くことなんて出来ないの。『概念体』も直接的な干渉できない……。でも『無慈悲なる悪魔』の恐ろしいところはその弱点を克服しているところにあるのよ」

千鶴は改めて気付いた。

クロードに接触してきた『無慈悲なる悪魔』は確かにクロードと話をしていた。

ぼんやりだが何となくそこに居る———という感覚もあった。

千鶴たちは認識出来ないはずの存在を認識していたのだ。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話⑤ ( No.275 )
日時: 2012/07/13 15:26
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「『無慈悲なる悪魔』は女神となったまどかさんのように、魔法少女たちを救うという力を持ち合わせていない。その代わりにワタシたちに干渉できる力を持っているの」

「それじゃあ、私たちの話だって知られてしまうんじゃ……」

どこにも居なくてどこにでも居る存在。

そう『無慈悲なる悪魔』は言っていた。

その通り、『無慈悲なる悪魔』はこの世界には居ないが、上位の世界から千鶴たちすべてを見通すことが出来る———つまりどこにでも居るようにすべてを捉えられるのだ。

「そうね……本来ならね」

「本来……なら?」

「あらゆるものを見通せる目がありながら、その上でワタシたちに直接干渉できる……だとすればもう太刀打ち出来ないわね。でもそうじゃないの。『無慈悲なる悪魔』はこの世界に実体化しているときは、あくまでこの世界に存在するもの。つまりすべてを見通す目を持っていないのよ」

「でも確かに『どこにも居なくてどこにでも居る存在だ』って言ってましたよ?」

ゆかりは「ふふ」と声に出して笑った。

「ハッタリよ」

「は、ハッタリ!?」

「そう。でも相手をよく知らない状態でそう言われたらそれが出来るような気がするでしょ?ワタシたち魔法少女だって初対面では力の探りあいですものね」

初めて会う相手に対しては、いかに自分を大きく見せてプレッシャーを与えるかが勝負になってくる。

昆虫や動物はそのようにして相手に威圧をかけたりするという。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話⑥ ( No.276 )
日時: 2012/07/13 15:26
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「だからワタシたちは相手の目を盗んで打ち勝つための作戦を着々と進められる。だからと言って油断は出来ない……。ばれてしまえば圧倒的な力の前にすべて無に返すことになるわね」

「でも……なぜ『無慈悲なる悪魔』はこんな面倒なことをしたんでしょうか?それほどの力があるのならいくらでも方法があった気がするのですけど……」

インキュベーターたちのようにエネルギーを集める方法はいくらでもあるはずだ。

いちいち新しい世界を作ってまどかが契約するのを待つなど、遠回りに思えた。

「ちょっとやそっとのエネルギーじゃ拮抗したバランスは崩せないわ。だから手っ取り早いのは自分と同じ力をもった鹿目さんをもう一度魔法少女にしてその力を奪うこと」

まどかの願いによってすべての平行世界上のまどかは一つとなって神となった。

そしてまどかの願いを理とした世界が新たに生み出された。

再びまどかを契約させるためには、この理の外に出なければならない。

そのため、『無慈悲なる悪魔』は改変される前の並行世界を抜き出したのだ。

これによりまどかの作り出した理に囚われない新しい世界が誕生した。

『無慈悲なる悪魔』が作り出したこの世界に対してまどかに干渉されては困る。

そこで『無慈悲なる悪魔』はまどかを封じることで身動きの取れない状態にした。

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話⑦ ( No.277 )
日時: 2012/07/13 15:28
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「でもね……『無慈悲なる悪魔』がこの方法を取らざる終えなかった最大の理由はある魔法少女の存在だったのよ」

「ある魔法少女……それがゆかりさんにこのことを伝えた人……?」

「そうよ。その人は『無慈悲なる悪魔』を倒せる可能性を秘めていた。その人の力をこれ以上大きくしないためにはこの方法を取るしかなかったの。『無慈悲なる悪魔』はその人を遠ざけることに成功したと思った。でも……ある偶然によってその人はこの世界と繋がることが出来たのよ」

「ある偶然……?」

「本来、存在しないはずの人間がこの世界において存在している。でもそれは無数にある可能性から考えればありえない事ではないの。ワタシが産まれてくる世界、その逆の世界……それぞれがあるように。だから『無慈悲なる悪魔』はその偶然———イレギュラーに気付かなかった」

「その魔法少女に会わせたい人っていうのが、その本来存在しない人……なんですね?」

ゆかりは頷くと、テーブルに展開したジオラマ上からまどかとほむらの人形を消した。

「その魔法少女はすべてを知っているからこの偽りの世界においても真実の目を失わなかった。ゆえに分身ともいえるその人に繋がることが出来たの。でも分身のほうはこの世界の真実を知らないために、その魔法少女のことを知りえずにいる。だから……」

ジオラマ上にさっき消滅したはずのワルプルギスの夜が再び現れた。

「その魔法少女に引き合わせるために、この世界で生じている矛盾をその分身に教える必要があるのよ。今まで見えていなかったものも、認識一つで見えてくる。うまく行けば真実に手が届く可能性があるわ」

「矛盾……?」

「アナタ、ワルプルギスの夜を倒したって噂を聞いているわよね?」

「え?は、はい……」

Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 20話⑧ ( No.278 )
日時: 2012/07/13 15:29
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

ゆかりはジオラマ上に浮かぶワルプルギスの夜を見つめた。

「ワルプルギスの夜を倒した子たちの記憶に刻み込んだ『ワタシ』が、確かに倒された瞬間を『視て』いるわ……」

記憶として生きるゆかりは、刻み込まれたゆかりたちの記憶を共有している。

かつて出会った、まどかとほむらの記憶にゆかり自身を刻み込んでいた。

刻み込まれたゆかりはまどかとほむらの記憶を見て、ワルプルギスの夜の最後を確かに『視た』。

それゆえに今から口にする言葉に違和感を感じずにはいられなかった。

「この時間軸のワルプルギスの夜は……倒されていないのよ」

「え?」

「倒す、倒さないの問題じゃないわ……。そもそも現れてすら居ない!」

記憶は嘘を語らない。

そう信じていたゆかりは、『無慈悲なる悪魔』が作り出した記憶に騙されていた。

その悔しさにゆかりは唇を強くかみ締めた。

そんなゆかりをあざ笑うかのように、ジオラマ上に浮かぶワルプルギスの夜は不快な笑い声をあげていた。