二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 21話① ( No.279 )
- 日時: 2012/07/17 14:28
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「これが私が聞いた話です」
千鶴は一息ついた。
織莉子は高鳴る心臓の鼓動に思わず表情を歪めた。
(まさかこんな所であなたのことを聞くことになるとは思わなかった……ゆかりさん)
織莉子はゆかりの最後を予知し、それを伝えた。
このときのゆかりはまだ『真実』を知らなかったはずだ。
恐らく出会った人にゆかりの記憶を刻み込んだのは、親友である天音(あまね)リンのためだったのだろう。
だが『真実』を知ったゆかりはその力を生かしてたった一人で来るべき日を待ち続けた。
(さすがは記憶の魔女の異名を持った人だわ。頭が下がるわね……)
織莉子は力なく笑った。
高鳴る鼓動は止まらない。
その理由はわかっている。
「なぜ今の話を私に?」
「それは織莉子が既にこの世界の矛盾に気付いているはずだからですよ」
「……」
織莉子は内心、「やっぱりそうか」と思った。
ゆかりはそのことでさえ予想しており、千鶴に伝えるべき相手として選出していたのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 21話② ( No.280 )
- 日時: 2012/07/17 14:29
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ええ。ワルプルギスの夜が倒されていないことを知っていたわ。視えてしまったから」
未来を予知する能力者であることをゆかりは知っていた。
ゆえにこの矛盾を予知するであろうと推測したのだ。
(ゆかりさんと最後会った時は、まだワルプルギスの夜に暁美ほむらたちが敗北するという予知だった。ゆかりさんも私から聞いてそれは知っていたはず……。だとすれば———)
ゆかりは死後、記憶だけの存在になってから恐らく『ある魔法少女』に出会った。
その時聞いた話から、ワルプルギスの夜が現れないと予想していた。
その理由は簡単だ。
女神となったまどかを陥れるという目的の一環でもあったのだろうが、一番はこの時間軸のまどかに死なれないためだ。
まどかがワルプルギスの夜と遭遇して生き残ったケースは無い。
それはほむらがループし続けていたという事実からも明白だ。
ゆえに『無慈悲なる悪魔』はワルプルギスの夜を遠ざける方法をとったのだ。
本来なら起こるはずだったワルプルギスの夜の到来。
それが『無慈悲なる悪魔』の手によって捻じ曲げられようとしていると聞かされれば、それによって一度視た予知が改変されると推測するのは容易だ。
ゆかりはそのことから織莉子がこの矛盾に気付くであろうと推測し、千鶴に織莉子に託すように伝えたのだろう。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 21話③ ( No.281 )
- 日時: 2012/07/17 14:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(どこまで先を見通しているのかしらね……。私よりよっぽど予知能力者が様になっているわ……)
だがこの矛盾に気がついてしまった以上、いずれどのような形にせよ何かが起こると覚悟はしていた。
「それで私はこのことを誰に伝えればいいの?」
「ゆかりさんは、『ある魔法少女』の記憶を持っているって言っていたわ。それを見せることが伝達者としての最終的な目標だと」
「ならゆかりさんに会う必要があるわね」
ゆかりは人の記憶を本にする能力がある。
そしてその本を対象者に見せることで持ち主の記憶を刻むことができる。
だがそれが出来るのは無論ゆかりだけである。
「ゆかりさんはどこかに自分自身を刻んでいるのね?」
記憶は人以外にも、場所や物に自身の記憶を刻み込むことが出来た。
ゆかりが出会ったもの全てが、ゆかりにとっては刻みたい記憶なのだ。
「ゆかりさんの能力はある意味、肉体を失ってもなお生き続けることの出来る無敵の能力。でもそれはそう思えるだけで実際は違うと……。ありとあらゆる場所に記憶を刻むことで存在できるけど、それはあくまで記憶のカケラだから存在自体はとてもあやふやでいつ消えてもおかしくないらしいんです」
千鶴はそれを噂話に例えた。
語られているうちは人々の中に生き続けるが、語られなくなってしまえば噂は人知れず消えてしまう。
そういうあるか無いかわからないものはいずれ消えてしまう運命なのだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 21話④ ( No.282 )
- 日時: 2012/07/17 14:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ゆかりさんはそういった記憶たちを繋ぎとめるブレインが居ると言っていました。もっとも強く刻み込まれたその場所にそれは存在すると———」
「もっとも強く刻み込まれた場所……?そこはどこなの?」
織莉子がそう問うと、千鶴は首を振った。
「教えて貰っていないんです。ゆかりさんはとても注意深い人でしたから……情報を分散して敵に気付かれないようにしているみたいです」
「それじゃあ、どこにいるかわからない……」
「ゆかりさんはこう言っていました。鹿目さんの記憶に本と共に刻み込んだって……。そのカギは……もう渡してあります」
織莉子はそれがすぐにクロード経由で渡された千鶴からの手紙だと悟った。
だがその内容にはカギとなるようなものは書かれていなかったはずだ。
「ゆかりさんがしたように私も注意深くやらないといけませんから。その手紙、ある条件を満たすと魔法で書かれた文章が浮かび上がるようになっているんです」
「なるほどね。それならそう簡単にばれない。それで条件って?」
千鶴は微笑んだ。
その笑みに織莉子は背筋が凍った。
何せそれはすべてを終えて目標にたどり着き、達成した者の死に際の笑みだったからだ。
「条件は私が死ぬことです」
恐怖心も後悔の欠片も無く、当たり前のことを言うかのように千鶴はそう告げた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 22話① ( No.283 )
- 日時: 2012/07/17 14:31
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
クロードが駆け出すのを見て、蒼井彰(あおいあきら)は舌打ちをした。
(ヤツの狙いはおそらく双樹……。双樹がやられたらまずい!)
彰たちの中で唯一まともに戦えるのは樽咲双樹(たるさきそうじゅ)だけだ。
双樹さえ倒してしまえばクロードは勝ったも同然なのだ。
案の定、クロードは双樹に目掛けて手刀を振り下ろしてきた。
双樹はそれを軽く避け、デザートイーグルをクロードの足に狙いを定めて発砲した。
だがそれはあらぬ方向に着弾してしまい、掠りさえしなかった。
それを見たクロードはさらに攻撃の手数を増やしてきた。
「っ!」
先ほどとは違い、攻撃が避けきれずに掠り始めた。
しかも致命傷を避けるのが精一杯で攻撃に転じることが出来なかった。
(双樹……!)
生傷を増やしていく双樹を見ながら彰は身体がまともに動かない己を呪った。
双樹は戦闘タイプの魔法少女ではあるが、能力によって他人から力を借りることで発揮する。
そのため双樹単体の戦闘能力はあまり高くない。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 22話② ( No.284 )
- 日時: 2012/07/17 14:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(俺がこんな状態でなければ……)
双樹の能力『コ・ディペンデンシー』によって肩代わりする相手のダメージは、今負っているダメージも対象となる。
彰と双樹の依存率は70%。
つまり今彰が受けているダメージの70%を肩代わりすることになってしまうのだ。
双樹は身代わりとなること自体に抵抗は無い。
だがそれが出来ないのは、そうすることで引き起こるある可能性に問題があった。
(俺が受けてるダメージを肩代わりしたら一発で魔女化だ……。双樹は自分が魔女化してこの状況を悪化させたくないんだ)
彰も双樹が自ら傷を負うような行為をして欲しくはない。
そういう意味では双樹を救ったことになるが、結局のところ彰たちが絶体絶命であることに変わりは無い。
「このろくでなしっ!」
一方的に双樹を攻めていたクロードに綾女千里(あやめちさと)が飛び掛った。
「あなたはお呼びではないですよ!」
「きゃあ!」
だが一撃当てることも出来ず、千里はクロードに蹴り飛ばされてしまった。
クロードが千里から再び双樹に向き直ろうとしたとき、クロードの肩を銃弾が掠めた。
「むっ!」
クロードがバックステップで後退する。
そしてデザートイーグルの銃口をクロードに合わせ、鋭い眼差しで立つ双樹に改めて視線を合わせた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 22話③ ( No.285 )
- 日時: 2012/07/17 14:33
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「なるほど……今のは私から注意を逸らす作戦でしたか。ですが、あなたの腕では当たりませんよ」
「どうでしょうかね……」
双樹が引き金を引いた。
銃弾はクロードの右太ももを掠めた。
「!!?」
またしても当たった。
偶然によるものなのか。
「次は当てるわよ」
双樹が再び引き金を引いた。
それと同時にクロードは銃弾の軌道上から逸れるように横へ飛んだ。
当たらないと思ってはいるが、もしもの場合に備えてそう行動した。
だがそのもしもの行為はまるで意味を成さない結果となる。
「な、なにっ!?」
真っ直ぐ進むはずの銃弾が物理法則を無視して軌道を変えてクロードに向き直ったのだ。
「こ、これは!!ホーミング弾!?」
クロードはこれに動揺し、結果として防御が間に合わずに銃弾を右太ももに受けてしまった。
「ね?当たったでしょ?」
吹き飛ぶクロードに———否、その後方にいる千里に向けて双樹は笑みを浮かべた。
そのクロードを一泡吹かせた攻撃を見た彰は双樹たち同様に笑みを浮かべた。
(千里に向けて能力を使ったのか!千里の千里眼と組み合わせれば追跡弾が撃てる!!)
魔法によって強化された弾丸はクロードの右足をもぎ取った。
そのためクロードは受身を取ることもできずに地面に叩きつけられた。
叩きつけられたクロードは右足を失ったとはいえ、やはりそれほどダメージは無いのかすぐに立ち上がろうとした。
だがその様子にその場に居た誰もが目を疑った。
立ち上がれないクロードの姿に。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 22話④ ( No.286 )
- 日時: 2012/07/17 14:33
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
もっとも驚いたのはクロード自身だった。
普段ならどんな傷だろうと一瞬で再生できる。
なにせ自分は魔法によって作られた人形なのだから。
それなのにもぎ取られた足は再生出来なかった。
「これは一体どういうことなのだ……」
思わず声に出してしまっていた。
「魔法を使った本人が居なくなってしまえば、当然その効果も消えてしまう。あなたが自立型の魔法生命体だったから今は消えずにいるのだろうけど……」
彰たちでは無い、別の女の声がした。
「美国織莉子(みくにおりこ)!!なぜあなたがここに?それよりも本人が居なくなったというのは……!」
今まで見たこと無いほどの焦りがクロードの表情を支配していた。
織莉子はそんなクロードとはまるで真逆———無表情で答えた。
「鷺宮千鶴(さぎみやちづる)は死んだわ。私が殺したの」
その言葉を聞いた瞬間、クロードの身体は糸の切れた人形のようにガクリと崩れ落ちた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 23話 ( No.287 )
- 日時: 2012/07/18 15:51
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
信じるものや目的があれば限界を超えた力が出せる。
だが一度それを見失えば、現実を知ってしまえば途端に均衡は崩れさってしまう。
知らぬが仏———まさにその言葉通りに。
「うぅ」
クロードが消え入るようなうめき声をあげた。
砕けた足から順々に、ゆっくりと身体が消滅していた。
主人である千鶴が居なくなったことを知った瞬間、クロードを繋ぎとめていたものが崩れ去ったのだ。
「なぜ……あなたが?ご友人ではなかったのですか?」
「あなたは結局作られたクロードさんなのよ。本物のクロードさんならそんなこと聞かなくてもわかっていたのでしょうね」
織莉子は哀れみを浮かべて言った。
「皮肉なものよね。生きる目的、己の存在する証明を捜し求めていた人間が作り出した人形が、確固たる意思と目的をもって『悪役』を演じていたのだから」
「……」
クロードは千鶴のことを考えていた。
クロードの持つ記憶は千鶴の記憶を元に構成されたものだ。
つまりそれは千鶴から見たクロードであり、本物のクロードのものではない。
本物のクロードがどのように千鶴を思っていたのか、まったく知らないのだ。
(私は誰よりもお嬢様を知っている。なぜならお嬢様の手によって作り出されたのだから。だから本物以上に知っていると思っていた)
千鶴の分身であるクロードは千鶴のことを知っていて当たり前なのだ。
千鶴のジレンマを良く知っていたからこそ、そのためにこの手を汚そうと思った。
(本物の私はどのように考え、思い、行動していたのだろうか。まずこんなことをしようと思ったのだろうか……)
今は亡き人間だ。
今更それを聞くことなど出来ない。
もしも自分がしてきたことが千鶴の思っていたことと違っていたのなら、とんだ道化だ。
千鶴のクロードにもなりきれず、千鶴の存在証明にもなれない。
「それでは私は……まるで存在価値の無い人形ではないですか……」
そう言い残し、クロードは消えた。
「あなたは充分に千鶴さんの存在証明になっていたわ。あとこれは千鶴さんから……。『ありがとう、ごめんなさい』だそうよ」
織莉子は何も無くなった虚空の空に向かって独り言のように呟いた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 24話① ( No.288 )
- 日時: 2012/07/18 15:52
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ゆかりさんは『例え仕組まれた偽りの世界でも、ワタシたちは確かに生きている。生きている限り、意思がある限り、ワタシたちには逆らう義務がある』。そう言っていたわ」
千鶴がそう呟いた。
「私はゆかりさんに出会い、未来を繋ぐために伝える……という役目をもらいました。それは充分すぎるほどの役目です」
「そのためになら死ぬことも厭わないって言うの?」
織莉子は若干の怒気を含めて言った。
「それくらいじゃないと到底、達成できない役目と思っていますから。それが私の運命ならそれに従うまで……」
千鶴は織莉子の気迫に物怖じせず答えた。
「『無慈悲なる悪魔』はきっと私が自分の価値観を見出せずに悩んでいることを知って、あえてクロードに接触してきたんだと思います。そうしてクロードは私を目覚めさせ、さらに鹿目さんの力を持って私に新たな一歩を踏ませようとするだろうと」
千鶴が作り出した分身であるクロードは千鶴の考えをよく理解している。
逆に言えば、自立行動しているクロードの考えも千鶴にはわかるということだ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 24話② ( No.289 )
- 日時: 2012/07/18 15:53
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「クロードがそうするのはわかります。だってゆかりさんに出会う前の私なら、間違いなく目の前に今の自分を変えられる力があればすがっていたと思いますから」
「……」
「でもクロードがそう動いてくれることが私にはチャンスだったんです。ゆかりさんから託されたこの役目を果たすのに」
「チャンス?」
「『無慈悲なる悪魔』の思い通りに事が運べば、『無慈悲なる悪魔』は私を疑わないはず。『無慈悲なる悪魔』からすれば私は所詮駒の一つでしかないのですから」
そして織莉子は気付く。
クロードがまどかたちにしたことは、すべて『無慈悲なる悪魔』を欺くためのこと。
千鶴に対しての疑いをなくし、その隙を狙って言葉を伝える。
まどかに近しければ近しいほど、『無慈悲なる悪魔』の目は厳しくなっていく。
ゆえに織莉子に事を伝えるためにはそれなりの注意が必要だった。
そのために千鶴がとった行動が、クロードを悪役にし、その術者である千鶴を織莉子に殺させることだった。
事件を終わらせるために、千鶴のもとに織莉子が殺しに来る。
その構図であれば結果的にこうなった———と怪しまれることは無い。
「だからこの事件を織莉子さんが収束しなくては、自然の流れに逆らうことになってしまうんです」
「そこまでしてあなたはその役目を……」
「悲しくも、怖くもありませんよ。だってこんな私がこの世界の未来を変えるかもしれない出来事の一端として役立てるのだから。もし無事に事が済んだあと、私を知る人が私のことを覚えていてくれたのなら、私のしたことは無駄ではなかった……。存在証明を残せたんだと思えます」
そう言いながらも、なぜか千鶴は浮かない顔をしていた。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 24話③ ( No.290 )
- 日時: 2012/07/18 15:53
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「でも千鶴さん、あなたは悲しい顔をしているわよ」
「役目を果たすために……そう思ってはいても、やっぱりクロードには悪いことをしたなって思うんですよ。私のためにと頑張ってくれているのに、私は悪役として利用してしまった。私の想像以上にたくさんの被害者を出してしまったし、それをしたのがクロードなのだと思うとやっぱり悲しい」
千鶴が作った分身とはいえ、姿は長年の間家族のように付き合ってきたその人そのものなのだ。
それを悪役として立てるのはかなり心が痛んだ。
達成したとしても複雑な気持ちは変わらなかった。
「織莉子さん。もしクロードに会ったら、私の代わりに伝えてください。『ありがとう、ごめんなさい』って。もし今の私に心残りがあるとしたら、それを伝えられないことだから」
「千鶴さん……」
伝えなければいけないこと。
それがどんな内容であろうと、重要さに上下は無いのだと思う。
それ一つ一つが大事なのだから当たり前のことで、伝えられなかったときは平等に悲しいものだ。
伝えられなかった後悔が付きまとったままでは、きっと笑顔で眠ることは出来ないだろう。
だから織莉子は頷いた。
鷺宮千鶴が笑って眠れるように。
眠り姫が後悔無く、笑顔でその存在証明を残せるように。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 25話① ( No.291 )
- 日時: 2012/07/19 13:12
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「私は千鶴さんのソウルジェムを破壊した。そしてこのような事件を引き起こしてしまったクロードさんに最後の言葉を伝えて欲しいと頼まれたの。彼女は笑顔で眠るように逝ったわ」
織莉子は彰たちに鷺宮千鶴のこと、クロードのことを話した。
無論、『無慈悲なる悪魔』については話さなかったが。
「その人も言いようのない傷を負っていたんだね。その結果、あの執事を生んでしまったんだ」
彰はクロードの消えた場所を見た。
狂気を振りまいたその姿の向こう側に、己を攻め続け、悩み続けた少女がいた。
そう思うと、なんだか寂しい気持ちになった。
(俺たちの知らないところでそうやって苦しんでいる人がいるんだよな)
魔女は負の感情の塊だという。
もし今回のように傷を負った者が居て、苦しんでいたのなら、その者に手をさし伸ばすことが出来たのなら何か変わっていたのかもしれない。
手を差し伸ばす勇気があれば、魔女という存在を減らすことが出来るのかもしれない。
目の見えないところでまだまだ苦しむ人がいる。
彰は改めてそう思わされた。
そして自分の未熟さにも。
「もう行くわ。あなたたちも無理しないでね」
「……?」
彰が見た、織莉子が去り際に見せた横顔は勝利者のものでは無かった。
納得していない、不満がある———そういった顔だった。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 3日目 25話② ( No.292 )
- 日時: 2012/07/19 13:13
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
織莉子は彰たちが見えなくなったくらいの位置で立ち止まった。
「千鶴さん……」
織莉子は歯軋りをたてた。
「私はあなたを助けたかった!」
悔しさのあまり涙が流れた。
彰たちの前では理由を知りながら、悪者として事の顛末を語らなければいけなかった。
助けたいと思った者を汚さなければならないこの状況に納得がいかなかった。
こうなることも受け入れて千鶴は逝った。
すべてを受け入れることが出来る器を持っていたからこそ安らかな寝顔で逝けたのだと思う。
本人が語る以上に強い意志を持っていた。
(私が思っているほど強くないって、千鶴さんは言ったわよね。そんなこと……全然無かったわ)
助けたいと思った者を救えず、状況に流されてしまった自分。
結局、自分の意思とは関係なく突然に事は始まり、終わっていく。
それはまるで先の見えない暗闇、不確定な未来のように。
織莉子が予知した未来は刻々と変わっていく。
もはや能力の意味を成さないペースで。
確定された未来などない。
決まったレールの上を歩いていたのでは、織莉子の求めている生きる意味など到底見つけられないということなのだ。
(だったら私も逆らってみるわ。未来に……)
千鶴やゆかりが言ったように、出来ることなど限られているのだろう。
だが千鶴が見つけたように、その先に目的を成す何かがあるのだと言うのなら求めてみてもいいはずだ。
(今度は私が見つける番ね。あなたの最後に恥じないように努力してみるわ)
織莉子は再び歩を進めた。
今は帰ろう。
友の待つ場所へ。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 エピローグ① ( No.293 )
- 日時: 2012/07/19 13:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ニュースで鷺宮千鶴(さぎみやちづる)が自宅で衰弱死し、死体で発見されたことが報道されていた。
父親が有名な元政治家であったため、少なからず話題になった。
それでも1週間ほどで人々の頭から忘れ去られ、あっという間に過去の出来事とされてしまった。
「ふー」
蒼井彰(あおいあきら)は公園のベンチで缶コーヒーを片手にため息をついた。
彰はあれから高校に復学した。
行方不明扱いになっていたため、言い訳を見繕うに少々苦労した。
だがこれも千鶴のニュース同様に、1週間もすれば落ち着いた。
世の中には裏表がある。
魔法少女(?)なんてやっているとつくづくそう思わされる。
今目の前で遊んでいる子供や、立ち話している主婦たちは、彰たちが命がけで戦っていることなどまるで知らないのだから。
(知らないってことは、良いことなのか……悪いことなのか……)
知らないからこそ頑張れることもある。
知らなかったから罪になることもある。
今回の事件はどっちだったのだろうか。
千鶴の痛みを知らなかったがために、クロードという狂気を生んでしまったとしたらそれは罪なのかもしれない。
人は一人ではいけていけない。
痛みを分かち合う誰かが必要なのだ。
だがもし、知られないことが千鶴にとって意味のある事だったとしたらまた話は違ってくるだろう。
- Re: 第七章 眠り姫の存在証明 エピローグ② ( No.294 )
- 日時: 2012/07/19 13:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
(まぁ……どっちかなんてわからないんだよな)
痛みを分かり合えればすべてを救えると思っていた。
だが美国織莉子(みくにおりこ)が最後に見せた表情は、それを否定しているように思えて仕方が無かった。
「ししょー。お待たせです」
「ん……別に待ってないよ」
綾女千里は笑顔で「良かったです」と言うと、彰の手を握った。
「ちーたちどんな風にみえますかね!?」
「妹と兄じゃない?」
「そーですかね?小学生を誘拐しようとしているロリコンさんと、その小学生じゃないですかー?」
彰は握られた手を話すと千里の額にデコピンをした。
「いったーい!」
「変なこというからだ」
文句を漏らす千里を無視し、彰は家に向かって歩き出した。
ふと、さっきまで座っていたベンチに振り返った。
(俺とまどかちゃんが出会ったのもここだった。叶ゆかりとも……)
『痛みの翼』で気を失った時に見た夢のことがずっと気になっていた。
見たということは覚えていても、まるで内容が思い出せない。
でも心の奥底でこれはきっと運命が導いたものだったんだ———そう確信していた。
運命なんてものがあるのだとすれば、それはいつから始まったのか。
鹿目(かなめ)まどかと叶(かなえ)ゆかりと初めて出会った日のことが彰の脳内でフラッシュバックした。
(あの時から始まっていたのかな?運命とやらが……。もしかして千鶴さん、あんたもその運命に足を踏み入れていたのか?)
「ししょー?」
「あぁ、ごめん。行こうか」
二人は再び歩き出した。
気になる色とりどりの葉っぱは少しずつ落ち始め、冬が近づいていることを知らせていた。
だが冬の訪れを待たずに、それは彰たちの背に迫ってきている。
彰たちの知らないところで、『運命』はすでに折り返し地点をすぎている。