二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第四章 1話 ( No.29 )
日時: 2012/04/27 10:49
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 上下左右まんべんなくそこは青空だった。

 まるで雲の上に立っているかのような気分だ。

 ここが夢の世界であれば、綺麗だとはしゃいでしまうかもしれない。

 だが今ここにいる少女にそれを感じる余裕などなかった。

「あ…うぅ。ど、うして?」

 少女は傷だらけでまさに満身創痍(まんしんそうい)、命からがらという状況だった。

 ザッザッザッ!

「!!」

 重々しい音をたててそれは近づいてきた。

「……」

 それは漆黒の騎士だった。

 全身を漆黒の鎧に身を包み、顔も兜によって隠されている。手には身の丈ほどある大剣が握られていた。

「な、なんで!アナタも魔法少女でしょ!?なのに———」

 ザシュ!

「あ……」

 大剣が少女の胸を貫いていた。

 魔法少女は基本的にはソウルジェムを破壊されない限り、魔力による修復により死にいたることはない。

 だがその入れ物である肉体が修復できる範囲を超えて破壊されると、修復することが出来ずにこれもまた死と同等の意味となる。

 少女の身体はその後者にあたる状態に達していた。

 そしてそこには変身の解けた少女と、少女のソウルジェムだけが残された。

 漆黒の騎士は大剣を消し去ると、ソウルジェムを拾った。

 そして漆黒の騎士は少女の見開けれた目を閉じてやり、手を合わせてから少女を抱きかかええた。

 そのまま漆黒の騎士は少女と共にどこかへと消え去っていった。

Re: 第四章 2話 ( No.30 )
日時: 2012/04/27 10:51
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

『朝のニュースをお伝えします』

「たぁー!」

 鹿目(かなめ)タツヤは手に持ったフォークでミニトマトを転がして遊んでいた。

「こら、タツヤ。食べ物で遊んじゃだめじゃないか」

「は〜い」

 鹿目知久(かなめともひさ)の注意をタツヤは素直に聞き入れてミニトマトを口に運んだ。

「ふふ」

 そんな父と弟の朝の光景を鹿目まどかは笑顔で見ていた。

『昨晩、14歳の少女が衰弱死(すいじゃくし)した状態で見つかりました。目立った外傷もなく、自殺の線で捜査が行われてきましたが、同じような事件が今月に入ってこれで4件目となり、警察も何かの事件に巻き込まれたものとして捜査をはじめました』

「こわいねぇー。まどかも気をつけなよ?」

 鹿目詢子(かなめじゅんこ)はコーヒー片手にまどかにそう言った。

「大丈夫だよ。ほむらちゃんもさやかちゃんも仁美(ひとみ)ちゃんもいつも一緒だし」

「多けりゃいいってもんじゃないよ?アタシもまどかもか弱い女なんだ」

「ママならやっつけちゃいそうだけど……」

 まどかは苦笑しながらテレビに目を向けた。

 テレビでは少女の連続衰弱死事件について偉い人たちが難しいことを話していた。

「……」

 まどかはこの事件もきっとアレが関係しているのだろうと思った。

 こういった不可解な事件の影にはいつもアレ———魔女が潜んでいる。

Re: 第四章 3話 ( No.31 )
日時: 2012/04/27 10:52
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

 ピンポーン。

「お、愛しの彼女がきたぞ!」

「もー、そんなんじゃないって」

 ニヤニヤ笑う詢子に見送られてまどかは家を出た。

「おはよー、ほむらちゃん」

「おはよう、まどか」

「……」

「ど、どうしたの?何か顔についてるかしら?」

 まどかにジーッと顔を見られ、暁美(あけみ)ほむらは少したじろいだ。

「んふ♪やっぱりほむらちゃん可愛いなーって。ツインテール似合ってるよ」

「か、可愛いだなんて。まどかがくれたリボンが可愛いのよ」

「照れなくていいのに〜。ティヒヒ」

「いじわる……」

 照れて顔を赤くするほむらをまどかは心底可愛いと思った。

 まどかは通り過ぎるサラリーマンが持った新聞を見てふと朝のニュースを思い出した。

「そういえばここ最近起きてる事件知ってる?」

「衰弱死事件のこと?」

「うん、あれってやっぱり……」

 まどかがトーンを低くして、少し小声でほむらに聞いた。

 ほむらは頷いて答えた。

「間違いなく魔女……もしくは魔法少女が絡んでいるわ」

「だよねー。ほむらちゃんは何か知らない?」

「残念だけど……。それに私はなるべく厄介ごとには首をいれないようにしてるから。でないと、まどかに危険が及んでしまうし……」

「ほむらちゃん……」

 ほむらの気遣う気持ちは本当にうれしかった。

 だがやはり魔女に苦しめられている人がいると思うと気が気ではなかった。

(マミさんは何か知ってるかな?)

 まどかは後で先輩の巴(ともえ)マミにも聞いてみようと思った。

Re: 第四章 4話 ( No.32 )
日時: 2012/04/27 10:54
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

放課後。

鹿目(かなめ)まどか、暁美(あけみ)ほむら、そして美樹(みき)さやかの三人は巴(ともえ)マミの家を訪れていた。

マミは中学を卒業してしまったため、まどかたちと学校で会うことは無くなってしまったが、このような形で交流は続いていた。

マミは人数分の紅茶とお菓子を用意し終わると三人の前に座った。

「どうぞ、遠慮しないでね」

マミがそういうと三人はそれぞれ礼を言って、紅茶やお菓子を口にした。

「それで話ってなんですか?」

「ええ、そうね。そのために集まって貰ったんですものね」

まどかの問いにマミは真剣な眼差しを三人に向けた。

「みんな聞いたことくらいはあると思うけど、最近起きている衰弱死事件のことよ」

「!!」

マミの口から出たのはまさにまどかが気にかけていた事だった。

「その話、ボクも聞かせて貰いたいな」

部屋の奥からスッと現れたのはキュゥべぇだった。

「あ、まだこの街にいたのか!この淫獣(いんじゅう)!!」

さやかがソウルジェムから剣を出そうとするよりも速くほむらが銃をキュゥべぇに向けていた。

「まだまどかを狙っているの?」

「やれやれ、ひどい言われようだ。でも安心していいよ。鹿目まどかのことは、ボクは諦めたから」

「信じられないわ」

ほむらが銃の引き金に指をかけた。

「暁美さん、この場は私に免じておさめてくれないかしら?確かにキュゥべぇに騙されていた部分もあるけれど、今回は利害が一致する話となるはずよ」

ほむらは渋々銃をおさめ、キュゥべぇはマミのそばに腰を落ち着けた。

「ど、どういうことなんですか?マミさん」

「想像はしているだろうけど、犯人はおそらく魔法少女よ。そして犯人の目的もまた魔法少女……」

「それって魔法少女が魔法少女を殺してるってことなんですか?」

マミはそれに頷き、ため息をついた。

「残念だけど、別に珍しいことじゃないわ。美樹さんと佐倉さんが初めそうだったようにね」

三人は押し黙ってしまった。

さやかと杏子は一度本気の殺し合いをしている。

その2人を目の前でまどかも見ている。

そしてほむらは繰り返した時間の中で仕方ないとは言え、自身の手を汚したこともある。

Re: 第四章 5話 ( No.33 )
日時: 2012/04/27 10:54
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「マミ、それだけなら君の言うとおりよくあることだ。でも引っかかることがあるんだろ?」

キュゥべぇは相変わらず表情を変えずに言った。

「実際に見たわけじゃないから程度はわからないのだけど、ニュースでは『目立った外傷はない』って言ってたわ。これって変じゃない?」

「衰弱死なんだから傷がなくても変じゃないと思うけど……」

さやかは同意を求めるようにまどかを見た。

まどかも顔に疑問符を浮かべていた。

「普通の人の自殺なら変じゃないわ、さやか。でも殺されているのは魔法少女よ。魔法少女が無抵抗でやられるとは考えにくい。外傷が無いなんて明らかに変よ」

「暁美さんの言うとおり。もし戦って命を落としたのなら、それなりに致命傷となる傷があってもおかしくないのよ」

さやかとまどかは再び顔を合わせて「なるほど」と声を揃えた。

「となると、殺した後に犯人が傷を治した———そうマミは考えているのかい?」

「そうよ。だから恐らく犯人は縄張り争いとかが目的じゃなくて、もっと他の理由を持って行動してると思うの」

「その目的は?」

「そこまではわからないわ。だからキュゥべぇ、あなたに手伝って貰いたいのよ」

「ボクがかい?」

「あなたなら私たち以外の魔法少女を知っているでしょ?何か情報を入手できるんじゃないかしら?」

「確かに可能だね。でもボクがそれをするメリットはあるのかい?」

「だって魔女化する前に死んでしまったら、あなたの言うエネルギーは回収できないでしょ?でもあなたの力じゃ犯人を止めることは出来ない。ならあなたが情報を、私たちが犯人を。どう?まさに利害の一致じゃない?」

「なるほど……。確かにそうだね。わかったよ、マミ。何かわかったら教えるよ」

マミとキュゥべぇはお互い共同戦線の契約が済むとキュゥべぇは消えていった。

「マミ、まさかあなた戦う気なの?」

「ほむら、アンタ黙ってみてたほうが良いっていうの!?」

「私やアナタは魔法少女だから良いけど、まどかは違うのよ。私たちが戦えばまどかに危害が加わる可能性もあるのよ」

「あ……そっか」

さやかは心配そうにしているまどかを見てケンカ腰をおさめた。

「そうね、暁美さん。この件に関しては協力するしないは本人に任せるわ。魔法少女が狙われているということをとりあえず知って貰えればいいから」

「でも私……」

まどかは自分はまた大したことできない———そう口にしかけた。

それを悟ったマミは首を振った。

「鹿目さんは気にしなくていいのよ。あなたはここに居るだけで私たちに力をくれるから」

「え?それってどういう……」

意味がつかめず、動揺するまどかをさやかが突然抱きしめた。

「こーいうことだぁぁ!」

「ひゃああ!?」

さやかに抱きしめられて動けないまどかのほっぺたをほむらはツンツンつついた。

「ふぇー。ほ、ほむらちゃんまで……わけがわからないよぉ」

三人の様子を笑いながら見ていたマミがまどかに言った。

「あなたは居るだけで私たちを明るい気持ちにしてくれるのよ。大げさな例えをするなら太陽かしら?」

「そんな私は……」

「うるさーい!まどかはさやかちゃんの太陽なのだ!」

まどかの言葉をさえぎって再びさやかがのしかかって来た。

「あはは!さやかちゃん、そこだめぇー」

「美樹さやか!!やりすぎよ!」

「って言って何でほむらちゃんまで乗っかってくるの〜〜」

「ふふ、賑やかっていいわね」

賑やかな時間は日没と共に過ぎ去っていった。

Re: 第四章 6話 ( No.34 )
日時: 2012/04/27 16:04
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

時計は夜8時を回っていた。

場所が裏路地ということもあり、夜の暗さ以上に暗くて不気味だった。

「いっちょあがり〜」

そんな場所にあまりにも不釣合いな明るい少女の声がした。

空中から華麗に着地した少女———佐倉杏子(さくらきょうこ)はしっぽだけとなったたい焼きをパクリと平らげた。

「まー使い魔ごときにやられるアタシじゃないけどね〜」

『とか、言っちゃって。このまえ怪我したじゃない』

独り言と思いきや、杏子の言葉に返事が返ってきた。

『そりゃ、お前がヘマしたからだろーが』

杏子は今度は口に出さずに言葉を発した。

これは魔法少女同士のテレパシーによる会話なのだ。

『……まぁ、油断するなってことよ。この前の話覚えてるでしょ?』

『あぁ、衰弱死事件の犯人が魔法少女ってやつ?関係ないね、ぶっ殺しちゃえばいいんだよ』

『ほんと気楽でいいわね、あんたは……』

『さやかが気にしすぎなんだよ』

杏子がはき捨てるように言うと、美樹(みき)さやかはため息をついた。

『だいじょーぶだよ。怪我したら、ゆまが治してあげるから!』

一際幼い少女の声が割り込んできた。

『あのね、ゆまちゃん。怪我してもいいわけじゃないんだからね』

さやかは千歳(ちとせ)ゆまを諭すように言った。

『まぁ、いいや。さっさと帰って飯でも———』

ゾクッ!

杏子の背筋に悪寒が走った。

Re: 第四章 7話 ( No.35 )
日時: 2012/04/27 16:05
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「!!?」

突如、杏子のいた場所が青空へと変化した。

上下左右まんべんなく青空は広がっており、杏子はまるで空の上にいるようだと思った。

「魔女結界か……へへ、久々に当たりだな」

杏子はニヤリと口元を歪め、小悪魔のような笑みを浮かべた。

対照的に焦るさやかの声が聞こえた。

『ちょっと、これって魔女?』

『ああ、そうだ。しかも当たりの中の当たりを引いたのはアタシみたいだねぇ』

杏子の前には巨大な鳥と人が合わさったような化け物が大きな羽を羽ばたかせていた。

『杏子!あんたの目の前に魔女がいるの!?アンタ、あたしらが行くまでやられんじゃないわよ!』

『このアタシがやられるわけないじゃん。さやかとゆまが来る前に終わらせておいてやるよ』

杏子は手に持った槍を魔女に向けて構えた。

魔女は杏子の敵意を感じたのか、雄たけびをあげた。

「ぎゃあ、ぎゃあ、うるさいってーの!」

杏子は魔法で跳躍力をあげ、加速した身体で一気に魔女の心臓めがけて飛んだ。

「遅いんだよ!」

杏子が槍を突き出す。

槍はそのまま行けば確実には魔女を射抜いていた。

ガキィィン!!

甲高い音をたてて杏子の槍が止まった。

「なっ!?」

槍は目の前に立つ漆黒の騎士が持つ、身の丈ほどの大剣によって止められていた。

杏子は一旦後ろに下がり、槍を構え直した。

「なんなんだよ、テメェは!」

「……」

騎士は何も言わずにただ杏子を見下ろしていた。

Re: 第四章 8話 ( No.36 )
日時: 2012/04/27 16:06
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「くそっ。だんまりかよ……。この魔女を先に見つけたのは自分だって言いたいのか?」

杏子は騎士を睨み付けた。

「はい、そうですか。なんて言って譲るほど、アタシは無欲じゃないからさぁ!」

杏子は騎士に向かって飛んだ。

杏子は槍で素早く連続で突きを繰り出した。

しかしそれはすべて騎士の大剣で止められてしまった。

(こいつ結構やりやがる。でも……)

杏子は突きから横薙ぎの体制を取り、そのまま武器を持っていない左側に向かって攻撃した。

騎士はその攻撃も大剣で受け止めようと動いた。だが———。

「!!」

杏子の槍は騎士に届く前に柄の部分が複数に分かれ、騎士の背中をまわって右側へと軌道を変えた。

騎士は素早くそれに対応し、槍を払いのけた。

「アンタとアタシじゃ経験が違うんだよ!」

杏子は魔法で作り出した新しい槍でがら空きになった騎士の胴体めがけて突きを繰り出した。

騎士は何を思ったのか、その槍に対して左手を広げ、受ける体制をとってきた。

「え……?」

杏子が驚いたのは受けることではなく、広げられた手の中にソウルジェムが埋め込まれていたからだった。

(こいつ!死ぬ気か!?)

勢いづいた攻撃を止めることもできず、槍はそのまま騎士の左手を突き刺し———。

「な、なんだ……と!?」

騎士の左手に突き刺さる前に槍は先から順々に砕けていった。

杏子がそれに驚いている間に大剣を消し、空いた右手で騎士は杏子の首をつかんだ。

「うがぁ……!この……」

今度は左手に短剣を出現させ、その刃先を杏子に向けた。

(ま、まずい……このままじゃ……)

杏子は槍を出そうとするがなぜか槍が出せなかった。

仕方なく足で騎士を蹴るが、厚い装甲の鎧に効くはずも無かった。

「あ、があ!!」

より一層首を締める力が上がる。

魔法による痛覚のコントロールも出来ず、杏子は今にも気を失いそうだった。

Re: 第四章 9話 ( No.37 )
日時: 2012/04/27 16:07
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「杏子を……はなせぇぇ!!」

「さ、や、かぁ」

耳を突き抜けるような声を張り上げながら、さやかが騎士に向かって飛び掛っていた。

騎士はさやかの姿を確認はしたが、それに対して防御する素振りを見せない。

「くらえぇぇ!」

さやかは騎士のそういった行動など気に留めず突っ込んだ。が、しかし———。

「オオオオオオ!!」

「な、なに?」

突如雄たけびをあげたかと思うと、魔女は巨大なカギ爪をさやかに向かって振り下ろしていた。

「うわぁあ!!」

なんとか防御はしたが、さやかは思いっきり吹き飛ばされてしまった。

「うぅ……いたた」

さやかは首を振って揺れる頭を安定させた。

「なんでいきなり…って、ちょっと!」

さやかは自分に向かって飛んでくる杏子を視界に捕らえて慌てた。

とりあえずさやかは武器を投げ捨ててなんとか杏子を受け止めた。

「いったぁ〜。杏子、大丈夫?」

「げほっ!な、なんとかな……」

杏子はヨロヨロと立ち上がり、騎士と魔女を睨んだ。

「くそ……どうなってやがる。あの魔女、明らかにアイツを援護したぞ」

「ぐ、偶然じゃない?」

「いや、おかしいと思ってたんだ。アタシとアイツが戦ってる間、あの魔女一度も手を出してないんだよ」

「そんな……あの黒いの、魔女を操ってるの?」

「わかんねー。下手に手出しできやしねぇ」

杏子は毒づいて足元の石を蹴り飛ばした。

「キョーコ!さやか!やっと追いついた……」

「ゆま!こっちくるんじゃねぇ!」

「へ?」

杏子はゆまに向かって降りてくる騎士の姿が見えた。

「あの、バカっ!」

ゆまも騎士の姿を捉えた。

「っ!!」

迫りくる狂気と恐怖にゆまの身体は固まってしまった。

Re: 第四章 10話 ( No.38 )
日時: 2012/04/27 16:08
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「くそ!」

杏子はゆまを突き飛ばした。だが杏子に出来たのはそれだけだった。

「あぁあぁ!!」

振り下ろされた騎士の剣が杏子の右腕をバッサリ切り落としていた。

痛覚を消す暇も無かった杏子はその痛みに悲鳴を上げた。

「杏子!!」

「キョーコ!!」

さやかとゆまは杏子を助けようと杏子のもとに向かった。

しかしそれをさえぎるように魔女が巨大な羽を飛ばし、威嚇してきた。

「アタシのことはいい……さやか、ゆまを連れて逃げろ」

なんとか痛覚を遮断し、杏子は残った手で槍を出して騎士に向けた。

「私も一緒に……!」

「お前ひとりでこいつと魔女相手に、ゆまを守りながら戦えるかっつーの。へへ、安心しなよ。アタシは死んだりしない」

「杏子……」

騎士は大剣を振り上げた。

そして今振りおろそうとした瞬間だった。

「ぎぃやぁああああ!!」

「!!!!」

魔女が突如悲痛な声を上げて苦しみだしたのだ。

そして誰が見てもわかるほど、その魔女の様子に騎士が動揺していた。

騎士は杏子たちに背を向け、魔女のほうに向かっていってしまった。

「な、何?どうしたの?」

さやかは杏子に歩み寄りながら、しかし警戒しつつ騎士達の様子を伺った。

騎士と魔女が合流すると、魔女結界は徐々に消えてゆき、最後には騎士と魔女と一緒に何も無かったかのように消えてしまった。

もとの路地裏に戻された三人は呆然とその様をみていた。

「へへ……間一髪だな」

杏子はその場に倒れこんだ。

さやかもへなへなと崩れ落ちた。

ゆまは杏子の腕を治しながら泣いていた。

こうして杏子たちの敗北という形で、漆黒の騎士との初接触は終わりを告げた。