二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第一話 ( No.295 )
日時: 2012/07/20 13:45
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

佐倉杏子(さくらきょうこ)は異様な空間に居た。

一言で例えるなら、古風な屋敷が上下反転したような空間。

天井に畳みがあって、地のつく部分は木製の板がはられている。

それが延々と続いているのだ。

杏子たち魔法少女はこれを魔女結界と呼んでいた。

「ちっ……」

杏子は目の前に倒れる見知らぬ魔法少女を前にして舌打ちをした。

「遅かったか」

その言葉通り、その少女は既に屍だった。

心臓を鋭利な刃物で一突きされた跡が残っている。

杏子はここ最近見滝原を騒がしている魔女を追っていた。

中々しっぽの見せない曲者で、やっとの思いでここまでやってきたのだ。

(近くにいるはずなんだけどな……。しかし……)

死体に目をやった。

あまりにも死体が綺麗過ぎるのだ。

それが物語っているのは抵抗する間もなくやられたということ。

(こいつは結構大物かもなぁ)

杏子が魔女の反応を調べようとソウルジェムに念じようとしたその時だった。

すぐ近くで大きな爆発があったのだ。

「な、なんだ!?」

杏子はすぐさまその方向に向かおうとした。

だがそうするよりも前に魔女結界が閉じようとしていた。

「や、やばっ!」

杏子が全速力で爆発のあったところまで行くと、思わぬ人物がそこには倒れていた。

「あ、あんたっ!」

そこに倒れていたのは漆黒の鎧に身を包んだ騎士だった。

蒼井彰(あおいあきら)。

それがこの騎士の名だった。

初めは敵であったものの、今では協力関係にあり、救われたこともある。

彰は気絶しているようで、意識が無かった。

(こんなにボロボロに……。何があったんだ?)

気になることはあったが、このままでは結界内に取り残されてしまう。

杏子は彰を抱えて結界から脱出した。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第二話① ( No.296 )
日時: 2012/07/20 13:46
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「助かったよ。ありがとう」

彰は千歳(ちとせ)ゆまの治療を受けながら、杏子に礼を言った。

杏子は結界から脱出後、彰を連れて自分が住んでいる教会に連れてきた。

彰はすぐに目を覚まし、今に至っている。

「しっかしアンタがそんなになるなんて、どんな相手なのよ?」

制服姿の美樹(みき)さやかが杏子の横からそう聞いた。

「実のところ……よくわからないんだよ」

彰がそう言うと杏子とさやかは顔を合わせた。

「よくわからないってどういうことだよ?」

杏子はポケットから取り出した飴玉を自分の口に放り込むと、もう一個を彰に投げ渡した。

彰は礼を言ってそれを受け取った。

「言葉の通りさ。戦っていた相手の姿ですらわからなかったし、どうやられたのかすらわからない」

彰は飴の袋をいじりながら渋い顔をした。

「ほむらの時間停止みたいなもの?」

「さやかちゃんの言うとおり、それに近いかもしれないね」

「やだなー、それ……」

さやかは力なく笑った。

さやかも杏子も暁美(あけみ)ほむらの能力に翻弄されたことがあった。

予想も出来ないような能力だと、中々手が出しづらくなるものだ。

「ねぇねぇ、彰の魔法ならどうにか出来るんじゃないの?」

ゆまがそう言うと彰は首を振った。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第二話② ( No.297 )
日時: 2012/07/20 13:47
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「範囲展開していたけど駄目だった。何か発生に条件があって、その大元を特定できないと無力化できないんだと思う」

ほむらのように時間停止をする、というだけの能力であれば範囲展開型の『無かったことにする』魔法で対応できる。

だが例えば『雨が降ったときにしか使えない』などの発動条件が加わると対応が難しくなってくる。

発動条件の大元である雨を止めなくてはならなくなるわけだが、発動条件まで一度の戦闘で見抜いて対応するのは中々難しい。

つまり今回の敵が人の目から見えなくする能力だったとしても、発動条件あった場合はその条件を満たさなくしてやらなければ無力化できないのだ。

「やっかいなのが現れちゃったねぇ。結構やばそうじゃん?」

「杏子にしては弱気じゃない?」

「アタシはさやかみたいに能天気じゃないっつーの。状況からすればかなりの曲者だよ」

「一言多いわ」とブツブツ言いながらも、さやかはそれ以上言い返さなかった。

「そうだね。情報はあるに越したことはないと思うよ。だから俺はちょっと心当たりを当たってみようかなーと思ってる」

「わかった。アタシたちは魔女の行方を追うよ。位置を把握しておかないとどうしようもないしな」

「無理はしないようにね」

「そりゃーお互い様だろ?あんま一人で無茶して誰かさんを悲しませんなよ」

杏子の助言に彰は苦笑した。

「手厳しいなぁ。でもそれくらい言ってくれる人が居ると心強いよ」

杏子はその言葉に対し、笑顔で返した。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第三話① ( No.298 )
日時: 2012/07/23 13:24
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

杏子がこの魔女を知ったきっかけは噂だった。

魔法少女の力を生かしてちょっとした何でも屋をしていた。

その客の一人が別れ際にこんなことを言った。

「そういえば知ってる?幽霊の噂」

「幽霊?」

「小さい女の子の幽霊で、鈴の音と共にやってくるんだって。その音を聞いちゃうと、どこか知らない場所に連れて行かれて、二度と戻ってこれないらしいよ」

「ふーん」

幽霊なんてこれっぽちも信じていなかった。

世間で幽霊だとか妖怪だとか言われているものの正体が魔女であることを、魔法少女なら誰でも知っているからだ。

だが逆に言えば、幽霊と噂されている以上魔女が猛威を振るっている可能性があるということだ。

杏子はこの話をさやかにした。

「本当かどうかわからないけど、放っては置けないでしょ?」

さやかの返事はこうだった。

こうして魔女を追うことになった。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第三話② ( No.299 )
日時: 2012/07/23 13:25
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

杏子たちは再び彰が魔女と出会った場所に来ていた。

彰は心当たりを当たっているため、この場にはいない。

「さすがに同じ場所には居ない……か」

杏子はソウルジェムから気配を感じ取りつつそう言った。

何をされたのかわからなかった———彰はそう言ったが、今思えば杏子も気付かないうちに魔女結界に取り込まれていた。

前触れも無く、瞬きをして目を開いた時には結界の中に居た。

(前触れもなく……?本当か?)

杏子はその時何か異変が無かったか、記憶を探った。

「キョーコ、どーしたの?」

「なんか思い出せないかと思ってさー。うーん」

「見えないし、触れないしじゃ本当に幽霊みたいだね。本当に幽霊だったらどうしよう……」

ゆまは身震いし、手に持った妙な形の棍棒を強く握った。

「幽霊なんかいるわけないって。幽霊が鈴なんて鳴らすわけ無いんだからさ」

自分で口にして気がついた。

(鈴の音……。確か、あの時の聞こえてた)

前回は気にも止めなかったが、噂では鈴の音と共に現れるとある。

チリン———チリン———。

思い出したそばから鈴の音が聞こえてきた。

遠くで鳴っているような、近くで鳴っているような、距離感のつかめない音だ。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第三話③ ( No.300 )
日時: 2012/07/23 13:25
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「さやか!ゆま!気をつけろよっ。来るぞ!!」

「ちょっと杏子!来るって……え!?」

反論しようと杏子のほうに振り向いた時には、さやかの目の前は古風な屋敷が上下反転したような異様な世界になっていた。

「うそ?いつの間に……?」

結界に取り込まれた瞬間がまったくわからなかった。

まさに『一瞬』で敵の手中へと落ちてしまったのだ。

チリン———チリン———。

”クスクス……クスクス”

鈴の音と笑い声が交互に聞こえた。

「キョーコ〜。なんか怖いよ」

「相手は魔女だ。いつも通りにすれば大丈夫……」

そう言いつつも、杏子も背筋が凍るような感覚を受けていた。

杏子はゆまを自分に寄せた。

さやかはいつでも来いと言わんばかりに剣を構えて周りに気を配っていた。

(どこに居るんだ……?音も声もするのにまるで位置が———)

杏子が瞬きをして1秒も無い暗闇から戻ってきたその時だった。

「さ、さやか!!目の前!!」

「え!?」

さやかの目の前に、おかっぱ頭の和服の少女がつばの無い脇差を握って立っていた。

さやかは咄嗟に横にとんだ。

少女の持った脇差はさやかの心臓があったであろう場所を真っ直ぐ刺し、そして空を切った。

”クスクス……クスクス”

突然の出来事に三人は言葉を失った。

頭の中に響くような不気味な笑い声だけが、空間に響き渡っていた。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第四話① ( No.301 )
日時: 2012/07/23 13:27
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「お、お前……!」

杏子は突然現れた和服の魔女に見覚えがあった。

以前、鈴を無くしてしゃがみこんでいたところに杏子が声をかけたのだ。

その時も煙のように消えてどこかに行ってしまった。

確かその時に杏子の前に現れた天音(あまね)リンはこの魔女のことを『鈴音(りんね)』と呼んでいた。

「杏子、知ってるの?あいつのこと」

さやかは体勢を立て直し、杏子とゆまの元へ移動してきた。

「ああ……前に会ったんだ。その時は魔女だとは思わなかったんだけど……」

今思えば、魔女だったから普通の人には見えず、誰一人として声をかけようとしなかったのかもしれない。

しかし本来感情の無いはずの魔女がなぜ街中で一人鈴など探していたのだろうか。

「!!」

鈴音の姿がユラユラっと蜃気楼のようにぶれ始めた。

そしてまたしても姿が見えなくなった。

「また!?どこから来るのよ!」

さやかは剣を構えつつ叫んだ。

杏子も槍を構え、ゆまを守るようにしてゆまの前に立った。

「キョーコ……」

「安心しなよ。ゆまはアタシらが守ってやる」

杏子が八重歯を見せて笑った。

「そうそう。杏子とこの魔法少女さやかちゃんに任せなさいって!」

ゆまは回復能力に特化した魔法少女だ。

治癒力だけで言えば、同じ癒しの魔法少女であるさやかよりも高い。

魔法少女とは言え、身体が傷ついてしまえば戦闘力は落ちる。

回復能力を持ったゆまがいるだけで安心して戦えるし、状況をひっくり返す切り札にもなる。

そのため最も優先して守る対象がゆまとなるのだ。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第四話② ( No.302 )
日時: 2012/07/23 13:27
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

ヒュッヒュ!

風を切る音がそばから聞こえた。

そしてそれが呪術師などが使うお札であることが、飛んでくるのを見てすぐに理解した。

「こんなもの!」

さやかは剣でそれらを切り裂こうと、剣を振るった。

しかし札は切れることなくピタリと剣の刃にくっついてしまった。

「え?な、なに?」

「お、おい!何が起こるかわからないんだから、早く手放せっ」

杏子の言葉にハッとしたさやかは慌てて剣を投げ飛ばした。

そして飛んでいった先、地に落ちるよりも前に剣———正確にはお札が爆発した。

「うわっ!?」

さやかは杏子とゆまを巻き込んで爆風に吹き飛ばされた。

「いっつー。彰のやつがやられたのはあれか……」

彰は頑丈なフルアーマーがあったために直撃でも気絶で済んだ。

だがさやかたちではソウルジェムごと木っ端微塵だっただろう。

”クスクス……クスクス”

杏子たちの視線の先で鈴音が笑っていた。

こんな異様な空間でなければ、普通に少女が笑っているようにしか見えない。

(見た目は同じなんだ……。でもあの時と何か違う気がする)

何が違うのかと言われれば答えることは出来ない。

だが今まで戦ってきた魔女とはどこか異なる気がしてならないのだ。

ユラッと鈴音が消えた。

再び攻撃をしてくるつもりなのだ。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第四話③ ( No.303 )
日時: 2012/07/23 13:28
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「姿は見えない……。でも気配や音はわかるよな?」

「うん。そうだね……。次はそこを狙う!」

さやかは杏子から離れた。

一緒に居ればさっきの爆発攻撃で共倒れするかもしれないからだ。

さやかと杏子はお互い集中して気配を探った。

しかし杏子は集中しつつも頭の隅で感じている違和感の答えを考えてしまっていた。

その一瞬の隙が一手遅らせることになる。

チリン———チリン———。

鈴の音がした。

「そこだー!!」

さやかが音のほうに一気に詰め寄り、剣を振るった。

だが音から判別した距離感は完璧であったはずなのに、剣は空を切った。

そしてさやかは気付く。

(気配を感じない……。さっきまで確かに感じ取れてたのに……)

さやかの攻撃が失敗したことを杏子はもちろん見ていた。

もし普段の杏子なら、この事態に以上を感じ取ってゆまと共に今居る場所を離れたはずだ。

しかしその考えに至るのに一瞬の遅れがあった。

Re: 第八章 塞ぎ込みがちな残響音 第四話④ ( No.304 )
日時: 2012/07/23 13:28
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「あぅっ!!」

背後でゆまの苦痛に歪む声が聞こえた。

振り向くと胸から血を噴出しながら倒れるゆまの姿が映った。

「ゆ……ま?」

近づいてくる音も、肉を突き刺す刃の音も、それを引き抜く音も、何も聞こえなかった。

それは敵の能力なのか、それとも目の前で倒れるゆまの姿が信じられなくて自分自身が勝手に音を消してしまったのか。

杏子にはわからなかった。

杏子はとっさに地面に身体を打ちつける前に、ゆまを抱きかかえた。

「ゆまっ!!」

普通の人間なら即死している。

魔法少女だからこそまだ生きていられるが、このままでは———。

(死を認識したら、ソウルジェムが黒くなっちまう……。くそっ!)

さやかが杏子とゆまの元に駆け寄る。

「ゆまちゃん!」

「早く傷口をふさがねーと……」

「わかってるけど……。私の魔法じゃ、ゆまちゃんほどすぐに回復できないよ……」

いつまた敵が襲ってくるかもわからない。

こんな状況ではのんびり回復などしていられない。

「チクショウ……。アタシがしっかりしてれば!」

一瞬の隙があったことに、杏子は気付いていた。

この状況でその隙を作ってしまった自分に杏子は苛立ちを隠せなかった。

そして同時に今おかれている状況の悪さに焦りも隠せずにいたのだった。