二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 10:50① ( No.350 )
- 日時: 2012/08/06 18:29
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
蒼井彰(あおいあきら)は母校でもある見滝原中学校の校門前で一人立っていた。
校門前はたくさんの人だかりで、またその賑やかな人々を受け入れるかのように校門も鮮やかな飾りが施されていた。
彰は校門にかけられた『見滝原中学校文化祭』の文字を見た。
そして一度ため息をつき、自分の腕時計に視線を落とした。
「遅いな……」
彰は友人の鈴木を待っていた。
元々は一人で来る予定だった。
三日ほど前に鹿目(かなめ)まどかに誘われて文化祭の日程を知った。
せっかくだから久しぶりに母校の土でも踏もうかと思い立ったのだ。
そのことを鈴木に話したのが運のつきというヤツだ。
鈴木に是非行きたいと泣きつかれてしまい、渋々了承したのだ。
見滝原中学校は若干、お嬢様・お坊ちゃま学校的なところがある。
この文化祭も招待状なしでは校門をくぐることが出来ない。
ちなみに卒業後の数年は招待状が送られてくる仕組みになっている。
彰もまどかに文化祭の話を聞いた後、自宅に招待状が郵送されているのを確認した。
招待制になっているものの、招待状は一枚で同伴者を何人連れてきても問題ないため、鈴木のように卒業生に目をつける者も少なくない。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 10:50② ( No.351 )
- 日時: 2012/08/06 18:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「そこまでして行きたいもんかねぇ」
彰は誰に言うでもなくそう呟いた。
「わかってないなぁー、彰〜」
「うわっ!?す、鈴木っ」
期待していなかった返事が返ってきたため、彰は素っ頓狂な声をあげて驚いてしまった。
「彰よ、見滝原中って言えば可愛い子揃いのお嬢様学校ってことで有名なんだぞ。俺たち凡夫とは雲泥の差があるのだよ」
「一応、俺もここの卒業生なんですけど……」
「ああ、そうだったな。そのおかげでこうしてここに立っていられるんだもんな!」
鈴木はビシビシと彰の背中を叩いて笑った。
「馬鹿げたことを言うのは今だけにしてくれよ。知り合いの前で恥さらしするのはゴメンだからな」
「わかってるって〜」
そう言いつつ、すでに女性の姿を目で追っている鈴木を見て、彰は嫌な予感しかしなかった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 10:50③ ( No.352 )
- 日時: 2012/08/06 18:30
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
校舎外の出展は既に一般公開が始まっているが、校舎内の出展は30分ほど遅れての開始だ。
一般客が入る前に校舎内に危険物等が無いかを確認するためらしい。
まどかのクラスは喫茶店を出展することになった。
ただの喫茶店では定番すぎると、主に男子の案でメイド喫茶になった。
「うわー、すごーい。鹿目さんのネコ耳と尻尾、まるで本物みたい……」
「そ、そーかなー?あははは……」
クラスメイトに頭についたネコの耳と尻尾をいじられながら、まどかは渇いた笑みを浮かべた。
「あれって本物だよね……?」
離れたところからさやかがカメラでまどかを撮るほむらに囁いた。
「バウム・クウェーレンの仕業ね。グッジョブよ」
「おーい。ほむらさーん」
嬉しそうにカメラのシャッターを切るほむらにさやかは白い目を向けた。
「ほむらちゃーん。そんなに撮らないでよー。恥ずかしいよぉ」
照れながら、耳をピコピコ動かしながらまどかが寄ってきた。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 10:50④ ( No.353 )
- 日時: 2012/08/06 18:31
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「うん……確かにありだね」
その様子を見たさやかが携帯のカメラでまどかを撮りながら呟いた。
「さやかちゃんまでー。こんなの見られたら恥ずかしくて死んじゃいそうだよー」
「そう言ってもねぇ……。ソイツがまどかを気に入っちゃってるみたいだし……」
まどかの肩にしがみついているのは熊の姿をした魔女・バウム・クウェーレンだ。
魔女なので当然一般人には見えない。
「まどかが嫌ならいっそ倒しちゃうとか……?」
「それはそれでカワイソウだよぉ」
見た目は可愛らしいぬいぐるみだし、まどかにちょっとしたイタズラをするだけで極めて無害なのだ。
この熊のぬいぐるみとまどかの組み合わせが妙に合っていて、仲間内では癒し系として受け入れられていた。
「まぁ、ソイツが満足するまで我慢するっきゃないんじゃない?」
まどかたちがあれこれしているうちに、校内に危険物点検が終了した旨の放送が流れた。
文化祭三回目のまどかたちはこれが同時に一般公開開始の放送であることも知っていた。
「さて、みんな開店だよっ!」
クラス委員の掛け声と共に、まどかたちの文化祭が始まった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 11:15① ( No.354 )
- 日時: 2012/08/06 18:31
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
校内展示開始の放送がかかった頃、既に開始していた校外展示は早くも人で溢れかえっていた。
その中、フリフリの日傘を差し、フリフリのドレスで身を包んだ女性が人の目を気にせずに人だかり歩いていた。
人の目と言っても、妙なコスプレや過激な衣装に身を包んだ者もたくさんいるため、対して目立ってはいなかった。
「よぉ、珍しいじゃねーか。こんなところにいるなんてよ……更紗ぁ」
九条更紗(くじょうさらさ)の前には着物を見事に着こなした少女———天音リンが立っていた。
「あらぁー、リンちゃん。リンちゃんこそそんなにオシャレしてどうしたのよぉ」
「オレだって女の子だぜ?人目くらい気にするんだぜ」
リンがそういうと、更紗はクククと笑った。
「よく言うわぁ……ババァのくせしてぇ」
「……そりゃ禁句だぞ」
リンは鋭い目つきで更紗を睨みつけた。
しかし更紗はそれを気にするどころか、目を向けることもせずにリンの横を通り過ぎた。
「てめぇ、何企んでる?」
「フフフ……色々よぉ。それはお互い様でしょ?」
「……」
更紗はそのまま喧騒の中に消えた。
リンは見えなくなるまでその後姿を睨みつけていた。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 11:15② ( No.355 )
- 日時: 2012/08/06 18:32
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「更紗ちゃん、リンちゃんを敵に回すつもりっすか?」
人ごみの中から音も無くゴンべぇが現れた。
「リンちゃんはオイラが知る限り最強の魔法少女っす。敵に回して勝てる相手じゃねーっすよ?」
「ゴンちゃん」
更紗は立ち止まり、ゴンべぇを抱き上げた。
更紗は笑顔で———気味悪いくらい完成された笑顔でゴンべぇと向き合った。
「私わねぇ……別に勝ち負けの勝負をしたくて魔法少女やってるわけじゃないのよぉ。楽しければいいのよ〜。例え、その結果で私が死んだって関係ないのよぉ」
更紗はゴンべぇを降ろし、再び歩を進めた。
「でも事が過ぎると、『あの人』が更紗ちゃんに何するかわからないっすよ?」
「そうねぇ〜。確かに……『あの人』だけには嫌われたくないわぁ。だからぁ———」
更紗は歩みを止め、人ごみの中のある一点を見つめた。
更紗が見つめる先には、佐倉杏子と巴マミの二人がいた。
「私の趣味と『あの人』の目的が一致すれば問題ないわけよねぇ。フフフ」
更紗は傘で顔を隠し、押し殺すように笑った。
その様を下から見たゴンべぇは純粋な悪意を垣間見た気がした。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 11:30① ( No.356 )
- 日時: 2012/08/08 15:14
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「1年しか経ってないのに、なんだかもの凄く懐かしい感じがするわね」
マミは校内に入るなり、そう呟いた。
「アタシなんか学校自体懐かしいわ」
杏子はあまり興味なさそうに辺りを見渡し、チョコ菓子を口に放り込んだ。
「なんだかそう言うこと言われると感動が薄れるわね……。そうそう、校内はここで買ったもの以外、飲食物の持ち込み禁止よ」
「はぁ?なんだよそれ?どうせ誰も見てないんだからいーじゃん」
「少しでも頑張ってる皆に貢献しなさいってことよ」
「……貢献するほど金ないんだけど」
二人は校内を歩きながら、途中で貰った出展物一覧に目を通した。
「鹿目さんたちのクラスは喫茶店ね。どんなのか楽しみね」
「喫茶店〜?だからお金……」
「心配しなくて大丈夫よ。あなたを誘った時点で予想済みよ」
「え?マミのおごり?ならゆまも連れてきてやればよかったな〜」
「ちょっとは遠慮しなさいよ……。まぁいいわ。もうすぐ鹿目さんたちのクラスね」
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 11:30② ( No.357 )
- 日時: 2012/08/08 15:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
マミたちはまどかたちのクラスに着くなり、思わぬ行列に度肝を抜かれた。
「すごい行列じゃん。何やってんだ、まどかたちは?」
杏子が列から行列の先頭を覗き見ながら言った。
「あっ」
そのとき列の中心くらいで案内係りをしているさやかを見つけた。
「あ、マミさん!と杏子」
「ついでみたいな言い方やめろよなぁ。ところでなんだその格好……」
杏子とマミは顔を合わせた。
さやかは少し照れながら「メイドよ」と答えた。
「喫茶店って『メイド喫茶』だったのね……。どおりで男の子ばっかだと思った……」
マミは呆れた様子で前から後ろへと並んでいる客を見た。
「そーなのよ。まぁでも結構可愛いからいいかなーとか。あっ!そうだ!杏子、アンタも手伝いなさいよ」
「え!?なんでアタシが!?」
「どうせマミさんにおごって貰おうとか思ってたんでしょ?それならちょっと稼いで自分で飲み食いしなさいよ」
「な、何わけわからない———ってうわー!」
さやかに引っ張られていく杏子をマミは笑顔で見送った。
見送ったあと、ふと少し前に並ぶ男の人と目が合った。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 11:30③ ( No.358 )
- 日時: 2012/08/08 15:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あ……蒼井先輩」
「あら、マミちゃん」
彰は順番を後ろの人に譲って、マミの前に入ってきた。
「せっかく並んでたのに良かったの?」
「まぁ、ちょっと待つ時間が長くなったって店が逃げるわけじゃないしね。それに一人で退屈だったんだ」
彰は連れに無理やり順番待ちをさせられていることを語った。
その連れはどうも他のクラスの出展物、もとい女の子を追っかけまわしているらしい。
「考えてみればまどかちゃん達とはだいぶ長い付き合いだもんね。マミちゃんがここにいて当然か」
「後輩の頑張っている姿を見るのも先輩の役目でしょ?」
マミは冗談交じりに言うと、クスリと笑った。
「なるほど……さすがは頼りになる先輩さんだ」
彰も笑顔でそう返した。
列の先頭から、『30分待ち』の声が聞こえてきた。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 12:00① ( No.359 )
- 日時: 2012/08/08 15:16
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
やっとの思いで案内されて店に入った。
ちなみに絶妙のタイミングで鈴木は戻ってきた。
その鈴木がマミに絡んで鬱陶しく、マミに申し訳ないのでマミとは席を別にして貰った。
「ほんと頼むから変なこと言わないでくれよ?」
「わかってるって。ところでなんでそんなに念押しするわけ?」
「え?ま、まぁ……知り合いの前で恥じをかくのは嫌だろ?」
「ふーん。ま、それより早く注文決めて、注文取りに来て貰おうぜ。どの子が来るか楽しみだなぁ」
鈴木はそういいながらメニューを鬼気迫る勢いで見つめ始めた。
彰はそんな鈴木に少々の不安を感じながらもとりあえず無事にここまでこれたことにホッとした。
(こいつと一緒だとろくなことが起きないからなぁ)
中学時代に剣道部で出会ってから何かと一緒に過ごしてきた。
鈴木はいわゆるオンオフの出来る人間で、剣道に取り組む姿勢は確かに立派だが、プライベートでは女癖が悪いのだ。
何度かダシに使われたこともあった。
「よし、決めた!コーラとチョコレートで」
「なんだ、その組み合わせ?」
「ここに来るまでに金を使いすぎてな……。一番安いのしか頼めないんだ」
鈴木は引きつった笑顔を浮かべてメニューを置いた。
「すみませーんっ」
鈴木が少々大きめの声で店員を呼んだ。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 12:00② ( No.360 )
- 日時: 2012/08/08 15:16
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「あ、はーい!」
返事と共に駆け寄ってきたのはまどかだった。
「彰さんが来てるって言うからウェイトレス係、代わって貰ってきちゃった」
えへへと笑い、尻尾をユラユラ動かした。
「そうなの?何だか嬉しいなぁ。ところでその耳と尻尾———」
「うん、凄く似合ってる!凄く可愛いと思うよ!」
と、彰を遮って詰め寄ってきたは鈴木だった。
「え、えっと……ありがとうございます」
誰だって後ずさりするようなテンションだ。
当然、まどかも引いていた。
「こいつは俺の腐れ縁というか……むしろ腐ったやつというか……」
「そうなんだよ!こいつとはかなり長い付き合いでさぁ!」
「えっとっ!これとこれとこれで!」
彰は鈴木を殴り飛ばしからメニューを指差して注文した。
「ごめんね、あとで時間があったら埋め合わせするよ」
「大丈夫だよ。結構多いから、こういうお客さん……」
まどかは苦笑いを浮かべて足早に奥に消えた。
「なんだよー。お前、いつ知り合ったんだ?あんな可愛い子とさ」
殴られた頬をさすりながら鈴木はジト目を彰に向けた。
「まぁ……色々だよ、イロイロ」
まさか魔法少女の話をするわけにもいかず、とりあえず適当にごまかした。
(やっぱりこいつ……良いヤツなんだけど、トラブルを生む星の元に生まれてやがる)
悪びれる様子も無く周りの女の子に声をかける鈴木を見て、彰はため息をついた。
「お待たせいたしました」
「あ、はい———」
彰の顔が店員さんに対しての愛想笑いが、まったく愛想を振りまくことが出来ないくらいにが引きつった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 12:00③ ( No.361 )
- 日時: 2012/08/08 15:17
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「ほ、ほむらちゃん」
明らかに怒気が身体から溢れているほむらを前に、彰は命の危険を感じた。
(まどかちゃんがあんな風に絡まれてるのを見て、ただで済ますわけがない!)
「ごゆっくり」
「へ?」
呆気にとられるくらいすんなりとほむらは物を置いて席を離れた。
「今の子、すっごい美人だったな!ってあれ?」
「ん?」
鈴木の目が点になっていた。
それもそのはずだ。
頼んだはずのチョコレートが皿に一つも乗っていないのだから。
「あのー、店員さん。お皿がまっさら!なんちゃって」
鈴木がつまらない冗談をほむらに向けて言うと、ほむらは半ば睨みつけるような目で鈴木を見つつ指差した。
「お客様、ご冗談を。その口についているのはなんですか?」
「え?はっ!?あ、あまい!」
いつの間に鈴木の口の周りにチョコレートがついていた。
そして鈴木の口の中にはアルミ箔に包まれたままのチョコレートが詰まっていた。
「ぎゃああああ!アルミ噛むと気持ち悪い!!」
鈴木はコーラでチョコレートを流し込んだ。
「な、なんだ?まるで時間が消し飛んだような。スタンド攻撃か!?」
「まぁ……間違ってはいないな」
ほむらが時間を停止させたのだ。
まさにほむらにしか出来ない報復だ。
「輪切りにされなくて良かったな、鈴木」
彰はそう同情してやるしかなかった。