二次創作小説(映像)※倉庫ログ

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:30① ( No.383 )
日時: 2012/08/22 10:10
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

ライブ演奏は予想以上の大盛り上がりで、開始から30分過ぎたにも関わらず、観客の熱はまだまだ冷めそうになかった。

そんな様子を彰たちは見下ろすようにしてみていた。

「これは確かに穴場だなぁ」

彰は人気のほとんどない教室を見回して言った。

恭介が案内したのは自身の教室だった。

展示系の催し物だった恭介のクラスは午後になると早々に展示を放棄したらしい。

他のクラスメイトは各々の目的の場所に散ってしまい、今この教室にいるのはライブ演奏を目的にしている者たちだ。

「おい、彰」

「ん?」

ずっと黙って演奏を見ていたリンが顔を強張らせ、彰に耳打ちをした。

「感じないか?」

「何が?」

「魔女の気配だよ」

「何だって?」

彰は自身のソウルジェムを取り出し、反応を見た。

確かに魔女を感知し、淡く光っていた。

「ずっと前から感じてはいたんだけど、オレたちに害がなければいいかと思ってた。でも確実にこっちに近づいてきてる」

「こんな所で魔女なんてまずいぞ!」

この学校には生徒のほかに外から来た一般客もいる。

魔女が暴れたりすれば被害は甚大だ。

「こっちに来る前に倒すしか———」

さっきまで激しかった演奏が急にやんだ。

そしてその代わりに聞こえてきたのはこの世のものとは思えない、美しい歌声だった。

リンも彰も、そしてこの場にいる全てのものがその歌声に聞き惚れていた。

「綺麗な歌……だな」

「ああ」

リンと彰はさっきまでの緊張が嘘のような、安らぎに満ちた表情で教室の窓からその歌い手を見つめた。

本来は音のある歌だ。

だがそれを演奏するはずの仲間たちですら歌に聞き惚れてしまっているのだ。

これが白井雪良の『人魚の歌声』の能力なのだ。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:30② ( No.384 )
日時: 2012/08/22 10:11
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

さやかは魔法少女に変身し、剣を両手に携えた。

雪良が歌いだすのとほぼ同時に、学校は魔女結界に取り込まれた。

まさに絶妙のタイミングで雪良は皆の意識を自分に向けたのだ。

一分一秒も許されない戦い。

フライングも出遅れもあってはならないのだ。

さやかは視界に魔女の姿を捉えた。

その魔女はまるで巨大な野球グローブのような形をしており、その指にあたる部分が蛇の姿をしていた。

蛇の数は五体。

そのうちの一体が希望を喰らう者であり、その他の四体は希望を狩る者なのだそうだ。

簡単に言えば四体は下っ端であり、残りの一体がそれを操る本体ということだ。

(その本体さえ叩けばこっちの勝ち!)

絶望の魔女・レイアーノは眼前に広がるたくさんの人々に目をくれず、さやかたちに向かってきていた。

レイアーノは希望を喰らう魔女だが、希望には味があり、好みなどあるのだろうか。

仮にあったとしても、感情を持ち合わせない魔女にとって意味など無いのだろう。

だとすればレイアーノがさやかたちを目指す理由は、さやかたちが魔法少女だからだ。

魔女は魔法少女を見分けられるのか、それとも魔法少女は魔女を惹きつける何か特別なものを持っているのか。

考えてもわからないことだ。

だがどんな理由があるにしても、レイアーノが無関係な人に危害を与えるリスクが減るのならこれ以上にラッキーなことはない。

さやかは歌う雪良に目配せをした。

雪良はそれに頷いて答えた。

さやか・雪良とレイアーノの超短期戦の開始である。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:32① ( No.385 )
日時: 2012/08/22 10:12
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

雪良が歌いだしてから2分が経過した。

予定ではあと五分で歌が終わる。

「この!」

さやかは次々に襲い掛かってくる蛇を避けながら攻撃していた。

だが蛇の身体は胴回りも太く、皮も硬い。

傷をつけることは出来ても、切り落とすまではいかない。

このままでは時間切れしてしまう。

歌は大体半分に差し掛かったところだ。

つまり約3分を過ぎたことになる。

だがさやかにはもう半分しかない———そういった焦りはまったくなかった。

案の定というべきか、五体の蛇のうち四体しかさやかに向かってこない。

となればどれが本体かなど、一目瞭然だ。

襲ってきている四体を倒す必要は無い。

本体のみを倒すことを考えればいいのだ。

(攻撃自体は大振りだし、隙は山ほどある……。問題はどうやって致命傷を与えるか!)

隙はあれど、時間は無い。

やはり一撃でしとめるほか無い。

だがしかし本体もこの四体と同様に刃を通しにくくなっているのだろう。

一発の破壊力が少ないさやかの攻撃では一撃でしとめるのは難しい。

さやかはレイアーノから距離を置いて剣を握り直し、大きく深呼吸した。

一撃でしとめるのが難しいなら、まるで一撃にしか見えないほどの速さで連激を打ち込めばいい。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:32② ( No.386 )
日時: 2012/08/22 10:12
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

(実践は初めてなんだけど……うまくいくかな)

歌の流れから5分経過していることがわかる。

やるなら今しかない。

「うりゃああ!!」

向かってくる四体の蛇を惑わすように飛び回り、大きな隙を作った。

そしてがら空きになった本体に向かって飛び掛った。

「くらえぇぇ!!」

魔法で強化した剣、肉体を駆使し、さやかは目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出した。

マミから『スクワルタトーレ』と名付けてもらった必殺技だ。

あらゆるものを切り裂く怒涛の連激は、硬い身体を持つレイアーノすらみるみるうちにズタズタにしていった。

「これでとどめだぁぁ!!」

回転を加え、勢いを乗せた一撃がレイアーノの本体を切り飛ばした。

本体が倒されるのと共に、残りの四体ものた打ち回った。

そして少しずつレイアーノの身体が縮んで行く。

雪良の歌が残り30秒ほどとなったとき、縮んで消えていくだけのはずのレイアーノの身体が突然はじけとんだのだった。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:32③ ( No.387 )
日時: 2012/08/22 10:13
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

学校の屋上からレイアーノがはじけ飛ぶ瞬間を目にしながら、九条更紗はニタニタと笑っていた。

「絶望の魔女・レイアーノ。その本質は希望を喰らうことじゃぁーない。絶望を振りまくことなのよぉ」

はじけ飛んだレイアーノの身体は空中で1メートルほどの四本の手足を持つ黒い蛇となった。

トカゲのようにも見えるそれらはもの凄い勢いで増殖し、あっという間に100体を超えた。

「名前も、その能力も、ほんとお気に入りの魔女だわぁ」

更紗の見下ろす先で雪崩のように黒い塊が学園を浸食していく。

終わりを告げるかのように雪良の歌が終わった。

そして絶望の始まりを告げるかのように、人々の叫びが湧き上がった。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:40① ( No.388 )
日時: 2012/08/23 10:09
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ど、どうなってるのよ!?何が起きてるの!?」

さやかは目の前で起きている事態が飲み込めずにいた。

隣にいる雪良も同様に立ち尽くすしかなかった。

「あ、甘く見てた……。レイアーノがこんな力を隠してたなんて……」

「しっかりしなさいよ!よくわかんないけど、ボーっとしてる場合じゃないって!」

さやかは呆然として魂が抜けたようになってしまっている雪良の身体を揺さぶった。

「で、でも……もう私も魔法も解けちゃってるし。どうすれば———」

すでに周りは混乱や恐怖などで阿鼻叫喚の嵐となっていた。

このような収拾のつかない状態をどう収めればいいというのか。

「もしかしたらなんだけど……斬り飛ばしたレイアーノの本体がまだ生きているのかも」

「美樹さん、どういうこと?」

「残った身体はみんなトカゲみたいのになっちゃったけど、飛ばしたほうはそうなってなかった。だからもしかしたらそれがまだ操っているのかも」

「それを倒したら……もしかしたら?」

「うん……でも」

どういうわけだか黒い蛇たちはまだ目立った動きは見せていない。

とはいえ、それがいつまで続くかわからない。

黒い蛇が一斉に動き出したら本体を探している暇など無くなってしまう。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:40② ( No.389 )
日時: 2012/08/23 10:10
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

(せっかくあと少しで倒せたのに……やっぱ私じゃ駄目なの……?)

今諦めるわけにはいかないのに、また心が折れそうになってしまっていた。

強い心を手にするための戦いだったはずなのに。

『何、しょぼくれてんだよ。らしくねーぞ』

「え!?き、杏子!?」

頭の中に響いてきたのは杏子の声だった。

「よっと!」

教室の窓から飛び降りてきた杏子はさやかの横に並んだ。

「訳はあとで聞かせてもらうとして……。さやか、お前は一人じゃねーんだ。困った時はお互い様だろ?」

「先に言われちゃったわね。ま、そういうことよ、美樹さん」

さやかたちの後ろからマミが姿を現した。

二人とも既に魔法少女に変身しており、戦う準備が出来ていた。

「杏子……マミさん……」

「変な顔してないで、さっさと終わらせちゃいないよ。やることあるんだろ?」

杏子がそう言うと、マミも頷いて「ここは任せなさい」と言った。

「ありがとう……。待ってて!すぐに終わらせてくるから!」

さやかは杏子とマミの二人に背中を押されながら、ステージを飛び出していった。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:45① ( No.390 )
日時: 2012/08/23 10:11
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

今なお、魔女結界と化した学校では人々の狂乱の声が鳴り響いていた。

そんな狂気に満ちた空間の中、その雰囲気とはまるで不釣合いなぬいぐるみのような生物が対峙していた。

「キミは何を考えているんだい?ゴンべぇくん」

「何をって何をっすか?キュゥべぇ先輩」

感情の無いキュゥべぇは普段どおりの笑ったような表情のままゴンべぇを見つめた。

対してゴンべぇはニヤリと口元を吊り上げた。

「今起きているこの状況さ。これだけの人間に魔女や魔法少女の存在を知られるのはボクたちとしても困るじゃないか」

魔女という存在が世の中に知られてしまえば、UFOやUMAといった物珍しいものに惹かれる人間達は必ずそれらが何なのか暴こうとするだろう。

そして同時に魔法少女という存在が知られ、魔法少女=魔女だという仕組みがばらされてしまえば魔法少女になろうとする人間がいなくなってしまう。

たとえどんな願いが叶うといわれても、自身が怪物になってしまうと知っていたのなら拒否するに違いない。

それは今まで接してきた魔法少女たちの反応で明らかだ。

魔法少女は影から人々を護るヒーローであり、魔女たちはヒーローと戦う秘密結社でなくてはならない。

それくらいの認識、バランスで丁度いいのだ。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:45② ( No.391 )
日時: 2012/08/23 10:11
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「ボクたちの目的の障害にもなる。さらに言えば、人間達の興味はボクたちにも向かってくるだろう。そうなればこの星で活動するのに大きな障害となる」

インキュベーターたちは無限の命を持ってはいるが、肉体的に脆い。

人間達の持つ武器、それこそ鈍器程度で殴られたって機能を停止してしまう。

「キュゥべぇ先輩……もうそんなレベルの話じゃないってことっすよ」

ゴンべぇはやれやれといった感じで首を振った。

「どういうことだい?ボクたちはずっと昔から未来を見据えてきたじゃないか。いつだってボクたちの技術は常識を覆してきただろ?」

「その結果生まれた魔法少女というエネルギーの回収法。でもオイラたちのその逸脱した技術が取り返しのつかないほど強大な『悪魔』を産んでしまっていたとしたら?」

「悪魔……だって?」

「もうオイラたちは傍観する側じゃないんスよ。オイラたちは既に傍観される側に回ってしまっているス」

ゴンべぇは心底残念そうにそう言った。

もはやどうにも出来ないとでも言わんばかりに。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:45③ ( No.392 )
日時: 2012/08/23 10:12
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「キュゥべぇ先輩、オイラたちは鹿目まどかという存在を知ったときに気付くべきだったんスよ。オイラたちが犯したミスに……」

「ミス?キミの言っていることがまるで理解できないよ。キミは何を知っているんだい?」

「過去や未来を変えるほどの希望がうまれ、同時に過去や未来を破壊するほどの絶望がうまれた。相反する二つの戦いに、もはやオイラたちは出る幕はないんスよ」

ゴンべぇはキュゥべぇの質問には答えず、動き出した黒いトカゲたちの群れを見つめた。

「自分の敵となりえる魔法少女をこれ以上ださない気なんス」

「確かにボクらにとってこれは都合の悪い出来事だ。だからと言って、ボクらの力があれば———」

「無理っスよ。オイラたちじゃどうしようも出来ないほどの力が働いている。これはその一環でしかないっス」

ゴンべぇはキュゥべぇに背中を向けた。

「感情なんてモノをインプットされているから、オイラは思ってしまったんス。『死にたくない』って」

そういい残してゴンべぇは消えた。

取り残されたキュゥべぇには何も理解出来なかった。

もしゴンべぇのように感情があれば、キュウべぇにも気付けたかもしれない。

今この世界にジワジワと湧き上がっている『絶望』に。

そして思えたのかもしれない。

『死にたくない』と———。

Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:45④ ( No.393 )
日時: 2012/08/23 10:13
名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)

「い、一体何が!?」

恭介は今置かれている状況に対し、動揺からその言葉しか思い浮かばなかった。

気がつけば奇妙な空間の中にいて、グロテスクな怪物が動き回っていたらそうなるのも無理はない。

ガシャガシャンと教室のガラスを突き破って黒い蛇が3匹侵入してきた。

「うわあぁ!?」

恭介や周りの生徒達はその怪物たちの進入に慌て慄いた。

「やれやれ……」

そんな中、リンは慌てる様子も見せず、むしろめんどくさそうな態度をとるという余裕を見せた。

「しょーがねー奴らだ。この化けもんどもはよ」

黒い蛇たちが一斉にリンに飛び掛った。

だが突然リンの背後から伸びてきた黒い手によって3匹とも捕らえられてしまった。

一瞬のうちに魔法少女に変身し、あっという間に事を終えたのだ。

「彰よー、害虫駆除といこうや」

「はぁ……しょうがないな」

リンは捉えた黒い蛇たちを黒い手で握りつぶした。

黒い蛇たちは霧となって消えた。

彰は教室の入り口を突き破って侵入してきた黒い蛇2体に向かって駆けた。

走りながら変身し、大剣を抜刀すると黒い蛇たちが動く余裕を与えることなく倒した。

黒い蛇たちを退けることに成功した。

だがこの現場を見ていた生徒達は、目の前で起きている出来事に半パニック状態に陥ってた。