二次創作小説(映像)※倉庫ログ
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:45⑤ ( No.394 )
- 日時: 2012/08/23 10:13
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「まぁ、無理もねーか」
リンは背後から2メートルほどの大きな黒い塊を出現させた。
そしてそれに指で指示を出すと、黒い塊は生徒達に向かって行った。
「ひいいい!」
生徒達の悲鳴が教室に響いたが、それも一瞬で消えた。
黒い塊に飲み込まれたのだ。
「お、おい!!何やってるんだ!?」
彰はリンに掴みかかった。
「安心しろ。一時的に閉まっておくだけだ。あとでちゃんと出してやるよ」
そう言って彰の手をはらい、ひとり残された恭介のところに歩いていった。
「なぁ、何が起こっているか、まるでわからないだろうけどよ……少なからず、お前は関わってるんだぜ?オレたち魔法少女によ」
「ま、魔法少女?」
「そうさ。奇跡を起こす正義の味方———なんてのはクソ喰らえ。自己満足のために悪魔と取引した、哀れなやつらの事さ」
奇跡。
その言葉を今日言われたのは二回目だった。
「実は、『奇跡』って信じるかって聞かれたんだ。二人はどう思います?」
こんな時にと思うかもしれない。
だがどうにも気になって仕方がなかった。
最初に尋ねてきた雪良がまるで何かを訴えかけているように思えたからだ。
リンは怒ったような、呆れたような微妙な表情をして吐き捨てるように言った。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:45⑥ ( No.395 )
- 日時: 2012/08/23 10:14
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「そんなもんはねーよ。奇跡なんてのは幻想だ。手品を見せて超能力ですって言ってる詐欺師のようにな」
リンの答えは遠からずとも雪良の言っていたことと似ていた。
恭介は雪良にも同じようなことを言われたと話した。
「人魚姫、ね。上手いというか、皮肉ってるというか……」
リンは雪良がさやかのことを指して言っているのだとすぐにわかった。
雪良の言うとおり、さやかはまるで人魚姫のようだ。
「恭介くん、君はなんて答えたんだい?」
ずっと黙っていた彰がふとそう聞いた。
「奇跡は人を幸せにする。奇跡が起きて不幸になる人なんていないって……」
「それ……まじで思ってる?」
リンが、今度は明らかに怒気を含んだ表情で恭介を睨んだ。
「奇跡ってそういうものだと思うんだ。僕の腕が治ったとき、家族も、友達も、さやかも喜んでくれたんだ。喜ぶってことに不幸なんて———」
突然、恭介の身体が宙に浮いた。
浮いたと思ったら、次の瞬間には壁に叩きつけられて一瞬呼吸が止まった。
「がはっ!?な、なんで?」
恭介の見つめる先には黒い手を背後から伸ばし、歯軋りをして怒るリンの姿があった。
「ぬるま湯で育ったお坊ちゃんには理解できないか?奇跡ってのがすべて幸せに繋がるとはかぎらねー。その裏で不幸になった者も、心に傷を負ったものもいるんだよっ!」
「やめろ、リン!」
彰は恭介を掴む黒い手を『無かったこと』にすると、解放された恭介を受け止めて地面に降ろしてやった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:45⑦ ( No.396 )
- 日時: 2012/08/23 10:15
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「恭介くん、俺は君の考えている奇跡が間違っているとは言わないし、奇跡が無いなんて否定するつもりもないよ。でもね、奇跡は偶然起きるものじゃなくて、何かきっかけがあって起きるものだと俺は思う。もしかしたらそれが誰かの犠牲の上で起こった奇跡なのかもしれない。何も無いところから、何かが生まれるなんて無い———それが俺の考えかな」
「やっぱりわからない……。どうしてそんなに悲観的なんですか?その、魔法少女と関わりがあるんですか?」
彰は少し困ったような顔をして口をつぐんだ。
彰もさやかがなぜ魔法少女になったかを知っている。
もし魔法少女のことを話せば、近い将来、さやかの願いのことも知ることになるだろう。
「いいんじゃねーの?もうこんな状況だしよ」
リンがそう言って恭介を窓際まで引っ張った。
そしてリンはある一点を指差し、恭介に見るように言った。
恭介の視線の先、そこには化け物と戦うさやかの姿があった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:47① ( No.397 )
- 日時: 2012/08/24 16:55
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
見たことの無い姿で果敢に化け物と戦うさやかの姿を見て、恭介は目を疑った。
信じられないというのが一番大きい。
普段接している時はいつも通りの、小さい頃からよく知るさやかでしかなかった。
だから今、危険に身を投じているさやかの姿が見てもなお想像できなかった。
「しんじられねーか?まぁ、今起こっている事だって夢みたいなことだしな。でも、こいつは現実の出来事なんだ」
「でも……なぜさやかがあんな危険なことを!?」
確かにとても人に言えることではなのだろう。
言っても信じて貰えないだろうし、信じて貰ったとしても決していい顔はされない。
もし自分が相談されたとしても、「やめたほうがいいよ」と答えただろう。
だが例え人に言えないことだろうと、どんな理由があろうとも、こんな危険なことをする必要などないはずだ。
「魔法少女ってことを同僚でない限り、あまり人には話さない。暗黙の了解ってやつだ。だがな、さやかには他にも言えない理由があるのさ。特に……お前にはな」
「僕に?」
恭介はリンから視線を離し彰を見た。
彰は顔をしかめて何も言わなかった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:47② ( No.398 )
- 日時: 2012/08/24 16:56
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「魔法少女はな、あーいう危ない奴らと戦うことを引き受ける代わりに見返りが得られるのさ」
「見返り?」
恭介はリンに視線を戻した。
リンは頷くと、意地悪そうに口元を吊り上げた。
「そうさ、お前の好きな『奇跡』だ」
「奇跡……?」
「どんな願いでも叶えてもらえる。大金持ちでも、不老不死でも何であろうとな」
「どんな願いでも……」
恭介は頭の中で絡まっていた糸がほぐれていくのがわかった。
『奇跡も、魔法も、あるんだよ』
再びさやかの言葉が蘇ってきた。
ずっとそれが魔法の呪文で、その呪文のおかげで奇跡が起きたのだと思っていた。
それは半分正しくて、半分間違っていたのだ。
奇跡も魔法もあった。
だがその魔法の呪文は大きな代償を伴うものだったのだ。
「さやかが、僕のために?」
リンも彰も恭介の言葉に何も言わなかった。
それは無言の肯定だった。
「そんな……なんで……僕に何も言わずに……」
「言えなかったんだよ。自分の身体を引換えに得た奇跡で元気になったと君が知れば、きっと喜んではくれない———そう思いつつも本当は知って欲しかったのかも知れない。でも君の事を思えば、奇跡のおかげとして済ましておくのが一番だったんだよ」
『王子様が、自分を助けたのが人魚姫だと気付けていたのならどうなっていたのかしらね』
彰の言葉と共に、今度は雪良の言葉が蘇った。
あの時理解できなかった言葉の意味。
それが今はなんとなくわかった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:47③ ( No.399 )
- 日時: 2012/08/24 16:58
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
今の今まで、恭介の知らないところでさやかはどんな苦しみを味わってきたのだろうか。
どんなに苦しもうとも、気付いて貰えなくとも、支払った代償のために戦い続けてきたのだろう。
それはとても辛いことではないか。
雪良の例えたように、もしもっと早く気付くことができたのなら、少しでも苦しみを和らげることが出来たのかもしれない。
安易に奇跡を語っていた自分が恥ずかしく思えた。
さやかが命を懸けて作ってくれた奇跡をずっと踏みにじっていたのだ。
「謝って……ちゃんとお礼が言いたい。ずっと支えてきてくれたことを———」
自分には戦う力はない。
でももしかしたら戦うための、前に進むための希望になるかもしれない。
そのための言葉を伝えたかった。
「しょーがねーなぁ。手伝ってやるよ!」
「え?」
突然、リンがそう言い出した。
「お前も、さやかも無事でないと、伝えられないだろ?なら戦えるものがそれを助けてやらないとな」
リンは彰に視線を向けて、ウィンクした。
彰は笑みを浮かべて頷いて返した。
「ありがとう……」
「礼は、うまくいってからな」
リンは恭介の肩を叩きつつ隣を横切った。
「おい、いるんだろ?インキュベーター」
そして誰もいないはずの教室にそう投げかけた。
『何かようかい?』
リンと彰の頭の中だけにキュゥべぇの声が聞こえた。
『今戦っている奴らと話がしたい。お前なら出来るだろ?』
『確かに出来るけど……。どうするつもりだい?』
『なーに、お前も損することじゃねーからよ』
『……わかったよ。お好きにどうぞ』
リンは頭の中で言葉を組み立てると、それを戦う者たちに放ったのだった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:48① ( No.400 )
- 日時: 2012/08/24 16:59
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
ほむらは素早くマガジンを交換すると、襲い掛かってくる黒い蛇を的確に射抜いた。
「ふぅ……きりが無いわ」
相手自体は大したことないが、数が多い。
持久戦になれば不利になるはほむらたちのほうだ。
「ほむらちゃん、大丈夫?」
「えぇ、今のところは……」
心配するまどかにほむらは笑顔を向けた。
そして周りで不安そうにしているクラスメイトたちに視線を向けて、表情を曇らせた。
(こんなことになるなんて……。皆のためとはいえ、魔法少女であることが知られたのはあまり良いことじゃないわね)
仮にこの場を無事に乗り切ったとして、ほむらたちに元通りの日常は訪れないだろう。
奇異の目で見られたり、好奇の目に晒されたりするだろう。
(今はそんなことを考えても仕方が無いわ。皆を、まどかを護らなくちゃ)
ジジジと頭の中にノイズが流れた。
テレパシーを受け取る際にたまに起きる現象だ。
『あー、皆聞こえるか?』
(この声……)
「ほむらちゃん、これって———」
どうやらテレパシーはまどかにも聞こえているようで、突然のメッセージにまどかも驚きの表情を浮かべていた。
「きっとキュゥべぇを使って話しかけてきているのね」
まどかもほむらもこの声の主が誰なのかということに気付いている。
と言ってもちょっと話したくらいだし、さやかから断片的に聞いているだけだ。
故にこの声の主がどのような人間で、どのような目的で話しかけているのかまったくわからなかった。
それでも恐らくこの状況を収束させる何かしらの手段を持っているからこその呼びかけなのであろうことは想像できた。
だからほむらとまどかの二人は頭の中に聞こえるその声に何も言うことなく耳を傾けたのだった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:48② ( No.401 )
- 日時: 2012/08/24 17:00
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
さやかはレイアーノの本体の居場所に見当をつけていたが、やはりと言うべきか、黒い蛇たちが邪魔してそこまでたどり着くことが出来ずにいた。
そんな時、リンの声が頭の中に響いてきた。
さやかは襲ってくる黒い蛇を相手にしながら、その言葉に耳を傾けた。
『オレは天音リン。知ってるヤツも、知らないヤツもとりあえず聞いて欲しいんだ。今戦っている相手は本体を叩かなくちゃ意味の無いタイプのヤツだ。その本体がどこにいるか、どんなヤツなのかを知っているのは一部だと思う。オレもわからない。で、何が言いたいかというと、この状況で本体のことを知るものが倒すのが一番の近道ってことだ。でもきっと雑魚どもが邪魔して本体までいけてないんじゃないか?』
リンもどうやらレイアーノ自体は知らなくとも、どのようなタイプの魔女なのかは感づいているようだ。
そしてその相手と戦っているのがさやかであることも。
『きっとお前のことだから、何か意味があってのことなんだろ?こいつと戦うことがさ……。なら最後の最後まできっちりと決めろよ』
皆に語りかけるというよりは特定の誰かに語りかけるような口ぶりとなった。
さやかは敵から少し距離を置いて、体勢を立て直した。
『雑魚は全部オレが引き受ける。疑問や不満は感じるかもしれないけど、それが手っ取り早い。だからとりあえず任せてくれ』
リンを知らない人間からすれば、何が任せろだと、何を偉そうにと思うのかもしれない。
だがさやかはその言葉が頼もしいものに思えた。
杏子に背中を預けている時と同じような安心感を覚えたのだ。
『アンタ、ほんとに一人で大丈夫なの?』
さやかは余計なお世話でも言ってやろうという気持ちでそう言った。
目に見えはしないが、なんとなくリンが笑った気がした。
『任せろ。お前は気にせず突っ込め。さっさと決めて来い!』
さやかは剣を構え直して、
「言われなくても!!」
レイアーノの本体目掛けて、黒い蛇たちに眼もくれずに突っ込んで行った。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:49① ( No.402 )
- 日時: 2012/08/24 17:01
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
さやかが突っ込んでいくのと同時に、辺りを動き回っていた黒い蛇たちが一斉にどこからともなく伸びてきた黒い手に捕まっていった。
その様子を、そしてそれを操作するリンを見て彰は言葉を失った。
(これが天音リンの魔法……!!)
リンを中心に半径1メートルほどの黒い円がリンの足元に広がっていた。
その円から無数の黒い手が伸びていっているのだ。
それらをすべて一人で操作し、的確に黒い蛇だけを仕留めている。
リンの操る黒い手は数が多い上に攻撃力も高い。
恐ろしいほどの魔力のキャパシティ、そして技術力をリンは備え持っているのだ。
(でも……なんというか、意外だな)
リンは自由人を形にしたような人間だ。
口は悪いが憎めない性格で、人付き合いも上手そうだ。
そんなリンが使う魔法はどこか無機質だった。
感情が希薄で冷たい印象を受ける。
まるで何もかも無情に飲み込むブラックホールのようだ。
リンが閉じていた目を見開いた。
「っ!!」
リンの白目が黒く染まり、瞳は赤く光っていた。
普段のリンとは正反対、まるで悪魔を見ているかのようだった。
天音リンという少女はなぜ魔法少女になったのだろうか。
彰は悪魔のような姿をして戦うリンを見てそう思ったのだった。
- Re: 第十章 人魚の歌声 当日 15:49② ( No.403 )
- 日時: 2012/08/24 17:02
- 名前: icsbreakers ◆3IAtiToS4. (ID: WV0XJvB9)
「終わりねぇ……。この楽しい宴も———」
次々とリンの操る黒い手に殲滅させられていく黒い蛇たちを見ながら更紗は嘆いた。
「相手がリンちゃんじゃ、しょうがないッスよ」
ゴンべぇはさも当然とでも言わんばかりにそう言った。
「広範囲殲滅特化型魔法少女。暴食の女王。いろんな名で呼ばれた最強の魔法少女。まったく洒落にならないわねぇ」
「なんでも一国の軍隊を全滅させたとか、飛んでくるミサイルを打ち落としたとか。本当かどうかわからないっすけど」
「すごいわねぇー。伊達に長生きはしてないわねぇ」
更紗は大して興味がないようで、言葉も投げやりだった。
「あら?」
レイアーノの本体に向かっていくさやかの姿が目に映った。
「くふふふ」
「どうしたんッスか?」
「次に遊ぶおもちゃを決めたわぁ。きっと楽しくなるわよぉ」
更紗は踵を返した。
「さぁ〜、次の遊びの準備をしなくちゃ」
そうゴンべぇに告げて姿を消した。
ゴンべぇは必死に戦うさやかたちを見つめた。
「一度踏み込んでしまったらいくら足掻いても絶望からは抜け出せないッス。せめてこれから起こる絶望を乗り切れることを祈ってるッスよ」